前書き

このお話は、2004年サンデー38号のラストのコマから展開した妄想です。
“Love is truth”のmaa様に話を贈ったところ、勿体無くもサイトアップのご要望を頂き、同年8月24日にお披露目を頂きました。
なお、サイトアップにあたり、この話が“無題”だったため名づけをお願いしたところ、maa様より素晴らしいタイトルを頂戴する事ができました。また、今回“みなとみらいエースヘブン”にサイトアップするにあたり、このタイトルを冠してアップする事を快くお許し頂きました。

Maa様に、この場を借りて、厚く御礼申し上げます。

泉 智  拝




















笑顔の理由



by 泉智様(タイトル命名:maa様)



新一へいつものように今日あった事のメールを打った私の手は、送信ボタンを押そうとして止まった。
というのも、不意に服部君の言葉がアタマに甦ってきたから。
いつもちょっとした連休になると大阪から遊びに来る和葉ちゃんと服部君。
初めて会った時は兎も角、大阪で和葉ちゃんと出会ってから服部君と会う機会がある時は大抵和葉ちゃんが一緒だから、服部君は、和葉ちゃんを少なからず好きなんだと思ってた。
些細な口げんかも、新一が居なくなる前の私たちを思い出させて、微笑ましくもあり、羨ましくもあった。
だからかなあ。
今回の事件で服部君がどう見ても「妬いてる」ように見えたとき、もしかしたら、和葉ちゃんはこの機会に上手く行くかもって、直ぐには無理でも何らかの切欠になるかもって思っちゃったんだ。
だから、コナン君が服部君に捕まって何か話し合っていたときの服部君の台詞なんだよね?・・・を言った時、私、期待しちゃったたんだ。
和葉ちゃんの想いが実るんだって。
素直に期待しちゃったんだ。
・・でも、服部君は、あんなにヤキモチを妬いていた・・その気持ちが、「子分」を取られるのが嫌だからって言って・・・。
あれには、なんだか、私まで凄くガッカリした。
あの後、和葉ちゃんは表向きムッとして服部君と喧嘩してたけど。
別れ際には、元気イッパイ、「平次は”子分”なんて言うたけど、アタシ、諦めへんで!」・・・なんて言って笑って大阪に帰っていったけど・・・。
でも、その目はどこか寂しげで切なげに見えて・・。
私、心のどこかで服部君のバカッ!いくらなんでも「子分」なんてあんまりじゃないっ!・・・て思っちゃったんだ。

ついこないだまで「非通知」だった新一が電番を教えてくれて・・・。
私は新一にとって、「ただの幼馴染」じゃないんだ。
・・・一寸だけでも期待して良いのかな・・・そう思えて嬉しかった。
でも、あれから「やっかいな事件」に係わっていて忙しい新一からの電話はない。
折角、新一から掛かってきた時、直ぐに分かるように新一専用の着メロを設定したのにな・・・。

電番を教えてもらえたって事は、いつでも私が新一の携帯に掛けても良いっていうのと同じだって・・・。
新一にそういう一歩親しい間柄なんだ、私はトクベツなんだって言って貰ってる・・・そういう事だって・・・。
園子も、今日、和葉ちゃんも言ってくれたけど・・・。
でも・・・探偵の仕事で・・・やっかいな事件の所為で休学までして調査してる新一に、トクベツな用も無いのに電話は掛けれないよ。

今日だって、折角、新一の声を聞けるチャンスだったのに、服部君に携帯を取られちゃうし・・・。
あ〜あ、私ってトコトンついてないなあ〜。

・・・ふうっ。

はっ!

そういえば、服部君。あんなにヤキモチむき出しにしてたくせに、和葉ちゃんを「子分」よばわりしてたわよね?
まさか、新一に限って・・・とは思うけど。
新一は私をそんな風に見てはいないと思うけど。
・・・でも、新一ってこういう方面にドンカンなところあるし・・・。
私に電番を教えてくれたのは、私が「新一にとってトクベツな女の子だから」じゃなくって「子分だから」なんてことはないわよね?

「推理バカ」つながり

で、まさか新一まで・・・。
・・・まさか、ねえ?

・・・・・。

幸い、メールはまだ送ってないし。
追記でも入れておこうかな。

新一が私を「子分」だと思ってるとは思わないけど。
でも、こんな追記を見たら、ビックリして電話をくれるかも知れない。
それを楽しみに、一寸だけタネを蒔いてみようかな?

いくら電番を教えて貰っても、用も無いのにこっちから掛ける勇気はなかなか出せないんだもん。
服部君に携帯を取られちゃったから、電話を掛ける大義名分をなくしちゃったんだもん。
このぐらいのタネ蒔きぐらい、多めに見てよね?


・・・あv、電話だあっv。
願いが叶って、自然と頬が緩む。
着メロを楽しんで、一寸だけ貴方を焦らす。
あの追記を見て、直ぐに電話をくれたんだよね?
貴方のことだから、ムッとした声でぶっきらぼうにしゃべるんだろうけど。
それでも良いんだ。
だって、それでも貴方の声が聞きたいんだから。


ねえ?事件事件でどこかをほっつき歩いている探偵さん?



  ☆☆☆



ブブブ・・・。

バイブにしてある携帯が「着信」を告げる。

ピ・ピ・ピ・。

送信者は予想通り、「蘭」だ。

事件があった時は必ず。
そうじゃなくても、さり気ない日常のアレコレを時折メールで送ってくれる。
コナンとして、アイツの周りで起こるアレコレはちゃんと知ってる。
でも、アイツから「オレ」に送られてくるメールは「アイツとオレだけのもの」。
アイツのメールを読むこのひと時、オレはコナンから新一に戻る。

今日は・・・予想通り、事件遭遇!のメールだ。

オレもその場に居たんだから内容は十二分に分かっているが、蘭の視点をかみ締めたくて、キチンとメールを読む。

ふ〜む。
蘭のヤツ、とりあえず、服部の「子分」発言には触れてね〜な。
あの後、大阪に帰る和葉ちゃんに付添って気遣わしげな顔をしてたのに。

・・・。

そのまま画面をスクロールしていって、オレの手は固まった。

はああああっ?!
だからどういう脈絡でオレがお前を「子分扱いしてるかもしれねー」ってなるんだよっ!
くっそ〜っ!服部のヤツ!とんだとばっちり喰らわせやがってっ!

〜〜〜#

アタマを抱えたオレは、おっちゃんが爆睡してるのを確認すると、蘭が部屋に引っ込んでリビングにいないことも確認して、そっと「家」を抜け出し事務所に下りた。
蘭に電話をするのにおっちゃんのイビキをBGMにしたら、イッパツでオレ(コナン)=新一ってバレちまうからな。

・・・。

窓から入る街の灯りを頼りに携帯の番号を押す。
一番指が覚えている電番を。
そして、アイツの声を待つ。

・・・。

もしかして、もう寝たのか?
コール音が長くて、一寸焦れる。
今日はもう遅いし無理かと諦めかけたその時、心待ちにしていたアイツの声が響いてきた。


『新一?』
「・・悪リィ。寝てたか?」
『ううん。どうして?』
「あ・・イヤ。お前、出るまでに結構掛かったからさ。」
『そっか、ゴメンね。今から寝ようかと思ってたところだったから。』
「そっか。邪魔したな。・・良いのか?」
『良いよ、別に。それよりどうしたの?新一。』
「どうしたの?って・・・それはコッチの台詞。何の話だよ。あの”追記”の”子分”って。」
『・・・それは・・・。服部君が和葉ちゃんに言ったのよ。”和葉ちゃんが他の男の人と親しく接してるのを見てるとイライラする。その理由は、服部君が和葉ちゃんを子分だと思ってるからだ”って。』
「・・・はあっ?!マジかよ。」
『うん。和葉ちゃんを、選りにもよって”子分”だなんて、いくらなんでも酷すぎるよ。新一だってそう思うよね?!』
「あ、ああ。」
『どう考えたって、あれはヤキモチにしか見えないのに・・・。』

電話の向こうでなおもブツブツ言う蘭にオレは逆らわず、相槌を打ちつつ、”追記”の真意を探ろうとした。
でも、その糸口がどうしても掴めなくて。

「・・・なあ、蘭。服部の言い草が酷いのはオレもそう思うけどさ。でも、それがどうして”オレがお前をそう思ってる”に繋がるんだ?」

切り出した一言は、まさにヤブヘビになってしまった。

『!・・・だって・・・。新一も服部君も大バカ推理之介なんだもん。』
「・・・・・はあっ?!」
『だって、服部君。和葉ちゃんと一緒に東京に来るし、それ以外の・・沖縄にも誘ってるんだよ?それだけいつも一緒に居て、今日みたいにヤキモチを妬く事もあって、それなのに・・・それなのに和葉ちゃんを”子分”って言ったんだよ?!・・・だったら、新一も・・・もしかしてって・・・思えちゃって・・・。』
「オイオイ・・・。」
『私に携帯の番号を教えてくれたのも、服部君が言うように、他の誰かに子分を取られたく無いからかな・・って・・・。』

は〜〜〜っとりぃ〜〜〜っ###!

全くもって、とんだとばっちりだ。
流石に今回ばかりは。
オレは心底、大阪の色黒ドンカンオトコを恨んだ。

「バーロ、何言ってんだよ!オレはそんなつもりでお前に電番を教えたんじゃねえっ!」
『!・・・だ、だったら、どういうつもりで私に電番を教えてくれたのよっ!私は・・・私は新一にとっての何なのよっ!』



この蘭の最後の一言でオレは、蘭がマジで”オレが蘭を子分扱いしてる”とは思ってはいない。ただ・・・ただの幼馴染なのか、それ以上なのか、不安なんだと・・・察することができた。

勿論、答えは決まってる。

幼馴染以上だ。
お前を唯一の女だと思ってる。
お前の唯一の男になりたいと思ってる。
ずっと離れずお前の傍に居て、その綺麗な笑顔を、お前の全てを、未来永劫、独り占めしたいと思ってる。

・・・でも、ソレは、今はまだ言えない。

まだ「やっかいな事件」は終わってない。
氷山の頂点のようなほんの一点の取っ掛かりと思われるものしか掴めてない。

この身体はまだコナンのまま。
”新一”じゃない。

この声だって機械越し。
オレの声であって、オレの声じゃない。

でも。

受話器から響く、蘭の切なげで深刻そうな声に。
オレの口からは、自然と想いが溢れ出た。

「・・・バーロ。”子分”としか思ってねえヤツなんかに電番を教えるかよ。今のオレは日常を捨ててまで、厄介な事件を追っかけている身なんだぜ?」
『クスッ。・・・そうね。学校を休学してるくらいだもんね。』
「バーロ。まぜっかえすなよ。」
『ゴメンゴメン。・・・で?』
「・・・それでだ。そんな厄介な事件に係わっているオレがわざわざ、連絡先を教える。・・・それがどういう事か分かるか?」
『え?!それは・・・。』
「それは・・・お前が・・・オレにとって・・・。」

ここでオレは一拍おいた。
受話器の向こうの蘭も緊張しているのが分かる。
そんな蘭の様子を想像して、ふと温かな気持ちになったオレは、瞼の裏に蘭の笑顔を思い浮かべながら言葉を続けた。

「オレにとって、連絡先を教えても構わないっつうか・・・ホントはサッサと教えたかった相手だから・・だよ。」
『えっ?!それってどういう・・!』
「・・・あとは自分でじっくり考えろ。兎に角、オレはお前を”子分”だなんてこれっぽっちも思ってねえかんな。勝手に服部の言い草を深読みしてオレとアイツを同じにすんな。じゃあな!」
『あ、ちょっ・・新一っ!』

切った携帯を見ながらオレは、今更ながらに自分の台詞が結構際どい発言だった事に気がついて、一人頬を染めていた。

同じ頃、階上では、蘭が切れた携帯を見ながら同じく頬を染めていて。

「ばか・・・。」

綺麗な笑顔で嬉しそうに微笑んでいたのも知らずに。









翌朝。

蘭は至極ご機嫌な笑顔で朝の仕度をしていた。

「なんだあ〜?蘭。朝っぱらからえらく機嫌が良いじゃねえか。・・・まさかあの坊主から電話でもあったのかぁ〜?」
「ふふっ、一寸ね〜v。」
「・・・ケッ。」

たちどころに不機嫌になるおっちゃんを横目にしながら食卓についたオレは、蘭の笑顔でとりあえず「服部発」の誤解が解け、朝から蘭の笑顔を見れた事に満足していた。

蘭の笑顔の本当の理由が、

目論見どおり、オレからの電話があった

という事にあるとも知らないで。




FIN…….







後書き

“私も子分だって思ってるの?!”という趣旨の蘭ちゃんの追記文からの妄想です。
肝心のメール本文がどう書かれているか分からないので何とも言えませんが、この追記文に新一は頭が痛くなったでしょうね(苦笑)。それこそ速攻で“な、何じゃあ、こりゃあ〜っ!(←松田優作氏風で/笑)”と電話を入れてしまいたくなるくらいに。

申し訳ないことに私は新蘭・激ラブ派なので、哀れ“子分扱い”されてしまった和葉ちゃんの心情を補完するような話(あるいは、嫉妬という感情を“子分”という凄い表現でケリをつけてもうた平次の話)はどうにも妄想できませんでした。・・・誰か、書いてくれないかなあ〜(オイ!)。

こんな話ですが、皆様に楽しんでいただければ幸いです。


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