secret memory


by 日高実奈様


――――――――――いい天気。
小鳥がチュンチュン鳴いて、空には雲ひとつなくて、風が穏やかで…。
滅多にない、…まさに'快晴'。

今日は、そんな天気だった。


「いい天気ねー!コナン君、ちょっと外に出ようよ!」
連日の雨で家にこもりっきりだった蘭が、ソファーでポテチを食べていたコナンを誘う。小五郎はいつものごとく、お酒を飲みすぎて夢の中だ。
「え…、外に出るって…どこ行くの?」
「そんなの決まってないわ。ただ、天気がいいから外に出たくなっただけよ。歩いてたら、何か発見できるかもしれないし。…ね、行こうよ」
「う、…うん…」

ほかに何もする事なかったし、「行こうよ」と言った時の蘭の表情がなんだかとても可愛らしかったので、コナンは素直に頷いた。

こうして2人は外へ出た。家から少し離れた、草原へとむかう。東京では少ない、自然が沢山ある所だ。


「わあ――――――♪空気もおいしー!最高だね、コナン君」
「うん!来てよかったね」
2人は平和そうに、その時間を過ごした。
後に起こる悲劇の事など、何も知らずに……………。

「そろそろお昼にしよっか」
蘭はそう言って、バスケットを取り出した。
「ジャ――――――ン♪蘭様特製のサンドイッチよ!」
「わあー、おいしそー!でも、ここで食べるの?座る所も敷物もないのに…」
「そうよね、どこかいい場所ないかなぁ…。あれ?…あの家、なんだろ…?」
「え?」

蘭が指す方を見ると、…そこには古ぼけた家が1軒建っていた。

「……ずいぶん古いおうちだね。あれだけ古けりゃ、きっと今は誰も住んでないよ」
「じゃあ、あの家ちょっとお借りしてお昼食べちゃおっか」
「うん、そうだね」
2人はルンルン気分でその家へむかった。
ボロくなったドアを開け、中に入ってみると…。


「うわ――――――っ。何これ、ダンボールとか新聞とかがいっぱ――――い…」
蘭の言うとおり、床には沢山のダンボール等が置かれていた。
…いや、捨てられていた、…と言った方が正しいかもしれない。

「きっと誰かがこの家をゴミ捨て場にしてるんだよ。誰も住んでないし、絶好のゴミ捨て場だからね。それも、生ゴミじゃなくダンボール等…。生ゴミだと腐って悪臭がすごくて、近寄れなくなって次捨てれなくなるからね」
「まったくもぉ…。生ゴミをちゃんとゴミ出しに出してるんなら、ダンボールもちゃんとそうすればいいのに」
ぐちぐち言いながらも、適当に座ってバスケットを開ける。
「いっぱい食べてね♪沢山作ってきたから」
「わーい!いただきまーす」

蘭お手製のサンドイッチをほおばる2人。
…と、その途中、変な臭いに気づく。

「何…これ、何の臭い……?」
「何かがコゲるような…、燃えるような…。………まさか!?」

コナンは慌てて、隣の部屋とのドアを開けた。
………すると!!


ゴオオオオオオオオオオオ。
炎が燃え広がっていて、今にもこっちの部屋にやってきそうだった。
急いでドアを閉めるコナン。



「なっ…何!?どーしていきなり火事なんかっ…」
「……多分、タバコだよ。ダンボール等と一緒に、タバコも捨てられてあったんだ。そのタバコの火が、新聞紙にうつり…ダンボールに…。そして、一気に燃え広がった………!」
「そ、そんなぁ!!」


のん気に説明してる場合じゃない。
コナンはなんとかしようと色々と考えた。
今、2人は一番奥の部屋にいる。
出口があるのはダンボールや新聞紙がある向かいの部屋…!
隣にもうひとつ部屋はあるけれど、その部屋には出口などない。


そんな事を考えているうちに、とうとう2人がいる部屋にまで炎が燃え広がってしまった。


「きゃあああああああ!!」
「おっ、落ち着いて!!落ち着いて、蘭姉ちゃん!!」
しかし、炎はどんどん大きくなるばかり。
煙を吸って、2人とも限界になってきた。

「ゴホゴホッ…ゴホッ…」
「コ、コナン…君……。コナン君だけでも…逃げてっ…!!」
「ダッ、ダメだよ、何言ってんだよ!?俺が死んでも…、蘭姉ちゃんだけは助ける……!!命をかけて、っ…蘭姉ちゃんを……守るから………!!」
「コッ…コナン君…」



コナンは必死だった。
愛する人を守りたい。
死なせたくない。
たとえこんな体になっても、

――――――――想いは少しも変わらないから!!




「と、とりあえず…隣の部屋にうつりましょっ…。煙も少な…」
蘭がヨロヨロと、隣の部屋にむかった。
………と。
隣の部屋とのドアの天井が、グラグラと崩れそうなのをコナンが発見する。



「そっちへ行くな!!蘭ッ!!」
「―――――――え!?」






ガタ―――――――――――――――ンッ。
天井の一部が崩れ落ち、ものすごい音がした。
…コナンが蘭の上に覆い被さってかばい、蘭は無傷。


「…コ、コナン君!!」
「…だ、大丈夫。蘭姉ちゃんは…?平気…?」
「――――――…コナン…君…。へ、平気よ。大丈夫…」







――――――――このままだと、2人とも焼け死んでしまう。
出口は一番炎が燃え盛っている、向かいの部屋にしかない!!

――――――――そこへ行くしか、方法は無い!!




「蘭姉ちゃんっ、これを頭からかぶって!」
コナンは自分が着ていたジャケットを蘭に手渡した。
「え…?」
「ちょっと熱いかもしれないけど…大丈夫だから。…恐くないから。…俺が…ついてるから…蘭」
「…コナン…君…。ど、どうする気……?」
「出口があるのは、向かいのあの部屋だ。…そこへ行かなきゃ、2人とも死んじまう!!」
「そ、そんな…。でも…あの中に飛び込むなんて…死にに行くようなものじゃない!」
「それしか方法はないんだ!!ずっと待ってても焼け死んじまう!…イチかバチか。…やろうぜ…」
「…で…でも…。こ、恐いよ…」
「大丈夫。俺がいるから。隣に、いるから。絶対………蘭を守るから。な?」

コナンは、蘭の右手をぎゅっと握った。
…そこからは、じんわりと温もりが伝わってきた。




「…………うん。私、出来る。コナン君が一緒なら…………」

「よし!行こう!!」




2人は覚悟を決めて、向かいの部屋とのドアを開けた。


ゴオオオオオオオオオオオオオ。
炎で前が見えない。
熱さで息が出来ない。
死ぬ。
死んじゃう!!
何度も、気を失いそうになる。
…だけど、コナンの手の温もりが、蘭を現実へと呼び戻した。




それから、どうやって出口へと向かったのは分からない。







ザッ……………。
気がつけば、2人は全身に火傷を負いながらも、無事古ぼけた家からの脱出に成功していた。
草原に手をつき、ハアハアと息を切らして…。
それでも、蘭の右手とコナンの左手は、きつく握られたままだった。



そして……その光景を目撃した散歩途中のおじいさんが、慌てて消防署と警察に電話
をしてくれた。


「こ、恐かったね…」
「蘭姉ちゃん、大丈夫!?怪我はない!?…火傷してるけど…痛い?大丈夫?」
「大丈夫よ。大した火傷じゃないもの」
「…そう…。よかった…」
「コナン君、…すごくカッコよかったよ。…なんだか、………………新一みたいだった………」
「え゛っ!」
「…なんてね。コナン君はコナン君だもんね。…有り難う。コナン君がいなかったら、今頃私焼け死んでたわ」
「そんな事ないよ。僕、無我夢中だったもん!蘭姉ちゃんに勇気があったから…だから、助かったんだよ」






お互いを守ろうとする想い。
それがあれば、何だって乗り越えてゆけるから。






それから2人は救急車で病院に運ばれ、治療を受けた。
蘭の方はコナンが渡したジャケットのおかげでそんなにひどい火傷は負わずにすんだ
が、コナンの方は…。
かなり大きな火傷で、当分入院という診察結果を下された。

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜。僕、そんなに痛くないのにー」
「何言ってんだ!!オメー、そんなにひどい火傷負ってんだぞ。おとなしく入院してろ!!」
小五郎の言葉に、コナンもおとなしく「はーい」と答えるしかなかった。

「…ま、あの火事から蘭を守ってくれたんだ。…その事には感謝する。…ありがとう」
「え…?」
初めて聞く、小五郎のちゃんとした「ありがとう」。
コナンはびっくりして、何も返す事が出来なかった。
「あんなクソ生意気な高校生探偵きどりのボウズより、オメーの方がずっと頼りになるかもな!ハーッハッハッハ!!」
「え゛っ…。そ、それってもしかして、新一兄ちゃんの事…?」
「もしかしなくてもそうだ。ほかに誰かいるか?」
「ハハハ…、そーだよね…」
何も返す言葉のないコナン。
…と、そこへ蘭が走ってやってきた。


「ゴッメーン!!バスが10分遅れるって聞いたから…待たずに走ってきたの」
「えーっ!?バス停からここまで走ってきたの!?かなり距離あるのに!?」
「だって…10分なんて待ってられないわよ!」
「蘭姉ちゃん…」




「…………コナン君、私を守ってくれたせいで大火傷したんだもん…。よくなるまで、ずっと傍にいるからね!」
「え…?あ、ありがとう…」





―――――――――守りたいから。
―――――――――傍にいたいから。
―――――――――大切な人だから…。



そんな想いがある限り、…どんな困難だって大丈夫。
ふたりならきっと、乗り越えていける。




愛する人がいるから。






ずっと一緒にいるために、




2人で刻む、secret memory...



fin



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