C-K Generations Alpha to Ωmega



By ドミ(原案協力 東海帝皇)



番外編 落ち葉焚き


「かきねの かきねの まがりかどお〜 ♪♪」

工藤邸の庭にて。
アルファトゥオメガリーダーで、非番の服部初音警視長は鼻歌を歌いながら、庭箒で落ち葉をかき集めていた。

初音が下宿している工藤邸は、結構広い。
手入れをあまりしないままに大きく育った木が何本もある。
落ち葉も、かき集めればそれなりの量になった。

「よっしゃ〜!こん位あったら、充分やろ!」

落ち葉を積み上げた初音は、満足そうに頷いて、そこに火をつけた。

そこへ、工藤邸の本来の住人だが、現在は毛利邸に1年以上にわたって居候している江戸川コナンがやって来た。

「初音さん、こんな大変な時期に、ヒマそうだな〜。俺は、小学校……はまあ、適当にやってるから良いにしても、同時進行で式神新一に模試を受けさせたりしながら、毎日のようにシャドウエンパイアとの戦いに明け暮れて、もう、クタクタだぜ……。」
「ええ若いもんが、何、不景気な事、ほざいとるんや?どないな時でも、心に余裕を持たなあかんねん。うちは寝る間もない位、超多忙やけど、リラクゼーションの時間はどないしてでもひねり出すもんなんや!」
「リラクゼーションで焚き火ねえ……って、ちょっと待て!庭で焚き火なんてやって、火事でも起こしたらどうするんだ!?」

血相を変えるコナンに対し、

「心配あらへん。よう見てみい。」

初音が、焚き火の上方を指差して言ったので、コナンはそちらを見て目をすがめる。

「ん?何か、空間に歪みが……?そして、煙が昇ってない?」
「ああ。煙と火の粉と熱は、ここでワープして上空1000メートルの彼方や、火事になる心配はあらへん。」
「さすが初音さん、抜かりはねえな……と、言うと思うか!?ここは東京都内の住宅地で準防火地域、たとえ庭が広くても、火事の心配はなくても、焚き火は禁止だぞ!警察官が法律違反をしてどうするんだ!?消防署に通報されたら……!」
「その事も心配いらんで。焚き火の周囲はちゃんとジャミングフィールドが設定してあって、仲間達以外の目には火が燃えてる事はわかれへんようになっとる。」
「ハ……ハハ……(目くらましね……まあ、周りに知れる事はねえって言っても、やっぱり法律違反だよな……。)」

今ひとつもふたつも、何だか割り切れないものを感じていたが、コナンも初音との長い付き合いで、これ以上は言っても無駄だという事が分かっていた。

「ん……?けど何か、香ばしいというか……美味そうな匂いがするな……。」
「コナン、何たわけた事言うてんねん、焚き火いうたら、焼き芋や!決まっとるやないか!」
「へ……?もしかして、初音さん、庭掃除の為の落ち葉焚きじゃなくて、焼き芋が目的か!?」
「せやかて、日本の焚き火は、焼き芋を作る為の風習やろ?」
「……(そうか。初音さんは一応、小中高校生時代は服部邸で下宿してたっけな。ただ、いかに日本の文化に造詣が深かろうと、一部は歪んでても仕方がないと言えば言えるけど……詳しい部分は妙に詳しいのに、このズレ加減は、一体、何なんだ?)」

しばしば手段と目的を取り違える初音だが、落ち葉を焼くのは焼き芋を作る為だと固く信じて疑わない初音の姿に、頭痛を覚えるコナンであった。

「けど、今は、家庭用のガスコンロや電子レンジで手軽に本格的に焼き芋が作れる道具が、色々あるだろ?」
「何言うてる、コナン!焼き芋は、落ち葉焚きで作るんが正当派や!ガスコンロや電子レンジで作るんは、邪道やで!」
「ハ……ハハ……(落ち葉焚きでの焼き芋が、正当派とも、言えねえ気がするんだが……)」

ジト目で呆れるコナン。
そこへ。

「初音さん、こんにちは〜!」
「何だか、うまそうな匂いがしねえか?」
「ホント、そうね。一体、何してるの?」

少年探偵団の3人、光彦・元太・歩美が現れた。

「落ち葉焚きや!」
「「「落ち葉焚き!?」」」
「あんたらも、聞いた事ないか?かきねのかきねの曲がり角〜いう歌。」
「知ってますよ!でも、よく意味がわからなくて……。」
「光彦君もわからないの?歩美も、全然だよ。」
「そうだなあ。垣根も、落ち葉焚きも、今の日本、特に東京では、珍しい風景になっちまったからな。(オレだって記憶にはねえしよ)」
「落ち葉は、森の中では自然に分解されて新しい土になるもんなんやけどな。庭の落ち葉は、ゴミになるだけや。やったら、それを燃やして焼き芋用の燃料にした方がええいう、昔の人の知恵やな。灰は、肥料にもなるし。」
「へえ。すごおい。初音さん、物知りだね〜。」
「そっか、落ち葉は、焼き芋の燃料になるんだな。」
「なるほど、勉強になりました!」
「……(一部、違っている部分もあるような気がするけど、ま、いっか。)」

「そろそろ、ええ頃合いやな。」
「じゃ、さっそく!」

元太が落ち葉に手を突っ込もうとしたのを、

「バカ!素手で芋を取ろうとするヤツがあるか、火傷するぞ!」

コナンが慌てて後ろから止める。

「わ、わりぃ。」
「ホラ。アツアツやから、注意せなあかんで?」

初音が、長い串を使って取りだした芋を、新聞紙に包んで元太達に渡した。

3人はそれぞれ、「あちあち」と言いながら、焼き芋にかぶり付いた。

「はふはふ。うめえ!」
「ホント、美味しい〜!こんな美味しいお芋、歩美、初めて食べたよ!」
「前に買ってもらった石焼芋と同じ位に美味しいです!」
「ホラ。コナンも。」
「あ、ありがとう……うん、確かに、うめえな。」
「せやろ。やっぱり、落ち葉焚きは焼き芋の正当派や!」
「……(ま、うめえし。いっか……。)」

と、そこへ。

「こんにちは〜。」
「んん?初音さん、ジャミングかけてる?あ、焚き火だ〜!」
「へえ。今時、珍しいわね〜。」

蘭と園子、舞がやって来た。

「お、蘭蘭に園子、舞。ちょうど芋が焼けたところやで。」
「あ、いただきま〜す。」

初音の勧めに、舞が焼き芋を受け取ったのに対し、

「あ、私達はその〜。」
「ちょっと、遠慮しようかな、なんて。」

蘭と園子は引きつった笑顔で断っている。

(……変だな?2人とも、焼き芋は好物の筈だが?)

コナンは、蘭の方を見やって首を傾げる。

「もしかして、蘭さん。ダイエット中なんて、言わないわよね?」

そこにアルトの声が割り込んで、蘭はギクリとした。

「おいおい、哀君……。」
「博士。灰原。どうしてここへ?」
「お隣で焚き火をしているのに、気付かない筈ないでしょ?江戸川君も何とか言いなさいよ、消防署に通報するわよ。」
「……されるわよじゃなくて、するわよなのか?」
「ええ。隣人を売る積りはないけど、火の粉が掛かるのは真っ平ですもの。」
「けど、これ、ジャミングかけられてて、オレ達以外の人間には見えないってさ。」
「え?そうなの?阿笠博士にも見えてたみたいだけど?」
「そうそう、ヘタすると火事になって大変じゃと言ったのは、ワシじゃよ。」
「そら、あれや。ジャミングフィールドの範囲は、工藤邸と阿笠邸を取り囲むように設定しとるんや。」
「そ。なら、良いけど。」
「せっかくだから、博士と灰原も、芋をいただいたらどうだ?」
「ふう。ま、博士も、芋なら良いでしょう。ありがたく頂く事にするわ。」
「トホホ……ワシは芋も嫌いじゃないが……。」
「博士。また、メタボ対策で、食事制限されてるのかよ?」
「ええ。内臓脂肪値が恐ろしい事になってるからね。で、蘭さん、園子さん。サツマイモには繊維質やビタミンが沢山入っているし、ダイエット中なら、むしろ食べた方が良い位よ。よっぽど沢山じゃなかったらね。」
「蘭。オメーにダイエットなんて、必要ねえだろ。どこを痩せるって言うんだよ?」
「し、新一?」
「ははあ。蘭、蘭の体を隅から隅まで熟知している新一君が、こう言うんだから、大丈夫じゃない?」
「だ、だって!最近、ウェストがやば気味で……!」
「だから、大丈夫だっての!オメーのウェストライン、すげえ綺麗……ゲホッ!」

コナンは、蘭の突然の鉄拳に、鼻血を出していた。

「ほめたのに、何で怒るんだよ!?」
「アンタには、デリカシーってもんがないの!?」

コナンの正体を知らない少年探偵団の3人を除き、周りの者は、2人が恋人同士として、とっくにそういう関係になっている事を知っているが、きわどい会話に、さすがに顔を赤くしていた。

「蘭、声が大きいわよ。あの子達に聞かれたら……。」

園子の声に、蘭とコナンは慌てて少年探偵団3人を見やった。
幸い、3人はそれぞれ、芋食べに夢中で、蘭達の話を聞いてなかったようだ。

「食べるのを遠慮していたのは、園子さんもよね?何かあったの?」
「そら、あれやな。2人お揃いで買おうとしてるドレスが合うようにとか、そういう事なんちゃう?」

初音の指摘に、2人は真っ赤になった。

「もしかして、ロリータファッションのあれか?」
「……あの服だったら、露出も少ないから、真さんも文句言わないだろうと思って。今度のクリスマスに……。」
「園子!新一にばらしちゃうなんて、酷いじゃない!」
「蘭だったら、何着ても可愛いと思うぜ。」
「アンタよくもまあ、真顔でそんな事言えるわよね。」
「……そういう事なら尚更。サツマイモはお通じも良くなるし、お肌すべすべになるから、少しなら食べた方が良いと思うわよ。ケーキやパフェを食べる位ならこっちの方がよっぽど良いと思うわ。」

そう言われてようやく、蘭と園子は芋に手を伸ばした。

「あちっ……ホント、ホクホクで美味し〜い!」
「うん、やっぱり、焚き火で焼いたのは格別よね〜!」
「園子は、落ち葉焚きで焼いたお芋って、初めてじゃないの?」
「以前、落ち葉焚きで焼き芋をする為に、別荘に行った事があったのよね。」
「……ハハハ。(焼き芋の為だけに別荘に行くとは、さすが鈴木財閥。)」

「……と?芋はぎょうさん入れた筈やのに、見つからへん。おかしいなあ。」

初音が、串で焚き火を突っつきながら首を傾げた。
すると。

「はふはふ。焼き芋はやはり、落ち葉焚きに限るでござる。」

いつの間にか紅葉がやって来ていて、手にいくつも焼き芋を抱えていた。

「菫ちゃんには負けるけど、紅葉さんも結構、大食漢だよなあ……。」

コナンがボソリと呟いた。

「こら紅葉!うちの分の芋を戻せ〜!」
「初音殿も、大人気ないでござるな。」
「そら、うちの分の芋まで取られたら、大人気なくなるんも当たり前やろ!」

さすがにこれは初音の言い分が正当だと皆は思いながら聞いていた。

「仕方ないでござる、ではこの1個を……。」
「1個と言わず全部戻さんか、ボケ!」

紅葉は渋々、食べかけ以外の芋を戻した。

「懐かしいでござるな。伊賀の里では、この時期になるといつも、こうやって焼き芋をして食べていたでござるよ。薩摩芋は贅沢でござってな、山の芋と里の芋が中心だったでござるが……。」
「つーか、そっちの方が贅沢なんじゃねえか、今では?」
「そうね、山芋なんて高級品だものね。」
「でも、それはそれで、美味しそうね。」
「にしても。紅葉さんの伊賀の里って、確か山の中だったよな?それこそ、山火事にでもなったらどうすんだ?」
「心配いらないでござるよ、コナン殿。いざとなったら水遁の術で……。」
「……(こう言うって事は……結構やらかしたな……。)」

そこへ舞も進言する。

「それだけじゃ不安だって言うなら、ドラグファイヤーに炎を全て吸収させるという手もあるから、心配しないでね。」
「……(さては焔野も……。)」

心中呆れるコナンであった。


そうこうしている内に。
芋は本当に、残り1個になった。

皆でその1個をにらむ。

「もう1個、食べてもいいか?俺、腹減ったぜ……。」

と、元太。

(もう5つも食べていながら、まだお腹空いてるのかよ!?)

心の中で突っ込むコナン。

「そら、焚き火をして芋を提供したうちが、最後の1個を食べるべきや思うで。」

と、初音。

「懐かしい伊賀の焼き芋、もうひとつ食べたいでござるよ。」

と、紅葉。

さすがに、他のメンバーは、充分満足もして、最後の1個は遠慮している。

3人でお互いの顔を見合わせていると、突然、芋がぱっと消えた。

「「「あああっ!?」」」
「ふむ。日本のヤキイモというものも、なかなかイケるではないか。」

パクリと一口で食べてしまって満足そうに言ったのは、初音と同じ工藤鄭の下宿人で、ネオ・エクリプスの闇のパンドラ勇者・サリーであった。

「サリ〜〜〜〜〜!」
「酷いでござる〜〜〜!」
「腹減ったぜ、どうしてくれるんだよ!?」
「……おい、何を血迷って……って、うわあ〜〜〜〜〜っっ!?」
「「「待て〜〜〜〜〜っっ!」」」

3人は、目を怒らせて、サリーを追い回し始めた。
意外な事に、どう見てもサリーが劣勢なのである。


「……いつもだったら、3人がかりでも、サリーさんに苦戦しそうだけど……。」
「やれやれ。食い物の恨みは、それだけ恐ろしいって事でしょ?」

呆れる園子と舞。

「仕方がない、初音さんがあれだから……新一、掃除するわよ。」
「へっ?」
「ここで焚き火した証拠はシッカリ消しておかないと!」
「……ははは。まるで、犯罪者一行だよな……。」


こうして。
追いかけ回す3人と、追われている1人を残して。
残るメンバーは、軽犯罪の証拠を隠滅にかかったのであった。



おしまい



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事の発端は。

「工藤邸の庭でも、焚き火は出来ないよね。準防火地域だし」
「それ、C‐ジェネの設定でなら、やれるんじゃないんですか?」

焼肉を食べながらの夫婦の会話で、思いついた小話だったのでした。


なお、時期的には、新蘭高校3年の12月初頭、「第5部米花大戦争編」の真っただ中。
作中ほのぼのしてますが、戦いの最終盤に差し掛かっており、本編は緊迫している筈(予定)です。

少し下品な表現があってすみません、主だった恋人同士は、戦いの中で、将来を誓い合い、契をすませて(爆)いるもので。
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