P r e s e n t



by kirapipi様



「へーえ、じゃあ今日はずっと一緒にいてくれるって約束だったわけ?」
「うん、まあ・・・」
「じゃあ、もうちょっと怒っても良いんじゃないのお?」

園子が呆れたように言うと、蘭は苦笑いした。

「うん、でも・・・放課後までには絶対に戻るって言ってたから」

今日はホワイトデーだ。
半分予想はしていたものの、朝、新一から電話がかかってきたときにはやっぱり溜息をついてしまった。

「わりい、蘭。放課後までにはゼッテー戻るから」
「ハイハイ。期待しないで待ってるわよ」
「バーロー、失礼な言い方すんな。俺は約束は守る!」

との新一の言葉に、蘭は呆れてまた溜息をついた。

―――その“俺”が、何回約束破ったと思ってるのかしら・・・。

「ほんっとあんたはあやつに甘いわね。そんなことだからあやつも懲りずに事件ばっかり追っかけてっちゃうんじゃないの?」
「かもね。・・・でも、園子だって人のこと言えないでしょ?」
「な、何よ、わたしは別に・・・」
「わたしといるときは強気なこと言ってるけど、京極さんには強く言えないくせに」

蘭の言葉に、園子はうっと詰まる。

「・・・はァ・・・・わたしたちって、かなりかわいそうよねえ」

溜息をつく園子に、蘭はクスクスと笑い

「でも、信じてるんでしょう?―――わたしも、信じてるよ」
「蘭・・・」
「だから、待ってられる・・・。結構幸せなことなのかもって、最近思うんだ」

照れくさそうに、ぺろっと舌を出して笑う蘭に、園子は一瞬見惚れた。

「あやつは幸せものね」
「京極さんだって、幸せだと思うよ?」

にっこりと笑う蘭に、園子は頬を染めるのだった・・・。



  ☆☆☆



「悪いねえ、工藤君、学校があるのに・・・」

目暮警部がいささか申し訳なさそうに頭を掻く。

「いや、かまいませんよ。で、状況は?」

新一は、早速事件を解決すべく捜査を始めた。

―――今日は、約束破るわけにはいかねえんだ。みてろよ、速攻で解決してやっから。

ぐっと拳を握る新一。

「・・・工藤君は、今日何かあるのかね・・・」
「警部、今日はホワイトデーですから、きっと蘭さんと・・・」
「なるほど・・・。今日の犯人は運が悪かったなあ」
「そうですね・・・」

凄まじいほどの気迫をみなぎらせている新一を見て、目暮警部と高木刑事はこそこそと話し合っていたのだった・・・。



  ☆☆☆



「毛利さん、これ、受け取ってくれないかな」
「え、あの・・・」

目の前に差し出された小さな箱。
蘭は戸惑って相手の顔を見た。

「ホワイトデーだからさ・・・」
「でも、わたし・・・」
「と、とにかくこれ、受け取って!」

と言うと、その男子生徒は蘭の手に無理やり箱を押し付けると、さっさと走り去っていってしまった。

「あ!!まって、あの・・・」

蘭が呼び止めても無駄だった。
蘭は、渡された箱を見て、溜息をついた。

「ら〜ん」

後ろからひょいと顔を出したのは園子。

「あらら、やっぱり。これで3人目ね」

と、蘭の手にある箱を見て言った。

「どうしよう、これ・・・」
「まさか、こういう事になるとはね〜。新一君がしょっちゅういないから、きっと今日もそれを狙って来てたのね、みんな」
「園子ォ〜」
「泣き言を言うのは早いわよ、蘭」

困り顔の蘭を見て、園子がにやりと笑う。

「え?」
「教室、戻ろう。あんたの机の上、すごいことになってるんだから」

なぜか楽しそうな園子に連れられて、教室に戻る蘭。


そして―――



「これ・・・」
「ね、すごいでしょう?」

蘭は、呆然として、言葉が出てこなかった。
蘭の机の上には、たくさんの小さな袋や包みが積み重ねられていたのだ。

「あんたがさっきの人に呼び出されていっちゃってから来る人来る人、みんなここに置いてっちゃったのよ」
「・・・・」
「たぶん、下駄箱も同じような状況じゃない?」

ホワイトデーはバレンタインデーのお返しをする日。
ということではなかったのか?と言いたくなるが、普段新一のガードが固くて普通に話すこともままならない男どもが、このときとばかりに蘭に想いを伝えようと行動を起こしたのだろう。
幸い今日は、新一がいない。
このチャンスを逃す手はない、というわけだ。

「蘭、どうするの?」
「どうするって・・・」
「このことを新一君が知ったら、きっと大激怒よ?」
「え・・・」
「絶対一人一人の首根っこ捕まえて、脅し文句の1つや2つお見舞いするに決まってるわよ」
「ま、まさか〜・・・」
「あ・ま・い!あやつはそのくらいあんたに執着してるんだから!放課後までに、ばれないように処分する方法考えないと」
「処分って言ったって・・・」

まさか、校内のごみ箱に捨てるわけにはいかない。
くれた人に見つかったら大変だし、何より蘭の性格上、人に貰ったものを捨てるなどということはできるわけがなかった。

「どっかに隠しておいて、少しずつ持って帰るとか・・・」

園子は顎に手を当て、いろいろ考えている。
蘭の為、というのももちろん本心だろうが、半分くらいはこの状況を面白がっているようだった。

「あ、そうだ。あんたが持ってなきゃいいのよ。ね、ここは一旦わたしが持って帰るわよ。で、後日蘭の家まで届けてあげる。それならばれないんじゃない?」
「でも、これだけあると重そうだよ?いいの?」
「もちろん迎えにきてもらうわよ。この園子様に任せなさいって!ね?」

いたずらっぽくウィンクする園子に、蘭も思わず笑みをこぼす。

「ありがと、園子」

その後園子はどこからか大きな紙袋を調達してきて、蘭の机の上にあったプレゼントの山を袋に入れ
た。

「さ、後は下駄箱ね。まだお昼休み、時間あるし。どうにかなりそうね」
「うん」

2人は、早速玄関に向かった。



  ☆☆☆



「あるある、やっぱりね」

蘭の下駄箱の中には、やはり小さな包みがぎゅうぎゅうに詰められていた。

「じゃ、早速・・・」

と、園子がそれらを袋に入れようと手を伸ばしたとき・・・

さっと、横から手が出てきたかと思うと、中に入っていた包みを1つ取ってしまった。

「!ちょっと、何する―――」

抗議しようと振り向いた園子の動きが止まる。

「なんだ?これ」

思いっきり不機嫌そうな細い目でそれを眺める男・・・。

「し・・・新一・・・君」

園子の顔色が、さ―っと青くなる。

「し、新一!もう事件、終わったの?」

蘭は、今の状況も忘れて、目を見開いて新一を見ている。

「ああ、あんなもん、速攻だよ。―――で?なんだよ、これ?」

と言われ、はっとして園子を見る。

「え、えーと・・・」
「あ、あのさ、そう!空手部の人たちよ!きっと後輩たちが普段お世話になってるお礼に、何かプレゼントを置いてったのよ!ね、蘭」
「う、うん」
「ふ〜〜〜ん、そんなにたくさん?」
「け、結構いっぱいいるのよ、空手部って」
「じゃ、それは?」

ちらりと新一が視線を投げたのは、園子が持っている紙袋。

「こ、これはわたしのよ!ほら、わたしバレンタインデーのとき、義理チョコ配りまくったからさ、そのお礼を貰ったのよ」

冷や汗をかきつつ必死に説得しようとする園子をちろりと睨み、新一はその袋に手を伸ばすとあっという間に中の1つを手にとった。

「あ!ちょ、ちょっと新一君!」

あせって奪い返そうとする園子をさっとかわし・・・

「これ、毛利蘭様って書いてあるけど?」
「へ?あ、そ、そう?名前間違えたのかしらねえ、あはは・・・」
「・・・・・・・・蘭」
「は、はい?」

新一の低い声に、思わずビクッと反応する蘭。

「屋上、行こうぜ」

にっこりと、しかし有無を言わせぬ笑顔で蘭に迫る新一。

「で、でも授業が・・・」
「大丈夫だよ、すぐ終わるからよ」

ぐいっと腕をつかまれ、その強さに抵抗しても無駄なことを悟った蘭は、視線だけで園子と会話を交わし、黙って新一に連れられて行ってしまったのだった・・・。

「あ〜あ・・・一番見られちゃいけない人に見られちゃったわね・・・。無事を祈るわ、蘭・・・」

そう言って大きな溜息をついた園子は。もう、今日は2人が授業に出ないであろうことを確信したのだった・・・。



  ☆☆☆



「ったく、俺に隠し事をしようなんて考えんじゃねえよ」

屋上に行った新一は、蘭に背を向けたままそう言い放った。

「ご、ごめん・・・」

蘭は他に言うことが見つからず、新一の背中を見つめた。

「・・・いやな予感はしてたんだよ。なんか回りの男どもの雰囲気がおかしいっつ―か・・・」
「え?そうなの?」
「ああ。あいつらのおめえを見る目がな、なんか企んでそうで・・・だから今日はゼッテーおめえから離れねえようにしようと思ってたのによ・・・。まあ、事件って聞いて飛んでっちまう俺も俺なんだけどさ・・・」

頭を掻きながら最後の台詞をぼそぼそと言う新一を見て、蘭はちょっと安心したように微笑み、新一の背中におでこをくっつけた。

「ごめんね、新一・・・」

新一は、くるりと向き直ると、蘭を優しく抱きしめた。

「俺のほうこそ、ごめん。今日はずっと一緒にいるって約束だったのに・・・」
「ううん。来てくれただけで嬉しいから」

蘭の言葉に、新一は腕の力を強めた。

その時、午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。

「あ・・・教室、戻らなきゃ」

と言って離れようとした蘭の腕を、新一がぐいっと引っ張り再び抱き寄せる。

「きゃっ、ちょっと新一―――」
「もうどうぜ間に合わねえんだし。サボっちまおうぜ」
「ええ!?で、でも・・・」

驚いて顔を上げた蘭の唇を、新一のそれが素早く塞ぐ。

「!!」

驚く蘭の顔を両手で包み込み、その甘い唇を味わう。


漸く唇を解放されたときには、蘭の瞳は潤み、頬は上気し唇は濡れて光っていた。
そんな蘭の艶っぽい表情に見惚れる新一。

「それとも、あの下駄箱とか、袋に入ってたものを本人たちに返しにでも行く?」
「それは・・・」

蘭は困ったように眉を寄せた。
新一は、不敵な笑みを浮かべて、蘭を見つめている。

「もう・・・ずるいんだから」
「今日は、もうずっと2人きりでいたい」

そっと耳元で囁き抱きしめる新一に、蘭も何も言えなくなり、されるがままになっている。

「いろいろ、考えたんだ。ホワイトデーに、蘭に何あげるか」
「そんなの・・・」
「蘭は、いつもそう言うだろ?でも、俺は何かしたい。蘭のために何かしたいんだ」
「新一・・・」
「だから、今日は蘭の好きな店行って、蘭の好きなもの買って、蘭の好きなもの食べに行って・・・。全部、蘭にプレゼントしたい・・・。そうさせてくれないか?」
「でも・・・いいの?」
「言ったろ?俺がそうしたいんだ。な?」

とろけそうな新一の笑みに、蘭は思わず見惚れながらこくんと頷いた。

「よし、決まり!でもその前に・・・」
「え?」

不思議そうに新一を見上げた蘭の唇を、新一のそれが再び塞いだ。

「!!」
「もうちょっと、ここにいようか」

いたずらっ子のようにウィンクをして微笑む新一に、呆れながらもその体を預け、新一のぬくもりを感じる蘭だった・・・。




Fin…….







作者後書き


もてる蘭ちゃんを書きたかったんですけどね。
どうでしょうか・・・。
予想外に難しいホワイトデー企画。
来年は作品数を減らそうかなあと考えてます。
それでも喜んでくださる方がいれば嬉しいvvです♪
それでは♪


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