プロローグ、鈴木邸のリビングにて…。



「ママ、お願いが有るんだけど…。」

鈴木財閥の次女、園子はまるでおねだりをするかのような甘い声で母である朋子に言った。

「駄目よ。」
「ママ、私まだお願いとしか言ってないよ…。」
「貴方のお願いなんか聞かなくても判るわよ。」
「う、嘘?!」
「嘘言って如何するのよ?どうせ貴方の大好きな京極さんが今ロスに居るから行きたいって言うんでしょ?」
「ま、ママ!!何で判ったの?!」
「園子、私は何年貴方の母親をやってると思っているのよ?!それぐらい判るわよ!!」
「わ、判っているなら話は早いわ、ママ…。お願い!!旅費だけで良いから用立てて!!!」

そう言って、拝む様に両手を合わせる園子…。
だが、朋子はあくまでも冷静であった。

「駄目よ。そんなに行きたいなら自腹で行くのね。」
「そ、そんな!!如何して?!」
「園子、ロスなんてそう簡単に行ける物じゃ無いでしょ?パスポートも要るし、行くだけでも1日は掛かるわ…。そうなったら最低でも1週間は見ないと…。」
「う…。」
「まぁ、パスポートはもう持っているから良いとしても、どうやってパパを説得する気?1週間以上も男の人と2人っきりなんて許してくれると思う?」
「それは…。」
「貴方の気持ちは判るけど、諦めた方が良いわね…。」
「そんな…。」
「どうしてもって言うなら、何か他の方法を考える事ね…。」
「例えば?」
「そうね。何かの懸賞に当るとか、大会の賞品で貰うとか…。」
「そんなの無理に決ってるじゃないの!!!」
「無理って決め付ける事は無いじゃないの?懸賞だって確率が低いけど、全く当らない訳じゃないし、優勝賞品なら勝てる自信のある大会に応募すれば良いんだし…。」
「そんな〜!!」
「そんな情けない声出してもだ〜め。」

そう言って朋子はさっさとリビングから出て行ってしまった…。
後に残された園子は、つまらなそうにリビングのソファーに腰掛けた。

「あ〜あ…。自慢じゃないけど、懸賞なんて当った試しが無いし、優勝賞品が海外旅行なんて大会は全国規模だから私なんかが太刀打ちできるレベルじゃ無いし…。」

其処まで言って園子はふかぶかとため息をつき、気分転換にとテレビを点けた。

「テレビの懸賞なんてもっと競争率高そうだよねぇ…。」

ブツブツ愚痴りながらぼんやりとテレビを見続ける園子…。
だが、ある番組のCMを見た瞬間、園子の身体に稲妻が貫いたような衝撃を受けた。

それは…、

『高校生諸君!今年も又高校生クイズの夏がやって来た!!!其処でテレビを見ている君達も学校単位で3人のチームを作って予選に参加してみよう!!!見事優勝すればクイズ日本一の栄冠とアメリカ西海岸の研修旅行が君の物だ!!!知力、体力、そして大いなる運気を持った者達の参加を待っているぞ!!!ファイヤー!!!!!』

それは、毎年日売テレビが主催している高校生クイズの参加者募集のCMであった。
それを見た園子は思わず立ちあがり、

「これよ!!これに参加して優勝すれば良いじゃない!!!」

と叫んだ。
そして、テレビは既にCMが終わり番組が始まっていたが、園子の耳には届いていなかった…。
何故なら…、

(フッフッフッフッフッ…。3人グループって事は私以外の人が賢ければ何とかなるって事じゃない!!ア奴を蘭とラブラブにする手伝いをするって言うのはちょっとシャクだけど、真さんとの楽しいロスの旅の為に目をつぶってあげようじゃないの…!!)

全身から紅蓮の炎を噴出し、園子は燃えていたからだ…。

 



名探偵コナンAND・NOWシリーズ特別編


高校生クイズスペシャル(1)


 


翌日、帝丹高校の教室にて…。



蘭は園子から突然高校生クイズの参加を誘われていた。

「高校生クイズ?」
「そ、高校生クイズ。」
「何で私に?クイズだったらもっと得意そうなのがいるじゃないの?」
「アンタの旦那みたいに?」
「そ、園子!!」(////)

園子は真っ赤になった蘭を半目で見つめながら話を続けた。

「ま、それはともかく、一緒に参加しない?」
「別に構わないけど、私、クイズ全然駄目だからね?!」
「大丈夫よ。実は昨日色々調べたんだけど、この高校生クイズは知力だけでなく、体力や運、それにチームワークが必要らしいのよ。」
「ふーん、それで…?」
「蘭と私なら気心も知れてるし、なんと言っても蘭は空手の東都チャンプだからね…。体力ならそん所其処らの男達にも負けないじゃないの?」
「そうかなぁ…?」
「そうよ。あとはア奴をどうやってその気にさせるかだけどね…。」
「ア奴って、新一の事…?」
「そうよ。私達と気心が知れてて頭の良いのっていったら彼ぐらいなものじゃないの…?(と言うか、ほとんど蘭だけなんだと思うけど…。)」
「でも、新一こう言うの嫌いであんまり興味が沸かないんじゃないかなぁ…?」
「大丈夫!ア奴をその気にさせる方法は幾等でも有るわよ!!(アンタが出るって言ってくれたしね…。)」

そう言って笑顔で教室から出て行く園子を蘭は呆然と見送るしか無かった…。



  ☆☆☆

 

約1時間後…。



新一は呼び出し(もちろん警察の)で少し遅く登校して来た…。(もちろん、気を遣った目暮警部により覆面パトカーで現場から送ってもらっていた…。)
そして、いち早く彼を見つけた園子が話しかけてきた。

「あら?工藤君、今日は比較的早いじゃない…。」
「嫌味か?園子。今日は泊りがけで、ついさっき終わったとこだよ。」
「あらあら、じゃあもしかして徹夜?」
「まぁな…。一様、パトカーで仮眠は取ったけど…。」
「そんなんで授業大丈夫なの?」
「さぁな…。ひょっとしたらまた寝ちまうかも知れねーけど…。」
「あらま。じゃあまた蘭が心配しちゃうわね…。」
「そうなんだ。ま、自業自得だけどな…。」
「あっそ。(とか言っちゃって…。ホントは心配してもらうのが嬉しくてしょうがないくせに…。)」
「で、用事は何だよ?まさか、俺の健康を気遣ってる訳じゃねーだろ?」
「流石は名探偵工藤新一…。やっぱ、ばれてたか。」
「バレバレだっつーの!それで一体何の用なんだ?」
「私達と高校生クイズに参加しない?」
「はぁ?!高校生クイズぅ?!」
「そ、高校生クイズ。アンタのその無駄に良い頭を借りたいのよ。」
「無駄に良いって何なんだよ…。それに私達って言う事は参加を誘ったのは俺だけじゃねーな?ハッ!!!ま、まさかオメー?!」
「ふふっ、流石に察しが良いわね…。この高校生クイズは3人一組なのよ。だから工藤君の他に蘭も誘っているのよ。」
「(や、やっぱり…。)で、俺が断ったら成績の良い男子を蘭と仲良くなれるチャンスだからって誘うつもりだったんだな?」
「まぁ、そんな所ね…。」

そう言われ、新一は暫らく考える顔をしたが答えは一つしかない事は明白だった…。

「わーったよ!参加したら良いんだろ、参加したらよー!!!」
「判りが良くて助かるわぁ…。あ、それとクイズの傾向と対策も一様調べておいて欲しいのよ。」
「そんなのどうやって調べろと?」
「これよ。」

そう言って園子は一枚の紙切れを新一に渡した。それは…、

「なんだコリャ?httpのwwwって、ホームページアドレス?」
「そ、これは日売テレビの公式サイトのアドレスなの。今の時期は高校生クイズの特集をやっている筈だから、調べて欲しいのよ。」
「オメーにしちゃあ、随分と手回しが良いっていうか、良すぎるな…。何企んでる?」
「アンタって、一を知って十どころか百ぐらい理解するわね…。アンタに隠し事しても無駄だから先に言うと、優勝したらアメリカ西海岸の研修旅行と旅費が貰えるのよ。」
「アメリカ西海岸…?ロスやシスコ《注:サンフランシスコの事》の辺だな…?なんでこんな大会に出てまで行こうとするんだ…?ハッ!!そうか!!京極さんだな?!」
「な、何で其処まで判るのよ!!アンタは?!?!」(/////)
「オメー、俺を舐めてるのか?俺を誰だと思っているんだ?」
「そうよね…。アンタは大馬鹿推理ノ介ですものね…。」
「あのな…。(と言う事は、俺と蘭と園子の3人だけの研修旅行で園子が抜けるから…。俺と蘭の2人っきり?!)」

新一の中で蘭と2人だけのアメリカ旅行の妄想が広がり、思わずにやけてしまっていた…。

(たしか、前に行った時は《注:コナン21巻参照》母さん達の誘いだったからほとんどまともに2人っきりになってねーよな…。よーし!!!)

新一の中である計画が沸きあがった…。

 
そして…、

「園子!頑張って優勝しような!!(そして蘭と2人だけのアメリカ旅行…!)」
「ええ!!(相変らず、判り易い男よね…。今回は癪だけど京極さんと2人だけのアメリカ旅行がしたいのよ…。蘭、悪く思わないでね…。)」

利害の一致した2人は優勝(とそのあとの欲望)に向けて熱い誓いと握手を交わした…。

 





翌日…。



今日、新一は事件の呼び出しも無く、蘭達と過ごしていた。

「新一、園子の誘いに乗ったんだってね?」
「ああ。」
「じゃあ、地方予選ぐらいは突破するつもりで頑張りましょう!」
「はぁ?!何言ってやがる?!どうせ出るならどーんと全国制覇ぐらい言えよ!」
「相変らず自信家ね…。じゃあ、本選は全国ネットで放映されるから頑張りましょう!!」
「ん?何で全国ネットの本選だけなんだ?」
「え?!」
「オメー、何か隠しているな?!」
「何で新一には判っちゃうのかなぁ…?」
「俺を誰だと思ってやがる…。(特にオメーは直ぐに顔に出るから判り易いんだよ。)」
「あのね、私、高校生クイズに出る事和葉ちゃんに喋っちゃったのよ…。」
「あにぃ!!!!!」
「何よ!そんなに驚かなくても良いじゃないの!!新一、そんなに和葉ちゃんの事嫌いなの?!」
「ち、違う!和葉ちゃんは問題じゃねーんだ!!和葉ちゃんには漏れなくアイツがくっ付いてくるからな…。」
「アイツって服部君の事?」
「そうだよ…。アイツは俺に凄い対抗心を持っているから確実に参加して来るぞ…。」
「ホントに?」
「ああ…。間違い無い…。何しろ、昨日ホームページで高校生クイズの事を検索してみたら、あのクイズの準決勝は毎年サスペンスクイズになっているらしいんだ…。」
「サスペンスクイズ?」
「早い話が推理クイズだよ…。何でも、日売テレビの人気番組の一つ、○曜サスペンスのスタッフが心血を注いだ難問を用意して未だにノーヒントで解いた者が居ないらしいんだ…。」
「えっ?!そうなの?でも新一なら…。」
「ああ…。園子もそう思って俺に白羽の矢を当てたのだろ?違うか?!園子?!」

そう言って新一はいきなり後ろで聞き耳を立ててた園子の方を振り向いた。

「はは…。そ、その通りよ…。何しろ日本警察の救世主様ですからどんな難問か知らないけど簡単に…。」
「園子、もしかして知ってて新一に?!」
「まぁね…。と言うか、アンタ達が知らな過ぎるのよ。有名なのよ?高校生クイズの準決勝は…。」
「じゃあ、服部君もきっと…。」
「きっとどころか、必ず来るぜ…。」



  ☆☆☆

 

同日、大阪改方学園…。



「佐伯ハン、高校生クイズに出ぇへん?」
「どないしたんや?遠山さん。アンタが俺にそんな事言うなんて?去年は俺が誘ってもアカンかったやん。」

そう言う佐伯こそ改方学園のクイズ研究会の会長を務める和葉達のクラスメートであった。
だが、クイズ研究会といっても会長の佐伯を含めて2〜3人ぐらいの弱小クラブ(研究会)であった。
しかも、その会長の佐伯でさえ雑学の知識では平次に遠く及ばないと言う体たらくであった…。
そして去年、彼は和葉を抱き込んで改方学園クイズ研究会を有名にしようと、高校生クイズの参加を平次に申し込んだのだ。
だが結局、平次を参加させられず、彼を参加させることを諦めたのだ。
そんな事情があったので、彼は和葉が逆に参加を申し込んで来た事に驚いたのだ。

「大丈夫や。今年は平次の方から“佐伯、和葉、何しとんのや?サッサと俺を高校生クイズに出場させんかい!!”って言うわ。」
「ホンマかいな?!」

佐伯はそう叫んだが、和葉はサッサと平次の方に歩いて行ってしまった。

その為、彼は聞く事が無かった…。
彼女がブツブツとこう呟いていたのを…。

「ホンマにあのアホは…。一回エエ医者に見せなあかんな…。」



  ☆☆☆

 

その後…。



平次は退屈そうにぼんやりと窓の外を見つめていた。
そこに突然…、

「平次、ちょっとエエか?」
「何や、和葉か?どないした…、って何や佐伯、お前もおるんかい…。」
「そんなにイヤそうにせんでもエエやんか…。」
「お前がどうやって和葉を抱き込んだか知らんけど、俺は高校生クイズなんて興味あらへんで?」
「さよか。ほんならしゃあないな…。」
「「は?」」

2人は何時も(去年も)けっこうしつこく食い下がっていた和葉がいともあっさりと引いたので驚いていた。
そんな2人を無視して和葉は続ける…。

「なぁ、佐伯ハン。」
「ん?何や?遠山さん。」
「あのクイズの本選て全国ネットなんやろ?」
「そや。それがどないしたん?」
「何時放映されるん?」
「そやな…。毎年8月の最終金曜日の夜9時からやから、今年は30日やな。」
「ほんならその日、皆で高校生クイズ見よか?」
「和葉、そんなもんわざわざ皆で見てどないすんねん…。」
「エエやん…。見ようや?アタシは見たいねん、蘭ちゃんの活躍。」
「はぁ?」
「姉ぇちゃんの活躍…?」
「それに工藤君の活躍。」
「工藤君って、噂にあった東京の恋人の…?」

平次は去年(正確には行方を眩ませた新一を追ってホームズフリークの会合《注:コナン12巻》に出た頃)から東京に工藤と言う恋人が出来たと言う噂が有った。

この噂の元はもちろんあの大会に出た後ぐらいから何かにつけて“工藤”“工藤”と言っていた平次のせいでもあったのだが…。
そして、和葉からの情報で“工藤”が男だと知れ渡ると、服部平次両刀使い説と共にまことしやかに(ありとあらゆるデマを含んだ)噂がたったのだ。

「ちょお待て、何で工藤が出てくんねん?」
「だって昨日蘭ちゃんが電話で言うとったもん。工藤君や園子ハンと一緒に高校生クイズ出るって…。」
「な、なんやてぇ?!」

平次の驚きを無視して和葉は続ける…。

「なぁ、佐伯ハン。」
「何や?」
「あのクイズの準決勝って推理クイズやったなぁ?」
「そや。サスペンスクイズと銘打って毎年○曜サスペンスのスタッフが精魂込めて作った超難問で今だにノーヒントで解いた者がおらんっと言うものや。」
「そうなん…。せやけど工藤君なら楽勝やろなぁ…、なんせ日本警察の救世主やからなぁ…。なぁ平次、アタシと一緒に見ようや?アタシは一回しか見た事無いんやで?工藤君の推理ショー。」

その時、突然平次が立ち上がり叫んだ。

「お前等、何をぼさっとしとるんや?早よ参加申し込みをするんや!!」
「「はぁ?!」」
「はぁ?やない!!お前等、去年高校生クイズに俺を参加させようとしたやろ?去年は俺も忙しかったけど、今年は大丈夫やから早よ応募せんかい!!!」

その平次の言葉に佐伯と和葉はただただ呆れるしかなかった…。

 

                  ☆         ★         ☆

 

そして、関東大会決勝戦にて…。



「問題。1とその数以外で割る事の出来ない整数を…。」

ポーン!

「埼玉、浦和高校!」
「素数。」

ブー!

「ダブルチャンス!!!」

ポーン!

「帝丹!これを答えれば東京代表だ!!!!」
「2!」

ピポピポーン!!

「ファイヤー!!!!」
「「やったぁ!!!!」」

喜ぶ蘭を引き寄せ満面の笑みで新一は喜び、園子は…、

(こ、こやつ私が何も言えないのを良い事に好き勝手やってるわね…。良いわよ、良いわよ、私は真さんとのロス旅行が待ってるから…。)

顔で笑って心で悔しがっていた…。



  ☆☆☆

 

同じく、近畿大会決勝…。



「問題。2002FIFAワールドカップコリアジャパンで先に予選大会に出たのは日本と韓国のどっち?」

ポーン!

「大阪代表改方学園!!」
「韓国!!」

ピポピポーン!

「ファイヤー!!!」
「よっしゃあ!!!」
「平次凄い!!」
「当然や!!」

喜びを爆発させる佐伯と和葉を他所に平次は燃えていた…。

(遂に決着をつける時が来たようやな…。工藤、絶対準決勝まで生き残れよ…。この俺が推理クイズでケリをつけたるさかいなぁ!!!)



園子、新一の野望(欲望)そして平次の熱い思い…。

それぞれを秘めたまま、高校生クイズは全国大会の日を迎えた…。



全国大会編に続く…。