プレゼント



by 槇野知宏様



 世間一般でいうクリスマスを明日に控えた夜の事。

「真さん、クリスマスプレゼント何が良い?」
「建太たちの分ですか?あの子たちの分はもう買ってあるでしょう?」
「違うわよ。真さん自身のプレゼント」

ソファに座って格闘技雑誌を読んでいた私は、園子さんの質問に考え込んでしまった。
子供たちのプレゼントは既に準備済みで、後は私が夜中に彼らの枕元に置くだけ。
建太は新しい空手の道着、光は世界的著名なサッカー選手のユニフォーム、晴に至っては時代劇小説ワンセット。
子供たちのリクエストを聞いて用意したわけだが、同年齢の子供が同じような物を欲しがるのか、と、親として考えたのは言うまでも無い。
子供はさておき、私自身のプレゼントと言われると悩むのは当然だろう。
ふと、顔を上げると彼女が私をじっと見ている・・・園子さん、そんなに見つめられると考えがまとまらないんですが。

「私は園子さんから頂けるなら、何でも構いませんよ」
「その、何でも良い、みたいな答えが一番困るのよねえ。真さん、喋ったら楽になるわよ?」

そう言いつつ背後から私の首にしがみつく。この行為自体に問題は無いが、運悪く彼女の胸が背中に当たった。
一瞬で血液が顔に集中するのを私は覚える。結婚してもこういう状態だから工藤くんや服部くんたちから、純情過ぎる、と、言われるのだ。

「そ、園子さん・・・あの、あのですね・・・えーと・・・胸、当たってるんですけど」
「えっ!?ご、ごめんなさい・・・それにしても真さんって相変わらずよねえ。でも、あなたのそーいうとこ好きよ」
「あ、有難うございます。何で急にそんな事言い出したのですか?」

私の隣に座った園子さんの話に耳を傾ける。彼女の話を総合すると、いろいろ考えたが思いつかなくたため、私に聞くのが妥当と判断したそうだ。

「で、何が良いの?」
「先に言ったとおり、園子さんから頂けるなら何だって・・・」
「だーかーら、何でも良い、って、言う回答は困るって何度も言ってるでしょ。ホントは今、欲しいものがあるんじゃないの?」
「園子さん。何がある、と、決め付けられても困るんですが」

そんなやり取りをしつつ、園子さんの視線を感じて考える事、数分―――ふと思いついた。

「あっ、その表情からして何か思いついたんでしょ?」

嬉しそうな表情を浮かべる園子さんだが、これから私が言おうとする事は彼女の意表を衝くであろう。私は黙って彼女に顔を向けた。

「えっ、どしたの?」
「一番欲しいものは・・・あなたです。園子さん」

言った方もだが、言われた方も恥ずかしいので一瞬、完熟トマト状態になってしまう。

「真さん、それは無理よ。もう残っていないから」
「どういう事ですか?」
「私、とっくに真さんのよ。全部、真さんのものだから・・・あげられる物は残ってない」
「園子さん―――」

彼女の話を聞いていたら、いつも以上に愛情が湧き上がって私は園子さんを抱きしめた。

「ま、真さん?」
「逆らわないで下さい・・・私の、なんでしょう?」
「―――うん」

園子さんの腕が私の背中に回されるのを感じた。
その余韻に浸りつつ右手で彼女の顎を軽く上げると潤んだ瞳が私を見つめている・・・そして、どちらともなく動く唇。


「結局、一足早く頂いてしまいましたね」

それが唇を離した私の第一声である。園子さんはキスの余韻に浸ったまま。

「・・・何が?」
「今、欲しいものです」
「ま、真さんったら・・・な、何言ってるのよっっっ!!!」
「実はもう決まってます。私にとって最高のプレゼントは園子さんに繋がる全てですよ」

そう言って園子さんを抱き寄せ、唇を近づけようとしたが視線を感じる・・・その数三人。
振り返ってみると、視線の先にいたのは我が愛すべき子供たち。部屋のドアが開いたままだったので、私たちの姿は丸見えだった。

「あーっ、パパとママがチューしてる!!!」
「あ、あの・・・その・・・わざとじゃないです・・・父さん、母さん、お休みなさいっ」
「お休みなさい」

騒ぎ立てる光、浅黒い肌を真っ赤にさせた建太、何事もなかったかのように普通に挨拶する晴は脱兎のごとく立ち去った。

「こらっ、もう大人の時間なんだから子供は早く寝なさい!そうしないとサンタさんに言ってプレゼントあげないわよっ!!!」

園子さんが立ち上がって三人を追いかけたため、部屋に残っているのは私一人。
静まり返った室内だが、壁一枚隔てた建太の部屋からは園子さんの声が微かに聞こえる。
本来、建太と光たちは別々の部屋なのだが、今は園子さんによって集合させられた挙げ句、ベッドに正座させられて説教を受けてる最中だろう。
我が子たちに降り注いだささやかな不幸を哀れみつつ、私は園子さんを宥めるために立ち上がった。
いつもは私が子供に説教し園子さんが宥め役なのだが、逆の事もたまには良いだろう。

部屋を出る時、プレゼントを貰った子供たちが自慢げに私たちにプレゼントを見せに来る光景が浮かんだ。




終わり


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