ウグイス



By 飛香里様



日当たりのいい窓辺でアイロンをかけていた蘭が不意にクスリと笑った。
「何だよ、思い出し笑いか? 気持ち悪いやつだな」
パソコンのキーボードを叩く手を止めて新一が蘭の顔を見る。
「違うわよ。さっきからウグイスが鳴いてるでしょ? 聞いてたらおかしくて」
「ウグイス?」
言われて新一は耳をすませた。確かに愛らしい声が庭の植木の方から聞こえてくる。
ただ、その声はおなじみの『ホーホケキョ』からはかなり調子のはずれたさえずりだった。
「ああ、あれか? まだ春先だからうまく鳴けねーんだよ。ぐぜり鳴きって言うのさ。
そのうちちゃんと鳴けるようになるって。毎年そうだろ?」
「そうね。でも今年は特に下手じゃない? ねえ、ウグイスにも歌の上手、下手ってあるのかしら?」
アイロンを片付けながら蘭は軽く首を傾げる。
「そりゃあ、生き物だから当然、個体差はあるだろうな」
「良かったね、新一。ウグイスに生まれなくて」
「は? どういう意味だよ?」
「だって、ウグイスは歌が上手なオスがもてるんでしょ?
新一がウグイスだったら寄ってくるメスはほとんどいないんじゃないかな、と思って」
「蘭、てめー!」
新一は立ち上がり、コロコロと笑いだした蘭を羽交い絞めにする。
「きゃ、ごめんなさいっ 冗談よ、冗談!」
「オメーな、どんなに下手でも私だけは新一のお嫁さんになってあげる、とか言えねーのかよ?」
「新一ウグイスの歌を聞いて私が傍に行くまで待っていてくれたらね?」
甘えるように顔を見上げる彼女に新一はふっと笑い、額に軽いキスを落とした。
「待ってるさ。あの庭のウグイスみたいにばかでかい声でさえずりながら、オメーだけをずっとずっと待ち続けるよ」



≪終≫




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