サナギ



By 飛香里様



「蘭ねぇちゃん、そんな薄着だと風邪ひくよ?」
『おめー、似合いもしねーのにそんな薄っぺらい服着てるんじゃねーよ。
見てるこっちまで寒くなるだろうが!』
「重そうだね、こっちは僕が持つよ」
『ほら貸しな。よたよた歩きやがって、見てられねーぜ』

いつの間にか彼のセリフの一つ一つをアイツの言葉に変換する癖がついてしまった。
そして気づいた。アイツが私をどんなに大切にしてくれていたか。
あの優しい瞳を見ようともせず、言葉の表面だけをとらえて腹を立てていた私は
なんて幼かったんだろう。
でも今は違う、あの頃の私とは違うんだから!




「つまんない」
リビングのソファで顎に触れる黒髪をもてあそんでいた新一は
腕の中の女性がふと漏らした言葉に眉を寄せた。
「何がだよ?」
「だって新一、元の姿に戻ってからちっとも私に意地悪言わないんだもん」
「は?」
「今度私に意地悪を言ったら、その時はもっと大人の態度をとるって決めてたのに」
口を尖らせる恋人を見下ろして彼は軽く息を吐く。
「あのな、俺だってあの事件で少しは成長したんだよ。
いつまでもガキみたいなこと言ってられるか。
それともお前は意地っ張りで不器用な幼馴染のままの俺の方がいいのかよ?」
「それは…」
「俺は御免だぜ。この世で一番大切な女に素直に愛してるって言えることが
どんなに幸せか知っちまったからな」
「そ、そういうセリフをサラッと言わないでよ、恥ずかしいじゃないっ」
真っ赤になる彼女に新一はクスクスと笑い声をもらした。
「何だよ、大人の態度をとるとか言いながらこんなことで恥ずかしがるのか?
オメーはまだまだガキだな。これからもっと恥ずかしいことするのに…」
「えっ、んんっ」
驚く間もなく深く口付け、そのやわらかな身体を愛しげに撫でていく。
「続きは俺の部屋でな」
甘い吐息がもれ始めたところでソファから彼女を抱き上げ、熱く囁くと
蘭は彼の胸にしがみついたままコクリと頷いた。
これから二人の大人の時間が始まる─

≪終≫

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