BIRTHDAY PRESENTS
By 飛香里様
蘭が新一にゴールデンウィークの予定を聞いてきたのは桃の節句の頃。
『二ヵ月も先のことなんてわかんねーよ』と呆れる彼に蘭は強引に家へ行く約束をとりつけた。
約束の日、休日であるにもかかわらず新一は珍しく早起きして布団を干し、家の中を片付ける。
コーヒーメーカーをセットすると、蘭が訪れるまでの間の暇つぶしにリビングのテレビをつけた。
画面に映っているのはありきたりなバラエティ番組。
気が付くと彼は前夜の彼女との電話を思い出していた。
『新一、明日の約束忘れてない?』
『ちゃんと覚えてるって。家に居ればいいんだろ? でも何があるんだ?』
『まだわからないの?』
『ああ、そろそろ教えてくれよ』
『ナイショよ。明日になったら教えてあげる』
電話の向こうの弾む声に新一はそっと笑みをもらしていた。
─バーロ、あんなに早くから約束して何度も確認すりゃ嫌でもわかるって。
そう、今日は彼の誕生日。
昔から蘭はこの日に必ず何かプレゼントを贈ってくれた。
幼い頃は河原でみつけたツルツルした小石や花冠、少し大きくなると文房具、最近は財布などの小物や服に手の込んだ料理が添えられる。
だが彼が何よりも嬉しいのは─
「新一、ほら、こんなところで寝てると風邪ひくよ?」
「ん…あ…? あれ? お前いつ来たんだ?」
ソファから身を起こすと目の前に蘭の顔があった。
いつの間にかテレビは消され、部屋中にコーヒーの香りが漂っている。
「今さっきよ。インターフォンを鳴らしても返事がないから出かけたのかと思ったわ」
「出かけるわけねーだろ、今日は俺の誕生日なんだから」
「なんだ、覚えてたの? つまんない。びっくりさせようと思ってたのに」
「当たり前だろ? 自分の誕生日もわからないほどボケちゃいねーよ」
「去年はすっかり忘れてたくせに」
偉そうな新一を軽く睨む。
「そうだっけ? 記憶にねぇなー」
「もう、都合が悪くなるとすぐ忘れたふりをするんだから」
半ば呆れ顔の彼女の腕をクイとひきよせ、新一は強請るように言う。
「なぁ、今年は言ってくれねぇの?」
二人が恋人に昇格して初めての彼の誕生日、蘭が素直な気持ちで口にした言葉と行動は新一を思いの外喜ばせた。
以来、互いの誕生日には欠かせない儀式のようなものになっていたのだ。
蘭は高鳴る自分の心音を意識しながら目を閉じ、彼の頬に顔を寄せる。
「新一、生まれてきてくれてありがとう。大好きよ」
「サンキュ、蘭。俺もこの世でお前に逢えてよかった。愛してる」
遠慮がちに頬に触れてくる甘い香りを受け止めると
彼女を強く抱きしめてお返しとばかりに顔中にいくつもキスをする。
最後に唇に熱いキスをおくり、額を合わせて彼は囁いた。
「お前のその言葉とキスが何よりのプレゼントだよ」
≪終≫
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