Drivin’



By 緑川さつき様



「悪いわね、高木君。」
「いいえ、方向が一緒ですし。」

そう云いながら、高木は車の運転をしていた。本来、別々の事件を担当しているので、別行動になるのだが、今回は美和子の公車が車検中の為、現場までの足が無く、高木が担当していた事件の聞き込みが同じ杯戸町なので同乗することになった。

「結局、お互い手がかり無しね。」 

「でも一つずつ、つぶして行くしかありませんからね。」

と頷いた。
ふ〜と息を吐きながら美和子は手帳に聞き込みの状況を記入していると、左側を走行していたバイクが急に右に膨らんできた。

「おわっ!!」

高木はハンドルを少し切りながら、ブレーキをかけ速度を落としバイクとの距離をあけた。
すると

「あらっ!」

と、慌てる声が聞こえた。

「大丈夫ですか、佐藤さん?あのバイク、ゴミを避けたせいで寄ってきたみたいですね?」

助手席の美和子に声をかけると

「実はそっちに、転がっちゃったのよね!」

そう云って、運転席の下を指差した。
バイクを避けた際に起こった振動で、仕舞おうとしたペンが高木の足元に、落ちてしまったのだ。運転席の下をのぞき込むが足元は暗くて、しかも走行中の為よく見えない。

「佐藤さん、次の信号が赤になりそうですから、少し待ってください。」  

前方には大きな街道にぶつかる交差点があり、ちょうど時差式の信号が赤に変わろうとしていた。これで暫く停車が出来るので、高木はサイドブレーキを掛けてから足元をのぞき込む。だが、自分の位置からはよく分からない。すると、美和子はシートベルトを外して、少し身を乗り出し手を伸ばしてペンを拾おうとするが、なかなか取れない。

「もう!なんで、転がるのよ!!」

と云いながら、さらに頭を高木のひざの上にのせて手を伸ばしてきた。要するに、膝枕状態で落としたペンを探す。

「さ、佐藤さん!?・・・ま、参ったなぁ。」
「えっ!?信号変わっちゃう??」
「い、いえ!!まだ大丈夫ですけど・・・・・」 
「もう少しなのよ。」  

そんな膝枕状態で上目遣いに見られたら、職務中だという事を忘れてしまいそうになる。このまま信号がずっと赤なら良いかも、という思いが頭の中を過ってしまう。
ふと、視線を感じて運転席側の窓を見ると、隣で同じく信号待ちをしていたワゴン車から羨ましがる顔でジ〜っと見られ、更に口笛で冷やかされた。

「は、ははははっ・・・・・(ご、誤解されている!!!)」

動けずに顔を赤くしながら、愛想笑いをしていると

「取れたぁ!」

と声がして、美和子はすっと身体を起こし助手席に座りなおした。そして改めてシートベルトを締めると

「信号、間に合ったわね。」とウィンクひとつ。
「は、発車します!!」

神の助けかタイミング良く信号は青に変わった。隣のワゴン車の視線を無視しつつ、変に慌てながら、高木は再びアクセルを踏みハンドルを握り直した。
そして、走行しながらちらりと助手席を見ると、とても楽しそうな美和子の笑顔が見えた。



FIN…….




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