姫紫〜勿忘草〜



By 緑川さつき様



あの爆弾事件以来、お互いの気持ちが同じモノと気がつき、自然と恋人同士になったのだが公にはせずにいた。
しかし署内では、既に高木が取調室で他の刑事達に囲まれて・・・。結局バレてしまっていた。様々な妨害があるものの、互いに気持ちを認め合ってからの高木は勘が鋭くなった。
美和子も不安になった時、手を握って高木の存在を確認していた。
が、それ以上の関係までは進んでいない。
キスはしている。でも、その先は美和子自身がはぐらかして逃げてしまう。

「ゴメン。。。」

はじめの頃は、嬉しさのあまり高木自身も急ぎ過ぎてたのかと思ったが、そうではなく美和子の心にミエナイ欠片が存在しているようだった。
そんなある日、久し振りに張込みの親衛隊の刑事達を撒いて、二人で食事をした帰りの車の中でワタルはさっきまでのトーンより低めの声で美和子に訊ねた。

「佐藤さん、本当に僕で良かったんですか?」
「えっ?」

助手席の美和子は、ワタルをしばらく何も言わずに見つめていた。
ワタルはそんな美和子をチラッと見てから不安そうな声で尋ねた。

「僕に出来ることはないんですか?佐藤さん?心の中がみえないのは僕の事を必要としていないからで、・・・ひとりで舞い上がり過ぎていたんですかね?ほ、本当は・・・」

そこまで言って言葉を躊躇してしまった。美和子も口を開こうとしたが、すぐに閉じて黙ってしまった。


しばらくして車が私道に入り、ワタルのアパートの駐車場で止まった。
そして、一呼吸置いてからいつものように話しかけた。

「この前話していた試合のビデオ、休み明けだと忘れそうなんで。今、取ってくるのでチョット待ってて下さいね?」

ドアの閉まる音で、我に返った美和子の心は哀しみで溢れていた。
『そんなんじゃない!!違うの!!!』声にならない言葉にギュッと目を瞑り、後ろを振り返ってワタルの姿を目で追った。

「大切だから。。。。貴方が大切だから!怖いのよ!!」

全てが満たされたら、そこから全て奪われてしまう。
言葉では、そんなはず絶対無い!!と言い切っても奥底に在る欠片が心に蓋をしてしまう!!!!!
みつめていた先からワタルの姿がふと消えた瞬間、ドアを開けておもわず追い駆けた。
息が出来なくなってもいい!貴方が私の前からいなくなってしまう事の方が死んでしまう!!

「だから行かないでっ!!」

美和子は部屋に入ろうとしていたワタルの手を掴んで、懇願するように顔を見上げた。
何が起こったか解らず一瞬動きを止めたが、互いに言葉を探すようにしばらく何も言わず、じっと見つめ合った。

「どうしたんですか?」

彼はやさしい声で尋ねた。美和子は懸命に息を整えて声を絞り出した。

「お願いだから、私を置いて行かないで!独りにしないで・・・」

ワタルは、そんな美和子の言葉に正面に向き直ってじっと見つめ、心配そうに尋ねた。

「僕に出来ることはありますか、佐藤さん?」

それを聞いて、彼女の目から涙が溢れてくる。
どうしてそんなにやさしいの? 私はあなたを拒絶したのよ、それでもまだ温かく迎えてくれるの?

「・・・ええ。」

ワタルに対する思いか胸いっぱいにあふれ、声がかすれる。

「心の中も、身体の中も、貴方でいっぱいにして!お願い・・・・・・」

握られていた手を握り返し、反対の手で零れ落ちる涙をそっと拭った。

「僕で良いんですね?」

ワタルはほほえむと目を見つめた。
すると、美和子の心がふわっと温かくなった。
それだけの事なのに、うれしさでいっぱいになってしまう。
貴方にすべて任せれば導いてくれるのね?かすかに震える手でワタルの胸に手を置いて顔を埋めた。
この人だから・・・貴方だから!・・・そして、両手で抱きついた。

「僕の心は今でも同じ、アナタだけですよ。」

美和子は大きく息を吸い込んでから言った。

「だったらお願い、私を信じて。」

ワタルは美和子を見て、安堵の息をつき囁いた。

「よかった。僕が大切なのは、美和子さんあなたですよ。」

そう言うとワタルはやさしく抱きしめた。この温もりがいつまでも消えないように。。。











作者様後書き


いゃ〜書いててチョット恥かしいかも?!この二人はなかなか進展していかないのでは?と思いまして。
さてはて、この後の二人は??勿論、甘く長〜い夜となっている筈です!(笑)時間が有れば書きたいなぁ☆

by 緑川さつき


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