家の中をぱたぱたという軽い足音が響く。

「こら〜、新ちゃん、蘭ちゃん!走っちゃ駄目でしょう!」

階段の下から聞こえてくる声に

「は〜〜い!!」

可愛らしい二つの声が響いた。





First・・・xxx



By まこと様



今日は元旦。
一年の始まりの日。

工藤家と毛利家は、母親同士が幼なじみということで、例年、正月はどちらかの家で新年を祝っていた。

一家揃って着物を着て。
明けましておめでとうございますの挨拶。
子供達にお年玉をあげて。
おせち料理もあらかた食べ尽くしてしまえば。
後に残るのは、大人達の楽しい宴会の時間。

そして・・・

「らん〜・・・ひまだよなぁ・・・?」
「うん・・・」

子供達には退屈な時間が続くのである。

「もう、トランプも鬼ごっこも飽きちゃったし・・・。」
「お父さん達は、危ないから二人だけでお外に出ちゃだめっていうし・・・。」
「今度は何して遊ぶ?」
「えほんも全部見ちゃったしね・・・」
「うん・・・」

幼い新一と蘭は、二人揃って小さくため息をついた。

「父さんたち、まだかなぁ・・・」
「うちのお父さん、お酒好きだから・・・」
「そうだなぁ・・・」

先程、ちらりと見たリビングの様子から見ると、まだまだ宴は続くのだろう。

「困ったなぁ・・・。」




まだまだ続きそうなこの退屈な時間をどうやって過ごすか考えていた時。

「・・・あ!」

唐突に新一が声を漏らした。

「何?何?何かおもしろいこと思いついた?」

つぶらな瞳をきらきらさせて、蘭が新一の顔を覗き込む。

「らん、かくれんぼしようぜ!」
「かくれんぼ?」
「うん。おれたち二人で家のどこかに隠れるんだ。そしたらその内、誰かがおれたちがいないって気付くだろうから・・・

 そしたら、突然出て行ってみんなを驚かすんだ!」

「うわ〜、楽しそう!!やろうやろう!!」

二人で手を取り合ってぴょこぴょこと跳ねる。

「どこに隠れようか?」
「う〜ん・・・机の下とか?」
「それもいいけど・・・父さんの書斎の中は?」
「いやよ、あそこ暗くて怖いもん・・・」
「じゃあ・・・おれの部屋のカーテンの陰は?」
「うん♪あそこなら暗くないもんね!」
「よし、じゃあ、行こう!!」

ちょっと悪戯っぽく笑いながら、とてとてと階段を駆け上がり、そ〜っと新一の部屋の扉を閉める。

「らん、こっちこっち!」
「うん!」

厚手のカーテンの裾を捲って、するりと体を滑り込ませる。

「らん、しーっ!だからな」
「うん、しーっ!ね」

顔を見合わせて、“しーっ”のポーズを取る。

「どきどきするね。」
「うん・・・あっ!」



ひそひそと言葉を交わしていた時、階下から二人を呼ぶ声が聞こえてくる。

「新一〜〜?蘭ちゃ〜〜ん?」

「母さんだ・・・」
「しんいち、どうする?」
「もちろん、隠れとくに決まってるだろ!」
「あ、上がってくる・・・」



とんとんとん・・・と階段を上る音。
そして、きぃっと扉を開く音。

「あら?ここだと思ったのに・・・どこいったのかしら?」

怪訝そうな声と共に、また扉の軋む音。

そして・・・とんとんとん・・・階段を下る音。




「行っちゃった?」
「うん、行ったみたい・・・」

ぴったりと体を寄せ合って、息まで殺して。
何だかとっても冒険した気分。

「どきどきしたねーしんいち?」
「そうだなー。」
「でもなかなか気付かないんだね・・・ん?しんいちなぁに?」

少し頬を紅潮させて興奮気味に話す蘭の顔を、じーっと新一は見詰めていて。

「らん。」
「ん?」

ちょいちょいと手を振って新一が呼ぶから。
蘭はきょとんとしたまま、新一の顔を覗き込む。




ちゅっ。




小さな音と共に、唇に柔らかな感触。

「!?」

眼をぱちくりさせる蘭に、新一はにっこり笑いかける。

「らんのこと、だーいすきってしるしだよ。」
「そうなの?」
「うん。嫌だった?」
「ううん!嬉しいよ、ありがとう!!」

蘭もにっこり笑って、またちゅっと口付けた。

今度は頬にだったけど。




何となく、これは大人には言っちゃいけない気がして。

カーテンの陰から出る前に、二人で指切りを交わす。

「らん、しーっ!だからな」
「うん、しーっ!ね」

そして顔を見合わせて、“しーっ”のポーズ。








二人だけの小さな秘め事。

このキスの本当の意味に気付くのは・・・後何年先?










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