千羽鶴



By なかはらゆう様



6月21日
快斗が二十歳になります。
節目の記念日、素敵な1日にしてあげたかった。
快斗がやりたいと思う事、食べたいと思うもの。
どんなささいな事でも叶えてあげたかった。

どうして?
こんな大事な日に、こんな大事な事を。
Wブッキングなんて、ひどいよ。

この2つを両天秤にかけて、快斗がどっちを取るかなんて、最初から判ってる。

   ────パンドラが見つかった。
   ────今度こそ、最後だ。

決着をつける日が、誕生日と重なったのは、神様のイタズラか。

快斗から打ち明けられたのが1週間前。
その日から、下準備の為、闇に潜って行った。

次に青子が快斗に会えるのは、当日の早朝。
仕事の前には、必ず青子の元に来るから、その時だけ。

だから、決めた。
快斗にとって誕生日よりも大事な事だけど、青子には誕生日だって大事だから。

快斗に、KIDに。
無事を祈って、二十歳を祝って。

千羽鶴、折ります。

青子の気持ちだから、青子がそうしたいから。
一人で千羽、折ります。

「1週間で千羽でしょ。だから1日で150羽折れば間に合うよね」

千枚ある折り紙を150ずつ分けて、いざ出陣!

「快斗、待っててね」











   1日150羽。
   鶴自体は難しいものじゃないけど、紙が小さいから、だんだん目が疲れてくる。
   首も肩も痛い。
   そして何より、普段夜更かしなどしない青子には、連日のこの作業はかなり辛い。

   それでも青子は頑張った。
   KIDは青子には踏み込めない領域だから、寺井さんのように傍にいる事は出来ない。
   それでも何かしたい、してあげたい。
   その一心だけで、手を動かした。













「無茶しないで、って言っても無理だよね」
「ゴメンな」
「快斗、手出して」
「?」
「誕生日、おめでとう」
「!!」

「ごめんね、千羽鶴贈りたかったのに、間に合わなかったの」

青子の手元にあるのは900羽の鶴。

「残りは今から折るから、完成したら受けとってね」
「・・・帰ってくるよ、絶対に」
「うん、待ってるから。この鶴と一緒に待ってるから」

900羽の鶴が快斗の手から青子の手に戻ってきた。
そのまま、その鶴ごと抱き締められた。

「行ってきます」

小さなその一言を残して、快斗は戦場へと飛び立って行った。



end




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