あなたがいるから


by 日高実奈様



厳しく冷たい冬の風が通り過ぎ、森は次第と緑を取り戻していった。
暖かい優しい太陽を全身に浴び、木々はゆっくり背伸びをして元気になってゆく。



'春'。




誰もが待ち望んだ季節。
柔らかい春風に乗って、桜の花びらが散歩をしていた。




「ねぇ!お花見行こうよ」


こんなに気持ち良いんだもん。家でじっとしているなんて勿体無い。
私、毛利蘭はヒマそうにTVを観ている新一を誘った。




「花見〜?メンドくせぇ」
「いーじゃない!米花公園に行けば、絶好の花見スポットよ!」


最近デートもしてないし、新一は探偵業で忙しいみたいだし、誘ってもなんだかつれないし…。
新一は、私といても楽しくないのかなぁ…。


でも、そんな不安は新一の次の言葉がふっ飛ばしてくれた。



「…じゃ、行こうぜ。早く支度しろよ?」
「え…」


こんなに素直にOKしてくれると思わなくて、少し驚いてしまったけれど、…それでも凄く嬉しくて。


1度自分の家に帰って着替える時間さえ惜しくて、薄着のまま米花公園へと向かった。



……そこで私達の瞳に飛び込んできたのは別世界にでも行ったかのような、そのくらい素晴らしい桜の木々だった。




「うっわぁ……すっごーい!キレー!!」
「丁度見頃の時期だな。東京にもまだこんな自然が残ってんだ」



想像よりも何十倍も素敵な桜達に、私はなんだか凄く感動してしまって…、少し、目頭が熱くなった。


「すごいっ…すごいよー!こんなの見たの初めて!私!」
「え?去年は行かなかったのか?花見…」


新一の言葉に、私はピクリと反応をした。



「……行ったけど、去年は…1人だったから……」


新一が'大変な事件に関わっている'と言って、私の前から姿を消していた頃。
満開の桜を目の前にしても、なんだか切なくて、悲しくて、…涙が出てきちゃったっけ。
桜が美しければ美しい程、…その気持ちが強くなって…。
その場にずっといるのが、…桜を見続けるのが、…つらくなっちゃって……。




少し顔をうつむかせた私の肩を、新一がそっと抱き寄せた。


「バーロ、んな顔すんなよ」

彼は少し恥ずかしそうにしながら、言葉を続けた。






「今は、俺がいるんだからよ………………」








少しだけ桜の花びらが舞って、私達の周りで遊んだ。


春の風は暖かくて、柔らかくて、私と新一をそっと包んでくれた。




「寒くないか?」
新一が、心配そうに聞く。
「…ううん、すごく…暖かいよ」

新一が、傍にいてくれるから。
肩を、抱いててくれるから。
だから、すごく…暖かい。





「これからも…………ずっと傍にいてくれる?」



ずっと会いたくて、やっと新一が隣に来てくれて、…今がこんなに幸せだから。



「ああ。ずっと、蘭の傍にいるよ」
「………約束だよ……」





去年と同じ桜の木が、今年は全然違く感じるよ。


それは…きっと、隣にあなたがいるから。




もう、あんな寂しい思いはしたくない。
でも、きっと大丈夫。
新一が、約束してくれたから。一緒に、歩いてくれるから。






'大好きだよ'







満開の桜の木の下で、優しい桜吹雪を浴びながら、私達2人はしばらくそのままでいた。







……………今なら、素直にハッキリ言えるよ。




'あなたがいるから、私は幸せです―――――――…'


fin



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