Love Star



By さくら様



 
ガラッ


「あれ? 園子、まだ残ってたの?」
放課後、部活の顧問の先生に呼ばれて話を済ませてから、教室に戻ってみると、園子が真剣な顔で机に向かっていた。

(・・・?)

何か、手紙みたいなモノ書いてるみたいだけど・・・
「あ、蘭」
顔を上げた園子が、驚き顔でわたしを見る。
「何してるの?」
「な、何でもないよ・・」
少し焦り気味の園子の笑顔を不思議そうに見つめながら、机の上をさりげなく覗きこもうとしたら、
園子が慌ててソレを隠すように覆いかぶさった。

(・・・)

「あ、もしかして京極さんに手紙書いてたの?」
誤魔化さそうとしている園子に茶目っ気半分で笑いながら聞く。

「えっ・・!?」

言い当てられた、園子の頬がポワァと赤く染まる。
クス。
そんな園子が何だか可愛く見えて、思わず小さく微笑ってしまう。
「なによう・・・」
「ううん、別に♪」
いつまでもクスクス笑ってるわたしを、何か言いたそうな目で見上げてた園子が、何かを思いついたように、声を上げた。

「あっ! 新一君からの伝言! 屋上にいるから、戻ってきたら来てくれ。・・・だって」
「屋上?」
笑うのを止めて、園子に聞き返す。
「うん。な〜んか、蘭が戻ってくるまで寝とくからって」
「ふ〜ん、分かった。・・・園子は? まだ帰らないの?」
自分の机の上に置いていたカバンを手に取りながら、園子に話しかける。
「う、うん。コレ・・書いちゃいたいし」
園子は、やっぱり少し恥ずかしそうに手元の手紙に目を移しながら、微笑んでる。

“どんなコト書いてるの?”
手紙を見ながら幸せそうな顔をしている園子に、喉まで出そうになったその言葉を慌てて飲み込んだ。
邪魔しちゃ、悪いかな・・・
今はきっと、京極さんの事、想ってるんだろうし・・・
邪魔者は、退散しなきゃねv

「クス、そっか。 じゃあ、わたし行くね」
「うん。・・・あっ、蘭」
手を振って、教室を出ようとしたわたしを園子が急に呼び止める。
「ん? なぁに?」
振り返ったわたしを、イタズラっぽい目で見ながら言った。
「屋上で、エッチなことしちゃダメよv」
「ばっ・・・ そんなことするわけないでしょ!」
頬を赤くしながら、否定したわたしを見て、ケラケラ笑ってる。

もう・・!!
すぐ、からかうんだからっ・・・
いつまでも、笑ってる園子に今度は、わたしからの反撃。
「園子も、京極さんへのラブレター 頑張って書くのよvv」
「ち・・、ちがっ・・・」
一瞬、あたふたした園子に笑いながら、もう一度手を振る。
「あはっ、じゃあね」
「うん・・ バイバイ」

お互い顔を赤らめながら手を振って、わたしは新一がいるって言ってた屋上までの階段を、駆け上がって行った。


*****


ガチャ


屋上の重たいドアを開けると、少し生暖かい夏の風がブワァ・・と校舎の中に舞い込んでくる。
(新一、どこにいるんだろ・・・)
ドアを閉め、キョロキョロと回りを見渡してみるけど姿が見当たらない。

あれ?

園子、屋上にいるって言ってたよね?
新一の姿を探しながら歩いていくと、ちょうど壁で陰っている所に、カバンを枕代わりにして横になっている新一がいた。
「あ・・・」
なんだぁ、こんなトコにいたんだ。
もしかしたら、帰っちゃったのかと思っちゃったじゃない・・・

ホッと胸をなで下ろしながら、静かに新一のそばまで歩いて行き、そぉ・・と顔を覗き込むと、
前髪を風に揺らせながら気持ちよさそうに眠ってる。

「クス・・、ホントに寝てる」

その場にしゃがみ込み、新一のほっぺをチョンっと指でつついてみる。
「・・ん・・」
あ、起きるかな・・
夢の中で頬に何かが触れたのを感じとったのか、手を頬に運ばせると、そのままゴロンっと寝返りをうって、また寝息をたて始める。

「ぷっ・・・」

完全に熟睡してる。
そう言えば、昨日の夜、事件で呼び出されたから、あんまり寝れてないって言ってたっけ・・・
授業中も、ずっとウトウトしてたもんね。
もう少し、このまま寝かせてあげようかな・・・

眠っている新一のすぐそばに腰を降ろし、何をするわけでもなく、ただぼんやりと新一の寝顔を見つめてた。
こんなに、ゆっくり新一のそばにいるのって、一週間ぶりくらいかな?
わたしもこの一週間、部活とかが忙しくて、学校でしか会えなかったし・・・
そりゃ、電話とかメールはしてたけど、やっぱりこんなふうに手の届く距離で、一緒にいたいな。
そんなことを思いながら、お腹の上に無造作に置かれた新一の手に、そっと触れてみる。


わたしの手を握ってくれる、手。
わたしに触れる、細くて長い指・・・
わたしにキスを落とす、唇・・・
わたしを見つめる、瞳・・・
新一の全てが、好きで好きで仕方ないよ・・・


急に胸一杯に溢れ出した、そんな想いを止められず、眠っている新一の頬に、そっと唇を落とした。

-------------と、その時。


カチャ


(・・・!?)

微かに聞こえた、その音に顔を上げる。
え? 
今、なんか音がしたような・・・

「・・・・・」

まさか、ね?
何となく、嫌〜な予感を抱えながら立ち上がり、音がしたドアまで歩いて行く。

ガチャ、ガチャ

ドアノブを軽く回してみる。
(・・・?)

ガチャ、ガチャ!!

「・・うそ、開かない・・・」

ドアを開けようと、引いてみるけど開くわけもなくて・・・・
何で鍵がかかってるの?
だってまだ、5時過ぎだと思うのに・・・

ドアをドンドン叩いてみるけど、誰かが気付いてくれる気配もない。
どうしよう・・・
このままじゃ、ここから出られないよ。
フェンス越しに向かいの校舎を見てみるけど、誰も通っていない。

どうしよう〜〜〜〜〜〜


*****


「新一。新一・・・」


(・・・ん?)

遠くの方で何度も呼ばれてる気がして、重たいまぶたをそっと開けた。
いつの間にか、屋上に来ていた蘭が、どこか不安げな瞳でオレを覗き込んでいる。

(・・・?)
どうしたんだ?
なんか慌ててるようにも見えるけど・・・

「蘭? どうしたんだよ、んな慌てて・・・」

身体を起こしながら、話しかけると、蘭は一瞬、ホッとしたような顔になる。
「新一、どうしよう・・・」

(・・・?)
でも、その安堵の顔もすぐに消え、焦ったふうに話し始める。
「屋上のドアの鍵、かけられちゃったのぉ・・!!」
「え?」
「ドア叩いても、誰も気付いてくれないし・・・」

あぁ・・、閉じこめられたのかぁ・・
起きたばかりの、ぼぉ〜とした頭の中で、それだけを認識すると空に向けて腕を伸ばし、グ〜っと背伸びをした。
「もう、新一!! どうしたらいいか考えてよ」
慌てる風もなく、やけに落ち着いてるオレを、蘭がじれったそうに見ながら言う。

「このままだと朝まで---------------」

そう言いかけて、オレと目があった途端、戸惑ったように頬を赤くしながら、パッとオレから顔を逸らした。

(・・・?)

なんで、蘭のヤツ急に顔赤くしてんだ?
不思議そうに蘭の横顔を見つめながら、蘭の言いかけた言葉を思い出す。
あっ、そっか・・ このままだと朝まで2人っきりなんだよなぁ・・・
それで蘭は、赤くなってたのか。

(・・・・・)

オレは、それでも別に構わねーけど・・・
それよか、ちょっとラッキーって心の中で思ってたりしてんだけどな。
「ら・・」
「あっ!ケータイがあるじゃない!!」
うつむいていた蘭に声をかけようとした瞬間、思いついたようにそう言うと、カバンの中をゴソゴソと探り始めた。
「ケータイで、園子か誰かに連絡して開けてもらおう♪」

はぁ・・、やっぱりここで2人っきりっていうのは嫌なのかぁ・・・
思わず、肩の力がガクッと落ちる。
オレは、嬉しかったりしたんだけどなぁ。
ここだと、事件に呼び出される必要もねぇし・・・
なにより-----------------


「あった!・・・あっ」

ケータイを見つけて嬉しそうに声を上げたかと思うと、次の瞬間、力の抜けた声が蘭の口から漏れた。
「? どうしたんだよ?」
そう言いながら、蘭の手元にあるケータイを覗くと画面が真っ暗。
(あ・・、これってもしかして)
「どうしよう・・新一、電源切れてる」
(やっぱり・・)
途方に暮れたような表情でオレを見る。
かなり落ち込んでいる蘭を横目に、内心ちょっとホッとしている自分が、少し後ろめたい気もするけど・・・
でも、蘭には悪いが、電源切れてて良かったって思ってるのが、オレの正直な気持ちだったりするんだよな・・・

「新一は? ケータイ持ってる?」
「え? ・・・あぁ、今日は持ってきてねーよ」
「うそぉ・・、いつも持ってるのに・・・」
少しの期待が外れて、愕然としている蘭にボソッと呟くように言った。

「誰にも、邪魔されたくなかったから、さ・・・」

「え・・・」
顔を上げた蘭が、驚いたような目でオレを見つめてる。
わずかに熱くなる頬を隠すように、蘭から目線を外しながら付け足す。
「今日は、ずっとオメーと一緒にいたかったから・・・」
「新一・・」

自分で言いながら、だんだん恥ずかしくなってきて、蘭から目を逸らすと壁に背を当てて座り直した。
黙ってオレを見ている蘭の視線が、身体中に痛いほど突き刺さる。
何か言ってくれよ・・・。
無言の空気が、息苦しい。
もしかして、そう思ってたの、オレだけだったのか?
ほんの数秒の沈黙に、不安が胸をよぎり出していた。

「・・・・・」

少ししてから、静かに立ち上がった蘭がオレのそばに近づいて来ると、黙って隣に腰を降ろした。

(蘭-------?)

蘭の方を見ると、何も言わずにうつむいてる。
だけど、どこか嬉しそうに微笑んでるようにも見えるその横顔に、心の中で小さく安堵の息を漏らした。

「そのうち、誰かが気づいて開けてくれるさ・・、それまでここにいよーぜ」
「う・・うん。でも、それまでって・・、誰も気づいてくれなかったらどうするの?」
「そりゃあ・・、朝まで、ここにいるしかねーよ」
「・・・」

「嫌、か・・・?」
またうつむいて、黙りこくった蘭に、静かに尋ねる。
顔を上げ、オレを見つめる蘭の瞳に、戸惑いの色が浮かんでいる。
少しの沈黙の後、ふるふると小さく頭を横に振った蘭が、小さくオレに微笑いかけた。

「嫌じゃ、ないよ・・・。わたしも、ずっと一緒にいたいって・・・、思ってたから」

蘭は頬を赤らめながら恥ずかしそうにそう言うと、すっと視線を地面に向けて落とした。
そんな蘭が可愛くて、一週間 触れられなかった欲望が、身体中に溢れてきそうになる。
身体が勝手に暴走しそうな感情を必死に押さえながら、そっと蘭の肩を抱き寄せた。
壊さないように・・・

「新一・・、そばにいてね」

耳元で、小さく囁くように言った蘭の声を聞きながら、蘭の細い身体に回した腕に、ほんの少し力を込めた。


*****


「ねぇ、新一」
「ん?」
「もうすぐ夏休みじゃない?」

座ったまま後ろから、わたしの身体に緩く腕を回している新一の手に、自分の手を載せながら話しかける。
あれから、どのくらいの時間が経ったか分からない。
けど、少し前に陽が沈んで暗くなりかけた空の上に、1つ2つ明るい星が輝き始めていた。

「あぁ・・・、そうだよなぁ」
「どっか行こうよv」
「どっか、って?」
「ん〜・・・、花火大会とか・・・、だめ?」
そう言って、振り向いたわたしに、新一がフッと柔らかく笑いかける。
「いいよ、行こうぜ」
「本当!? やったぁ」

嬉しくて、顔中に笑顔が広がっていくのが自分でも分かるほど、喜んじゃったわたしに新一が苦笑いしてる。
あ・・、今 新一、 絶対わたしを見て子供みてぇって思ったよね!?
でも、呆れられてもいいもん♪
子供みたいって思われたって構わないv
そんなことより新一と花火大会に行けるってコトの方がうれしいんだもん!!
何着て行こうかなぁ〜
やっぱり夏だし、浴衣かな?
浴衣着て行ったら、新一どんな顔するかな・・・?
エヘッ、楽しみv

「クス... そんなに、嬉しいのか?」
勢いで、新一の方に向き直ったまま、あれこれ考えながらニコニコしてたわたしに新一が微笑いながら聞いてくる。
「うん!・・あっ、約束だからね」
「あぁ」
「忘れちゃ、ダメだよ」
「わかりました」

笑顔で、強調して言ったわたしに、新一が笑みを含んだ表情で丁寧に答える。

「ぷ・・・」

そんなやり取りをしながら、顔を見合わせた途端、二人して笑い出しちゃった。
傍から見たら、何がおかしいのか不思議がられるかもしれないけど、こんな小さな約束が、
幸せで嬉しくて、身体中がフワフワしてくる。
早く夏休みにならないかな♪



「そう言えば、今日って七夕だよな?」
「うん、そうだよ」
いつの間にか空に現れた幾つもの星を見上げながら、新一が言う。
一年に一度、織り姫と彦星が会える日・・・

「ねぇ、新一はどんな願い事する?」
同じように空を見上げながら、新一に聞いてみる。
「願い事?」
「うん」
わたしに目線を落とした新一に、笑顔でうなずく。
「ほら、短冊に願い事を書いて、笹の葉につるすでしょ?」
「あぁ・・・」
「新一は、何か願い事ある?」
「ん〜〜・・ そうだなぁ・・・ あっ!」
少しの間、いろいろ考えている風だった新一が、思いついたように小さく声を上げた。
「なになに?」
どんな返事が返ってくるのか、ワクワクしながら新一の顔を覗き込む。
「腹減った」
「へ?」
思わず、目が点になる。
お腹が空いた? それが願い事・・・?
「もう〜〜〜!! 全然ムードないじゃない・・・」
頬を膨らませながら、新一の身体を軽く叩く。
「しゃーねぇだろぉ、ホントに腹減ってんだから」

(はぁ・・・)

そりゃ、わたしもお腹は空いたけど・・・
もうちょっと、ロマンティックな願い事、言ってくれてもいいのに。
心の中でブツブツ言ってると、

「はぁ・・、マジ腹減ったぁ〜、何か食いもんあればなぁ」
「もう、そればっかりなんだから」
子供みたいに、何度も言う新一が、何故かおかしくて笑っちゃいそうになる。
ポケットに閉まっていた、腕時計を取り出し、月明かりに照らしながら目を凝らして見ると、もうすぐ8時になろうとしてた。
「もう8時かぁ・・。何かあったら・・・ あっ」
確か、一つだけ残ってたような気がするんだけど・・・
そう思って、立ち上がりカバンを置いている所まで走り出したわたしを、新一が不思議そうな目で見つめる。

「? 蘭?」
「はい、新一。食べていいよ」
元の位置に戻って座り、新一の掌にカバンの中に唯一、1コあった飴を置いた。
「え? でも一個しかねーんだろ?」
「うん、だけど新一 食べていいよ」
申し訳なさそうに言う新一に、笑顔で言う。
「でも・・・」
「いいから♪」
「ん、じゃあ・・サンキュ」
わたしに折れた新一は、遠慮がちにそれをパクッと口の中に入れた。
--------と、思った瞬間

カリッ

(!?)
何かが砕ける音。
「あ・・ 新一、飴------------」

(・・・っ!?)

そう言いかけようとしたとき、不意に唇をふさがれた。

「・・・っ・・」

やっ、口の中に何かが--------------

(!!)

甘い・・・、飴?
唇をゆっくりと離していく新一の顔を、ただ呆然と見つめていると、イタズラっぽく笑いながら言う。

「半分個でいいだろ?」
「う、うん・・・」

小さく答えて新一と目があった瞬間、急に恥ずかしくなってきて、ボボッと熱くなる頬を隠すようにうつむいた。
口移しで飴もらっちゃった・・・
口の中にある飴の存在を確かめるたび、すごくヤラシイことをしたみたいで、身体中が熱くなる・・・
火照った頬に手を添えても、熱いのが分かる。
バクバク鳴り続けてる心臓を必死に押さえようとしながら、それでも口の中に広がるパイナップルの甘みを感じようとしていた。
新一と分け合った甘みを---------------


*****


唇を離し、目があった瞬間、恥ずかしそうにうつむいた蘭が、可愛くて思わず口元が緩みそうになる。
そう言えば、こんなキスは初めてだもんな・・・

「・・・」

だけど、両頬に手を添えながら顔を真っ赤にしている蘭を見ていたら、こっちまで何となく恥ずかしくなってくる。
嫌だったのかな・・・、でも嫌そうにはしてないし・・・

「・・蘭、そんな照れるなよ・・・、オレまで恥ずかしくなるだろ・・?」
「え・・?」
顔を上げた蘭が、オレの顔をマジマジと見つめる。

「・・・・・」

だから、そんなオドオドした目でオレを見んじゃねーよ・・・
ギリギリの所で止めてるモノが、動き出すだろうが・・・

「そう言えばさぁ、オメーの願い事って何だよ?」
「え?」
それに、歯止めを利かすように、急に話題を変えたオレを、キョトンとした顔で見つめてる。
「何か、あんだろ?」
「う、うん・・ まぁ・・」
目をキョロキョロさせながら、口ごもる蘭にわざと顔を近づけて意地悪っぽく言う。
「聞きたい」
「え?・・でも」
「オレの聞いたくせに・・・」
意地悪っぽくニラミながら言うと、
「あれは・・、お腹空いたって言っただけで、願い事って言わないよ・・・」
「そっかぁ?」
「そうだよぉ、新一がちゃんと言ってくれたら・・・、わたしも言うから・・・」

願い事、ねぇ・・・
あると言えばあるけど、コレって願い事になんのか?

(・・・)
まぁ、いっか。
「・・べたいかな」
「え?」
ちゃんと聞き取れなかった蘭が、不思議そうな顔する。

ドキドキ

これから言おうとしている言葉に、心臓の高鳴りが大きくなっていく。
それでも、今のオレの正直な願望を、そのまま蘭にぶつけた。

「蘭を・・、食べたい」

「へ?」

一瞬、瞬きをするのも忘れているくらい、目を大きく見開いたまま固まっている蘭の唇に、そっと触れるだけのキスをする。
目があった蘭に、フッと微笑いかけると、次の瞬間みるみるうちに真っ赤になっていく。

(ぷっ・・・)

可愛い・・・
蘭の焦りが、オレにも伝わってきそう・・・

「なっ、なに言ってるのよっ」

真っ赤な顔で、言葉を詰まらせながら言い返す蘭に、思わず笑いがこみ上げてくる。
「なに、笑ってんのよ・・・」
蘭が、拗ねたように頬を膨らませながらニラム。
「クス。可愛いから、さ・・・」
「-----!?」

あっさり言ったオレの答えに、また蘭が顔を真っ赤にする。
くくっ・・、たまんねぇな・・・
とてもじゃねーけど、止めれそうにないかも・・・

余裕のオレとは反対に、今にもオレに食われそうな表情をした蘭が、背中を壁に当てたまま
ズルズルと身体をオレからずらしていく。

トン...

そんな蘭の行く先の壁に、手をつく。
「まだ、蘭の願い事、聞いてないけど?」
顔を近づけ、覗き込むように聞くと、蘭は戸惑ったように口をつぐむ。
「え・・、それは・・・」
「オレが言ったら、言うって言ったよな?」
「う、うん・・・」

「・・・・・」

うつむいたままの蘭を、少しの間、黙って見つめていると、蘭が恥ずかしそうにオレを潤んだ目で見上げ、口を開いた。
「一緒に・・・」
「え?」
「新一と・・、ずっと一緒にいたい-----------」

ドクンッ

「・・・んっ・・」

蘭の言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく鳴るのと同時に、蘭の唇を塞いでいた。
突然の口づけに、一瞬身体を強ばらせた蘭から、苦しげな声が漏れる。
オレの腕を掴む手に、ギュッと力が加えられるのを感じながらも、蘭の柔らかな唇をもっと確かめたくて、離さずにいた。


“ずっと一緒にいたい”


蘭の言葉が、オレのブレーキを解き放す。
止まらねぇ・・・
強く鳴り響く鼓動と共に、熱い気持ちが身体中を駆けめぐる。

「・・っ、ふっ・・」

唇を動かした途端、蘭から吐息が零れる。
それを聞きながら、蘭の身体をオレの方に引き寄せ、さらに強く求めるようにキスを繰り返していると、
オレの服を掴んでいた蘭の手から、次第に力が抜けていくのを感じ取った。

(・・・・・)

トサ...

力無くオレに身体を任せる蘭の後頭部に手を回し、重なり合いながら地面に押し倒す。
そっと唇を離し、至近距離で蘭を見つめる。
蘭も、そんなオレを潤んだ目で見つめ返していた。
夜空に浮かぶ月の青白い光に反射して、蘭の瞳がきらきら光っている。

言葉なんて無くても、視線でお互いを求め合っているように思える・・・
そんな空気に酔うように、蘭の唇にもう一度、キスを落とした。

全部、欲しい・・・
蘭の気持ちも、身体も・・・

オレを見つめる瞳も、俺の名前を呼ぶ声も、キスの合間に零れる吐息も、
全てが愛しくて、めちゃくちゃに壊してしまいそうになる----------------
こんな、言葉じゃ言い足りない想い、どうやってオメーに伝えればいい・・・・・?
ストレートにぶつけたら・・・
オレは、きっと蘭を壊しちまう-------------------
今にも、溢れ出しそうな気持ちを持て余しながら、蘭に深く口づける。

このまま、壊してしまいたい------------
オレの腕の中で、めちゃくちゃにしてみたい・・・・・
そんな欲望に支配されそうになった時---------


TRRRRR  TRRRRR...


ビクッ!!

一瞬にして、身体が凍り付く。
(やばい・・・)

2人の間に流れていた、甘い空気が突然鳴り出したコール音に断ち切られる。
一つの嘘を壊す音が、屋上に鳴り響いていた・・・


*****


(-------!?)

突然なり出したコール音に新一の唇の動きが、一瞬わたしの唇の上で止まる。
あれ・・?
どうして携帯電話の呼び出し音が鳴ってるの?
甘い余韻を残しながら、新一が唇を離すと同時に目を開けると、数センチ先に見上げた新一の表情が微かに強ばっていた。

(・・・)

「・・まさか、新一の?」

わたしの半信半疑の問いかけに、新一の表情がピクッと動く。
新一のケータイなんだ・・・
でも、どうして?
持ってないって言ってたのに--------------
どうして、嘘ついたりしたの?

いつまでも、鳴り止まないコール音を聞きながらゆっくりと身体を起こす。
「・・・出たら?」

「-----!!」

ボソッと言ったわたしの顔を、新一は戸惑った瞳で食い入るように見ると、スッと目線を落として口をつぐんだ。
「ケータイ・・・、持ってたんだ?」
「・・悪ぃ」
「どうして、嘘ついたの?」
「・・・」
「新一?」
「・・・一緒にいたかったからだよ」

(え・・?)

うつむいたまま小さな声で呟くように言うと、今度は顔を上げ、わたしの目を真っ直ぐ見つめたままもう一度、言った。

「オメーと2人っきりになりたかったんだ・・・ 帰したくなかったんだよ」

トクン...

新一・・・

「嘘ついて、ごめん。電話かけてもいいぜ・・」
「え?」
「電話あるから、蘭の好きなようにしていいよ・・・」

(・・・)

瞳の中に寂しげな色を残しながら、目を逸らした新一を見て、胸がキュンと痛くなる。
ずっと、鳴り続けていたコール音が、いつの間にか鳴り止んで、屋上は元の静けさを取り戻していた。

新一は、わたしが帰りたがってるって思ってるの?
電話する? しない?
頭で考えるよりも先に、答えは出てるのに・・・
わたしも新一と同じ気持ちなんだよ・・・
ここで新一と一緒にいたい。
この星空の下で、新一に触れていたい、触れられていたい---------------
抱かれていたい-------------


そう思うのと、身体が動いたのは、ほぼ同時だった。

「ここにいる」

「蘭・・?」
突然、新一の首にしがみついたわたしに、新一の驚いた声。
「ここにいたい。 新一と、一緒に・・・」
「え・・」

わたし達、いま想ってること、同じなんだよ。
そんな気持ちを、込めて・・・
笑顔で新一に言った。

わたしの背中に手を置いたまま、少しの間、何も言わずにいた新一が、
そっとわたしの肩に手をのせると、顔が見える位置までわたしの身体を引き離し、伺うように覗き込む。
「・・怒ってねーのか?」
「何を?」
「オレが嘘ついたこと・・・」
「クス... 怒ってないよ。・・・ねぇ新一? わたしの願い事、覚えてる?」
「え?」
「“新一と、ずっと一緒にいたい”------わたしの願い事、叶えて・・・」
「蘭・・・」

しばらくの間、わたしの顔を驚いたように見ていた新一が、フワッと目元を緩めて微笑んだ。
「たまんねぇ・・・」
「え?」
「いや・・、本当にいいのか? このままここにいて」
「うん」
小さくうなずきながら、新一に微笑いかける。
すると、何かをねだるような目でわたしを見た新一が、イタズラっぽく言う。
「じゃあ、オレの願い事も、蘭に叶えて欲しいんだけど・・・」

(え? あ--------)

“蘭を・・、食べたい”

思い出した新一のストレートな言葉が頭の中で繰り返され、思わず頬が火照ってくる。
これって、やっぱり・・、そういう意味よね・・・?
でも、わたしだって新一に抱かれたいって想ってたわけだし・・・
ドクン、ドクン... 身体中に響き回ってる音に、外の音がかき消されそうになる。

「叶えてくれるの?」

どきっ!!

新一の催促の言葉に、思わず心臓が、ギュッと硬くなる。

「・・・」

コクン...

言葉で返事をする代わりに、無言でうなずいてみせた。
なんだか、恥ずかしくてそのまま顔を上げれずにいると、スッと伸ばしてきた右手でわたしの耳元の髪をすくい上げ、
もう片方の耳元にそっと唇を近づける。


「ずっと、オレのそばにいろよ」
「え---?」
思っていたのと違って、驚いて新一の方を向くと、視線の先で新一の優しい瞳とぶつかった。
「今だけじゃなくて、その・・ これからも・・・」
優しい目をしながら、どこか照れくさそうに言う新一の気持ちが伝わってくるみたいに、
わたしの鼓動も、トクトク... 微かに早くなっていく。

「うん・・・」

新一の隣が、わたしの居場所なの・・・
一番、安心できる場所・・・
これから先も、その場所を置いていてくれるの?
笑顔で小さくうなずくと、新一の唇にちょこっと当たるだけのキスを落とした。

「好き」

「-----!!」
わたしの突然の告白に、新一が驚いて目を丸くしてる。
クス..
そんな新一を見て小さく笑う。

“好き”

新一に言うのは初めてじゃないけど、あんまり言わないこの言葉を、今 すごく言いたくなったの。
ごく自然に・・・
こんなに広い夜空の下にいるからかな?
どんどん自分の気持ちに、素直になれそうな気がするよ・・・

「オレも・・・」

フッと目を細め、柔らかく微笑うと、ゆっくりと顔を近づけ、わたしの唇にそっと唇を重ねた。


*****


柔らかく押し当てられた新一の唇が、だんだん深く口づけてくる。

「・・ん・・ふっ・・」

苦しくて漏れた吐息が、重なった唇の隙間から何度も零れる・・・
だめ・・、どうしよう・・・
頭の中が真っ白になって、溶けちゃいそうだよ---------------

新一に腰を引き寄せられ、力の抜けそうな身体を新一に委ねることしかできない・・・
このまま、重なり合ったまま地面に倒れそうになるのを、
必死にくい止めようと新一の背中に腕を回し、服を強く握るけど、手に力が入らない・・・・

「し・・ん・・」
思わず、わたしの耳元に触れていた新一の手に手を重ねると、わずかに唇を離しながら新一が掠れた声で言う。

「どうしよう・・ 壊しちまいそうだ・・・」

(え・・・)

額をわたしの額に当てながら、少し切なそうに眉を寄せた新一がわたしを見つめてる。

ドク...

押さえきれない感情を必死に抑えようとしているみたいな、新一の切なげに揺れる瞳が、すごく綺麗くて・・・ 
その瞳を見ただけで、身体のシンが熱くなってくる・・・

「いいよ・・、新一になら・・・ 壊されても---------」

気がついたら、そう言ってた。

フッ...

「やっぱり、たまんねぇ・・・」
(え?)
参ったって感じに、クシャっと微笑うと、そっとわたしのおでこにキスを落とす。
「一週間、オメーに触れられなかったんだ・・・。どうなっても、知らねぇからな・・・」
「・・・、うん」
新一の揺れてる瞳の奥に、ゾクッとするほど妖しい色を浮かばせる新一に、一瞬 戸惑いそうになったけど、
小さくうなずいて、新一の制服のシャツをギュッと握りしめた。

「蘭・・」

トク...

新一の手に重ねていたわたしの指を、そっと絡め取るように握りしめながら、静かにわたしを見つめる新一と目が合った。
そして新一の視線の先がスッと下に送られると、ゆっくりと唇を近づけ、わたしの唇を包み込むようなキスで奪う。
最初は優しく、お互いの唇の感触を確かめるように触れ合うキス・・・
そして----------

「ん・・・」

激しくて熱いキス--------
苦しくても離してくれない、こんな激しいキス・・ されたことない・・・
身体の力が抜ける・・・
胸の奥が、熱くて・・・・・
何もかも奪うような新一の口づけに、頭がヘンになっちゃいそう---------------

キスに溺れていくわたしの手を握りしめていたその手を、新一が離すと、わたしの首筋にその指を滑らせ、
制服のボタンを緩めていく。
「んっ・・・」
服の中に入ってきた新一の指が、肌の上を滑っていくたびゾクッとするような感触に、思わず声が零れそうになる。
「ずっと・・、触れたかった」

トサ...

わたしの唇の上で、囁くように言うと、そのままわたしの身体を腕でかばうように地面に押し倒し、
頬に落とした唇を、そのまま首筋に添って、滑らせていく。


「・・・っ」


肌に吸い付くようなキスに、身体中が熱くなる・・・
新一の唇が、手が・・・
わたしの身体を求めるように触れるたび、甘い吐息が口からこぼれる。
このまま、甘いしびれに酔っていたい・・・
新一の腕の中で、何も考えられなくなるほど・・・
新一を求めていたい-----------


肌の触れ合う温度も、重なり合う鼓動も・・・
熱い息も、それに伴う痛みさえも・・・・
大好きだから・・・
愛しいと思えるから-------------------

新一の熱い身体と熱い息を、身体いっぱいに感じながら、満天の星に願いをかけた・・・



この幸せを守れる強さを、持てますように------------



新一の想いも、自分の想いも、大切な宝物だから・・・
この気持ちが、何にも負けないって思えるほど強くなりたい-------------



これからもずっと、2人でいられるように--------------



笑い合っていられるように----------------




fin




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