別れ際に…



By 佐倉井梢様



冬という季節が本番を迎え、辺り一面は銀世界になっていた
雪の上を歩くと、ぎゅっ、ぎゅっと音がする
それが楽しくて雪に沢山足跡を付けていたのを覚えている
昔を思い出しながら窓の外を見ていた



「ねぇ、快斗」
「ん?」



青子に呼ばれ、近付いて行く


「昔、雪がぎゅっ、ぎゅって鳴るのが嬉しくていっぱい足跡付けたの覚えてる?」
「覚えてるぜ?はしゃぎ過ぎてその後コケたんだろ?」
「うっ!そ、それはっ…!!」



青子はホントの事なので何も言えなかった
だ、だって面白かったんだもん!と言ってそっぽう向いてしまった
そんな青子の姿を見てクスッと笑ってしまう



「悪かったよ、んなに怒るなよ〜」


ポンポンと青子の頭を軽く叩いた


「快斗が行く所って…雪降るの?」
「雪?どーだろうなぁ…」



そう…今日、快斗は海外公演のため海外に行く
今は空港…



快斗の事を知った有名なマジシャンが「海外でやってみたいか?」という誘いが来た
その事を話してくれてる時の快斗はホントに嬉しそうで…
子どもの様に笑って話してた
青子も嬉しくて嬉しくてたまらなかった
快斗の舞台はついに世界なんだと思った



「少しでも親父に近付きたい」


という快斗の夢が小さいけど少しずつ近付いていると思った


快斗は凄いよ… しっかり夢に向かって歩き出してるんだもん…
そんな快斗の夢、応援してあげなきゃいけないのに…
いけないのに…青子…



瞳から零れ落ちそうになる涙を慌てて抑えた


「どうした?目にゴミでも入ったのか、大丈夫か?」


優しく問い掛ける快斗に首を左右に振って笑顔を見せる


「ううん、大丈夫だよ!」
「青子…?」



青子の顔を不思議に見詰める
ダメ…また涙が零れる…



慌てて青子は快斗の腕の中に顔を埋めた
いきなり抱き付かれて快斗は吃驚する



「ホントに大丈夫なのかよ!?」


快斗は顔を押し付ける青子を自分から離した
青子から抱き付いてくれるのは嬉しいが…今は違う…
離して青子を見詰めると瞳に涙を溜め、頬を真っ赤にしていた



「青子…お前…」
「あっ、ち、ちがうのっ!これはねっ…!!」



どうしたら良いのか分からなくて…
笑顔で快斗を見送らなきゃいけないのに…
泣かないって決めたのに…
なのに…涙が…止まらない…



快斗はそんな青子の姿を見て思いっ切り抱き寄せた


俺だって青子と離れる嫌だし一緒にいたい…でも…ゴメン…傍にいてやれなくて…


青子の肩に顔を埋めながら抱き締める力を少し強めた
強い力で抱き締められて…少し苦しかったけど…安心した…
いつ以上に温もりが近くて…



「快斗…」


呼ばれて力を少し緩める青子を見ると、青子が顔を近付け唇が軽く重なった


「!?」


軽くだったが、青子からのキスに驚きを隠せなかった
いつもは自分の青子にキスをしていくから…
まだ涙が溜まっている瞳で快斗を見詰め、呟いた



「無事に帰って来てね…待ってるから」


青子からの言葉に更に真っ赤になり自分の顔を手で覆った


(おいおい…行く前にこれかよ…)


この青子を残して行けってか…?
行きたくねぇ…
すっげぇー行きたくねぇー…
つーか連れて行きてぇー…



青子をもう一度抱き寄せ、耳元で呟いた


「俺行くの止めようかなぁ…」
「ちょ、ちょっとっ!!いきなり何言い出すよのよぉ!!」



快斗の言葉に青子は睨み付けた


「嘘だよ、ちゃんと行きますよ…」


快斗が呟くと快斗が乗る飛行機のアナウンスが空港中に響いた


「時間だな」


そう言うと荷物を手に取り、搭乗口まで歩き始める
青子は慌てて快斗の後ろに着いて行った
暫く見れなくなるあの背中…
やっぱり…辛いよ…



「青子」


いきなり呼ばれ慌てて返事をすると、そのまま唇を奪われた


「んっ…」


思った以上に深く、快斗の服を掴んだ
唇を解放すると今度は首筋に押し付けて離す



「さっきのキスのお礼vもっとお礼がしたいけど、もう時間だからよv」
「ば、ばかぁ!!」



そう言うと頬にちゅっとキスをして青子から離れた
頬と首筋を手で抑えて真っ赤になる



「行ってくる」
「い、行ってらっしゃいっ!」



手を大きく上げて快斗は消えて行った


青子の大好きな大好きな彼は…世界に魔法を届けに行きます…
どうか…彼の魔法で沢山の人が幸せになります様に…



快斗は今も昔も青子が世界で一番大好きな魔法使いだよ




FIN…….




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