夏のお姉さん
by槇野知宏様
一夏の思い出とやらが出来ていない。
既に甘酸っぱい思い出やら、ピンクがかった思い出やらを果たした同級生連中が学校の至る場所で懐古談に花を咲かせてやがる。
こっちとて街や海水浴場に出掛けてはナンパしまくったが相手にもされず、ただ日焼けしただけという体たらくだ。
『こんなのじゃダメだ!一夏の思い出を我が手にっ!!』
こんな欲求(欲望?)に賛同したモテないクラスメートを引き連れて、オレたちは海水浴場へ足を運んだ。
夏休みが終盤に差し掛かっているものの、行楽地というところは人が多過ぎる。
そーいうところだからこそ、グループで行動している女の子がいる、と見積もったのだが、周りを見てもコブ(彼氏)つきや家族連れだらけ・・・初っ端の段階でやる気急降下。
海の家で買った炭酸飲料水を飲みつつ砂浜に座って愚痴っていたら、一緒に来たヤツが素っ頓狂声を上げる。
「どうしたんだよ?キレイな女の子でも見たのか?」
「あ、ああ・・・あの人はどうかな?」
そいつが指差した方に一人の女性がいた。
オレたちより一〇歳近く年上と思うが、青と白のツートンカラーのセパレートにホットパンツの水着、そしてサングラス(どー見ても野球手がしてるヤツ)がショートカットの髪型によく似合っている。
様子からして誰かを待っているようだが、それが女友達だったら好都合だ。
「よし、あの人で行くか?」
「OK」
ターゲットを決めたオレたちは立ち上がって行動を開始した。
「お姉さん」
「何かしら?」
オレたちが声を掛けると同時に、振り向きざまにサングラスを外す・・・その仕草が同世代の女の子が持たない凛々しさを感じさせる。
「あの、お一人で来たんですか?」
「お一人でしたら、僕たちとひと夏の・・・痛っ」
ツレが余計な事を言いそうだったので、足を思いっきり踏みつけてやると、オレの方を恨みがましく見ていたヤツだったが、自分の言い方の不適切さに気付いたようで言葉を言い直す。
「僕たちもヒマなんですよ?お一人でしたら一緒に海水浴を楽しみませんか?」
「残念だけど、一緒に来てる人がいるのよね」
それを聞いた瞬間、オレたちは“オトナのお姉さん”と、思い込んだものだったが、そんな甘い考えはものの見事に崩れ去った。
「美和子さん、お待たせしました。ご要望の焼きそばとウーロン茶です」
「渉くん、ありがとう。やっぱり、こーいうところで食べるのもオツなのよねえ」
『オトナのお姉さんじゃなく、オトナのヤローかよっ!!』
内心で舌打ちをしてたら、お姉さんの彼氏がオレたちに顔を向けた。
「あれっ、この人たちは?」
「さっき私に声を掛けてきたのよ。大方ナンパが目的だと思うけど」
お姉さんがそう言った瞬間、彼氏がオレたちにガンを飛ばしてくる。ガンを飛ばす、というより・・・ハッキリ言って“殺意”だった。
「こら、渉くん。高校生相手に嫉妬するんじゃないの」
「嫉妬ってワケじゃないですよ。ただ彼らが美和子さんに変な事を言ったんじゃないか、と思いまして」
「もう、渉くんったら・・・君たち、ゴメンね」
そう言って、二人はオレたちの前から歩き去っていったのだが、二人に漂うラブラブな雰囲気が彼氏いない暦一七年の身体に鳥肌を立たせる。
「出だしからこれかよ・・・何かやる気が無くなったぜ」
「でもさ、まだ一人だろ?もう少し頑張れば成功するって」
ツレの言葉に正しさを見出したオレは別の女性(女の子)を探そうとした時、後ろから肩を叩かれたので振り向くと、麦わら帽子にタンクトップにショートパンツという怪しげな姿をしたオッサンがオレの後ろに立っていた。
「オッサン、何か用?」
「君たちにチョット来て貰おうか?」
「はぁ?どーいう事だよ?オッサ・・・」
意味不明な事を口走るオッサンに対して反論しようとした時、視界に何か飛び込んでくる―――それは警察手帳。
そしていつの間にかオレたち二人の周囲にいるオッサン連中が同じように警察手帳を所持している・・・・これ、映画のロケ?
「君たちを婦女暴行未遂で取り調べるから、チョット来てもらえないかね」
チョット待て!婦女暴行未遂って何だよ?
少し抵抗したものの、オッサンの集団に叶うはずもなく、オレたちはオッサンたちによって拉致された挙げ句、こっぴどく脅しを食らう事になった。
終わり
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