本日の夕食は?



by槇野知宏様



 仕事から帰ると、英理が晩メシの支度をしていた。

「今、帰ったぞ。今日のおかずは何だ?」
「あら、お帰りなさい。今日はねチキン南蛮よ」
「ふぅん・・・ま、期待してるぜ」

 蘭が新一のヤツと結婚して、オレは英理との別居を解消した。
料理の腕は昔よりマシになったとは言い難いが、オレとしては腹に入れば問題ないのだが、今日の献立はチキン南蛮って何だ?
オレが思うに“魚の南蛮漬け”で使用する魚を、鶏の唐揚げに代えたものだろう・・・ふっ“眠りの小五郎”の推理力は健在だな。

「さあ、出来たわよ。あなたも食器出すのを手伝って」
「へいへい」

 断っても良いのだが、そうなると英理と口論になると同時に、アイツの話を聞かされる羽目になるのだ。
曰く、新一くんは蘭の手伝いをやってくれるそうよ、と。新一と比べられるのも腹が立つので、手伝っているのが現状である。

「あ、それが今日のおかずよ」

 台所へ行って英理が指さす方を見ると、味噌汁、和え物、そしてレタスとトマトの付け合わせに鶏胸肉の唐揚げ。
まあ普通の献立なのだが、唐揚げは南蛮漬け、というわりには酢の匂いが全くしない。普通の唐揚げにタルタルソースをかけた代物だ。

「おい、英理」
「何、あなた?」
「この唐揚げ、どー見ても南蛮漬けとは思えねえけどな?」
「私、南蛮漬けとは一言も言ってないわよ」
「さっき、チキン南蛮と言ってたじゃねーか?」
「確かに“チキン南蛮”とは言ったけど“鶏から揚げの南蛮漬け”とは言ってません」

 何でも弁護士の会合か何かで食事会をした時に、九州出身の弁護士が“地元にこういう料理がある”と聞いて、作ったのだそうだ。
まあ、晩メシ食う前に英理と少しばかり口論はしたが、騙されたと思って食ったら結構美味かった。別に英理の料理の腕が上がったんじゃなくて、料理自体が美味かったんだからな。そこは間違えないでくれよ。



 後日、蘭に聞いたら、チキン南蛮って甘酢を潜らせた鶏の唐揚げにタルタルソースをかけたもの、と言っていた。
どうやら英理は一つの過程をすっ飛ばしてしまったようだが、アイツらしいと言えばアイツらしいところだな。




   終わり



  補足(蛇足とも言います)
チキン南蛮、というのは宮崎発祥の料理で、元々はレストランの賄い料理(鶏唐揚げの南蛮漬け)から生まれたものです。
そこのレストランから独立した二人のコックさんが自分のレストランで出したものですが、料理法は全く異なります。
一つのレストランでは、かつて勤めていたレストランの賄い料理を“元祖チキン南蛮”として売り出し、もう片方は、その南蛮漬けにタルタルソースをかけたものを売り出しました。
ちなみに酢についてですが、本来なら甘酢を自分で作るのですが、宮崎では“チキン南蛮のタレ”と称されるものが売ってたりします(苦笑)
戻る時はブラウザの「戻る」で。