コナン君がいなくなってから一週間。
私は今日も悲しみにくれていた。

ずっとそばにいてくれた存在。
姿かたちは変わっても、その瞳は変わらなかった。

彼は隠していたつもりかもしれないけど、私は本当は気づいていた。

コナン君は、ずっと一緒にいた幼馴染、工藤新一だと言うことを。




Reach for the truth



By みち様



今日は朝から雨だった。

近頃ずっと天気がすぐれない。
一週間前辺りから、雨は降らなくても、曇ってばかりだった。
それとも私の目に、曇って見えていただけなのかも知れない。

コナン君を見送ってから、一週間が過ぎた。
あの時は、これほど新一と離れていることが辛いとは思わなかったし、新一もすぐに帰ってくるものだと思っていた。

なにかあったのだろうか?
そんな疑問ばかりが繰りかえされる。

彼は小さい体でも、いつも事件を追っていた。
危険な目に遭うこともしばしばだったが、そんなことを省みることもなく夢中だった。

でも、そんなときが一番、新一だと感じる瞬間でもあった。

ねぇ、気づかなかったでしょ?
私がコナン君の正体を知っていたこと。

それでも隠していたつもり?
事件を追う目は、新一そのものだったんだよ。

「蘭姉ちゃん」なんて可愛い子ぶっていたけれど、何年一緒にいたと思っているの?
何度も、何度も問い詰めて、はぐらかされたけど、私の確信は変わらなかった。

最初はそんなことありえないって思おうとしたけれど、不可思議な現象より、一緒にいた時間と、私の気持ちが確かなものにしていた。
何よりも変わらない、幼い頃の記憶と、君のその瞳。

それとも、私が思っていただけだったのかな?
大切な存在だと。

君にとってはただの幼馴染。
わざわざ、正体を言わなくてもいい。
そんな存在だったの?
だから、どこに行ってもいいと?

自嘲的な笑みを作ろうとして、涙がこぼれた。

私は顔を上げた。
ふと、現実に引き戻される。
今も続く雨の音。
窓の外は薄暗く、夕方であることを忘れてしまいそうだった。

いつもこうして物思いに耽ってしまう。
繰り返す疑問と悲しみ。
もしも君が今ここで、どんな姿でも、笑って声をかけてくれたら、どんなに嬉しいだろう?
きっとこんな考えなんか、吹き飛ばしてくれるのに・・・。

私のことをどう思っていたかなんていう疑問は、もう前に捨てたはずだった。

君が現れたあの展望レストランで。

あの時、やっぱり事件へ行ってしまった君。
学園祭で新一とコナン君がいたから、あの時は私は本当に、二人は別人だと思っていた。
だから、事件を解いたら君は新一として私の目の前に戻ってくると。

でも、戻ってきたのは、息を切らしてやってきたコナン君。
悲しそうな瞳で見上げた君は、伝言として「死んでも戻ってくるから、待っていてほしい。」と言っていたね。

悲しみにくれた、君の瞳を見て、私は真実を手に入れた。
コナン君と新一は同一人物であることを。
そして、決して面白半分で私に黙っているのではないということを。

それからは、もう問い詰めることもやめた。
きっとなにか事情があるはずだ。
だから正体を隠しているし、きっと気づかれたくないはず。

ならば、騙されてあげる。
気づいていない振りをしていよう。
君が真実を話してくれるまで。
そう決心した。

今思えば、学園祭でコナン君の姿をしていたのは彼じゃない。
だって、極力私と話したがらなかったし、なんだか違和感があった。
それに今は、あのときのコナン君は、哀ちゃんだったのではないかと思っている。

一週間前にコナン君を見送ってから、阿笠博士にコナン君がお世話になっていたことを思い出して、挨拶するついでにクッキーを焼いていった。
そのときに哀ちゃんにもといったら、彼女は親元へ帰っていったと言っていた。

やけに大人びていた彼女。
コナン君とよく一緒にいたところを見かけたっけ。
あまり話した印象はなかったけど、きっとそう。
新一と同じ。

服部君も、いつもいつもコナン君を「工藤」って言ってた。
それに、新一が電話をかけてきたときは、決まってコナン君はいなかった。

こんなにも君だと思わせる証拠がある。
もう、言い逃れはさせない。

それなのに、本人がいないなんてね。
皮肉にもほどがある。


もうそろそろ夕飯の支度をしなければいけない。
学校から帰ってきて、着替えてすぐに座り込んでしまったベッドから立ち上がった。

台所で料理を始める。

お母さんが出ていってからやり出した料理。

新一も何度か食べた時に、おいしいと言ってくれた。
そして、毎日のように一緒に食べていたコナン君も。

コナン君がいなくなってから、一人分料理の量が減った。

小学生には栄養が必要だと、毎回料理を考えながら作り、それが楽しかった。
それも今ではあまり必要なくなり、なんだか気が抜ける。
とりあえず、二人分の夕飯を作る。

外はすでに真っ暗になっていた。響いてくるのは雨音だけ。

もう事務所からお父さんも来る頃だろう。

その時、遠くで電話の音が聞こえた。
事務所で鳴ったらしい。
数回鳴って、すぐに途切れた。
お父さんが取ったようだ。
事件かな。
折角夕飯作ったのに、と呆然と考えていた。

そのうちにお父さんが自宅の方に上がって来た。

「おい、蘭。ちょっと出かけてくる。今、目暮警部から電話があってな。事件だそうだ。」
「夕飯は?」
「ああ、帰ってこれるか分からないから、先に済まして寝てていいぞ。戸締まりに気をつけろよ。じゃ、行ってくる。」
「うん、いってらっしゃい。」

お父さんを見送って、手元を見た。
今日はカレー。
余っちゃうな。
まぁ取って置けばいいだろう。

少し早いが、夕飯にすることにした。

家の中の静けさを破るためにテレビをつけた。
お父さんの行った事件の事をやるだろうか?

一人で食事をするのはいつ以来だろう。

お父さんが事件に行った時はいつもコナン君と一緒だった。
だからきっとコナン君が来る前だ。

いつもそばにいてくれた。

一人の家ってこんなに広かったっけ?。

特に大きな事件のニュースもないのでテレビを消し、食べ終わった食器を片付けた。
今日は早く寝よう。
宿題をして、お風呂に入って、極力いろいろな事を考えないようにしながら、早めにベッドに入った。

明日こそは新一が帰って来るといいな。

この一週間願っていることを再び願って目を閉じた。


***


目が覚めた。
今日も天気は雨らしい。
外は薄暗く、雨音が聞こえる。

朝ごはんとお弁当作って、学校に行かなきゃ。

お父さんは帰ってきたのだろうか?

一通り支度を整え、部屋を出る。
お父さんの部屋を覗いてみたけど、帰ってきた様子は無かった。

なんだか、お父さんの部屋も久しぶりな気がする。
コナン君がいた時は、毎日のように声をかけに入ったりしたっけ。

テレビをつけて、ニュースを聞きながら料理をした。
今日のお弁当には玉子焼き。
コナン君の遠足のお弁当に入れたとき、おいしいといってくれたな。

やっぱり、コナン君がいないと料理が手抜きになるらしい。
お弁当も味気のないものに見えた。

料理をしながら、ニュースに耳を傾ける。

ニュースは、明け方に起きた工場の火災のことをやっていた。
まだ、はっきりしたことがつかめていないようだ。
その火災は、規模の大きな爆発だったらしく、周辺の被害状況を伝えていた。
工場周辺の地域には、あまり家は無く、工場以外でのけが人は少ないといっている。

料理も終わり、ニュースを聞きながら朝ごはんを食べ始めた。
聞き流す程度にしか見ていなかったニュースから、さっきまで普通にしゃべっていたリポーターの少し上ずった声が聞こえた。

新しい情報が入ってきたらしい。

「えー、今入ってきたところの情報によりますと、死傷者は工場で働いていたと見られる男性9人と、高校生くらいの重傷の男性が1人。その他、警察に連行されていった者も多数いるようです。」

高校生くらいの重症の男性?

私は、一番に、大切な幼馴染の顔を思い浮かべた。

そんなはずはない。
これは火災だっていっていたし、きっともっと違う場所にいるはず。

違う。
爆発だったっけ。
連行された人もいる?
これは事故じゃなくて、事件?

事件を解いた後の、あの得意そうな顔が浮かぶ。

まさかね・・・。

時計を見ると、もう時間。
学校に遅れてしまう。
私は慌てて家を飛び出した。


***


学校に着くと、始業五分前。
何とか間に合ったようだ。

園子が声をかけてきた。

「おはよー。蘭!どうしたの?走ってきたみたいね、珍しいじゃない。蘭が、慌てるなんて。」
「えー、そんなこと無いよ。ちょっと家を出遅れただけ。」
「ふーん。そーお?なんだか蘭、顔色悪くない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。走ってきたから疲れただけよ。」
「ならいいんだけどさ。蘭、あのオチビちゃんがいなくなってから、辛そうだよ。まあ、あの子と蘭、仲良かったからね。」
「うん、まあね。あっ、先生来たみたい。」

ちょうどいいところで先生が来た。

出来たら、今ここでコナン君の話はしたくなかった。
涙が出そうになったし、コナン君が新一であることと、早く帰ってきてほしいと思っていることをしゃべってしまいそうだった。
そして、朝のニュースの高校生が新一ではないかと思っていることを。

園子には、今までいろいろ相談にのってもらったことがある。
それに、私が新一を好きなことも知っている。
でも、このことは、言ってはいけないような気がした。
事実、コナン君だって、自分が新一であることなんて一言も言わずに出て行ったのだから。

朝から憂鬱な気持ちで授業は始まった。

休み時間も、園子に心配をかけてはいけないと、勤めて明るく振舞った。

こうして、6時間の授業は終わっていった。

今日は部活も無い。
家には食材もあるから、買い物もしなくていい。

朝の事件が気になった。早く帰らなくては・・・。


***


家に帰ってテレビをつけてみると、すぐに場面が朝見た場所になっている。
しかし、火は消されたらしく、全体真っ黒になって傾いていた。

画面の右横に出ている文字には、「東都製薬全焼  謎に包まれた組織の影」と出ている。

学校に行っていた間に、いろいろと明らかになっていたらしい。

司会者とコメンテーターの場面になり、今までに分かった情報を話している。

有名な東都製薬は、裏に大きな組織を持っていたという。
謎の薬を作ったり、金の横領、政界とのつながりなど、とにかく今まで明らかになっていなかったのが不思議なくらい大きな組織だそうだ。
今回、その組織の情報をつかみ、その壊滅劇がこの事件だったというわけだ。

そこまで来て、司会者がコメンテーターに話しかけた。
「現在重症という情報が入っている工藤探偵は大丈夫でしょうかね?この組織を壊滅させるに繋がった情報は、工藤探偵が集めていたらしいですからね。」
「そうですね。高校生探偵として有名ですが、近頃出てきていませんでしたからね。その間ずっと、単独で動いていたのかもしれませんね。助かるといいのですが・・・。」

私の頭にはクエスチョンマークが飛んでいる。
高校生探偵の工藤?
組織の壊滅?
単独で動いていた?

それって新一のこと?
いつも難しい事件がって言っていたけど、これのこと?
ずっと一緒にいたんじゃなかったっけ?

そして私は、もっとも重要なことを思い出した。

新一が重症 !?


***


私は、すぐさま行動に出た。

新一は「死んでも戻ってくるから、待っていてほしい」って言っていた。

でも、もう、待ってはいられない。

行かなくちゃ!

携帯を取り出すと、お父さんの携帯にかけた。
なかなか出ない。
いっそ、よくお父さんが行く警視庁に電話した方が早いかもしれない。
佐藤刑事や高木刑事の顔が浮かんだその瞬間、お父さんの声が聞こえた。

「蘭か、何だ。今忙しいんだ。後にしてくれないか?あと、今日も帰れそうに無いから。」
「違うの!お父さん!知ってるんでしょ!新一のこと!ねぇ、重症って何?」
「あぁ、そのことか。ちょっとな。」
「ちょっと何よ!お願い教えて!今、新一はどこにいるの?」
「あいつは今、帝丹中央病院にいる。組織のやつとやりあったとかなんかで、わき腹を打たれたんだ。」
「えっ・・・。」
「おい、お前こそ大丈夫か?あいつはきっと大丈夫だ。急所は外れていたからな。」
「・・・・・・・・・・・」
「おい、聞いているのか?」
「うん、聞いてるよ。私これから行くから!」

驚くお父さんの声がした気がしたが、私はもう携帯を切っていた。

私は、急いで出かける準備をした。
帝丹中央病院は一度だけ親戚のお見舞いで行ったことがあるだけだ。
地図を見て、道に迷うより、タクシーで行ったほうがいいことは分かっていた。

戸締りをして、道でタクシーを止める。
行き先を告げると、運転手はすぐに分かったようだった。

時間が経つのが遅い。
まるで動かない車に乗っているように感じる瞬間もあった。




病院に着き、入り口の看護士さんに聞いてみた。
「あの。工藤新一の病室はどこですか?」
「いえ、そのような患者さんは来ていませんが。」

そうだ、彼は有名人なのだ。
まるでファンの一人のような私に、教えてくれるはずが無い。
面会時間は8時までだと書いてある、まだ時間はある。
自分で探すしかないようだ。

有名人の名前を聞いてきた私を、不審な目で見ている看護士にお礼を言って、入院病棟の方へ向かった。
お父さんは、打たれたといっていたから、きっと外科だろう。
それにきっと、手術もしただろうから、ナースステーションのそばの部屋ではないだろうか。

前にコナン君が打たれたときのことを、思い出した。

これでも探偵の娘なのだと意気込んで、ナースステーションを探す。

外科のナースステーションを見つけた。
周りには、個室がある。

怪しまれないように、周りの人の様子を気にしながら、端から部屋を覗いていった。
3つ目の部屋を覗こうとしたとき、ドアに面会者謝絶の札がかかっているのに気がついた。

そっとドアを開ける。
中には病人以外には誰もいないようだった。
一つ目、二つ目の病室とは違い、少し奥まったところのベッドに、誰かが眠っていた。
ここからでは顔が見えない。
誰も見ていないことを確認して、私は中へ入る。

そこには、新一がいた。

青白い顔に驚き、もうすでに涙が出てきた。

そっと、ベッドの隣のいすに座る。

なんとか無事だったようだ。
医者も看護士もいないところからすると、落ち着いたということだろうか?

「新一」
そっと声をかけてみた。
まだ起きる様子は無い。
そして、そっと手を握る。

会えてよかった。
でも、本当に大丈夫なのだろうか?

さっきまでの緊張を忘れ、半分放心状態でそう思った。

その時、新一の指が動いた気がした。

思わず声をかける。
「新一?」

すると、新一の目がゆっくりと開いた。

慌てて新一の顔を覗き込んだ私と目が合う。

「蘭?俺・・・。」

そして、なにかに気づいたようで、目を大きく開いた。

「大丈夫?ここは病院だよ。新一打たれて運ばれたんだって。」

「あぁ、そうだったな。」
「もう!心配したんだからね!いきなりニュースでやってるし、重症だって言うし・・・。」

もう、それから先は、涙が溢れて、それを隠そうとするので精一杯で声にならなかった。
ベッドに横たわる新一に背を向けて立ち上がり、窓の方を向く。
もう、外は暗い。
しかし、雨は止んだようだ。

「そうか、ニュースになってんのか。もう大丈夫だよ。悪かった。心配かけて。・・・それに、ずっと待たせちまって。まさかこんなに時間がかかるとは思わなかったんだ。」
まだ、つらいのか、ゆっくり声に出しているみたいだ。

「それに、俺、蘭に謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
そう、分かってる。
次に出る言葉は、きっとあの事。
だけど・・・。

「もう、蘭に嘘つきたくないから・・・。俺・・・。」
涙を拭いた。
そして、勢い良く振り返る。

「ねぇ、それより、私、新一に答えてほしいことがあるの。」
出来るだけ明るく、何気ないことのように言ってみた。

え?
と言うように新一は私の顔を見る。
そして、私は、新一の目を見る。

そう、ずっと待ち望んだ君の瞳。
決して変わることの無いその視線。

いつも、一緒にいてくれたよね。

「私のこと好き?」

君は何も言わない。
少し驚いたみたいだ。

そして私は続ける。

「ねぇ、コナン君。」

新一がピクッと動いた。
視線が泳ぐ。
でも、すぐに私を見て、口を開いた。

「あぁ、大好きだよ。蘭姉ちゃん。」

子供の振りもせずに、真剣な声だった。

私は何も言えなかった。
でも、今までコナン君は新一だと思っていた自分の考えは間違っていなかったらしい。
再び新一が口を開いた。

「知ってたんだな。」
私は頷いて続ける。

「だって、コナン君たらまるで新一なんだもん。事件が起こるとすぐに興味を示すのもそうだし、第一、何年一緒にいると思ってるのよ。」
しゃべりだしたら、いつもの電話みたいに、怒鳴りつけてしまいそうだった。
でも、出来るだけ心を静めながら聞いた。
だって、怒っているわけじゃないんだから。

「あぁ、そうだよな。」
「それに、服部君はいつもコナン君を工藤って呼んでたし・・・。新一からの電話がかかってきたときは、決まってコナン君いないし、新一が現れた時だって・・・。」
「分かってたのか?」

「うん、あの時はコナン君だと思っていたけど、レストランで新一がいなくなっちゃった時に来たコナン君、つらくて、悲しそうだったもの。」
「あぁ。」
「それまでは、私が悲しんでいるのを面白がっているのかなと思ったけど、すごく辛そうだったから。きっと、秘密にしなきゃいけない理由があるんだろうなって思ったの。」
「だから、コナンとして接して、疑っていない振りをしてたのか。」
「うん。」

沈黙が降りた。
しかし、すぐにそれを破ったのは新一だった。

「そうだよ。辛かった。正体隠して、いつも蘭を悲しませてばっかりで。いつも口を開いたら正体しゃべってしまうんじゃないかと思った。でも、蘭に危険な目にあってほしくなかったから、言わないでいようって思ったんだ。本当にごめん。」
「ううん。違う。誤らないで!私怒ってないし、ずっと一緒にいてくれて嬉しかったんだから・・・。いつも、守ってくれてありがとう。」

もう、涙で新一の顔ははっきり見えなくなっていた。
それでも笑って言ったつもりだった。

涙を拭いて、もう一度新一の瞳を見つめながら続けた。

「それでね、もう一つ聞きたいことがあるの。いい?」
「あぁ。」

顔が熱い。
でも聞かなくちゃ。
ずっと気になっていたことだもの。

「私のこと好き?」

さっきと同じ質問をもう一度。

「ねぇ、新一?」

そして、新一はまるでその質問が分かっていたように、すぐに答えた。
「あぁ、好きだよ。蘭。ずっと好きだった。」

それを聞いて、私は再び涙を流した。
一週間で、こんなに泣くのは、きっともう無いだろう。

とめどなく溢れる涙で佇んでいた私に、新一が聞いてきた。

「蘭は?」
なんで聞くんだろう?
もう前に直接私の口から聞いたくせに・・・。

「知ってるでしょう?」
「いや、そうだけど、俺の姿で、面と向かって言ってもらってないし。ずっと思ってたんだ。元の姿に戻ったら、ちゃんと聞きたいって。」

私はそっと言った。

「好きだよ、新一。私もずっと大好きだった。」

嬉しくて、恥ずかしくて、思わずベッドの横で、椅子にも座るらずにうずくまった私の肩に、手が置かれた。
見上げると、横たわっている新一の手で、そっと自分の手を重ねると、優しい力で握られて、引っ張られた。

立ち上がると、視線が合う。
その手に引かれるまま、少し立ち上がると、新一が優しく涙を拭ってくれた。
そのまま手を引いてゆく新一の手。
どんどん近づく青白い新一の顔が、少しいつもの自信満々な顔になり、そこまで見た私は、そっと目を閉じた。

腕を引く手が止まる。
そして、初めて私達は唇を重ねた。


***


その後、
私達が微笑みあっていた瞬間、医者と看護士、目暮警部と何人かの刑事さん、そして、お父さんが入ってきた。

新一のベッドから飛びのいた私を不思議そうに見ている。
佐藤刑事がニヤッと笑った。
顔が真っ赤になってしまった私。

「変なことしなかっただろうな!?」と新一に怒鳴りかかるお父さん。
新一は「こんなかっこじゃ何にも出来ないですよ。おじさん。」などと平然と交わし、医者に脈を取ったりされながら、警部や刑事さん達と事件について話している。

新一の怪我の具合は、重傷だったが、お父さんの言うとおり、急所ではなかったため助かったらしい。
それでも麻酔でもう少し眠っている予定だったらしいから、私が起こしちゃったのかもしれない。
とにかく無事でよかったと心の底から思う。
退院までには、一ヶ月ほどかかるらしい。

早く、また一緒に学校に通えるといいな。

幸せな気持ちでいっぱいだった私が、帰る前に、面会謝絶の札がかかった病室に勝手には入ってはいけないことを注意されたのは、言うまでも無い・・・・・。



Fin.



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