C-K Generations Alpha to Ωmega



特別編 超天空の難破船団(ロストシップス)



By東海帝皇(製作協力:ドミ)



第2部 Over Drive



「コナン君、何かに気付いたみたいだけど、どうしたのかしら?」

雲外鏡がコナンを追いかけていく様子が、エアーウッド1世号スカイデッキ正面の大型ディスプレイに映し出されているのを見た舞が、ふと怪訝そうな顔つきになる。

「……いや、もしかしたら、今回の事件の主犯に気づいたのでは……。」
「主犯!?」
「あのテロリストのリーダーの更に上がいたの!?」
「それは誰でござるか!?」

探の考察にざわめく一同。
直後、コナンが医務室に着いた画像を見た時、

「なっ、何あれ!?」
「ウェイトレスのお姉さんが縛られてるよ!!」

更にざわめく。

「むっ!?ここには確か、もう一人いたはずでござるが……!?」
「やはり……!」

探の目つきが鋭くなる。
その時、青子がケータイを取り出し、ある所に連絡を入れようとした。

「あ、もしもし……。」

なかなか繋がらないようで、青子は少し焦れていた。
更に一同が実況を見ると、コナンがデッキから船外に出ようとする場面が映っていた。

「コナン君、一体何を?」
「真犯人に会いに行くのでしょう。」
「真犯人?」
「あっ、それってもしや!?」

武琉も何かに気付き、再び大型ディスプレイに目をやると。

コナンが飛行船上で何者かと対峙していた。
それは。

「……そうだろ、藤岡さん?」

そこにいたのは、ルポライターの藤岡隆道だった。

その会話から、藤岡は古美術品強盗団のリーダーで、『赤いシャムネコ』を騙り、傭兵経験を持つ者達を雇ってベル・ツリー1世号を乗っ取り、殺人バクテリアをでっち上げることで大阪や奈良を空にし、セキュリティの甘い寺社から国宝級の仏像を海外オークションで売り飛ばし、巨額の利益を得る計画だった事が判明した。


「……なんて事を!」
「そんな事の為に日本中の人々を震撼させるとは!!」
「その為にワタクシの殿下が強制帰国させられたのですね!!」

やり取りを見て、激しく憤る一同。
その時、

ドキューーーン!!

『はうっ!!』

『!』

コナンが藤岡に撃たれる場面が映し出された。

「コナン君!」
「な、何て事を!!」

一同、顔面蒼白になる。

「青子、コナン君達を助けに行く!」
「もう殺人バクテリアなんて無いんだから、良いわよね!?」
「奴等を叩き潰すでござる!!」

青子と舞、風吹が各々の得物を手にする。
その時、青子のケータイが鳴って、青子は慌ててそれを取った。

「もしもしっ!?」

一同は、画面を見ながら、今にも飛び出さんばかりになって、初音に抑えられていた。

「まあ、待ちいや。コナンがホンマに危のうなったら、パンドラフォースディフェンスが発動する筈やから。それに、今調べたら、藤岡というヤツは、闇のネット取引をやってるメンバー。嫌な予感がするで、もうちっと様子を見よ。」

初音が、パソコン画面を操作しながら(おそらく藤岡の事を調べているのだろう)、言った。

「……でも。あんな場面、見てるだけとは、心臓に悪過ぎるでござるよ。」
「そうよ、コナン君のパンドラフォースディフェンスは、あくまで防御。先日の戦いで、コナン君も蘭ちゃんも、戦えるほどのパンドラパワーは、残ってない筈だし。」


その時。

『ていやあーーーーっっ!!』

どがっっ!!

『ぐはあっ!!』

藤岡が何者かに蹴り飛ばされ、それはコナンを守るかのように立ちはだかった。


「おお!」
「あれは!?」

目を見張る一同。


『コナン君に手を出させないわ!!』
『ら、蘭……!』

その者―――蘭は藤岡に対して身構えた。


「ホッ、間に合ったね。」
「青子殿があの時連絡を入れてたのは、蘭殿でござったか。」
「うん!通じなくて、ハラハラしたよ。」
「テロリスト……もとい、雇われ部隊のボスに、ケータイを取り上げられてたからね。」
「うん。Bデッキに行った蘭ちゃんはケータイを受け取って、蘭ちゃんのお父さんから『さっきケータイが鳴ってたぞ』と言われて、折り返ししてくれたみたい。」


『さあ、もう覚悟なさい!!』
『フッ……さすがは空手関東大会の覇者、勇ましいものだな。』
『だからこそオメーは、蘭……姉ちゃんの腕を掴んで、漆にかぶれさせ、隔離させるように仕向けたんだろう!』
『はははっ!チビ君、ご明察!だが!』

藤岡が懐から何かを取り出した。

『なっ、そ、それは!!』
『えっ、まさか!?』

コナンと蘭は漆黒のオーブを見て顔色が変わる。

『さあ、行けえ!』

藤岡がオーブを夜空に投げつけると。

「キシャアアアアアア!!」

それは巨大なコウモリへと変化した。



「あ、アレはもしや……!?」
「アームドドール……!」

まさかの展開に、凍りつく一同。

「ちっ!まさかホンマにシャドウエンパイアとつなごうてたとはな!!」

最悪の予想展開になった事に舌を打つ初音。

「初音さん、アームドドールは確か、操演者も一緒に同時に倒さないと、再生してしまうドールでしたよね!?」
「ああ、そやで、渉。しかも、エネルギー源が操演者の体力やから、一般人にも扱えてまう、ある意味厄介なドールや。」
「どうするの、初音!?」
「決まっとるやないか、美和子!C-Kジェネレーションズ、アルファトゥオメガ出動や!!」
『おう!』

メンバーが一斉に腕を振り上げた。


  ☆☆☆



ベル・ツリー1世号船内Bデッキでは……。



「お前等あ、何だそのドールは!?」

縛られた中森警部が、西谷や石本と共にいる2体のドールを見て問い質す。

「ああ、これは藤岡さんが切り札として、シャドウエンパイアから通販で買ったのさ。」
「なっ、つ、通販だあ!?」

同じく、縛られた小五郎も吼える。

「ええ、そうよ。あの人、闇のネットにも通じてるし、アクセスしたらすぐに『商品』を送ってくれたわ。」

凶悪な笑みを浮かべて説明する西谷。

「ゲッコー、ゲッコー!!」
「シャー…シャー……!!」


トッケイヤモリ型のアームドドール・暗黒大守宮グレートゲッコーと、モロクトカゲ型のアームドドール・棘甲蜥蜴ソーニーモロクが、周囲を威嚇する。

「ちいっ!!人質さえいなければ、あんな奴等私達がイチコロにしてやるトコなのに!!」

園子が小声で吼える。

「けど、アレはアームドドールだから、ドールだけを倒してもすぐに復活するわよ。」
「なら、あいつ等と一緒に倒しちまえば良いじゃんか。」
「そう簡単に言わないで下さいよ、元太君。」
「コナン君と蘭お姉さん、どうしたかな……。」

同じく小声で、探偵団も会話を交わす。


「おっと、上にいる小僧も、藤岡さんがドールで始末するだろうよ。」
「恐らく一緒にいるかもしれないあの小娘もね。」
「何っ!?ら、蘭が!?」

石本と西谷の話に血相を変える小五郎。

「おのれ……!」
「何と言う奴等じゃ……!!」

中森警部と次郎吉も憤った。

「蘭、新一君……!」

園子は、上を見上げて二人を心配した。



  ☆☆☆



同じ頃、船上では……。



「キイーーーーーーーッッ!!」
「うわあっ!」
「はうっ!」

コナンと蘭は、藤岡が繰り出したキクガシラコウモリ型のアームドドール・魔音波蝙蝠ソナーバットンの超音波攻撃を受けて倒れてしまう。

「ふん、やはりこのドールにはかなわないようだな。」

勝ち誇ったような笑みを浮かべる藤岡。

「ちいっ、あのコウモリの超音波が邪魔で、フォトンウェポンも装着できねえ!!」
「新一、どうすれば……!!」

歯噛みをするコナンと蘭。

「さあ、そろそろ二人そろって、明石海峡の藻屑と消えてもらおうか。」

藤岡が手を上げてソナーバットンに指示を送ろうとした時。

ゴゴゴゴゴ……。

「えっ!?」

鏡の式神妖怪・雲外鏡が突然大きくなり始めた。

「こ、これは……!?」
「な、何だ一体!?」

突然の展開に驚く蘭と藤岡。
更に。

ピカアーーーーッッ!!

雲外鏡の鏡面が強烈に光り始め、そして。

「グウォォォーーーーーーーーーッッッ!!!」

中から舞を乗せたドラグファイヤーが出現し、

「コナン君!蘭ちゃん!!」
「大丈夫でござるか!!」
「これ以上二人に手出しはさせませんよ!!」

青子と風吹、探も雲外鏡から現れ、コナンと蘭を守るかのように立ちはだかる。

そして、一同が出揃うや、雲外鏡は再び元のサイズに戻った。


「なっ、お、お前等は!?」
「C-Kジェネレーションズ、ただ今参上!」
「アルファトゥオメガ、ただ今見参!!」

藤岡に対し、名乗りを上げる青子と舞。



「おお、C-Kジェネレーションズじゃ!!」
「ああ、助かった!!」

雲外鏡から実況中継された、C-Kジェネレーションズやアルファトゥオメガの登場で、歓声に沸くBデッキ。

「くっ!」
「まさか、あいつ等が来るとは!!」

苦々しげに、大型モニターを見る石本と西谷。



「ちいっ、お前等が来るとは、想定外だったぜ!!」

憤る藤岡に対し、

「はあ?何言ってんのアンタ?」
「特殊能力犯罪のある所、C-Kジェネレーションズとアルファトゥオメガありよ。よっく覚えときなさい!」

と返す舞と青子。

「くっ!なら、これもどうだあ!!!」

藤岡は更に隠し持っていた黒いオーブを夜空に投げた。

すると。

「キイーーーーッッ!!」
「キイーーーーッッ!!」


オーブから、ソナーバットンよりも小型のコウモリ型ドールが次々と出現した。

「くっ!シャドウエンパイアめ、あんなオプションまで付けてたのか!」
「でもアレは、ただのシャドウソルジャーですから、普通に倒せるでしょう。」

探は、ベル・ツリー1世号を囲むように群生するアブラコウモリ型のシャドウソルジャー・暗黒蝙蝠ダークバットを見回した。

「さあ、やれ!!」
「キイーーーーッッ!!」
「キイーーーーッッ!!」


藤岡の指示の元、ダークバットが一斉にコナン達に襲い掛かった。
が。

「えーーーい!!」
「とおっ!!」
「キイッッ!!」
「キイーーッッ!!」


青子はアルティマモップ、探はスターソードなどの持ち武器で、あっという間にダークバットを叩き落していく。


「行けえ、ドラグファイヤー!!」
「グウォォォーーーーーーーーーッッッ!!!」

舞の指示で、ドラグファイヤーが火炎弾を吐いて、ダークバットを撃墜する。


「とりゃあーーーーっっ!!」

風吹は巨大手裏剣・南十字星で飛行し、その刃でダークバットを次々と切り裂いた。


「さあ、こんどこそあんたの番だぜ。」
「おとなしくなさい!!」
「くっ……!」

逆に優位に立ったコナンと蘭に対し、劣勢に陥った藤岡が歯噛みをする。

しかし、

『ちょっと待て!これが目に入らないか!』

ダークバットの一体がスクリーンを展開する。
そこには。

『くっ……!』
『ゲッコー、ゲッコー!!』

『こ、このお!!』
『は、離さんか!!!』
『シャー…シャー……!!』

グレートゲッコーが小五郎の、ソーニーモロクが中森警部と次郎吉の首をそれぞれ締め上げてる場面が。

「お、お父さん!?」
「お、オッチャン!?」

血相が変わる蘭とコナン。

「お、お父さん!!」

青子も顔面蒼白になる。

『さあ、ここから引き上げないと、三人の命は保障出来ないわよ!!』

「な、何て卑怯な……!」
「アンタ達、ズルいじゃない!!」
「おのれ……!」

怒りに身を震わせる探と舞、風吹。



「あ、悪辣なあ〜〜〜〜っっ!!」
「なっ、なんてひどい事を!!」

エアーウッド1世号の留守を預かる桐華や武琉も激しく憤る。

「初音、なんとかならないの!?」
「このままでは3人の命が!!」

美和子と渉が、初音に縋るかのように聞くが。

「まあ、待ちいや。あの様子だと、奴等はアレに気づいとらへんようやな。」
「えっ!?」
「あ、アレって……!?」

渉と美和子は、怪訝そうな顔つきで、再び大型ディスプレイの実況中継に目を向ける。
石本と西谷の背後に、秘かに近付く白い影。
美和子と渉は、大きく頷いた。


「ど、どうしよう、みんな……!!」
「このままだと、3人とも……!!」
「何とかなんねーのかよ!?」

探偵団の3人も、緊急事態に気が気ではない。

「……こうなったら、フォースウェポンを装備して奴等を……。」
「けど、それをしたら、ジャミングが解けて、正体が丸分かりになってしまうわ。」
「だって、そうしないとおじ様達が……。」

園子が哀と話をしていた時、

「「!」」

何かが二人の脳裏に呼びかけてきた。



『!』

一方、飛行船外のコナンや蘭達にも、何かが語りかけてきていた。

「……よし、わかった。」
「その手で行きましょう。」

コナンと探が同意を示す。



「さあ、とっととこの船から下がってもらおうか。」

との藤岡の要求に対し、

『お、俺の事など……かまうな!!』
『ワ、ワシはどうなってもいいから……奴等を……やっつけろ!!』
『いけ……C-Kジェネレーションズ……アルファトゥオメガ!!』

小五郎、中森警部、次郎吉が叫ぶが。

「……わかりました、下がりましょう。」

探が承諾する。

『な!?』
『お、おい!?』
『ちょ、ちょっと待たんか!?』

「あなた方の命には代えられません。下がりましょう、皆さん。」

そう言いながら探は、ドラグファイヤーに乗り込んだ。
青子もアルティマモップに跨り、その場を離れる。


「……さて、残るはお前達だけだが。」

藤岡は船上に残ったコナンや蘭に再び銃を向ける。
それに対し、

「その前にちょっとこれを見てよ。」

コナンが雲外鏡を藤岡やソナーバットンに向けると。

ピカアーーーーッッ!!

「ぐっ!」
「キイーーーッッ!!」

雲外鏡から強烈な光が発せられ、藤岡とソナーバットンは思わず目をつぶる。
瞬間、コナンと蘭は互いに離れながら駆け出した。

「ちいっ!こ、このお!!」
「キイーーーーッッッ!!」

藤岡が銃を、ソナーバットンが超音波を向けるが。

「「とおっ!!」」

なんと二人は、飛行船から飛び降りた。



「なっ!?」
「ら、蘭!?」

まさかの事態に驚愕する中森警部と小五郎。
だが、

(今よ、哀ちゃん!)
(了解!Pandra force charge,Edogawa Conan and Mouri Ran!)

哀はカーリーバックルを展開させ、パンドラフォースのチャージ呪文を念じた。
すると、アレキサンドライトキャッツアイのトワイライトパンドラ・エレーナの温もりの瞳が開き、そこからパンドラフォースがコナンや蘭の元へと飛んでいった。


「来るぞ、蘭!!」
「了解!」

落下中のコナンと蘭は闇の空に向けて右腕を上げ、哀から送られたパンドラフォースを受け取り、そして、

「Pandra Force Change,Grand Conan the Joker!!」
「Pandra Force Change,Phalaenopsis the Heart!!」


の変身呪文を唱えた。
直後、二人の体が光に包まれ、そのままベル・ツリー1世号の上部へと再び降り立つ。
そして。

ブワサッッッ!!

光の翼が開き、白銀のパワードテクターに身を包んだパンドラ勇者・グランドコナン・ザ・ジョーカー江戸川コナンと。
宝塚のステージ衣装を髣髴とさせる桃色の衣に身を包んだファレノプシス・ザ・ハート毛利蘭が現れた。


「き、貴様等一体……!?」

二人に尋ねる藤岡だが、二人から発せられる強大なパンドラフォースの前に、言葉は震えを帯びていた。

「レッドパンドラのマスター、ファレノプシス・ザ・ハートよ!」

名乗りを上げる蘭の左胸に装着されたメビウスノルンブローチにはめ込まれているレッドダイヤモンドのレッドパンドラ、トゥルーソウルがひときわ強く煌めく。

「同じく、レッドパンドラのパンドラメイト、グランドコナン・ザ・ジョーカーだ!!」

名乗りを上げた二人の勇者は、藤岡やソナーバットンに対し身構える。



同じ頃、ベル・ツリー1世号内部Bデッキでは。


「あっ、パンドラ勇者だ!!」
「何て神々しい!!」
「かっけーーっっ!!」

歓声を上げる探偵団。

(正体を言わない所がさすがね。)

哀は幼い探偵団達の配慮に感心する。


その直後。

ズドーーン!!
ズドーーン!!


「ゲコッ!!」
「シャウッ!!」


小五郎や中森警部、次郎吉を締め上げていたグレートゲッコーやソーニーモロクが、どこかからの銃撃を受けて吹っ飛んだ。

「げほっ、げほっ、あー、ひでえ目にあったぜ……。」
「しかし、今の銃撃は……?」

中森警部が見回すと。

「大丈夫でしたか、中森警部。」
「なっ、き、貴様!?」

怪盗キッドが、銃を手に立っていた。

「キッド様あ!!」
「怪盗キッドだあ!!」

園子が目を輝かせて、元太は眼を丸くして、それぞれ叫んだ。

「キッド、貴様〜〜!」
「おおっと。中森警部、共通の敵に対して、今は休戦って事で。」
「助けて貰った事には、一応礼は言うが!ワシは貴様と慣れ合う気はない!」
「はいはい。分かりましたよ。ですが取りあえず、まずはアイツらをやっつけませんか?」
「フン!わかった。終わったら、オメーの手に手錠をかけてやる!」

こういう状況でも相変わらずの中森警部に、周りの皆は呆れた表情になった。

「き、貴様……!!」
「くっ……!」

憎悪に満ちた目でキッドを睨む石本と西谷。

「だが、相手は一人!ヤツを殺せ!!」
「ゲッコー、ゲッコー!!」
「シャー、シャー!!」


石本の指示で、再びキッドに襲い掛かるグレートゲッコーとソーニーモロク。
だが。

「えーい!!」

バキッッ!!

「ゲッコーーーー!!」
「シャーーーーー!!」


そこに割り込むかのように、何者かが船内にテレポートし、2体のドールを叩き飛ばした。
そして。

「キッドには手出しをさせないわ!それに、人質を痛めつけるなんて、このブルーパンドラの勇者、ブループリンセス・ザ・ダイヤが許せない!!」

そう啖呵を切ったのは、青いブラウスのパンドラ衣装を身にまとい、パンドラウェポン・モルガンフロアモップを装備したブループリンセス・ザ・ダイヤ中森青子だった。
青子の額のモルガンのティアラにはめ込まれているコーンフラワーブルースターサファイアのブルーパンドラ、蒼穹の星の十字部分が強烈な光を発する。

「なっ……!?」
「そ、そんな……!!」

新たなる最強勇者が現れた事で、石本と西谷は震えだした。




そして更に船外では。



ドガーーーン!!
ドガーーーーーン!!


「何っ!?」

藤岡は、残りのダークバットが彼方から現れた緑色の光の玉に全て撃墜された事に驚く。

その光の玉はコナンと蘭の前に降り立つと。


ブワサッッッ!!

光の翼が開き、緑と白の甲冑に身を包んだパンドラ勇者・ライダー・ザ・ブレード服部平次と。
SFチックな緑の衣に身を包んだホーリーセイント遠山和葉が現れた。

「『赤いシャムネコ』を騙って、日本全土を大混乱に陥れたアンタ等は、このグリーンパンドラのマスター、ホーリーセイントが逃がさへんで!!」

和葉がつけているアテネのペンダントにはめ込まれているビロードエメラルドのグリーンパンドラ、ザ・ニューグリーンリーヴスが輝く。

「お前ら、オレの大事なダチを、ようも痛めつけてくれおったな!このグリーンパンドラのパートナー、ライダー・ザ・ブレードが許さへんで、覚悟しいや!」
「ブレード……アンタ、また誤解を招くような発言を……。」
「はあ?和……じゃなかったウェスト、一体何言うてんねん?」
「ブレードは男好きやって噂がたってんの、知らへんのん?」
「アホ!これから戦闘やっちゅう時に、力抜けるような事、抜かすな!」



この様子を、実況中継で見ていた、桐華がクスクスと笑って言った。

「平次さん、可哀想に……もう、コナンさんは、キッドの虜……おほほほほ。」
「また、姉さんが、腐女子の妄想を……。」

頭を抱える武琉。

「ええっ!?き、桐華さんって、腐女子だったんですか!?」
「ねえ。桐華さんが婦女子なのは、当たり前じゃないの。何変な事を言ってるの、あなた達?」

のけぞる高木警部補と、首をかしげる佐藤警部。

「えっ!?美和子さん、腐女子を知らないんですか!?」
「だから!婦女子って、婦人女性の事でしょ!?」

どこまでも、会話が噛み合わなかった。
ちなみに、高木警部補の知識は、千葉刑事仕込みである。



「くっ、そんなこけおどしが通用するか!やれ!!」
「キイーーーーーーッッ!!」

藤岡の指示で、ソナーバットンが超音波を四人に向けて発射するが。

「なっ!?」

超音波は絶対防御パンドラフォースディフェンスに阻まれる。

「どうした、それで終わりか?」
「ならこっちから行くわよ!えーい!!」

バキッッ!!

「キイーーッッ!!」

蘭のパンチがソナーバットンにヒット!
更に。

「とおっ!」

キックもヒットし、ソナーバットンは船上に倒れ伏す。

「キイッ、キイッ……!!」

パンドラ勇者の一撃辺りのダメージ量はとてつもなく大きい為、ソナーバットンは飛行船上で激しくのた打ち回る。

「そ、そんな……!!」

恐怖で後ずさりする藤岡。
そこへ。

「とおっ!!!」
「ごふあっっ!!」

和葉のパンチが藤岡にヒットし、その強烈なダメージで倒れてしまう。



「死ねえ!!」

石本と西谷が青子に向けて銃を撃った。

「危ない!!」

中森警部が思わず叫ぶ。
しかし。

「な゛っ!?」
「そ、そんな!?」

銃弾はパンドラフォースディフェンスに阻まれる。

そこをすかさず。

「ていやあーーーーーっっ!!」

どがっ!
バキッ!!
グシャッ!!!
ゲシッッ!!!!


「ぐはあっ!」
「がはあっ!!」
「ゲッコー!!!」
「キシャーーーッ!!!!」


青子がモルガンフロアモップを振り回し、あっという間に石本と西谷、グレートゲッコーやソーニーモロクを叩き飛ばす。

「おお!」
「凄い!!」
「いいぞ、もっとやれー!!」

パンドラ勇者の強さに驚嘆する中森警部と次郎吉。
応援する元太。

(今日の青子はいつになく強いな、ハハハハ……。)

キッドこと快斗は、心の中で苦笑いしていた。
ちなみに快斗は、身なりこそキッドだが、中身はブルーパンドラのパンドラパートナー、キッドジュニア・ザ・クローバーになっている。



その時。


「ゲッ!飛行船が明石海峡大橋に!」
「こ、このままでは、ぶつかるーーーっ!!」
「いや!ギリギリで大丈夫だ!」

思わずパニックに陥りそうになった皆を、コナンが一喝する。

直後、コナンが何かを念じ、蘭や平次達が頷いて、飛行船から離脱した。


藤岡は、これが逃げ出すチャンスと、再び立ち上がったが、その眼前に大橋が迫っていたので、慌ててまた屈んだ。
間髪入れず、その場に踏みとどまっていたコナンは、ボール射出ベルトでサッカーボールを出した。
それは、極限まで膨らんで行く。

「うぐぐぐぐうっ!!」

藤岡は、大橋と飛行船に挟まれたボールに圧迫され、身動きが取れない。
飛行船は、ボールの圧力で、からくも大橋の下をくぐり抜けたが、くぐり抜けた途端に、急速に上方向へと傾いて行った。


「うわあああああっ!!」

藤岡は、なす術なく、飛行船から海へと落下しそうになった。
そこへ、すかさず。

「今だ!」
『フォトンホールディング!!』

コナンの指示の元、C−Kジェネレーションズのメンバーが、一斉に叫んだ。
その瞬間、藤岡・石本・西谷、そして3体のドールが、同時に拘束された。


しかし同時に、船内では。


『うわあああああっ!!』

船がほぼ垂直に傾いた為、縛られていた人質達は、ぶら下がり状態になっていた。
しかし、石本と西谷は、幸か不幸か、フォトンホールディングに捉えられ空中を漂っていたので、無事だった。

「おいおい!ったく、やり過ぎだぜ!」
「仕方ないじゃない、さすがに……スペードも、この船の傾きまでは、予想してなかったと思うの。」

キッドと青子は、パンドラフォースで浮遊していた為、やはり無事だった。
しかし、石本と西谷には、「無事だった」という安ど感は全くなかったようである。

「は、離せっ!!」
「こっ、このお!!」

フォトンホールディングに拘束された石本と西谷は必死にもがくが、

バババババ……。

「うわあーーーーっっ!!」
「きゃあーーーーっっ!!」
「ゲッコーーーーーッッ!!」
「シャーーーーーーッッ!!」


フォトンホールディングがスパークし、更なるダメージを受ける。

「ったくよお。拘束されてなかったら、今頃壁に激突して気絶してんぜ。」
「ホント、感謝の心が足りないわよね。」
『いててて!何とかしてくれ〜〜!』
「……みんな、悪いけどもうちょっと我慢してね。」
「その内、飛行船は自動操縦で水平飛行に戻る筈だからよ。」


同時に船外では。



「ぐっ、ぐわあーーーーっっ!!」
「キシャアーーーーッッ!!」

藤岡やソナーバットンも、フォトンホールディングのスパークで、更なるダメージを受ける。


「さあ、これでケリをつけてやるぜ!フォトンドライブシュート、セットアップ!!
「みんなを恐怖に陥れた罪、償ってもらうわよ!ファレノプシス彗星拳、セットアップ!!
「これで終わりや!!ラグナブレイク、セットアップ!!
「往生しいや!クリスタルスパーク、セットアップ!!

コナンはボール射出ベルトからボールを出すのと同時に、カイザースパイクにパンドラフォースを集中させ、蘭は両手のノルンハンズを交差させてパンドラフォースをまとわせ、平次はヘヴンリーブレードにパンドラフォースの刃を形成し、和葉は頭のアテネティアラにパンドラフォースを集中させる。



「ちょ、ちょっと待てお前等!!」
「た。助けてーーーっっ!!」

必死に命乞いをする石本と西谷に対し。

「この騒動のケリはきっちりとつけさせてもらいますよ。(ムーンライトシュート、セットアップ!)」
「パンドラ必殺技を使うまでも無いわね。マジカルデリート、セットアップ!!

キッドはトランプ銃(に偽装したルナカノン)にパンドラフォースを集中させ、青子はモルガンフロアモップを回転させて、そこにパンドラフォースを集中させる。



そして、狙いを定めたコナンと蘭、平次と和葉、キッドと青子は一斉に動き出し。

「「「「「「いっけーーーーーーっっ!!」」」」」」

叫びと共に一斉に必殺技をぶちかました。

ドッガアーーーーーーーンッッ!!

「ぐはっ……!」
「ごはっ……!!」
「がはっ……!!」
「キシャアーーーーーーッッ!!」
「ゲッコーーーーーッッ!!」
「シャーーーーーーーッッ!!」


それぞれの必殺技が、アームドドールと操演者に同時にヒットし。


ドガアーーーーーーーーーン!!


飛行船の内と外で大爆発を起こした。

「やったあ!!」
「お見事!!」
「よくやりましたね、皆さん。」

舞や風吹、探も大喜びする。



  ☆☆☆



「これで一件落着ですわね。」
「いやあ、ホント疲れましたね。」

エアーウッド1世号で、雲外鏡を通して実況を見ていた桐華と武琉も安堵する。

「けど、飛行船内で、派手に爆発してましたけど、大丈夫ですか!?」

渉が心配すると。

「あー、そら心配あらへん。敵が爆散しても、基本的に他に被害は出えへんから。」
「そ、そうなんですか、ホッ……。」

初音が解説して、渉を安心させる。

「ま、何はともあれ、一件落着ね♪」

緊張が解けた美和子も、ほっと一息つく。



  ☆☆☆



ベル・ツリー1世号船外では……。



「しかしこれは、まるでクジラがハイジャンプしたみたいやなあ。」
「全くだ。」

ほぼ垂直になっているベル・ツリー1世号を見て、感想を言う一同。
が。

「あ、何か水平に戻っていくね。」
「自動操縦装置の水平機能が働いてんだろ。」

ベル・ツリー1世号は、数分の内に元通りの水平状態に戻った。

「あ、そう言えば、藤岡はどうしたんや?」
「それなら心配無用だぜ。」

コナンが下を見ると。

「へーたーん、海に落っこちた真犯人、捕まえといたで。」

百鬼夜行桐華組の一反木綿に乗った菫が、藤岡を一反木綿の尻尾部分で捕獲してきた。
ちなみに藤岡自身は気絶している。

「おお、ようやったな。ほな、下の海保にそいつ引き渡してくれや。」

眼下では、海上保安庁の巡視艇が、藤岡のグループのクルーザーを包囲していた。

「はーい。」

菫は一目散に巡視艇へと藤岡を引き渡しに行った。

そして、菫が巡視艇から戻った直後、一同はその場を離れていった。



  ☆☆☆



同じ頃、船内では……。


キッドはさっさとBデッキからずらかり、青子がパンドラ勇者の恰好のまま、人々の縄を解いて行く。

「ああ、助かったぜ。」
「本当にどうなる事かと思いましたよ。」
「助けてくれてありがとう。」

ほっと一息つく探偵団。

「やれやれ。綺麗なお嬢さん、助かりましたよ。」

中森警部の言葉に、ブループリンセス・ザ・ダイヤの本当の姿を知る者達は、思わず吹き出しそうになるのをこらえていた。

「しかし、アンタ、何でキッドを捕まえてくれないんだ?」

小五郎が苦々しげに言った。

「無茶言わないで下さい。それは、あお……私達の役目では、ありません。泥棒を捕まえるのは、警察のお仕事でしょ?」
「ま、まあ、そりゃそうだが。かーっ、融通の利かねえ奴らだな、C−Kジェネレーションズというのは!」

小五郎が、忌々しそうに言った。
青子は苦笑する。

「……それに、今回は、彼にも手助けしてもらったんですから。恩を仇で返す訳には、行きませんでしょ?」
「ああ。お嬢さんの言う通りだな……。」

中森警部の言葉に、皆内心で

「さっきと言う事がちがうじゃないか!」

と突っ込みを入れていた。

「では、私はこれで。ごきげんよう。」

青子は、そのまま、テレポートで去って行った。
そこへ。

「お父さん!みんな!」
「おじさん!」

蘭とコナンが、Bデッキに飛び込んできた。

「コナン君!」
「蘭さん!!」
「無事だったのか!!」

二人のところに駆け寄る探偵団。

「蘭!それに、坊主。いきなり飛び降りたりするから、心配したじゃねえか!」
「ごめんなさい……って、何でお父さんが、それを!?」
「それが俺にもよく分からねえんだが、船外の様子がさっきまでそのスクリーンに映し出されててなあ。」
「ははは……(さては、こいつの仕業か!)」

コナンは、いまだ傍にいる雲外鏡を見て、乾いた笑いをもらした。

「おじさん。実は、C−Kジェネレーションズの人達に頼まれたんだ。必ず助けるから、船の中の人達を助ける為に、飛び降りた振りをしろって。」
「な、なるほど……しかし、心臓に悪かったぜ。」
「ごめんなさい……。」

コナンが、可愛らしく小五郎を見上げ。
コナンの正体を知っている園子と哀は、思わず鳥肌を立てていた。



その後、両飛行船は、ベル・ツリータワーの飛行船ポートに到着した。

そして、テロリスト……もとい、強盗集団は、全員、大坂府警に引き渡され。
中森警部一行と初音・渉・美和子は、報告の為、府警本部へと向かって行った。



  ☆☆☆



そして事件は無事に解決し、混乱が収まったベル・ツリー1世号では洋食ディナーが、エアーウッド1世号では海鮮懐石がふるまわれていた。

エアー・ウッド1世号Bデッキでは。
菫が海鮮懐石料理を前にして、

「ごっつ旨そうやなあ……。」

涎を垂らしまくっていた。

「こらこら御剣。お前バトルが終わってからまだ時間経っとらへんのに、もうそれかいな。」
「まあ、それがスミレちゃんやから、しゃあないな。」

呆れる平次と和葉。

「でも、黒羽君には、これって無理なんじゃない?気絶しそうよね。」
「快斗殿は、魚がダメでござるからなあ。」
「心配あらへんって、快にゃんが食べられへんのは、ウチが……。」
「本当に、心配要りませんわ。彼の分はちゃーんと別に、作ってありますから。魚以外の、海老や鮑や蟹といった海の幸を、沢山使って……。」

外が大騒ぎになってる間も、黙々と海鮮懐石を作っていた明日奈が説明する。

「おばはん、ウチ、そっちも食べたいでー!」
「菫殿。さすがにそれは、ムシが良過ぎるでござろう。」
「でも、黒羽君の場合は、他の人が魚を食べるのを見るのもダメじゃなかった?」
「大丈夫ですわ。青子さんと二人、個室で召し上がっていただくよう、手配してますから。」
「さすがですね。しかし、黒羽君を、優遇し過ぎではないですか?」
「まあ、良いじゃないか。今回のミッションの主は、彼だったんだし。」

事件中、ずっと操縦室で経過を見守りながら飛行船を操縦していた圭が、探を宥める。

「社長が仰るなら……。」
「快斗さんはもうすぐ、ミッションを終えて帰って来るでしょう。」

武琉は、向かい側に係留されているベル・ツリー1世号に目を向ける。

「あれ?そう言えば、青子ちゃんは?」
「快斗さんを迎えに行きましたわ。」
「はあ。ラブラブね。羨ましい……。」
「拙者も早く、主殿と……。」
「何て図々しいの!王子様とラブラブになるのは、私よ!」
「いや、ダーリンとラブラブになるんは、ウチや!」
「これこれ……。」

多少の言い争いはあっても、和やかに食事会は進んで行った……。



   ☆☆☆



一方、ベル・ツリー1世号では。


「うめえ!」
「元太君、お腹すいたのは分かりますけど、そんなにかきこまない方が良いですよ。」
「でも、本当に美味しい。」
「君らにも、色々と迷惑をかけて世話になったからな。たんと食べておくれ。」

洋食ディナーに舌づつみを打つ探偵団と、ニコニコして探偵団を見やる次郎吉。

「ぷっはー!さすがに高級ワインはうめーなあ!!」

事件でひどい目にあった反動か、小五郎はワインを楽しみまくっていた。


「あら?蘭とし……コナン君は?」
「さすがに、疲れたみたいで。もう、部屋に引き揚げたんじゃないかしら。」
「ふうん。」
「そう言えば、園子さん。」
「え?な、何、哀ちゃん?」

哀の正体を知る園子は、彼女が鋭い目つきで語りかけてきたので、頬をひくひくさせて身構えた。

「何が、キッド様ぁよ。園子さん、あなたには京極さんって恋人がいるでしょ?」
「だ、だってー!やっぱり、カッコいいんですもん!それに、真さんの事と、キッド様の事は、また別よ!」
「ふう。まったく、キッドには幻滅したような事を言ってたのに……。」
「あ、そう言えば、蘭と後で話をするんだった!私、蘭を探して来るわ!」

そう言って園子は席を立った。

「ふう。蘭さんは疲れて引き揚げたって言ってるのに。逃げたわね……。」

哀が、ストローでジュースを飲みながら、ボソリと言った。

「ははは、相変わらず鋭いのう……。」

思わず苦笑いする阿笠博士であった。



  ☆☆☆



「ふう、やっぱこれもパンドラじゃなかったか。まあ、透けて見えねーしなあ。」

ベル・ツリー1世号のスカイデッキで、『天空の貴婦人』を満月にかざしたキッドこと快斗はため息をつく。
そこへ。

「黒羽君。」

蘭が入ってきた。

「おっ、蘭ちゃん。」
「それ、やはりパンドラじゃなかったのね。」
「ああ。とりあえず、今回のミッションはこれで終了だな。」
「そうね。ご苦労さま。」
「いや、そっちこそ。予定外の戦闘、お疲れ様。」
「あ、そうだ、黒羽君。」
「何だい?」
「今日の昼は、新一を助けてくれて、本当にありがとう。」
「なーんだ。蘭ちゃん、お礼を言う為に、ここに来たんだ?」
「ええ、そうよ。だって、新一の事だもの。」
「てっきり、俺に会いに来てくれたのかと思ったのに。」
「はあ?何、バカな事言ってるのよ。」
「ははっ。……それじゃあ、蘭ちゃんの一番大切な人を守ったお礼に、君のお宝をねだっても良いかな?」
「お宝?私は、キッドが欲しがるようなものなんて、何にも持ってないわよ?」
「お宝は君の……」
「えっ!?」

快斗が、蘭の肩を抱き寄せ、顔を近付けようとした。



  ☆☆☆



<イメージキャスト>


江戸川コナン……高山みなみ
工藤新一/黒羽快斗……山口勝平

毛利蘭……山崎和佳奈
中森青子……藤村歩

服部平次……堀川りょう
遠山和葉……宮村優子
鈴木園子……松井菜桜子
白馬探……石田彰

灰原哀……林原めぐみ
吉田歩美……岩居由希子
小嶋元太/高木渉警部補……高木渉
円谷光彦……大谷育江

毛利小五郎……小山力也
阿笠博士……緒方賢一
中森銀三警部……石塚運昇
佐藤美和子警部……湯屋敦子

服部初音……野田順子
焔野舞……堀江由衣
雪野風吹……生天目仁美
御剣菫……岡本麻耶
虎姫桐華……冬馬由美
虎姫武琉……桑島法子

虎姫圭……子安武人
虎姫明日奈……日高のり子

テロリストリーダー……大友龍三郎
水川正輝……真地勇志
西谷かすみ……石毛佐和
石本順平……池田知聡

川口聡……大橋のぞみ

藤岡隆道……野田圭一

鈴木次郎吉……永井一郎



  ☆☆☆



ぶわきっっっ!
げしっっっっ!


「んがはあっっ!!」
「……何の積りよ?」

類稀な運動神経を誇る筈の怪盗キッドが、その場に悶絶し。
思いっきりその鳩尾と腹に拳と蹴りを叩きこんだ蘭が、ふうっと息を吐きながらキッドを見下ろして、冷たい目で言った。

「…………。」
「答えない気!?」
「い、いや……答えようにも……。」

ようようの体で、キッドが起き上がる。

「で、何の積り?」
「い、いや、君のその桜色のクチビルを頂こうかと……てててーーーっ!!!」

起き上がったキッドは、蘭に思いっきり、頬をつねられていた。

「ひ……ひたい(痛い)……蘭ちゃん……工藤には手加減してたんだな……。」

新一は、蘭の蹴りをいつもかわしていたが、新一に劣らぬ運動神経を持つ筈の快斗が、今回全く避け切れなかったのであった。

「当たり前でしょ!新一は、アンタみたいに、相手の意思を無視してどうこうなんて、絶対しないもん!」
「い、いや俺も、別に蘭ちゃんの意思を無視してとか考えてなくてえ……名探偵にちと仕返しをしようかと……。」

と、そこへ。

どごーーんん!!

「ぐほおっ!」

飛んできたサッカーボールがキッドの顔面にめり込んだ。

「な、何で!?いつもなら……避けられる筈……。」

キッドはまたも、吹っ飛んでひっくり返った。

「黒羽!!オメー一体、何やってんだよ!?」

額に青筋を立てたコナンが、園子や雲外鏡と共に立っており、足のキック力増強シューズがスパークしていた。

「工藤……蘭ちゃん……アンタら本当に夫婦だな……口より先に手足が出るとこなんか……。」
「やっぱり、夢は正夢だったな!黒羽、オメー、許せん!」
「はあ。キッド様の正体、知るんじゃなかった……。」

怒り心頭のコナン、肩を落とす園子。

「新一。この人にお灸を据えるには、力技より、青子ちゃんを連れて来る方が良いと思うわ。」

半目になった蘭が言うと。
蘭の持つレッドパンドラ『トゥルーソウル』が反応し、その場に、パンドラフォースの光が届いた。

「こ、この光は、ブルー……青子ちゃんか!?」
「あら、ちょうど良い所に来たじゃない。」

見ると、満月を背に、パンドラ勇者ブループリンセス・ザ・ダイヤに変身した青子が、パンドラウェポンのモルガンフロアモップにまたがって飛行船の上に浮かび、怒りの青いオーラを身にまとわせながら、ものすごい形相で快斗を睨んでいた。

「ば〜か〜い〜と〜〜!」
「あ、青……ま、まさか!?オメー、ずっと見てたのか!?」
「当たり前でしょお!?青子がどんなに、アンタの事を心配してたと思ってんのよ!?すっごくすっごく、死ぬほど心配してたのに、人の気も知らないで!」
「青子……。」
「バ快斗、アンタの青子だけって言葉、全く信用ならないって、よおおおおっく!分かったわ!」
「ち、ちが……こ、これはただ、名探偵にひと泡吹かせたいと……本気で蘭ちゃんをどうこうしようと思った訳じゃ!」
「……本気で、キスの一つくらいは、しようとしてたでしょ!?問答無用、覚悟!!」
「ひ、ひいいいいっ!」

怒れる青子がベル・ツリー1世号のスカイデッキに降下してくるのを見て、びびる快斗。
更に。

「バ快斗、アンタには心をこめて、この!ピチピチの鳴門の鯛の!懐石フルコース料理を、作ってあげるからねえ!」
「ひえええええっ!!魚魚魚ッ!!そっ、それだけは、ご勘弁を〜〜〜〜!!」

青子が、手に持っているものをグイッとかざしたのを見て、快斗は本気で涙目になってビビった。
そして、パニくった快斗は、モップにまたがって降りて来た青子に、首根っこをひっ捕まえられ、そのまま夜空へと攫われて行った。



  ☆☆☆



「……黒羽の奴、モロに地雷踏みおってからに……。」
「バカは死んでも直らないとは、あの人の事を指すのですわね。」

エアーウッド1世号Bデッキの大型モニターで、雲外鏡が実況中継しているベル・ツリー1世号のスカイデッキでの様子を見守っていた一同は、一様に呆れていた。

「そう言えば青子さん、さっきパンドラ勇者に変身したのに、また変身してますね。」
「パンドラ勇者達は、パンドラ必殺技を使わなかったそうですから、その分エネルギーが十分にあったのでしょう。」
「それに、中森の姉ちゃんの怒りのパワーが、パンドラの制御を上回ったのも一因やな。」

武琉の疑問に、探と平次が答える一方で。

「ああ。あの鯛、黒羽君にあげるなんて、勿体ない。本当に生きが良くて大きくて……美味しそう……。」
「舞殿。まるで菫殿のような事を言うでござるな?」
「あんな食欲魔人じゃなくても、普通にお魚が好きな人には、垂涎ものだと思うわよ!」

舞が羨ましげに言う。

「まあ、心配あらへん。快にゃんに鯛の懐石が食えへんかったとしても、後はウチがきっちりと『処理』したるさかいな。」

菫が、懐石料理を平らげながら言った。

「あの勢いだと、青子ちゃんは無理やりにでも、黒羽君の口に鯛を突っ込みそうだけどね。」
「羨ましいで。ウチの口にも突っ込んでくれへんかな?」
「スミレちゃんやったら天国かもしれへんけど、黒羽君には地獄やろうなあ。」
「……同情出来ひん。ほっといたり。」
「おほほほほ。平次さんったら、焼き餅焼いちゃって。」

やり取りを見て微笑む桐華。

「はあ?何言うてんねん、百鬼夜行の姉ちゃん?」
「……平次さん、すみません。姉は、腐女子なので……。」

平次に詫びる武琉。

「そん、腐れ女子と書いてフジョシと読む、それは一体何やねん?」
「別に、知らんでもええ事や、平次。」
「ふっ。服部君にも、知らない事はあったんですね。」
「何や白馬、そのイヤらしい笑いは!?」
「別に。ただ、まだ小学生の武琉君が、そんな言葉を知っているのが気の毒かなと。」
「白馬さん。何か、仰いまして?」
「……いや。桐華さんが隠れヲタとは、存じ上げませんで。」
「それは、聞き捨てなりませんわね!」
「いや、その……。」

桐華の目が妙に熱気を帯び、慌てふためく探。

「ワタクシは、隠れヲタなどではありません。ハッキリヲタですわ!」

桐華の言葉に、一同は(平次も含めて)ずる〜〜っとずっこけた。

「何や。腐女子いうんは、オタク女性の事かいな。」
「服部君、オタクは分かるんですか?」
「当たり前やがな!けど……はあ、何や分かって来たで〜。オレらの純粋な熱い友情を、汚れたホ〇なんぞに、なぞらえるとは……!」
「……服部君、それは本当のホ〇の方に対して、あまりにも失礼な発言ではないですか?」
「オレが言うてんのは、現実世界の真正ホ〇の事やあらへん!やおいはホ〇のニセもんやんか!」
「……平次。そないな事を熱く語ると、また勘違いされるで……。」
「和葉。今夜はたっぷり可愛がって、そないな口塞いでやるから、覚悟しいや!」
「アホ、こないなとこで、何言うてんねん!第一、今回はパンドラ必殺技は使うてへんから、別にせえへんでもええ筈やろ!?」
「はあ?和葉、何言うてんねん?別に、パンドラフォース使うてへんかて、やりた……アタタタタッ!!」
「このアホタレ〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」

真っ赤になった和葉が、平次の頭をバシバシとはたき、平次は頭を抱えた。
その場にいる武琉以外の面々は、少し頬を染めてうつむいた。
武琉はきょとんとし。
桐華はうっとりした表情で、

「平次さんって、両刀ですのね。まあ素敵。」

と、更なる妄想に耽っていた……。

「ちなみに、桐華殿の、はまりジャンルとカプは何でござるか?」
「風吹さん。それ以上は止めましょう!姉さんの話がノンストップになってしまいます!」


桐華が実はオタクで、同人誌まで作っていたという話は、いずれ別の物語になる。
ここでは、これ以上触れると怖いものがあると感じて、一同は話を逸らそうとしたのだが。

「あたたっ。しかしこの百鬼夜行の姉ちゃん、こんなアホな妄想ばかり耽りおってからに!そないな事ではいずれレオン王太子殿下に逃げられて、高千穂警視んトコに奔られて見捨てられてまうのがオチやで!」

と、その場で呟いた。
誰にも聞こえない程の小声だった筈なのだが。


「平次さん……何か仰いまして?」

桐華の言葉と同時に、

「ぎええええええっ!!!!」

アイアンクローが平次に炸裂した。

叫ぶ平次を見て、和葉は呆れたように一言。

「アンタも、黒羽君の事言えへんやん。地雷踏みまくってからに。」


などと、和やかに(?)その場は盛り上がっていた。


ちなみに、快斗と青子は、エアーウッド1世号に戻って来る事はなかった。
その為、二人の為に用意されていた特別海鮮懐石は、菫が全て『処理』した事は言うまでもない。



そして、この後、快斗がどうなったのか。
ここでは、敢えて語るまい。


合掌。



  ☆☆☆



一方、青子がキッドこと快斗を連れ去って行った後の、ベル・ツリー1世号のスカイデッキでは。


「黒羽君って、ほんっとうに、お魚がダメなんだ……。」
「うううう。キッド様の正体、本当に知らなければ良かった……。」
「攫われるお姫様は、男でした……。」

コナン達が、小さくなる二人の姿を、呆れ気味に見送っていた。
その時、蘭がコナンをじろりと睨んで、言った。

「何バカな事を言ってるのよ、新一。私だって怒ってるんだからね!」
「は?何で?」
「舞ちゃん達に聞いたわよ。夢を見て黒羽君を縛り上げた話。アンタ、私の事、信用してなかったのね!?」

険しい顔でコナンを問い詰める蘭。

「げっ!い、いや、オメーを信用してなかったとか、そんなんじゃなくて!」

焦るコナン。

「知らない、新一なんか!」
「だ、だからっ!オメーの事は信用してるけど、黒羽は正直、信用ならないし!」
「……まあね。」
「夢でも、妬いちまう位、オメーの事が好きなんだ!だから、許してくれ!」

蘭が目を丸くして、園子は目が点になった。

「黒羽は、俺と顔も背格好も良く似てる。だけど、俺はこんな姿だ……オメーを抱き締めてもやれねえ……だから……悔しかったんだよ……。」

蘭の表情が、和らいだ。
微笑んで、コナンに近寄り、抱き締める。

「バカ……。」
「うん。ごめん……。」

コナンが、精一杯蘭の背に手を回して、抱き締め返す。

赤くなっていた園子だが、ふっと笑うと、

「さあ、アンタも行きましょ。」

雲外鏡を持って、そっとその場を後にした。



スカイデッキに差し込んだ月の光が、コナンと蘭をずっと照らしていた。



FIN…….





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