〜shining my tears 夏の終わり〜


By なーのん様


少し肌寒い潮風 砂に埋もれた花火の残骸。
今歩いてきた砂浜を振り返れば私と蘭の足跡しかない・・・そんな誰もいない夏の終わりの海・・・。

「海を見に行こう!」って言い出したのは蘭。
私は・・長い髪を潮風に遊ばせながら無邪気に波と戯れてる蘭のことをまっすぐ見ることもできず、ただ果てしない水平線を見つめてるだけ。
この海のむこうにあなたはいるんだよね?
大きな大会があるからって夏休み帰ってこなかった。
ねえ・・楽しい?夢を追いかけるのは私といるより楽しい?

「園子・・・私といても楽しくない?」
「ええっ!?」

蘭は少し困ったように私に微笑みかける。優しく微笑む。

「やっぱり京極さんじゃなきゃダメ?って当たり前か・・少しは気晴らしになるかなっておもったんだけど・・。」
「蘭・・・」
「そんな風に落ち込んでる園子・・見ていたくないよ・・ねえ、何でも言ってよ!泣いたっていいんだよ?泣いて泣いて、すっきりしたら元の元気な園子に戻ってくれたらいいんだから。」

全部話したい・・蘭に聞いてもらいたい・・・。
でも私は知っているから。私より蘭の方が辛いってことを。
それでも毎日笑ってる蘭にどんな顔して相談できるって言うの?
どうして私も蘭みたいに強くなれないの?
蘭みたいに頑張れないの???

「・・涙・・我慢しなくてもいいんだよ?泣いて・・それで明日からまた頑張ろう・・?」
「ーなんで!?なんで蘭は我慢できるのよっ?耐えられるの?頑張れるのよ・・・。」

1週間前、待ちに待った真さんから電話があった。
「世界の強豪があつまる大きな大会」があるんだと嬉しそうな声で笑ってた。
そんな真さんの後ろで英語の会話。
なんだか・・なんだか真さんがとても遠くにいるんだと・・逢えない場所にいるんだと・・。
なんだかものすごく悲しくて・・真さんの中に私なんて存在してないような気がして・・。
なんだかものすごく淋しくて・・淋しくて・・。

「そんなに大きな大会なら練習大変で、疲れているでしょ?貴重な時間さいてまで電話くれなくてもいいから・・。」

言いたかったのは・・そんな言葉じゃないのに・・。
それから1週間・・律儀な彼は電話をかけてこない。
もしかしたら、もう2度とかけてこないかもしれない・・。
それでも仕方ないもの・・そうさせてしまったのは私自身・・。

「ねえ・・園子。私が頑張れるのは園子がいるからだよ。園子も私と同じ気持ちを抱えてる。ひとりじゃ耐えられない・・そんな時は園子のこと思い出す。園子だって・・こんなに不安な夜を耐えてるんだって。・・私だけが辛いんじゃない・・園子も頑張ってるって。」
「蘭・・・。」
「いちばんの友達が同じ痛みを・・同じ淋しさを知ってる・・それって・・すごく心強いんだよ!!誰もわかってくれないかも知れないけど園子だけはわかってくれてるはず・・ううん、絶対わかってくれる。」

逢いたい人に逢えない淋しさ・・素直になれない気持ち
ふいに襲ってくる不安・・。
そんな気持ちを知っている・・同じ気持ちを抱きしめて頑張ってる。
あなたが笑っていてくれるから、私も笑顔忘れずにいる。

「・・泣いてもいい?・・私、蘭の前で泣いてもいいの?」
「うん!泣いて泣いて・・明日からまた一緒に頑張ろうね!」

波音が私の声をかきけしていくけど、蘭には届いてるよね。
蘭、ありがとう・・そばにいてくれて・・。
蘭が泣きたいときは私が受け止めるからね。

「電話って・・切った後・・すごく淋しくならない??」
「うん・・なるよね・・。」

話してる時はそばにいてくれるように感じるのに電話が切れるとひとりぼっち・・ここにはいないんだって思い知らされる・・。
なのに・・それなのにまた電話待ってる自分がいるの・・。
悲しい想いを繰り返すのに・・逢えないことを思い知らされるのに。
なのに・・それなのに・・あのひとを待ってる・・ずっと待ってる・・。

「夏・・終わるね。」
「うん・・終わってゆくね・・。」

そっと瞳を閉じて胸いっぱい海の香りを抱きしめる。
閉じた瞳の中に「今度の夏」が浮かんでは消えてゆく。
あのひとと笑う・・そんな夏の風景が見えるから。
きっと・・頑張れる。だって、ひとりじゃないから・・頑張れる。


〜fin〜


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