未知との遭遇?



by 槇野知宏様



 普段だったら蘭と二人っきりで楽しむ休日の午後。

肝心の蘭は園子、和葉ちゃん、青子ちゃんとショッピングに出かけ、リビングでくつろいでいるのは、オレ、そしてオレ以上にくつろぎ過ぎの感がある服部、黒羽の二名。
オレはソファに座って推理小説を読み、残りの二名はと言うと、服部が持ち込んだ将棋で対戦中である。
テーブルの上には既に冷め切ったコーヒーが置かれ、それを目にすると蘭たちが出かけて一時間以上経過した事が分かった。
ふとオレはある事を思い出してソファから立ち上がると、将棋に熱中していた二人が顔を上げる。

「工藤、どないしたんや?」
「どうせ、トイレだろ・・・平ちゃん、続きやろうぜ」
「チョット買い物を思い出しただけだ。悪いが留守番しといてくんねーか?」
「買い物やと?それやったら携帯使うて姉ちゃんに頼めば良いやんけ」

服部の言葉に一理あるかも知れないが、オレが買おうと思った物は蘭に頼める代物じゃない。
んな事、蘭に頼めっかよ、と、服部に言い捨てて、オレは財布と上着を取りに自分の部屋へ足を向けた。


 財布と上着を取ってリビングに戻ると、色黒男とマジシャンがニヤニヤ笑いながらオレに視線を向けており、一瞬イヤな予感がした。

「何だよ、オレの顔に何か付いてるのか?」
「蘭ちゃんに頼めないモノねえ。ちょうどオレも切らしてたんだな、これが」
「快ちゃんの言う通りや。オレは向こうで露骨に補充出来んさかい、丁度良い機会なんや」

この二人に余計な一言を言った事をオレは内心で舌打ちをする。もっとも勘働きが並の人間より優れている二人に長時間隠し通せるワケはないのだが。

「しゃあねえな・・・じゃ行くぞ」

既に出撃準備完了、と、いった状態の二人に声を掛けると同時に、オレは服部に鋭い視線を向けた。

「服部、ウチで使うのは構わねーが、使うんだったら完璧に処理してくれよ」
「そ、そないな事、言われんでも分かっとるがな」

大阪組(特に服部)は、オレの家を宿泊施設と思っている傾向がある。
まあ高校生だからビジネスホテルなどに宿泊するより、タダで空き部屋の多い我が家を選ぶのは当然かも知れない。
だが、さすがに一八歳未満立入禁止のホテルと同じにされては堪ったもんじゃない。
以前、大阪組が宿泊した部屋を蘭が掃除しようとした時、ゴミ箱の中に使用済みのヤツが入ってた事があり、それを聞いたオレは服部に脅しをかけた事がある。

曰く、テメーが使ったヤツはテメーで完全処理しねーと、二度とウチに泊まらせねえ、と。以来、服部と和葉ちゃんが宿泊していた部屋から、使用済みのヤツが出てこなくなったのは言うまでもない。



 携帯電話で蘭に男三人で出かける事を伝えると、オレたちは米花駅に向かった。米花駅から電車を使い、更に途中で乗り換える事三〇分―――漸く目的地の薬局に到着。

「何でアレ買うだけで電車使うワケ?」
「オレは米花周辺じゃ顔が知られ過ぎてるんだからしゃあねえだろうが」
「快ちゃん。有名になるっちゅう事は不便なモンなんやで?オレかてアレ買う場合はバイクで遠くまで行くんやから。快ちゃんも近所じゃ買えへんやろ?」
「あ、その点は心配なく。第三者に変装して買いに行けば問題ねーから」
「「黒羽(快ちゃん)、オレに変装して買いに行ったら、どうなるか分かってるだろな?(どないなるか分かっとるやろな?)」」
「オレだって命は惜しいからオメーらに変装するワケねーだろ?」

ま、黒羽も分別がつく人間なので、オレや服部、高木刑事と京極さんと白馬に変装しようものなら、五人からスマキにされた挙げ句、袋叩きに遭うのは分かっているだろう。
いい加減、マンザイも飽きてきたので普通の客を装って店内に入ると、中年の女性店員が、いらっしゃいませ、と言って出迎えてくれる。
適当に応じてオレたちは目的の場所へ向かうと、そこで見てはいけない光景を目にした。

「うーん・・・今回はこれにしよう」

そう言って品物を物色していたのは顔見知りの刑事―――高木渉巡査部長だった。彼が手にしたモノを見ると、箱に“超薄タイプ”と、しっかり明記されている。

「な、何で高木刑事がここにいるワケ?」
「そら、アレ買うために来たとしか思われへんがな」

いくら何でも現場検証とかでアレを買う刑事なんて見た事がない。

「今回はこれにしよう、って、言ってたよな?相手誰なんだよっ」

三人で顔を見合わせて考えるが、オレたちが出した結論は一致していた。
オレは警視庁の要請で刑事たちと顔を合わせる事が多く、特に強行三犯の高木刑事と佐藤刑事とは仲が良かった。
仕事はもちろん、プライヴェートでも顔を合わせる事があるが、佐藤刑事の肌だけでなく仕草に艶が出ていて、蘭がオレとそーいう関係になった後、彼女の表情や体つき、仕草に艶が出てきた事に類似していたため、高木刑事と何かあったな、と、いう事を悟ってはいたが。
そんな事を回想していたら、カウンターに向かう高木刑事とバッタリ出くわしてしまった。

「「「「あ!?」」」」

瞬間的に手に持っていたアレを陳列棚に置かず、背後に隠して愛想笑いを浮かべる高木刑事とオレたちの間に奇妙な間が生まれる。
暫く(と言っても三〇秒ほど)沈黙していたが、それを破ったのは年長者の方だった。

「き、君たち・・・な、何でここに・・・?」
「まあ結論を言うと、高木刑事と同じですよ」

開き直ってそう言うと、左右にいる連中も一斉に頷く。この時、オレたち四人に奇妙な連帯感が生まれたのは言うまでもない。




終わり



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