shining my tomorrow


By なーのん様


揺れる蘭の長い髪からかすかに潮の香り。
玄関に置かれたサンダルについてる白い砂。
・・そして少し赤かった・・蘭の瞳。

「園子ねえちゃんと出掛けるって言ってたから、てっきり映画かなんかだと思ってたけど、海に行ったの??」
「よくわかるね、コナンくん。・・もう海は秋だったよ・・。水も冷たくて・・人もいなくて・・。」

ドウシテ海見ニイッタノ?そんなこと聞かなくてもわかってしまう。
どうすることもできない。(新一)のことで落ち込む蘭を(コナン)はどうしてやることもできないのに・・・。

「なにやってんだ・・オレ・・。」

気がついたらオレの足は高校に向かってた。
夏休みだっていうのに朝早くから空手の練習に出掛けた蘭を迎えに。
本当、こんなことしたって意味なんかないのに・・・。
今のオレが・・(コナン)がどれだけ蘭をなぐさめたって蘭の気持ちが晴れるわけねぇーのによ・・。
それに、どうせ園子も来てるだろうな・・あいつヒマ人だし。

「あれ・・あいつ・・・。」
ため息をつきながら校門に向かうオレの足をとめた人物がいた。
そいつは・・多分今のオレと同じくらい情けない顔で校門の前で立ちつくしている。
まったく・・恋ほどやっかいなものはねぇーよな。
『平成のシャーロックホームズ』なんて呼ばれてるオレに。
『蹴撃の貴公子』なんてよばれてるあんたにため息つかせちまうんだから・・。
「京極のおにいちゃん!園子ねえちゃんに会いにきたの??
園子ねえちゃんなら、きっと空手の道場にいるよ。」
「ええ!?うわっ!・・・・君は・・たしか・・。」
「江戸川コナンだよ。園子ねえちゃんの友達の蘭ねえちゃんのところでお世話になってるんだ。前に・・会ったよね?」
「ああ、そうですね。・・園子さん、元気にしてますか?夏風邪とかひいてません?あの人、薄着というか・・下着のような服ばかり着てますから。」
おいおい・・園子の様子をオレに聞いてどうすんだよ。
自分の目で確かめればいいだろ〜。
「ボクに聞かないで、自分でたしかめたほうがいいんじゃない?」
「・・いえ・・なんとなく・・園子さんは私に会いたくないんじゃないような・・先日も電話で忙しかったら無理してかけてこなくていい・・そんな風に言われてしまいました・・。」
・・それは・・声を聞いたら会いたくなってしまうからだよ・・。
電話を切った後に遠い距離を確認してしまうからだよ。
離ればなれの二人の距離を・・。
でも、電話がなかったらなかったで「私のことなんて忘れた」って落ち込むんだよ。
ほんとうにわけのわからない生き物なんだよ・・女って。
でも・・そんな風に淋しい気持ちにさせてしまてるのはオレたちなんだってこと。
それ・・わかってやれよ。不安が消えるくらい力強く抱きしめてやれよ。
あんたにはそれができるんだ。その腕で抱きしめてやれるんだから。
オレがしてやりたくてもできないことを・・。
できるんだから悩むなよ。
「・・園子ねえちゃんは元気・・。」
「そうですか、元気ですか。それはよかった・・。」
「元気なわけねぇーだろ!!昨日だって蘭と海行って泣いてた。あんたに会いたくて泣いてたんだよ!!泣かすなよ・・そんな風に泣かすなよ・・好きな女だろっっ!力で守ることも必要だけど、それだけじゃ・・それだけじゃ・・ダメなんだよ・・。」
これはやつあたりだ。自分ができないからって・・。
こんなに誰かを羨ましいと思ったことはなかったよ・・。
恵まれた世界で(工藤新一)として生きてたときにはそんな気持ち、知らなかった・・。
泣いてる蘭を抱きしめたいのに・・この細い腕じゃだめだから。
「会いたい」と言われたら、飛んでゆけるあんたが羨ましい。
「やっかいな事件が」ってごまかさず会いにいける・・。
羨ましくて・・羨ましくて・・。
「園子ねえちゃんに会いたいから、ここに来たんでしょ?会わずに帰ったら後悔するよ・・。」
いつも会えると思ってた。毎日顔合わせていたから、当たり前のように「明日」も会えると思ってた。あの薬飲まされるまでは・・。
いまも毎日会ってるけど・・(コナン)じゃだめなんだ・・。
(新一)じゃ・・なきゃ・・。
「当たり前の明日を過信しちゃ・・いけないんだよ・・。」
明日会えるからいい・・なんて2度と思わない・・新一に戻ったら。
「ありがとう。」
京極は力強い手でオレの頭をなでると、まっすぐ背筋を伸ばして園子目指して歩いていった。
「ばぁ〜ろぅ。子供じゃなぇんだよ。」
まっすぐ、まっすぐ歩く背中に、自分を重ねる。
かならず会いにいくから・・きっと・・。
そっと、空を見上げる。流れる雲はもう秋の雲。
「・・夏もおわりだなあ・・。」
来年の夏は一緒に海にいこう・・新一と蘭で・・。
まあ・・園子と京極と一緒でもいいや。
蘭が楽しそうに笑ってくれるならいい・・・。
今度の夏は・・笑っていて。


〜fin〜


戻る時はブラウザの「戻る」で。