夢のキス



By 佐倉井梢様



食事が終わり、後片付けをするために台所に向かい、茶碗を洗い始める
今日もたま彼が美味しそうに食べてくれ、自然に笑みが零れた
あれを好きだって言ってくれたからまた作っちゃおうかなぁと密かに計画を立てるのが楽しい
そう言えば…あの時も言ってくれた…
小さな姿をした彼は美味しそうに食べてくれていた



あの時からだったんだね…


とふと思う…
小さな身体でいつも私の前に立ってくれていた…
そして彼だという事を知り、涙が出そうになった
いつも傍にいて…守ってくれていた
誰よりも近くにいてくれていたんだと…



茶碗を洗いながら瞳から零れ落ちる涙を拭く
なんだか彼が戻って来てから凄く涙脆くなった気がする…
きっと…幸せ過ぎてだと思う…



茶碗を洗い終わると彼がいるリビングに足を向けて歩きだす


「新一?」


呼んでも反応が返って来ない…
本か新聞でも夢中になって読んでるのかしら?と思う
読みものや考え事をしている彼は一切の事が入って来ない…
困ったものだが、凄い集中力である



「新一〜」


もう一度呼んでもやはり返事が返って来ない
新一がいるソファに近付いてもう一度声を掛けようとした時、小さな寝息が聞こえて来た



「寝てるの…?」


蘭は屈んで新一の顔を覗くと目が閉じられていてすっかり眠りに入っていた
足下には読み掛けの本が床に落ちていた
その本を拾い、テーブルの上に置く
疲れているのに本を読む…新一らしいと思った
でも新一とって楽しい時間なのだろう
新一を起こそうと思ったが、疲れているのに起すのは…とためらってしまう…
しかしこのままでは風邪を引いてしまう…
といっても部屋で連れて行く力はない…
蘭は悩んだ末にソファに寄り掛かりながら寝ている新一の身体をそっと横に倒し、寝かせた
寄り掛かったまま寝ていると首も痛いし、疲れると思ったのである
そして寒くない様に毛布を持って来て掛ける
これで少しは楽に寝れるかな?と屈んで新一の寝顔を覗く
規則正しい呼吸を繰り返し、静かに寝ていた
その寝顔はまるで子どもみたいに可愛らしい…
違う新一を見ている様な気がした
少しでもゆっくり休んで欲しくて…
新一を見ていると休みなく動いている様にすら見える
いくら好きな探偵の仕事だって…疲れると思うから…



「無理しないでね…新一…」


何も出来ないけど貴方を待つ事なら出来るよ?
戻って来て少しでも休める事が出来るなら…私は嬉しいよ…
ソファに足下に寄り掛かりながら新一を見詰める
ホントに綺麗な顔をしていると思う…
思わず手が伸びて頬にそっと触れる…
そして自分の顔を近付け…軽く唇を重ねた
ハッと自分がした行動に驚き、真っ赤になった頬を手で覆い、下を向く



(な、なにやってるんだろうっっ!!)


恥ずかしくて…どうしようもなくて…
でも…新一を顔見ていると自然に身体が動いて…
顔を上げて新一を見ると寝息を立てて寝ている
寝ていて良かった…
蘭は恥ずかし過ぎて顔をソファに伏せると自然に眠気がやって来てそのまま眠りについてしまった…






どれくらい寝ていたんだ…


ふと目を開けると天井が見えた


(あれ…俺って…ソファに寄り掛かって寝てなかったっけ…)


そしてこの毛布…掛けたつもりないないのに…
身体を起こそうとすると声が聞こえた



「ん…」


声のする方を見るとそこには蘭が眠っていた


そうか…蘭が…


寝ている蘭に手を伸ばし、髪を撫でる
綺麗な髪…
ずっと触れていたくなる
寝ている蘭を見ていたいが、このままだと風邪を引くと思い、身体を起し、ソファから立ち上がった
そして寝ている蘭を抱き上げ歩き始めた
エプロンをしたままの姿に思わず口元が緩む…



そう言えば…すっげぇー良い夢みたんだよなぁ…
蘭からキスしてくれる夢…
蘭からなんて滅多にないから嬉しくて…
現実だったら良かったのに…



寝顔を見ながら微笑む
そして額に唇を押し付けキスをする
蘭が起きたらこの夢の話をしてみよう
一体どんな顔をするのか楽しみだった



でも今君が目覚めるまで…共に眠ろうか?


部屋のドアを開け、中に消えていった





眠りから醒めた蘭は新一からの夢の話を聞かされ真っ赤になってしまうのはまた後のお話…




FIN…….



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