探偵、西へ行く



By あおり様



ある日の朝。起き抜けでぼんやりしていた俺の元に一本の電話が入った。

「もしもし…お、工藤か?!おまえから電話くれるなんて、珍しいの〜。…何?
?…あ〜、華道の家元さんで?ハナマチさん??あ〜…っと、ちょお待てや。」

ちょうどオカンが台所から出てきたので呼びとめる。

「なあ,確かハナマチさんてお花の師匠さん、知り合いやったなあ?」
「花街さんなら,仲良うさせてもらっとるよ。」

そう返事を聞いて,電話に戻る。

「おかん知り合いや、ゆうとるで。何や?…住所見ただけではようわからん??あの辺,入りくんどってややこしいからなあ…事件がらみか??…あ、わかっとるて、守秘義務やろ、守秘義務。…あ、もう大阪着いとるんか?俺いこか??…え、何で知っとんねん。あ〜〜、毛利の姉ちゃんにきいたんか…かなわんな。いや、和葉にはちょお待っててもろて…」

そこまで言った俺の手を、ぺしぺしと扇子が叩く。
振り返るとオカンが背筋の凍りそうな視線を実の息子に向けとる。こ…こわ。

「アンタ、和葉ちゃんと約束しとるやろ。今日すっぽかしたら連続4回や。許しまへんで。」
「げっ…(なんで知っとんねん)あ〜〜、いや、工藤がな…事件のことで話聴きたいみたいなんや、
その花街さんに。家がわからんゆうてるから…案内したろかな、思てん…」

オカンはにっこりと笑って言う。

「だったら和葉ちゃんとの約束が大事やなぁ?…心配せんでもええよ、工藤くんのほうは私に任しときぃ。ちゃ〜んと案内して、花街さんにも紹介するよって。」

ゲッ…顔は笑ってるけど目は笑っとらん。コワー。
なんせこのオバハン、俺が通い詰めとるからっちゅー理由だけで毛利のおっさんの所にも乗りこんだ女やからな…工藤の事もいっぺん値踏みしたろー、思てんのが見え見えや。
青くなる俺を尻目にオカンは嬉々として準備をはじめとる。
…もう止められん。

「あ〜〜、工藤??…案内…行かせるよって…頑張りや。」

そう言って俺は返事を待たずに電話を切った。工藤、気ィ付けえや。
オカンの鑑定眼、厳しいで。



  ☆☆☆



一日和葉に付き合うて買い物やら食事やらした後、時間もそう遅くなかったし、俺の家へ二人で帰った。

「帰ったで〜〜。」
「お邪魔します〜!オバチャン、居てる〜?」

オカンの好きなお菓子を「おみやげ」と買うてた和葉が機嫌良く挨拶し、オカンを呼ぶ。

「2人ともお帰り。」

声がして、奥へ行ってみるとオカンはえらい上機嫌で、ほどいた花束を花瓶に活けている最中やった。

「うわあ〜、キレイやね!オバチャン、買うてきたん??」

和葉が駆け寄る。
淡いブルーの、丈の高い、大輪の派手な花やけど名前は知らん。
目を輝かせて花に近づく和葉に、オカンはニコニコ顔で言った。

「工藤くんにもろたんよ。」

ハア???

「帰りのタクシーで、お花屋さんの前で一回止めてな、買うてきてくれたんよ。『今日、お付き合いいただいた御礼です』言うてな。」

ひえええ〜!するか、普通?おまえは一体、何もんや?!
オカンもオカンや、花束ぐらいで息子と同い年の男にのぼせあがった顔しよって。

「この花、デルフィニウム、言うんやて。花の形がイルカに似てるから、ドルフィンからついた名前やて教えてくれはった。花の事もよう知っとる、風流な子やねぇ。」

そんなの、毛利の姉ちゃんから伝授された知識に決まっとるやないかい。

「物腰も柔らこうてな、物尋ねるのも丁寧で。花街さんも『ええ子やねぇ』てうっとりしとったヮ。」

そっちもかい。あの天然マダムキラーが。

「それにな、石段の昇り降りとか、タクシー降りるときとか、『足元、気をつけてくださいね』ってかならずさっと手ェ取ってくれはったんよ。あのくらいの歳の子が、中々出来へんで。」

オバハン、何やねん、頬染めよって!自分の歳を考えぃ!

「は、あほらし。年寄りや思うて気ぃ使うただけやろ。」

呆れて悪態をついた俺をオカンと、和葉まで睨みかえす。

「そんなんやあらへんて!ね、オバチャン、アタシが前に言うてた通りやろ?工藤くんてほんまに優しゅうて、細かい所によう気配りしてくれるんよ。それに…ごっつい男前やろ??」

なんや和葉、おまえまで工藤の味方かい。つーかオカンにそんなふうに工藤のこと言うとったんかい。

「ほんまやね、どっかのアホとはえらい違いや。…そうそう、コレな。」

そう言ってオカンは思い出したように活けかけの花の影から別の小さい花束を取り出した。
オレンジ色の花がえらく可愛らしゅうまとめられたやつ。

「工藤くんがな、『これは和葉ちゃんに。』やて。今日うちに来ることわかっとったんやなあ。」
「え〜〜っ、ホンマ?嬉しい!!」

ななな、なんちゅ〜男やねん!!お前はホストか!!!
そりゃ女どもも指名するっちゅーねん。(意味不明やな)
和葉も和葉や、なんやそのお姫様顔は。ただでさえこぼれそうにおっきな眼、キラキラさせよって。
…可愛ぇやないかい。
なんでこの表情作り出してる原因が俺でなく工藤やねん。気に食わんの〜。

「わあ、ガーベラ!アタシ大好きやねん。前に好きな花や、言うてたの覚えててくれたんやろか…」

…そうやろな。工藤はそういう、言葉の端々の何気ないこと絶対聴き逃さへんし、絶対忘れん。
ヤらしい奴やで。和葉、べつに工藤はな、こういうつもりでその話きいとったんとちゃうで!
例えていうなら…さりげなく言った一言が、あとから犯人を追い詰める切り札に…とかと同列の理由…自分でいってて訳わからん。
オカンはどうでもいいが和葉が妙に工藤に肩入れするのはどうにも納得いかん。
そういう顔は俺にだけ見せえ。
…あ、工藤はこの場に居らんのやから見とらんのか…ああ、もう。
俺が後ろで不機嫌指数を上げていることなどには微塵も気づかず、女2人はえらいはしゃぎっぷりや。

「なんでやろね、他の人やったら嫌味な感じもするけど工藤くんには全然そんな感じがあらへんねえ。小さい頃から身についとるんやろか。」
「気障なんやけど、工藤くんくらい自然にやられるともうそれがスタイルになっとるんやね、きっと。自然体でそうやからかっこええんやねvv」

…アカン、こいつらの目には今、『工藤新一・王子様化フィルター』がかかっとる。
ちまたに溢れる工藤新一ファンと変わらん。
花一つで全く、しょうもないやっちゃなあ。
それにしても、今日一日で、関西オンナ2人のハートを鷲掴みかい。
自分では無自覚っちゅーところがまた、タチ悪いで。
本人はそんなことには気づかんと、速攻で東京帰って今ごろ毛利の姉ちゃんの膝枕でだらしなく寝てんのやろ。
それがあいつのほんとの自然体やっちゅーねん。
いい気なもんやな〜。
そんなことを考えてたら和葉とオカンがこっちをじっと見とる。何やねん。

「平次も、見習うてなvv」
「頑張りィや。」

満面の笑顔なのにちょっと怖いのなんでやろ。

「…ほな、茶ァ煎れさしてもらいます。」

なんとなく気圧されて、俺はお喋りを続ける女2人を置いて台所に立った。
…探偵業でも、女あしらいでも東が一歩リードかい。
見とけや工藤、近日中にリベンジしたる!!!


ちなみに今日の静香との道行きが、パトロール中の警官の通報(?)でそれを知った服部平蔵腹心の部下に尾行されていたことにはさすがの新一も気づいていない。
名探偵・工藤新一の名が、平蔵氏の胸にいろんな意味で、深く刻み込まれたことも。



end






平和好きの方からは苦情が出そうな内容…
あ、石は投げないでくださいっ!!
和葉ちゃんはもちろん平次好き好きー!なんですが数少ない原作での新一がらみ(蘭から話を聞いたり、学園祭で顔を見たり…)
のシーンではいつも頬を可愛く染めているあたり、アイドルへの憧れ程度の感情は抱くんじゃなかろうかと…
平次くんもいい男ですが女の子への接しかたではまだ一歩新一にリードを許してるのではないかと。
さらに頑張って和葉ちゃんを喜ばせてやってほしいという願いを込めて…新一を持ち上げる内容なのに本人を直接は一度も出していないのが、ポイントです。(何の?)

読んでいただき、ありがとうございました。

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