年に一度の大切な日

普段はなかなか言えないけれど

大切な気持ちを

大切な君に・・・



For you



Byみち様



今日はバレンタイン前日。
私は自分の部屋で勉強していた。
でもさっきから全然進んでないことに、私は気付いている。
その原因は、もちろん明日のこと。
そう、実はまだチョコレートの用意をしていない。

それは大学受験が近付いているせいだった。
勉強に忙しいこともあったけれど、受験という周りの雰囲気がバレンタインムードを書き消して、なんだか手を出してはいけないもののような感じがした。

大学受験もさし迫った今、誰もがバレンタインどころじゃないというのは、当たり前。
他の学年は別として、3年の中では、ほとんど口にする者はいなかった。
そうでなくても、単位が足りない人でなければ、ほとんど登校する必要はない。
私自身、二月に入って週の半分ほどしか学校に行ってないのだから。

新一はといえば、コナン君だった時期と入院で学校に来れなかったけれど、去年の試験で先生達が出した合格点をクリアーし、たくさんのレポートをやり遂げたことで無事卒業できることが決まった。
そのため、単位や出席日数を気にすることなく、勉強に励んでいるはずだ。

まぁ、それを利用して、事件にかまけているかもしれないけど・・・。

ちなみに、私達の関係は、あれ以来、いわゆる恋人。
でも、その割りには近ごろ連絡を取っていない。
特に喧嘩をしたわけではないけれど、学校で会わないと、なかなか自分から連絡しにくい気がした。

明日がバレンタインデーでも、受験を控えているのだから、お互い、それどころではない。

・・・でも・・・。

「ちょっとくらいいいよね。気晴らしになるし・・・。」

自分にいいわけをして、私は立ち上がった。

さっきから考えていたため、チョコレートの味も形も決まっている。
出来上がったものをお店で買えばすむことだと言われそうだ。
それでも気持ちを確かめあって初めてのバレンタインデー。

・・・ちゃんと作りたい!

私はあっと言う間に、準備を整え、家を出た。



***



街はバレンタイン一色。
あちらこちらの店でおすすめチョコレートを宣伝している。

夕暮れの町を、目的の場所まで走っていく。

新一がこんな街を見たら、企業の戦略だとかいいそうだけど、女の子にとっては大切な日。
なかなか伝えれない気持ちをチョコレートに込めて送るのだから。

私はすぐさま近くのスーパーでチョコレートとラッピングの材料を手に入れた。

急いで家に帰って作りだす。
もう、少し暗くなり始めたけど、今から作って冷やせば、明日には固まるはず。

チョコレートを細かく刻んで、温度に気をつけながら湯せんする。
溶けたら、ハートの型に流し込む。

毎年してきた作り方を辿りながら、私はいろいろなことを思い出した。

小さい頃はお母さんに教えてもらいながら、お父さんと新一の分を作ったっけ。

幼馴染みだから、好きという気持ちに気付く前からバレンタインデーにはチョコレートを送っていた。
好きな気持ちに気付いても、幼馴染みということを利用して送り続けた。

去年なんて、コナン君は新一だって気づいていたけど、それを隠したまま新一とコナン君の二人分チョコレートを用意した。
正体を確信していたけれど、それでもどこか信じきれない気持ちがあった。
どこにいるかも分からない、姿を現すことのない新一と本当のことを言ってくれないコナン君。
悲しくて、悲しくて、一人で泣いたこともあった。
でも、新一は、ちゃんと私の気持ちを受け取ってくれたね。

全てを知った今になると、思わず笑ってしまいそうになる。
仮面ヤイバーチョコを受け取ったコナン君の様子と、私が眠っている間にチョコレートを食べて、寝顔を撮ったコナン君の行動。

あのとき、新一が撮った自分の寝顔は、今もまだ携帯にある。

そう、新一はずっと一緒にいてくれた。
そのお礼とこの気持ちを込めて、明日新一に渡そう。

私はそう心に決めて、チョコレートを作り上げた。



**



とうとうバレンタインデー当日。
いつものように家事を片付けて、私は出かける用意をした。
最後に、昨日作ったチョコレートを箱に入れて包装する。

チョコレートは少しビターで、ハート型。
去年のように、その上にホワイトチョコでハートを描いた。
そして、去年は書けなかった名前を・・・。

チョコレートも、包装紙も、リボンも、見た目はどこにでもある一般的なもの。
でも、決定的に違うのは、気持ち。
幼馴染としてでもなく、本当の気持ちを隠すこともない。

お互いの気持ちが分かったから・・・。

私はチョコレートを持って家を出た。
冷たい風が吹く中を、軽やかに新一の家へ向かう。

新一の家の前まで来て、気がついた。

もしかして、事件でいないかもしれない
来る前に電話をしておけばよかっただろうか?

土曜日だから、自然と家にいるだろうと考えていたけれど、事件は日にちを選んではくれない。

少し不安に思いながら、新一の家の門をくぐる。
ドアノブに、何かがたくさん下げてあるのを見つけた。

それは、綺麗にラッピングされたチョコレートだった。

あぁ、きっと新一のことが好きな子が置いていったんだ。
テレビや新聞にも出る新一だから、新一のことが好きな子はたくさんいるんだろうな。

こうして考えると、何気に自分がすごい人を好きになってしまったことが分かる。

本当に、新一は私のことが好きなのだろうか?
新一を想っている子はたくさんいる。

考え出すと止まらなくなりそうだった。
あんなに意気込んで作ってきたというのに・・・。

私は、その思考を止めるために、呼び鈴を押した。

こうして外にチョコレートが置いてあるんだから、きっと新一は事件でいないのだろう。
それでも、この不安な気持ちを消したくて、新一の顔が見たくて、わかっていても祈るような気持ちで押した。

・・やっぱりいないみたい。

なんだか空回りな気持ちが悲しくて、思わず涙が溢れそうなのをこらえながら、今来た道を戻ろうとした・・・

その時。

「おい、蘭じゃないか?どうしたんだよ。」

上から降ってきた声に思わず振り返った。
新一が2階の窓から覗いている。

「新一、いたの?」

びっくりしながら、思わず聞いた。

「あぁ、ちょっと待ってろ!今開けるから。」

そう言うと、窓から新一の姿が消えた。

急いで二階から降りてきて、ドアを開けてくれた。

「ほら、入れよ。寒いだろ。」
「うん、ありがとう。」

驚いたまま、中に入った。

「なんだか学校ないから、久しぶりだな。」

居間に通されて、温かなホットミルクを出してくれた。
やっと、落ち着いてきた。

「うん、あの・・・新一、これ、チョコレート。」

私はそっと、新一の前にチョコレートを差し出した。

「あぁ、ありがとう・・・。すげぇ嬉しい・・・。」

恥ずかしくって、新一の顔が見れないけれど、ちょっと顔を上げると、新一の顔が少し赤いのに気がついた。
それを見ただけで、さっきまでの沈んでいた気持ちが軽くなったような気がする。

「作ってくれたのか?」
「うん。」

そう言ってから、私はドアノブにかけてあったいくつかのチョコレートを思い出した。

「そうだ、外にチョコレートかけてあったよ。新一、今帰ってきたの?それとも寝てた?」
「あ・・・いや、違うんだ。朝から、女の子がたくさん来てさ。最初今日何の日か気づかないで普通に出たら、チョコレート渡されちゃって。そしたら、その後も続々と来るからさ。居留守を・・・。」

参ったなぁというように、頭を掻いている。

「え!それって酷くない?土曜日なのに、その子達わざわざ来てくれたんでしょ?ドアも開けないなんて可哀想よ。」

驚いて、思わず身を乗り出して聞いてしまった。

「何だよ、それじゃあ、おめーは俺が他の奴からチョコレート貰っていいのかよ。」
「・・・そうじゃないけど・・・。」

そういうわけじゃない。
もちろん新一が他の女の子から貰うのは、いい気がしない。
現に、ドアノブに掛けてあったのを見ただけで、悲しくなってしまったのだから。

でも・・・。
今日チョコレートを持ってきた子達の気持ちも分かる。
私と同じ。
きっとドキドキしながら準備して、心を込めて作ったんだろうなって。

考え込んでしまった私の目の前で、新一が笑うのが聞こえた。

「なぁ、知ってたか?」
「え?何を?」

突然の質問に聞き返す。

「だから、俺は蘭のチョコレートだけが、食べたかったってこと。」
「え・・・・・。」

顔が熱い。
きっと今、私は真っ赤な顔をしているだろう。
新一は、赤い顔を見せたくないのか、そっぽを向いている。

恥ずかしくて俯きながらも、外にかけたままのチョコレートが頭から離れない。

「ねぇ、でも、他の人のも一口でも食べてあげて。きっと皆、新一のために一生懸命作ったんだよ。」

他の人も新一のことが好きなのは分かっていたけど、言わずにはいられなかった。

「あぁ、分かったよ。でも、おめーも俺のために一生懸命作ってくれたんだろ?だから、いただくぜ。」
「うん。」

私が頷くのを確認してから、リボンをとき、包装紙を開け始める。
箱を開ける手前で手が止まった。
私が不思議に思って見ていると、新一がおもむろに私の方に近づいてきた。

「チョコレートの前に・・・。」

そう言って、すっと顔に近づく。

「・・・いただきます。」

と耳元で囁く声が聞こえて・・・。

次の瞬間、私は唇を奪われていた。




Fin…….



戻る時はブラウザの「戻る」で。