結婚式の朝に・・・<side by 静華>



by COCONUT様



「・・・今日はホンマええ天気やわ〜♪」




隣でまだ休んでいる平蔵さんを起こさないように、そっと部屋を出る。
開け放した雨戸から、まぶしい日差しが降り注いだ。

今日は一人息子の平次の結婚式。
生まれた時から、兄妹みたいにして育ってきた和葉ちゃんとの結婚、長いことこの日を待ち望んできたんや。

全く平次ときたら、事件、事件、事件とちっさい頃からそればかり・・・まったく平蔵さん譲りやわ。
いつも和葉ちゃんの事待たしてなあ・・・(ため息)
いつの頃からか、二人の気持ちに気づいていたけど、お互い意地張って「幼馴染やっ」て言い張って、似たもの同士やなぁ・・と微笑ましくみていたのやった。


さっと着物に着替え、割烹着を羽織る。
普段通りの朝、ご飯を炊き、お出汁を取ってお味噌汁を作り、魚を焼く。
明日からはお魚も2匹でいいのやなあ・・と思うと少し寂しいのやけど、まあ近くの住むのやしな・・・

「オカン、おはようさん」
「平次、どうしたん〜?えらい早いやないの」
「なんや、オカン、鳩が豆鉄砲くらった顔しとるで?オトンは?」
「まだ休んでいるみたいや」
「めずらしな・・・」
「昨日、遠山さんと遅うまで、飲んどったみたい」
「そうか〜、結婚式に、父親どもが二日酔いじゃ、かなんなー」
「さあ、早う朝ごはん食べ。」
「ういーっす」

「おはよう」
「あーオトン、おはようさん」
「平蔵さん、早う朝ごはん食べて、支度しないと遅れてしまうで」

と慌しく食事を運んだ。



あっ、もう9時や!そろそろ出る時間やないの。



「平蔵さん、平次、食器は流しにおいておいてや、私そろそろ行くよって」
「なんや静、もう行くのんか?」
「和葉ちゃんの支度みたげなあかんやろ、それじゃまた式場でな。平次遅れちゃあかんよ!」
「へーへー、気ぃつけるわ」


早くに母親を亡くした和葉ちゃんは、遠山さんが男手一つで大切に守り育ててきたけど、母親にしか出来ない事は、代わりをしてきたつもりや。
和葉ちゃんの母親の葉子ちゃんとは、お互い年齢も近こうて、忙しい刑事の妻で、慣れない子育ても一緒にしてきたんや。
「将来はこの二人が結婚したりしてな〜」と二人で笑いあっていたのが昨日のことのようや。
だから可愛い盛りの一人娘を残して、亡うなってしまった時は、ほんまショックやった。


「おばちゃーん!!!」

待ち合わせの寝屋川駅で手を振る、輝くような笑顔の和葉ちゃんがおった。



「和葉ちゃん、おはようさん。昨日は眠れた?あれ?遠山さんは?」
「だめや、お父ちゃん〜二日酔いやて!!!もうしょうもないんやから。”遅れんから、先行っとってや”って。」
「ほな、平次達と一緒に来てもらおうか?」
「そやね〜」

と手を上げてタクシーを呼び止めた。

「なあ、オバちゃん・・・ああ今日からはお義母さんやね」

と少し照れくさそうに言った。

「無理せんとええよ(笑)少しづつ慣れたら」
「じゃあ、オバちゃん!なあオッちゃんとどうやって知り合うたん?」
「・・・うちと平蔵さん?なんや照れるなぁ。平次に聞いたことない?」
「うん。なんや剣道つながりらしいて聞いた事はあるんやけどな」








・・・うちが平蔵さんと初めて会うたのは、いつやったかな?




「もともと私の父が剣道をしとって、うちも勧められて小さい頃から始めたんよ。気管支が弱うて、すぐ熱を出し取ったから、少しでも身体を丈夫にさせ思ったそうや。剣道を始めてから、身体も丈夫になってきて、大会なんかもぼちぼち出られるようになったんや。大会に出るとな、5つ上にいつも優勝するすごい剣士がおって、それが平蔵さんや。なんや鬼みたいに強かってんな”鬼の平蔵”なんて呼ばれてはったの」
「オッちゃん、すごいもんな〜!平次もかなへんって言ってたで」
「ある日な、お茶のお稽古帰りに、着物の裾に足を引っ掛けて、階段から落ちそうになった所を助けてくれたんよ。その時足ひねって、歩けんようになってしもた見もしらん私をなおぶって家まで送ってくれはったの」
「えー、オッちゃんやるなぁ!」
「その人が、剣道大会でみた"鬼の平蔵さん”やてすぐ気ぃついてな、お礼に家に上がってもらお思うたけどスグ帰らはったんや。」




・・・そうや、その時”この人や”って思うたんや。
初めて話したように思へんかったし、おぶってもらったその広い背中がなつかしいような不思議な感じやった。







「次に会うた剣道大会の時な、思い切って話しかけたら覚えててくれてな、もうその時はうちの人は京都府警に勤めていて、社会人の部に出てたんやけど、終わるまで門の所で待ってたんや」
「わぁ・・・ホント!?オバちゃん積極的や」

と和葉ちゃんの目ぇが輝いていた。

「そうや〜、もう思い出すと恥ずかしなってくるわ」






「服部さん、優勝おめでとうございます!」

ってうちが言うと

「あ・・・」

平蔵さんが立ち止まってくれてな。
学生の部はもうとうに終わったのに、鼻も頬も手も冷たなって、こんな待ってるなんてけったいな子ぉや、って思われへん?ってそればかり気になってな。

「服部〜頑張りや」
「なんでこんな無口な奴がええのんかいな〜」

野次を飛ばされて恥ずかして消え入りそうやったんよ。
でも平蔵さんが照れるふうもなく

「寒いから、お茶でも飲もか」

って言ってくれはったんや。

「今日の試合、すごかったですね」
「ありがとう」
「さすが、”鬼の平蔵さん”やね。強うて相手はかなわへんね」

って言うとなんやちょっと困った顔をして

「そんな、人を鬼やなんてまったく困ったあだ名やな」

しばらくしゃべってから、喫茶店を出るとき思い切って電話番号を聞いたの。
びっくりしてはったけど、教えてくれてな、それからお付き合いが始まったんよ。
とにっこり笑った。


「お付き合いというより、私が一方的に振り回しているような感じやったかも知れへんね、それでも1年経って、2年経って大学を卒業したり就職したりして、平蔵さんも大阪府警に異動してな、そんなに頻繁には会えへんようになったの」
「えー、それでどないなってん?」
「うちも23歳になって、縁談も持ち込まれるし、会社の人に交際を申し込まれたりしてな。・・・これでも昔はちょっとはモテたんよ。信じられへんと思うけど(笑)」


そんなこと、ない。
おばちゃんは昔から綺麗で優しくて強くて、一緒に歩くのが自慢や。
背筋の伸びた凛とした姿、涼やかな目元。
今年50歳になるんやで〜なんて言われてもお世辞抜きで信じられへんもん。
ほんま綺麗なんや。




「その中で親が乗り気になった縁談があって、そんな熱心に言うならお見合いをしてみよかって事になったんや」
「なんで?」

と眉根をよせた。

「なんや、好きやって言われた事もないしな、平蔵さんを振り回しているだけやないか、私といて楽しいって思てくれてるのやろかって。って悩むようになってしもて」

と顔を曇らせた。

そうや、あれを最後にするつもりやった。
お見合いする事を言って、もう会わへんようにしよって。








「あっ平蔵さん、今日は早いね」
「ああ、行こか?美術館は8時までやろ?」
「実はな、話があるんよ」
「何や」
「私な、お見合いの話があるみたいなんや、親も乗り気みたいでなそれで・・・」

それを言うか言わないかうちにな、手を引っ張られて店を出てな、そのまま駅に連行されて、京都行きの電車に乗ったんや。

「えっ〜まさか!!!」
「電車の中で、一言も口を聞かんと、目ぇを吊り上げて怖〜い顔してな、ホント"鬼の平蔵”さんやったよ(笑)」

そのまま実家に行ってな、

「服部と申します。静華さんとお付き合いさせてもらってます。お嬢さんと結婚させてください」って。
「両親もびっくりしてたみたいやけど、一番びっくりしたのんは私や。けど、ほんま嬉しかったんよ」

と言ってニッコリ笑った。







ホテルについて、美容室に向かう。
一緒に選んだ朱色の打ち掛けが、花嫁を迎えていた。
支度を終えた和葉ちゃんが待合室にやってきた。

「わあ・・・!和葉ちゃんほんま綺麗や〜」
「オバちゃん、ありがとう!」
「そんな・・・そろそろ平次達出たかしら?電話してこな。ちょっと行ってくるね!」
「うん!」


輝くばかりの和葉ちゃんの笑顔が、葉子ちゃんの笑顔とダブって思わず涙が出た。
・・・葉子ちゃん、和葉ちゃんほんま綺麗やで。
平次に絶対幸せにさすから、安心してや。








ジリジリリリリリリリリリ・・・・・

「はい、服部です」
「平次、何やっとるの!まだ家にいるん?もうこっちきて支度せなあかんよ。平蔵さんと一緒に早よ来てや。」

と涙をぬぐった。

「へいへい」

ガチャン。


「まだ家にいるみたいや、困った人たちやな」
「お父ちゃんも、もう出るて」
「じゃあ、オバちゃんとお茶でもしよか?」
「うん!・・・なオバちゃん?」
「何?」
「オッちゃんは結局オバちゃんに好きやとかプロポーズとかしてくれはったん?」
「・・・それは秘密や♪」

ってニッコリ笑った。

きっとオッちゃんも、このオバちゃんに笑顔にやられたんや。
ほんと周囲の人を幸せな気分にしてしまう、素敵な笑顔やもん。
お母ちゃんと同じ位大好きで、うちの憧れの女性や。



・・・そうや、あれから27年や。

「なあ、和葉ちゃん、今日はほんまええ天気やね!絶好の結婚式日和や」




END





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