やさしさで溢れるように



By えいも様



青子は快斗の部屋にいた。

「アホ子!ここ教えてくれよ!」
「もともと授業中に寝ているのが悪いじゃない!バ快斗!」

青子は快斗に宿題を教えていた。
最近よく授業中にも関わらず、寝てしまっている快斗のために、快斗の部屋に来た。
しばらくノートとにらめっこしているうちに二人は疲れを感じた。

「んじゃ、何か飲み物をとってくる」

と快斗は飲み物を取りに行った。

一人残された青子はうとうとしていた。

「青子…、なんか眠いよ…」

と眠ってしまった。



青子が目を覚ましたときは、どこかの庭にいた。

「ここはどこ…?」

夢にしては感触がありすぎる。草の感触も花のにおいも…。

そこに「お嬢さん?」と声をかける者がいた。

その人物はもっとも会いたくない、怪盗キッドだった。

「怪盗キッド!!なんでここにいるのよ!」

青子はキッドを睨んだ。
キッドが一歩近づくと、青子が一歩退いた。

「青子に近づかないで!あんたなんか、大嫌い!いつもお父さんを苦しめて!いつも青子、独りぼっちなんだから!」

キッドに溜めていた気持ちを言っているうちに涙がでた。
キッドは悲しそうに笑った。

「すみません…、でも私だって訳があるんです…」
「わけって、犯罪は犯罪じゃない!」

と叫んだそのとき、自分達が花がいっぱいの庭にいることに気がついた。
まるで二人を優しさで包み込むように…

「いい匂いがしますね」

とキッドがつぶやいた。
その優しい笑顔に一瞬、青子はドキッとした。

「そうだね…」

と下にうつむいた。
そんな顔、キッドに見られたくない。

「それより青子嬢、その格好はいけませんよ」

キッドが青子の名前を呼んだことにびっくりしたが、それ以上にむかむかした。

「なんでキッドにそんなこと言われないといけないのよ!」

と青子は叫んだが、キッドは青子の上に布をかぶせた。

「スリー・ツー・ワン…」

再び現した青子の姿は…白いドレスに身が包まれた。



「素敵ですよ」

と笑顔で答えたキッドに、青子は顔が赤くなる。

(そんな姿、恥ずかしいよ…)

「せめて今だけは、私を恨まないでください…」

キッドが言った。



「今回だけだよ?」

青子は笑顔で答えた。

「やっと笑いましたね。貴女には笑顔が似合う」

キッドは手を青子の手に重ねた。

「え…?ちょっと…キッド!」

キッドは青子を引っ張って、駆け出した。
青子は手袋のはめていないキッドの手の温もりを感じ、彼の手を握った。

二人は座り込んで、語っていた。
本当にたわいもない話なのに、青子は幸せな気持ちで満たされた。

突然、キッドは花を取り

「この花、貴女にあげます。」

と告げた。

キッドは青子の髪に花を飾った。

「すごくお似合いですよ…。青子嬢…」

と青子の耳元で囁いた。

「キッ…キッド…」
青子は下をうつむいた。

やがて青子に眠気が襲ってきた。
やさしさで溢れるようにキッドは青子を自分のひざに乗せ、青子の髪をなでた。

「おやすみなさい、青子嬢」

と一言に青子は安心感を覚えて、目を閉じた。




「青子!青子!」

青子は誰かに起こされた。
目を開けたときは快斗の部屋にいた。
横には快斗がいた。

テーブルにはノートに、ペットボトル、コップ二杯があった。

「アホ子!オレがジュースを持ってきて、部屋に戻ってきたときは気持ちよさそうに寝ていたからさ」

と快斗は、青子の顔を覗いた。

「いい夢でも見たのか?」

青子はハッとし、

「ちょっとね…」

と笑った。

(夢でよかった…)

安心をしたそのとき、

「青子、髪に何かついているぞ?」

といわれ、青子は髪についていたものをとった。

「これ…」

それは夢でキッドが青子の髪に飾った花と同じだった。

「きれいじゃねーか?この花」

快斗が感嘆の言葉をもらした。

「この花、どこから?」

と青子は疑問を持った。



その謎は迷宮に入ったままだった…。



FIN…….



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