雪の中の二人〜成人編〜



By 飛香里様



「お花見が雪見になっちゃったわね」
満開の桜並木を覆う季節外れの雪を見ながら蘭が少し残念そうにつぶやいた。
「ま、これはこれで風情があっていいんじゃねーか。おかげで人もほとんどいねーしな」
「とか言いながら、本音はさっさと帰りたいんじゃないの? 新一、雪嫌いだもんね?」
ちょっとトゲを含んだ言い方に新一は軽く眉をあげた。
「俺、雪は別に嫌いじゃないぜ?」
「ウソばっかり。昔は雪が降ると外に出るのすごく嫌がってたじゃない。寒い、寒いって言って」
「ああ、そういえばそんなこともあったっけな」
かつての自分を思い出して肩をすくめる。
「今だから言うけどあれは雪が嫌だったんじゃなくて雪に夢中になってるオメーを見るのが嫌だったんだよ」
「何、それ?」
「つまり、雪に嫉妬してたってこと。オメーが事件や推理小説に八つ当たりするのと同じさ。
けど、今は結構好きだぜ。雪が降るとこうやって外でも堂々とオメーとくっつけるしな」
蘭の細い肩をぐいと抱き寄せ、耳元で囁く。
「雪なんか降ってなくても平気でくっつくくせに…」
口を尖らせる彼女に新一は「あれ? そうだっけ?」とわざとらしく驚いてみせた。
「でもキスまでは許してくれねーだろ?」
「今日も許すつもりはないけど?」
「それはどうかな? 俺の恋人は意地っ張りで時々思ってもいないことを言うんだよな」
強気なセリフを新一は涼しい顔で受け流し、抗う隙を与えないまま深く唇を重ねた。



≪終≫




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