俺だけの天使
by kirapipi様
「蘭、どこに行きたい?」
「トロピカルランド!!」
ホワイトデー前日。
新一の質問に嬉々として答える蘭。
「え?けどあそこは・・・」
蘭が謎の組織の男に毒薬を飲まされ、体が小さくなってしまった場所。
蘭にとっては恐怖の記憶が残る場所だろう。
「だって、ずっと行ってないでしょう?たまには行きたいなあと思って」
新一の心配をよそに、蘭が微笑む。
「大丈夫。今度は新一から離れたりしないから」
にっこりと笑う蘭に、新一もつられて微笑む。
「分かった。じゃあ、明日はそこに決まりな」
そして当日。
赤いワンピースの上に真っ白なケープを羽織った蘭。
お揃いの真っ白な帽子がとてもかわいらしく、まるで天使のように新一の目には映った。
「蘭、それすげえ可愛いな」
「ほんと?えへへ。お母さんが買ってくれたの。今日のこと話したら、だったらめいいっぱいおしゃれしなきゃねって」
にこにこと嬉しそうに話す蘭。
新一も優しい笑みを浮かべ、2人はトロピカルランドの中を歩いた。
傍から見たら、きっと仲のいい兄弟のように見えることだろう。
「次、何に乗りたい?」
「え〜とね・・・じゃ、あれが良いな」
といって蘭が指差したのは象の乗物に乗って空を飛ぶというもの。
ちょっと子供っぽい気もするが・・・
「あれかァ?」
新一がちょっと呆れたように言ったので、一瞬蘭が悲しそうな顔をする。
「だめ・・・?」
潤んだ瞳で見上げられ、新一ははっとする。
「だ、だめじゃねえよ。良いよ、あれに乗ろう」
「うん!」
蘭の手をひき、それに乗り込むべく入り口に向かう。
「はい、お2人様ですね〜。どうぞ〜♪」
係員の女の子の笑顔に迎えられ、象の乗り物に向かう新一と蘭。
と、後ろから女の子が、
「あ、すいません、お帽子のほうは外してくださいね〜、飛んでいってしまいますので♪」
と言ったので、蘭は慌てて帽子を脱いだ。
「あ、はい」
その様子がとてもかわいらしかったので、その女の子もくすくすと笑い、
「可愛いですね〜vv楽しんできてね♪」
と言って、蘭に手を振った。
「・・・・・わたしって、完全に子供と思われてるのかな?」
と、ちょっと複雑な表情で言う蘭に、新一はくすくすと笑い、
「ああ、完璧な子供だよ。いいじゃねえか、そう思われなかったら困るんだしさ」
と言った。
「うん、そうだね」
「で、どれに乗る?」
象の乗り物はそれぞれ着ている服の色が違うのだ。
「えっとね、あ、あの赤い象さんがいいな」
「んじゃ、あれに乗ろう」
2人は赤い服の象に乗り込んだ。
暫くするとベルが鳴り響き、ゆっくりと象が動き出した。
徐々に高度が上がり、回るスピードが速くなっていく。
「蘭、だいじょぶか?ちゃんとつかまってろよ?」
心配そうに声をかける新一に、にっこりと笑う蘭。
「大丈夫!これ、気持ちいいね!」
風邪に髪をなびかせ、微笑む蘭がとても可愛くて、新一の胸の鼓動が早くなる。
「蘭・・・」
「え?」
新一の声に振り向いた蘭の頬に、新一がすばやくキスをした。
途端に真っ赤になる蘭。
「し、しんいちい〜〜〜〜」
「ほら、前向いてろよ。終わっちまうぜ」
高度をあげたり下げたりしながら、結構なスピードで回転していた乗り物が、徐々に速度を落とし、高度を下げていった。
暫くして、ゆっくりと止まったそれから乗っていた人たちが降りてくる。
新一と蘭も手を繋ぎながら、係員の女の子に手を振りつつ、その場を後にした。
「蘭、楽しかったか?」
「うん、とっても!次、どれに乗ろうかなあ」
楽しそうに歩く蘭に見惚れていた新一だが・・・
「ん?おめえ、あの帽子は?」
「え?帽子ならここに・・・」
と言ってバッグを開けようとしていた蘭の手が止まった。
「あ!わたし、乗り物に乗ったとき、自分の背中のほうに置いたんだ!やだ、忘れてきちゃったよ」
「ここで待ってろ!俺がとってきてやるから」
そう言うと、新一はさっと身を翻して、今来た道を戻って行った。
蘭は、じっとそこに立っていたのだが・・・
「きゃっ」
横から、突然女の人がぶつかってきて、思わずしりもちをつく。
「あ!ごめんなさい!ごめんね、大丈夫?」
女の人は、慌てて蘭を助け起こしてくれる。
「ごめんね、怪我はない?急いでたものだから、よく見てなくって・・・」
青い服を着た、髪の短い綺麗な女の人だった。
心配そうに蘭の顔を覗き込むその人に、蘭はにっこり笑って見せた。
「大丈夫です」
「ほんと?よかった・・・。ほんとごめんなさいね、じゃあ・・・」
女の人が、また走っていってしまうのを蘭は見送っていたが・・・
「あれ?」
ふと、足元を見るとキーホルダーのついた鍵がひとつ、そこに落ちていた。
「これ・・・もしかして、あの人の・・・?」
ぶつかったときにでも落としたのだろう。
蘭は、女の人を呼び止めようと顔をあげたが・・・そこに
はすでに、その人の姿はなかった。
「もういない・・・。どうしよう。新一も戻ってこないし・・・。でも、きっとそんな遠くには行ってないよね。すぐに戻ってくれば・・・」
そう言うと、蘭は女の人が走り去ったほうへ駆け出した。
☆☆☆
その頃新一は・・・
「すいません、さっきそれに乗ったんですけど、帽子を忘れてきてしまって・・・」
と、係りの男に人に声をかけた。
「は?忘れ物ですか?ちょっと待ってくださいね」
一度中に入り、再び出てきた係員。
「え―と、どんな感じの帽子ですか?」
「白いやつです。丸くて、ふわふわした・・・」
「名前とか、書いてありますか?」
「いや・・・たぶん書いてないです」
「では、どの色の象に忘れたか覚えてますか?」
「え―と、たしか・・・赤いやつです」
「ちょっと待っててください」
と言って、係員はまた中に入っていってしまった。
新一は、係員が出てくるのをイライラと待っていた。
―――早くしろよなあ、蘭を待たせてるんだから・・・
「あら、どうしたんですか?」
と、さっきの女の子の係員が新一に気付いて声をかけた。
「ちょっと、帽子を忘れてしまって・・・」
「あ、そうなんですか。あのお帽子可愛いですよね。お揃いのケープもとっても可愛くって、まるで天使みたいでしたよ?」
「はあ」
「ご兄弟で遊びに来るなんて、仲が良いんですね」
「・・・兄弟じゃないですよ」
「え?そうなんですか?」
女の子が不思議そうに言った所へ、さっきの男の係員が、蘭の帽子を手にやってきた。
「お待たせしてすいません。こちらでよろしいですか?」
「はい、それです。ありがとうございました」
新一はそれを受け取るとさっさとその場を後にし、蘭の元へと急いだ。
☆☆☆
その頃蘭は・・・
「あ、あれ?どこ行っちゃったんだろう・・・?」
あの女の人の後を追って駆け出したものの、その姿は見つからず、きょろきょろとあたりを見回した。
「お嬢ちゃんどうしたの?お母さんとはぐれちゃった?」
近くにいた、ここの従業員らしい女の子がにこにこと聞いてくる。
「あの、青い服を着た、髪の短い女の人を探してるんですけど、見ませんでした?」
「青い服?う〜ん・・・、あ、そういえばさっき青い服を着た綺麗な人が向こうへ走っていくのを見たけど・・・あ、ちょっと?」
女の子が止める間もなく蘭は駆け出していた。
―――早く、これを渡して戻んなきゃ!新一が心配しちゃう・・・
蘭は、あの女の人の姿を探して、必死に走っていったのだった・・・。
☆☆☆
「あれ?蘭?」
蘭がいた場所へ戻った新一は、その場に蘭がいないのを見ると、顔を顰めた。
「どこいったんだ?あいつ・・・」
トイレにでも行ったのかと思い、暫くそこで待っていたが、一向に戻ってくる気配がない。
痺れを切らした新一は、近くの売店に行くと、そこにいた男女の店員に声をかけた。
「すいません、そこにいた白いケープを着た6歳くらいの女の子、どこに行ったか分かりませんか?」
すると男の店員のほうは首を捻り、
「ケープゥ?・・・って?」
と言った。
と、隣にいた女の子が、
「マントみたいなやつよ。ほら、あの子じゃない?武田君が“あの子すげえ可愛いなあ”って言ってたじゃない。“10年後が楽しみだ”とか言って鼻の下伸ばしてた・・・」
「だ、誰が鼻の下・・・ああ、あの子かァ。可愛かったよなあ、あの子」
と、思い出したのかその武田と呼ばれた男がにやけながら言う。
新一はイライラしながらその男を軽く睨み、
「で、その子はどこに!?」
と聞いた。
「え―と・・・確か、女の人とぶつかったよねえ?」
「ああ、あの人もきれいだったなあ」
「もう、武田君そればっかり。で、その人が行っちゃってから・・・ちょっとしてあの子もどっか行っちゃったのよね」
「うん。なんか拾ってたんだよなあ、あの子。どこ行ったかはわかんねえけど、あの女の人のこと追っかけていったみたいだったけど」
「どっちへ?」
「あっちのほうですよ」
新一は、その女の子の指差したほうへと駆け出した。
―――ったく、蘭のやつ・・・。おそらくその女の人が落とした何かを届けようとして追いかけていったんだろうけど・・・。俺から離れないって言ってたのによお・・・。
とにかく探すしかない。蘭は方向音痴だ。無事にその女の人に追いついて拾った何かを渡せたとしても今度は元いたところに戻れるかどうか、怪しいものだった。としたら新一のほうで探したほうが早いだろう。そう思って探していたのだが・・・
☆☆☆
「あの!」
蘭は、必死になってその人に声をかけた。
「え?」
青い服を着た、髪の短い女性が振り向く。
「あら、あなたさっきの・・・どうしたの?」
蘭は、走って来たせいで乱れていた呼吸を整えながら、言葉を紡いだ。
「あの、これ・・・お、落としませんでした、か?・・・」
「え・・・あ!これ、わたしの鍵だわ!やだ、いつ落としたのかしら」
「さっき・・・わたしとぶつかったとき、だと思います」
「まあ・・・じゃあ、あなたわたしを追いかけてきてくれたの?そんなに息切らして・・・ごめんなさいね、わたしも急いでたから気付かなくて・・・」
と、その女性はすまなそうに蘭の目線に合わせて屈むと、そう言った。
「きみ、大丈夫?ごめんな。俺が彼女との約束の場所、間違えちゃったもんだから、彼女にメールして、急いで来てくれるように言ったんだよ。何しろこの中、何がなんだかさっぱりで・・・」
「ホント、方向音痴なんだから」
女の人が、隣にいた男の人を軽く睨む。
蘭は、彼女がこの男の人と立ち話しているのを見つけ、漸く声をかけることが出来たのだ。
「わるかったよ」
ちょっとばつが悪そうに頭を掻くその姿がなんとなく憎めなくて、蘭はちょっと笑った。
「本当にありがとう。ね、ところで1人で来たの?お父さんとお母さんは?」
という女の人の言葉に、蘭ははっとする。
「あ・・・だ、大丈夫です。今から戻れば」
「平気かい?なんだったら送っていくよ?」
男の人も心配そうに言う。
蘭は首を横に振り、にっこり笑うと、
「ほんとに、大丈夫です。鍵、渡せて良かったです。じゃあ」
と言って、くるりと後ろを向き、駆け出した。
残された2人は暫しその後姿を見つめていた。
「しっかりした女の子ねえ」
「ああ。そうだな、それに可愛いし」
「あら・・・聞き捨てならないわね。ひょっとしてあの子に一目惚れ?」
「ば、馬鹿言うなよ、まだ子供だぜ?あの子」
「でも、10年後にはすごい美人になってるかもよ?」
「おい・・・」
「ふふ、冗談よ。でも、ほんと可愛い子だったわね。お礼に何かしてあげたかったけど・・・何か急いでるみたいだったわよね・・・」
☆☆☆
「どうしよう・・・もとの場所がわかんないよ・・・」
あのカップルからは目の届かないところまで走ってきた蘭だったが、ふと立ち止まり途方に暮れていた。
来た道を戻っているつもりだったのに・・・。
蘭は、まるで知らない場所に出ていた。
―――トロピカルランドの中にこんな場所あったっけ・・・?
いくら方向音痴とはいえ・・・まさか遊園地の中で迷子になるなんて。
さすがに本当は高校生である蘭が、迷子の呼び出しをしてもらうと言うのは恥ずかしすぎて出来なかった。
―――どうしよう・・・。新一から離れないって、約束したのに・・・。新一、怒ってるかな・・・。
蘭の瞳に、涙が溢れてきた。
―――泣いちゃだめ!こんな所で泣いてたら、きっと迷子だと思われて連れてかれちゃう・・・。
実際迷子になっているのだが・・・。
蘭はきゅっと唇をかみ締めると涙を堪えるように首を振った。
と、そこへ・・・
「どうしたのお?お嬢ちゃん、迷子ォ?」
大学生くらいの、3人組の男が蘭の顔を覗き込んでいた。蘭は、はっとしてあとずさる。
「か〜わいい。ねえ、お兄ちゃんたちと遊ばない?一緒にお母さん探してあげようか?」
蘭は後ずさりながら黙って首を振った。
「遠慮しなくて良いんだよ?お兄さんたち悪い人じゃないからねえ」
そう言いながら近づいて来る3人の男たちは。どう見ても良い人には見えなかった。
―――ど、どうしよう、新一〜〜〜
泣き出してしまいそうになったその時、後ろからふわりと暖かいものに包まれた。
「―――やっと見つけた〜〜〜」
「し、しんい・・・」
「・・・わりいな、こいつは俺の連れなんだ。変なちょっかい出すのはやめてくれよな」
「お、俺たちは別に・・・」
「そ、そうだよ、迷子だと思ったから親切に・・・」
口々に言い訳めいたことを言っていた男たちだったが、新一の刺すような鋭い視線に、逃げるように立ち去ったのだった・・・。
「新一・・・ごめんなさい、約束破って・・・」
蘭が、ぺこりと頭を下げる。
「まったくだぜ。俺がどんなに焦ったか・・・」
「ごめんなさい・・・」
「ま・・・大体事情はわかったから・・・」
「え、そうなの?」
蘭が驚いて顔を上げる。
新一が苦笑いして頷く。
「落し物、届けてたんだろう?さっき、その人にも会った」
「ほんと?」
「ああ。まったく、目印がそのまま歩いてるようなもんだな」
溜息と共に新一が言った言葉に、蘭は首を捻る。
「どういう意味?」
「・・・内緒」
「え―――っ、何でえ?教えてよお!」
「俺に黙っていなくなった罰。自分で考えてみろよ」
そう言うと、新一はさっさと蘭に背を向けて歩き出した。蘭は慌てて新一の後を追う。
「もう、待ってよおっ」
追いかけてくる蘭をちらりと見ながら・・・
―――だってよお、聞く人聞く人、みんなおめえのこと覚えてるんだぜ?“白いケープを着た、可愛い女の子”のことをさ。みんなが口々に“ああ、あの可愛い子”って言うんだぜ?ある親子連れなんか、自分の息子を見ながら“あんな可愛い子がうちの子のお嫁さんになってくれたら・・・”なんて言うんだぜ?だーれがそんなガキンチョなんかに蘭を渡すかっつ―の。蘭は俺のもなんだからな。ゼッテー他のやつになんかわたさねえよ。
「もうっ、新一ってばあ!!」
やっと追いついて新一の服を掴んだ蘭。
その手を引き寄せ、あっという間に蘭を抱き上げる新一。
「もう、ゼッテーはぐれねえように、これからはずっとこうしてようか?」
「え・・・」
蘭の頬がか―っと赤く染まる。
新一は楽しそうにそんな蘭を見つめ、素早くチュッと、その頬にキスをした。
「もう・・・」
真っ赤になって膨れる蘭を見つめ、くすくす笑う新一。
「蘭、次はどれに乗りたい?」
「・・・観覧車・・・」
照れくさそうに、新一の肩に顔を埋め、蘭が小さな声で呟く。
「OK。そこなら、ゼッテーはぐれねえもんな」
そう言って、新一は蘭を抱きかかえたまま、観覧車に向かって歩き出したのだった。
そして、その観覧車の中で何をしていたのか・・・?
それは、2人だけのひ・み・つ・・・v
Fin…….
作者後書き
ホワイトデー企画の小説です♪
ホワイトデーって、難しいですねえ。
なんだかホワイトデーに関係ないような話になっちゃいました。
ただのラブラブデートじゃん、これって。って感じですよね。
まいっか。
新ちび蘭のラブラブ楽しいし。というわけで。
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