トレジャーハンター



by槇野知宏様



 オレの名は黒羽快斗。
表向きはマジシャンだが、トレジャーハンターという裏の顔も持っている。 今日も時間を見計らって行動を開始する。
音を立てないようにゆっくりと階段を下り、目的地まで息を殺して向かう。
大した妨害もなく目的地まで数メートル、という地点に差し掛かった時、小さな先客が目的地の状況を伺っていた。
用心しつつ中の様子を観察しているのだが、それ一点に集中していて、自分の周囲には注意すら払っていない。

『コイツもまだまだ甘(あめ)えな』

そう思いながら気付かれないよう近づいて、後ろから肩を軽く叩いた瞬間、そいつは全身を一瞬にして強ばらせ、顔をオレの方へ向ける。

「な、何だ、父さんか・・・脅かさないでおくれよ」
「オメーなあ、1つの事に集中し過ぎるんだよ?ま、声や物音を立てなかっただけでもマシだな、北斗」

小さな先客とは、オレの息子である。 何をしてたかと言うと、つまみ食いの事前偵察。

『つまみ食いごときで何を大げさな事を?』

そう思うかも知れないが、堂々とやったんじゃスリルを味わえないし、台所で晩メシを作ってる最強の番人二人に気付かれぬよう宝物(本日のおかず)をゲットする(食べる)事によって五感を研ぎ澄ます。
胃袋、そして仕事柄必要なスキルを高めるには良い機会なんだ。 そんな事は置いといて、さっそく北斗に偵察結果を聞くが、教えるのと引き替えに今月の小遣いアップを要求しやがったので、ゲンコツ一発で聞き出す事に成功する。
ふむ、今日のメニューは唐揚げ・・・つまみ食いのし甲斐がありそうな宝物だぜ。 怪盗キッドだった頃を思い出しながら、夕食の支度で立ち動いている最強の門番―――言わずと知れた青子と母さん―――の隙を探っていると、息子が恨めしそうな目つきでオレを見ている。

「まっとうな労働に対してオレは賃金を要求してるんだぞ?それを暴力で報いるなんて酷いじゃないかっ!」
「やかましい!つまみ食いの偵察が成功しただけで小遣いを増額する親がどこにいるんだ!!」
「父親横暴!冷酷非情!謝罪会見!慰謝料請求!父さんが年金生活になっても面倒を見てやらねえからな!!」
「テメーの食い扶持と年金がありゃ、オメーの世話になんかなるワケねーだろっ!」

当初の目的を忘れて息子と口論を始めた時、台所から誰かが近づいてくる事に気付いた。
振り返ると、青白いオーラを立ち上らせた青子がにこやかな表情でオレたちを見ていた・・・手には愛用のモップがシッカリと握られている。

「「あ、青子(か、母さん)」」
「二人とも、こんな所で何してるの?」
「父と子のスキンシップに決まってるだろ・・・な、北斗?」
「そうそう、父さんの言うとおり。決してつまみ食いの相談じゃないから気にしないで良いよ」
「おい北斗・・・」

オレの声を聞いた北斗も失言に気付いたらしく、今のは冗談だから、などと弁解するが、オレたちが口論を始めた時点で運命は決められていたのであった。



終わり




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