約束
BY 春陽様
リビングの窓を開け放ち、空を見上げる。思わず笑みを浮かべてしまうほど、澄んだ青空が広がっていた。
部屋の中に気持ちのいい風が入ってくる。身体を思いっきり伸ばして深呼吸。澄んだ空気を目一杯吸い込んだ。
清々しい、休日の朝。
思わず笑みが浮かぶ。今日は洗濯物がよく乾きそう。家事を担うわたしとしては、それはとても大事なこと。
それに、今日は。
人生の相方である、彼の久しぶりの休日。一緒に出かけようと誘われていた。ショッピングと映画に行く予定だから、あまり天気は関係ないけれど、やっぱり晴れていた方が気分がいい。
休日といっても、そろそろ彼が起きだす時間。
わたしは、朝食の準備をするため、キッチンへ向かった。
幼なじみで探偵の彼と結婚して、そろそろ一年が経つ。
付き合いはじめるまで長かったけれど、付き合い始めたら、展開は早かった。大学を卒業してすぐわたしたちは籍を入れた。
一緒に生活するようになったけれど、彼の仕事は時間が不規則なうえ忙しい。夜遅く帰ってきたと思ったら、数日家を空ける。探偵として守秘義務があるから、彼は仕事のことを話そうとしないし、わたしも聞かない。
わたしができるのは、食事に気を使うとか、家事を疎かにしないとか、言葉をかけるとか、彼が滞りなく仕事ができるように支えること。
それだけしかできない、ともどかしく思うこともあるけれど。それだって疎かにしたら、彼は仕事ができなくなってしまう。彼を支えているんだっていう自負がわたしを奮い起こす。
今日の朝食はおかずの品数多めで、栄養配分に偏りなし。
テーブルに並べたおかずを見て、満足げに頷いた。
ひとりで頷いていると、背後でドアの開く音が聞こえた。振り返ると、彼が欠伸を噛み殺しながら立っていた。
「おはよ」
眠そうに目をこすりながら、リビングへ入ってきた。
「おはよう、新一。まだ眠いのなら、もう少し寝ていたら?」
昨日も帰ってくるのが遅かった。彼の眠そうな様子にわたしは苦笑した。
朝食はまた温め直したらいいのだから。
「いや、おいしそうな匂いで腹が減ったんだ」
彼は身体を伸ばしてから、テーブルに座った。
まだ少し呆けている彼を眺めながら、わたしはご飯を装うため、お茶碗を持った。
ご飯をお腹いっぱい食べた後、わたしはお茶を淹れた。
二人で、ずずずっとお茶を飲んで、ふぅっと息を吐いた。
出かける予定はあったけれど、時間を決めているわけじゃない。二人でゆったりとした時間を過ごすことも大事。
「もう一杯お茶はいかが?」
「ああ、もらおうかな」
湯のみを受け取り、それにお茶を注いだ。はい、と湯のみを渡そうと差し出す。それを受取ろうとした、彼の手が止まった。
微かに遠くから電子音が聞こえる。
二人顔を見合わせる。彼の気まずそうな視線をわたしは苦笑で受け止める。
「わりぃ」
彼は気まずそうな表情を浮かべたまま、席を立った。
「うん、気にしないで」
わりぃ、ともう一度断って彼はリビングのソファーに置いた携帯電話を持った。
彼が携帯電話で話す様を、ずずずっとお茶を飲みながら眺める。
お茶と一緒にため息を飲み込む。
休みの日、彼と約束していても八割以上の確率で仕事の電話が入る。そして、その五割以上の確率で彼は仕事へ行ってしまう。
付き合い始めたころは、無理して笑って送り出していたけれど。ああ、またかと。今ではすっかり慣れてしまった。
彼は電話を終え、テーブルに戻った。
「仕事?」
「……でも、いいんだ。大丈夫」
彼の表情からその言葉が建前であることがわかった。ああ、そういえば。前回の休みもその前の休みも仕事で新一は出かけて行った。今度こそは一緒に出かけよう、と約束したことは記憶に新しい。
仕事なら仕方ない。だからわたしのことは気にしないでいいのに。そりゃあ、一緒に過ごしたいけれど。仕事を気にして上の空の人と過ごすのは勘弁してほしい。お茶をすすりながら、心の中でため息をついた。
彼はわたしが置いたお茶をぐっと飲んだ。
「ごほっ!」
上の空で飲んでいたから、お茶の熱さに驚いたらしい。新一はお茶を吹き出し苦しそうにせき込んだ。
慌てて立ち上がり、新一の背中を擦る。
幸い、新一の咳きこみはすぐに落ち着いた。テーブルをサッと拭き、淹れなおしたお茶を新一の前に置く。
さんきゅ、と新一のお礼を頷きで返す。
「……気になるんなら仕事に行ったら?」
微かな笑みを浮かべる。苦笑いに近い笑みだった。
自分から言い出せない新一のため、わたしは切り出した。
「でも……」
「わたしのことは気にしないで。仕事が早く終わってから出かけたらいいでしょう」
ね、と精一杯の笑みを浮かべた。
新一は迷っているようだったが、行くことにしたらしい。わりぃ、とお詫びの言葉にわたしは首を振って気にしないでとまた笑った。
今度はむせることなくお茶を飲むと、新一は立ち上がった。それとほとんど同時にリビングの扉が開け放たれた。
「んもう! 新ちゃんったら相変わらずね!」
「え?」
慌てて振り返ると、リビングの扉の前に、いるはずのない人が立っていた。
「か、母さん!?」
「お義母さん!?」
新一の母親である、有希子さんが両手を腰に当てて仁王立ちしていた。
新一の両親は海外に住んでおり、日本に戻ってくるときは事前に連絡がある。来日するという連絡はなかったため、わたしと新一は驚いた。
「ど、どうしたんですか?」
「遊びに来たの」
有希子さんはにっこりと笑った。その笑みは、伝説の女優にふさわしく女であるわたしでさえ魅了するものだった。
生まれてからずっとその笑みを見ている新一は動じないのか、ふぅっとため息をついた。
「どうせ……」
「新ちゃんはお仕事なのでしょう。早く出かけたら。私は蘭ちゃんとお留守番しているから」
有希子さんは新一に向かって、しっしっ、と追い払う仕草をする。
「なっ!」
その扱いに新一は言葉を失くす。
「新一、仕事に行ったら? わたしはお義母さんとお留守番してるから」
新一の背中を押す。新一は有希子さんとわたしを交互に見て、ため息をひとつ吐いた。
「わかった。行ってくる。なるべく早く帰ってくるようにするから。母さんも大人しく留守番してろよ」
はいはい、と有希子さんが返事をするのを見届けてから新一は走るようにして出かけて行った。
それを見送ると、わたしは有希子さんにお茶を出した。
「今日はどうされたんですか」
突然来日したということは何か急ぎの用事があったのかな。
「ちょうどよかった。蘭ちゃん、出かけましょう」
説明はなく、ただ出かけるから準備をして、と有希子さんに急かされた。
「で、でも! 新一に留守番してるって言ってますよ?」
「新ちゃんなんか放っておいていいわ。それに仕事が終わったら携帯電話に連絡するでしょう」
だからいいでしょう、と言われたら何も言えない。
わたしは急かされるまま、出かける準備をして、家を出た。
有希子さんとわたしが来たのは、都内から電車で一時間ほどで行ける、温泉地だった。
「とりあえず旅館に行きましょう」
出かけると決めた有希子さんの行動は早かった。
わたしが出かける準備をしている間に、電車の切符と旅館の予約をしていたらしい。泊まりだと電車に乗ってから聞かされ、わたしは驚いた。
わたしたちは駅に止まっているタクシーに乗り、旅館へ向かった。
今はシーズンオフ。それに平日ということもあって、料理がおいしいと評判の旅館の予約を当日取ることができた。
新一に黙って来てしまったことに罪悪感を感じるけど、久しぶりの温泉に勝手に気持ちは湧き上がる。
「お部屋はこちらです」
案内された部屋は広くて景観のいいところだった。旅館は川沿いに建っており、下にはゆるやかに流れる川、その川の向こうに青々繁った木で埋め尽くされた山が見える。
「大浴場には露天風呂もございます。そちらからの景観も見事ですので、ぜひご覧ください」
仲居さんはにっこりと笑顔で露天風呂を勧めると、お辞儀をして、静かに部屋を出て行った。
「蘭ちゃん、せっかく来たんだから、通りを歩いてみましょう」
温泉街のため、旅館の近くは観光客をターゲットにしたお店がずらりと並んでいた。旅館に向かうとき、タクシーの窓から見えたお店に興味を引かれていた、わたしに断る理由はない。はい、と頷いてバッグを持ち直した。
お土産を置いている店や雑貨店や伝統工芸品のお店、レストランやお団子お茶などを楽しむことのできる甘味処が目移りしてしまうほど並んでいる。さて、どれから見ようかな。とりあえず、一番手前のお店に入った。
そこは伝統工芸品のお店だった。温泉地の近くに陶磁器の産地で有名なところがある。そこの陶磁器が多く置かれていた。湯のみやお茶碗、大小さまざまなお皿からティーカップなど種類が様々、形も色柄も様々で見ているだけで楽しい。
同じ柄のものでも形が少しずつ違って、全く同じものはない。陶器のひとつひとつに人のぬくもりが感じられる。
お店をぐるりと回って、わたしはあるものに目を止めた。
落とさないように、それを手に取る。それはわたしの手にしっくると収まった。
「あら、かわいいお茶碗ね。気に入ったの?」
はい、と頷いた。
それは桜が描いてある、ピンクのお茶碗。お茶碗の縁がまっすぐじゃなく、すこし歪んでいる。それが手作り感を醸し出している。それに、お茶碗の中にも桜が一枚描かれていてご飯を食べた後も目を楽しませてくれる。それにわたしが気に入った理由はそれだけじゃない。
「これ夫婦茶碗なんです。新一へのお土産に買っていこうかと思ったんです」
「……そう。夫婦茶碗なの。素敵ね」
有希子さんはにっこり笑ったけれど、その笑みに少しの陰りにわたしは気づいた。
「ほら、買ってらっしゃい。私はお店の前で待っているわ」
有希子さんはわたしの背中をそっと押した。
会計を終わり、店を出ると有希子さんが空を見上げて立っていた。
「お義母さん?」
そっと呼びかけると、有希子さんはさっきの陰りが気のせいだったように晴れやかな笑みを浮かべた。
「ねぇ、蘭ちゃん。お茶にしましょうよ」
有希子さんに腕を引かれて行ったのは甘味処。
温かいお茶とお団子を堪能して、わたし達は旅館に戻った。
「夕飯の前にお風呂に入りましょう」
部屋に戻ると、有希子さんはすぐに次の行き先を提案した。
わたしに異論はないけれど、有希子さんの様子がおかしいことにまた気づく。休む暇を作らない。まるで休みたくないよう。休んだらまずいことでもあるのかな。
やっぱり何かあったのかな。
突然来日した理由もまだ聞いていなかった。
話してくれないのは、わたしが頼りないからかな。
有希子さんの背中を追いながら、こっそりため息を吐いた。
岩で作られた露天風呂に有希子さんと二人、並んで座った。
胸まで浸かると、ほぅと勝手に吐息が漏れる。凝り固まった身体が温泉の効力でゆっくりと解れていく。
「気持ちいいわね。それにこの解放感が堪らないわ」
露天風呂の醍醐味は景色を見ながら熱い温泉に浸かれること。壁に囲まれたお風呂では感じることのできない景観と自然な風。それが解放感を与えてくれる。
「そうですね」
頬に風を感じながら、目を閉じる。
意識していなかったけれど、心が少し疲れていたのか、露天風呂の効力で心の疲れも取れそう。
温泉の心地よさに、また、勝手に吐息が漏れる。
視線を感じ、目を開けると、有希子さんがわたしの顔を覗きこんでいた。
「今日は強引に連れて来てごめんなさいね」
「……いったいどうされたんですか?」
有希子さんも心の疲れが取れたのか、すっきりした顔をしている。今なら、彼女の本当の気持ちが聞けるような気がした。
「一人で待つのに少し疲れたの」
「え?」
「蘭ちゃんは我慢してない?」
「いつも仕事ばっかりでしょう、あの子。約束を破られることも多いでしょう」
わたしは苦笑して、返事を誤魔化した。
「優作もそうなのよ。事件のことになると他のことは後回し……」
有希子さんはため息混じりに突然来日するにいたった理由を話してくれた。
有希子さんと優作さん――新一のお父さん――は、前々から約束したバカンスに行く予定だった。
だけど全米を震撼させる大事件が起こり、それを解決に導くため、警察は優作さんに捜査協力を依頼した。無事事件は解決したが、その事件の捜査のため仕事がずれ込み、バカンスをキャンセルすることになったらしい。
「バカンスがキャンセルになるのは何度目かしら。もう数えていないわ」
数えられないほどキャンセルされているらしい。でも、わたしも似たようなもの。新一と約束をするたび、今度は大丈夫かしらと心配することがいつも。そして、仕事が入ったと言われたら、やっぱり、と思ってしまう。
「キャンセルになったからって拗ねるのもバカらしいし。かといって一人でいたくなくってね。日本に来たの。でも来てよかったわ。蘭ちゃんと旅行に来れたもの」
有希子さんは陰りのない笑みを浮かべた。露天風呂に入ったおかげで、有希子さんの心は吹っ切れたらしい。それだけでもここに来た意味は十分あった。
「わたしも来てよかったです。またぜひ来たいです。今度はみんなで」
「そうね」
わたしたちは顔を見合せて微笑みあった。
露天風呂から上がり、わたし達は浴衣を着て部屋に戻った。
部屋に戻ると、夕食の準備がされていた。
「二人分にしては量が多くないですか?」
テーブルいっぱいに料理が置かれている。けれど、お鍋の数や食器の数から二人分以上用意されている。
「そう? 気のせいでしょう。ほら、お腹も空いたし、食べましょう」
納得がいかないまま、わたしは料理の前に座った。
「この料理も楽しみだったのよ。ほら、食べましょう。いただきます」
「……いただきます」
気になったけれど、目の前の料理のおいしい匂いに誘われてわたしはお箸を手に持った。
目の前にあった小鉢を手に取った。
お箸を向けたとき、バタバタといくつかの足音が聞こえた。
足音はわたしたちの部屋の前で止まり、扉が開けられた。
「蘭!」
「新一!?」
扉を開けたのは息を荒くした新一だった。
新一を見て、わたしは連絡を忘れていたことを思い出した。仕事が終わったという連絡がなかったのにどうしてここにいるんだろう。それにどうやってここがわかったの。
「あら、新ちゃん。早かったのね」
「母さん……全部あんたの仕業だろう」
「何のことかしら」
有希子さんは新一に構わず料理に箸を付ける。
「有希子」
有希子さんの箸が止まった。
新一の後ろにいたのは優作さんだった。
「……優作。仕事は終わってないんでしょう。どうしてここにいるの」
「仕事は終わらせたよ。終わったら君がいないじゃないか。日本に向かったことはすぐにわかった。君の後を追っていくと、新一のところだった。新一に連絡を取ると家に来たというから、行ったら蘭君と一緒にいなくなっている。蘭君の携帯電話が繋がらなくて心配したんだよ」
「え?」
携帯電話が繋がらない? そんなはずはないのに。慌ててバッグから携帯電話を出すと、携帯電話の電源が切れていた。いつの間に切れたんだろう。
「新一にまで心配をかけてどうするんだ」
「少しは私たちの気持ちがわかったでしょう? あなたたち二人にはいい薬よ」
ふんっ、と有希子さんはそっぽを向いた。
「悪かったよ、有希子。君との約束を私も楽しみにしていたんだ。すまない。今度こそバカンスに行こう」
「……ええ」
有希子さんは照れくさいのか、そっぽを向いたまま頷いた。
「蘭、今日は本当に悪かった。今度の休みは二人で過ごそう」
新一はわたしの隣に腰を下ろした。彼の瞳に浮かぶのは不安と安心。わたしが怒っているのではないかという不安と見つかったことに対する安心。
わたしのことを考えてくれる彼をわたしが許さないはずがない。
確かに約束が守られなかったことに少し腹が立つけど。本当に悪いと思っている人を責めるつもりはない。
今回の約束がダメだったら、次に約束をすればいい。
次もダメかもしれない。その不安が付きまとうけれど。そのまた次の約束を楽しみにする。
この約束が最後じゃない。だから、わたしはまた新一と約束をする。
「さ、みんなで料理を食べましょう」
パンパンと有希子さんが手を叩くと、仲居さんが現れわたしと有希子さんの隣に座布団とテーブルにお皿とグラスを置いた。
「お部屋のご用意もできております。それではお楽しみください」
仲居さんは深く頭を下げて、お部屋を出て行った。
「有希子、君は……」
「ほら、冷めないうちに食べましょう。優作も座って」
優作さんはそっとため息をついただけで何も言わなかった。
気になることはあるけれど、とりあえず今は目の前の料理を堪能したい。わたしたちはグラスに飲み物をそそぎ、ささやかな乾杯をして、料理を食べ始めた。
最初からなのか、新一たちが来てからなのかわからないけれど部屋は二部屋取られていた。
わたしと新一、有希子さんと優作さんがそれぞれ部屋に入った。
わたしたちは障子を開け、月の前に並んで座った。満月に近い月は明るくて電気を付けなくても充分互いの顔が見える。仲居さんにお酒を用意してもらい、月見酒をふたりで味わうことにした。
新一も露天風呂に入ってきたため浴衣を着ている。寄り添うだけで、互いの温度を感じる。
「今日は本当に悪かったな。でも、携帯電話が繋がらなくて焦ったぜ。電話に出たくないほど蘭が怒っているんじゃないかと思った」
「でも、わたし……電源を切った覚えないんだけど」
「……携帯電話を母さんに貸さなかったか?」
「え? うん、貸したわ」
有希子さんの携帯電話の電池が切れそうだから、と言われ温泉地に着いたあと貸した。
「たぶん、その時だ」
新一がぼそりと呟いたことが聞き取れなくて、わたしは聞き返す。けれど新一は何でもないと答えてくれなかった。
「二人で温泉に来るのは久しぶりだな」
「そうね、たまには温泉もいいわね」
休みが不規則で連休が取れることがない新一とどこかに行くとしたら近場になってしまう。
「勝手に行くのはこれっきりにしてくれ」
「どうしようかな」
おどけて、新一の肩に頭を乗せた。
「蘭!」
冗談だとわかっているはずなのに、新一の声には少し本気が混じっている。勝手にいなくなったことが堪えたらしい。
「冗談よ。今度来るときは一緒」
「……ああ、約束だ」
お猪口をカチンと鳴らして約束の合図。
わたしたちは他愛のない些細な約束をひとつひとつ増やしていく。叶えられなくってもいい。わたしたちには約束する時間もそれを叶える時間もたっぷりある。
だって、わたしたちはずっと一緒だもの。
神に誓い、紙に誓った。そして、自分たちの心に誓った。その誓いは永遠に破られることはないのだから。
「君はこうなることをわかっていたんだろう?」
「何のこと?」
「そこかしこに君たちの足跡があった。調べたらすぐにわかるように、ね」
「どうかしら。真実を見つけ出すのが探偵さんのお仕事でしょう。真実を見つけてみたら?」
「さすがの名探偵も稀代の女優には勝てないよ」
「……嘘ばっかり」
FIN…….
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