BIRTHDAY




By かれん様




最近、季節は初夏に近づき
朝日が昇る時間は、暑くもなく寒くもなく
過ごしやすくなった。



不規則な仕事柄、なかなか君と
過ごす時間がない。

そんなオレを何も言わずに
支えてくれている君がオレには
何にも代え難い宝物。



そうだな。
今日は君とゆっくり過ごしたいな。



少しでも長く君と居たいから、
珍しく早起きをしたオレを、君は
きょとんとした顔で驚いていた。

んなに、驚くなよ。
ただ寄り添っていたいんだよ。

君が淹れてくれた濃いめの
コーヒーを口に運びながら
朝から忙しなく動く君の姿を
眺めていた。



それに気付いた君は
恥ずかしそうに、柔らかく
微笑んでくれた。



「なぁ、蘭。これから土手まで
散歩に行かねぇか?」



「うん、これが終わったらね」
用意するから、待っててね。



そう言って、
最後のシーツを干している。


あまり無茶するなよ。
お前ひとりの体じゃねぇんだ。


オレは蘭の背後に回り、彼女の
めいいっぱい伸ばした腕を
掴んで、代わりにシーツを干した。


今日は最高な洗濯日和だな。





「ありがとね」


蘭は、振り返り際
やんわり微笑んで言った。

そんな仕草が。
君は何も変わっていない。

全てを包み込むような優しさも、
強さも、その笑顔も何もかもが。

いつものままで。
オレの側にいてくれる。

オレの側にいることを
選んでくれた。


堪らなくなったオレは、
思わず蘭を強く抱き締めていた。


「新一、苦しいよ」

「ああっ、わりぃ」

オレは窮屈そうな蘭の声音を聞いて
慌てて身を引く。

蘭は、そんなオレを見て
可笑しかったのか、肩をおもいっきり
振るわせながら笑っている。



オレは蘭の笑顔が何よりも
いちばん大好きなんだ。


お前がずっと笑って居てくれるなら
オレは何だって出来るかも知れない。





オレの右手と、蘭の左手。

繋いだ手に、隙間が無いほど
しっかりと指と指を絡めて握った。


「こうやって、二人で歩くのも
あともう少しだけね」

「そうだな」

「楽しみだな、早く会いたいよ」



あともう少しで、オレ達には
二人にとって掛替えのない
宝物が生まれてくる。



「名前、考えなくちゃね」

「そろそろ、本腰いれねぇーとな」

「男の子ならカッコイイ名前ね、
女の子ならカワイイ名前がいいよ」

「難しい注文だな」

「頑張って考えてね、名探偵さん」



そう言って蘭は空いていた右腕を
オレの腰にそっと添えた。





土手に着き、先に腰を下ろした
蘭が自分の膝をぽんぽんと叩いて
催促をする。

オレの頭を乗っけろって言うのか?

少し躊躇ったオレを見て
蘭は、

「大丈夫よ、これくらい何ともないから」

と、オレの腕を引っ張った。
オレはされるがまま
そおーっと、膝に頭を乗せる。

何とか頭に力を入れないよう、
蘭に負担を掛けまいと試みるが。

蘭のホッソリとした柔らかい指が、
オレの髪の毛を梳くように撫でるから。

あまりの心地よさにオレの頭は
すっかり落ち着いてしまった。

ほんと、オメェには敵わねぇよ。

「大丈夫か?蘭?」
オレは蘭を見上げた。

その時、オレの瞳に飛び込んできた蘭の
微笑みに、暫し魅とれたオレの心臓は
どきりと跳ね上がった。



オレだけの笑顔も。
いくつもある蘭の笑顔が。
あともう少しで、またひとつ
増えるんだな。




「あっ、動いた!」

突然、蘭は
素っ頓狂な声を上げた。

蘭はオレの頭を器用に
その感覚を追うようにお腹に
持っていく。


「ね?わかる?」

「・・・そうだなぁ」

オレは、両腕を蘭の腰に廻して
抱き抱え、耳を寄せて全神経を
お腹に集中させた。



そこから聴こえる、不思議な音と。
蘭の鼓動と、伝わる優しい体温が。

オレをもう一度、夢見まで
連れていかれそうになった。

柔らかな風が頬を撫でて吹き、
併せて蘭の髪の毛が揺れて
オレの頬を擽る。




遠くの方で蘭の声が聞こえた。

「暫くこのまま眠ってていいよ」

優しい蘭の囁く声音が風に乗って
オレの耳に届く。

髪を撫でていてくれるリズムが
更に追い打ちをかけて、オレは
とうとう睡魔に負けてしまった。





在り来たりなんだろうけれど。


本当の幸せってのは、
こういうことなんだろうな。



この頃、同じような夢を
よく見るようになった。


オレと蘭と、これから生まれてくる
子供と3人で過ごす暖かな日常。
愛おしい人が側にいてくれる
そんな幸せな日々がある。


あと数日でオレ達のバースデイ
が待っているんだ。









Fin…….




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