月明かりに照らされて
By 白石早苗様
肌寒い季節、秋。
日が暮れて、夜空には満月が覗き、星が点々と瞬(またた)いていた。
その夜空の下に佇む1人の影。
白く凍える息を吐きながら、足音がすると顔をあげ、何処かガッカリしたように瞳(め)を伏せる1人の少女―――
「まだかな…? 新一…」
少女は呟くと、凍えている手のひらに息を吹きかけ、温めた。
そう、少女の名前は毛利蘭。
そして待っているのは、幼馴染の工藤新一。
2人で今日、夜6時に待ち合わせをし、夕食を食べに行く約束をしていた。
「何かあったのかな…?」
心配そうに、息を吹きかけては両手の手の平を擦り合わせ、熱を保とうとしている。
それをさっきから何回繰り返しただろう。
10分、20分、30分、40分、50分…1時間――――
まだ来ない。
人の気配もなくなり、辺りは深々と静まり返っている。
70分、80分、90分、100分、110分、2時間――――
普通の人間なら、携帯や公衆電話で連絡を取るが、蘭はそんな事はせず、ただただ待っていた。
ひたすら待っていた。
(やっべー! 蘭との約束、すっかり忘れてたぜ!!)
夜道を走ってくる音。
新一だった。
(事件なんかとうに解決してたのに、すっかり事件の話やら事情聴取やら高木刑事達の話やら聞いてて忘れてたぜ!! えーと今…ゲッ! もう6時から2時間経って8時じゃねーかよ!!)
新一は持ち前の運動神経をフルに使い、全速力で工藤邸へ向かった。
一瞬、もう2時間も経っているんだし、諦めて歩こうかと思ったが、一応走ってみる事にした。
(待ってるわけねーよな…ハハッ! 2時間も経ってるんだし、蘭の奴も呆れて帰っちまったかな…)
角を曲がればあと少し。
「はぁ…はぁ…えっ!?」
満月に丁度雲がかかり、確かではないが、新一の視線の先にいるのは、1人の影。
「誰?」
聞き覚えのあるソプラノの声がし、雲が晴れて満月が出た。
月明かりに照らされ、映し出されたのは――――
(蘭!?)
新一は驚き、とりあえず息を整えようと、膝に手をつき、息を整えていた。
「ゴメン蘭! 俺、すっかり…」
新一の言葉を遮り、蘭は呟いた。
「良かったぁ。新一の身に何かあったんじゃないかと心配したんだよ」
蘭は怒りもせず、にっこり微笑むと、綺麗に浮かぶ満月を見つめていた。
月明かりに照らされて、新一の目に映った蘭は今まで知っていた幼馴染ではなくて、心臓の鼓動が早くなった。
ドキドキドキドキドキドキ
(何で俺、こんなドキドキしてんだ……!?)
新一は内心呟くと、蘭と一緒に満月を見上げた。
「ちょっと遅いけど、お父さん麻雀(マージャン)で今夜居ないし、明日は休みだし、ご飯食べにいこっか?」
蘭は微笑むと、進み始めた。
新一も微笑むと、小走りに蘭に追いつき、何処か誇らしげに蘭を見つめていた。
月明かりに照らされて
FIN…….
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