名探偵コナンAND・NOWシリーズ


第11話 結婚式協奏曲


対決!!キッドVS最強の探偵団!!!(後編)



「ご覧下さい!これぞ正に圧巻です!!一万組、二万人による合同結婚式イベントが大々的に開始されました!!」

そう言って司会進行役の女性アナウンサー(独身)は少し羨ましげにイベントを進行させていた。
彼女の言う通り、一万組の男女(中には人ではないものも含まれていたが)が婚礼衣装に身を包み、永遠の愛を誓いあっていた。
その中には、男同士、女同士、(下は5歳くらいからの)子供同士のカップル、そして婚礼衣装を着せてもらったペットまでいて、見ていて微笑ましいものから(気味が悪くて)ちょっと引いてしまうカップルまでいた。
彼等はヴァチカンからローマ法王の代理として呼ばれた神父の祝福を受け、次々と彼の前で誓いの口付けを行っていた。



  ☆☆☆



そして、イベント開始から暫らく経った後…。



司会進行役の女性アナウンサーが主賓の鈴木夫妻とロイヤルガードの紹介に移った。

「会場の皆様、ご注目下さい!今回のイベントの主賓であり、仲人代理の鈴木史郎会長とその奥様である朋子様です。」

その紹介の後、史郎と朋子が仲人の格好をして現われた。
2人は本当に結婚するつもりの無い(又は事情があって仲人を見つける事が出来ない)カップルの仲人(イベント上の)をやる事になっているのだ。
そして、朋子は係員からマイクを手渡されると、早速ロイヤルガードの紹介とその経緯を話し始めた。

「会場にお集まりの皆様、天気予報も当り、晴天に恵まれ、とても良い日柄になっています。」

そう言って一息入れた瞬間、会場から割れんばかりの拍手が沸き起こった。

それを朋子が手で制すると、早速本題に入った。

「皆さんご存知の通り、今日イベントに参加する我が娘園子の為に取り寄せた世界最大級のアクアマリン“人魚の瞳”が怪盗キッドに狙われております。」

その話に会場がざわめいた。
朋子はそれが落ち着くまで待った後、話を続けた。

「そこで、前回ブラックスターの一件で警察の警備だけでは心細いと思った私は考えられる最高にして未婚の探偵に招待状を送り、ロイヤルガードを結成するに至りました。」

その時、“おぉー!!”と言うどよめきが会場内に響き渡った。

「では、ご紹介いたしましょう!怪盗キッドを捕まえる為に私が集めたロイヤルガードとそのパートナーの皆様です!!!」

その話の後、早速女性アナウンサーがロイヤルガードとそのパートナーの紹介に入った。

「先ず、“日本警察の救世主”の異名を持つ高校生探偵、工藤新一様です!!」

その紹介の後、係員に促されるようにして新一が少し不機嫌そうに現われた。

(ったく、招待状送ったのは蘭のくせに何時の間にか俺が招待を受けた事になっているじゃねーか!)

そうブツブツぼやいていた新一だが、そんな不満を完全に消し去る存在が有った。

それはもちろん…、

「そのパートナーは彼の幼馴染で“眠りの小五郎”で有名な毛利小五郎の一人娘、蘭様です。」

その紹介の後、純白のドレスに身を包んだ蘭が女性の係員に促されるように現われた。
その美しさは新一にとって、この世に君臨した女神のように神々しい物であった。
その美しさに完全に呆けた表情になる新一。

それを見た蘭は…、

「変、かなぁ…?」
「ば、バーロぉ!そんな訳ねえだろっ…!」(/////)

そう言った後、蘭を引き寄せこう呟いた。

「本当に綺麗だよ、蘭。もう誰にも渡したくねー、本番では俺がもっと綺麗にしてやるからな。」

そう言われた蘭が超弩級にユデダコ状態になったのは言うまでも無かった…。

 

新一が真っ赤になった蘭を連れて(正確にはお姫様抱っこで抱き上げて)会場の方に向ったのを確認した女性アナは次の人物の紹介に移った。

「次は怪盗キッド専任の警部、中森銀三氏の一人娘青子様です。」

その紹介の後、蘭と似たようなドレスに身を包んだ青子が女性係員に促される様に現われた。
青子は気恥ずかしいのか真っ赤になっていた。
だが、その姿は正に蘭の双子の妹、つまり女神姉妹の妹と言って良かった。

「そして、そのパートナーは日本三大魔術師の一人である黒羽盗一氏の一人息子快斗様です。」

その紹介の後、快斗が不敵な表情で現われた。
それは、青子にとって黒い燕尾服を着ているとは言え、怪盗キッドそのものであった。
そして、全世界の女性を魅了すると言われた笑顔で青子を引き寄せた。

「青子…。」
「か、快斗ぉ…。」(/////)

そのまま、彼は会場中に見せつける様に深く青子にキスをした。
それが終わると、青子が真っ赤になって抗議した。

「ぷはっ!か、快斗っ!お父さんが見てるんだからねっ!!!!!」(///////)
「見てませんよ。」
「なっ、何で判るのよ!!!」(////)
「警部さんの性格は把握済みですよ。こんな青子を見たら、思わず声援を送ってしまうんですよあの人は…。」

そう言われて青子は不意に思い出していた。
そう。かつて青子が小学校の頃、学芸会で青子が出る度に青子自身が恥ずかしくなるぐらい彼は声援を送っていたのだ。
そのまま呆けたような顔をした青子を快斗は心底嬉しそうに抱き上げ、(もちろんお姫様抱っこである)こう呟いた。

「お嬢さん、諦めて下さい。この怪盗キッドは狙った獲物は必ず手に入れてます。そして、それが長年追い求めていた物なら絶対に手放しません。お覚悟の程を…。」

そう言われた青子が真っ赤になっていたのは言うまでも無いだろう…。



そのまま快斗が会場に向ったのを彼女が確認すると、次の紹介に入った。

「続いては怪盗キッド専任の探偵にして白馬警視総監の一人息子、探様です。」

その紹介の後、探はかなり不敵な表情で現われた。

「そして、パートナーはクラスの同級生にして恋人と噂される小泉紅子様です。」

その紹介の後、黒のウエディングドレスに見を包んだ紅子が現われた。
彼女必殺の流し目で、あっという間に探や他の男を魅了した。(例外もいたが…。)
そんな彼女の前に探は現われ、優雅に挨拶した。

「多くの男性を惑わす黒き花嫁の魅了の力、今宵は僕だけにその力を注いで下さいませんか?」
「あら?そんな事をすれば貴方は完全に魅了され、一生戻れ無くなりますよ?」
「構いませんよ…。僕にとってその力を他の方に使われる方が余程苦痛ですので…。」
「ふふっ、相変らずキザな事…。」

そう言った紅子を探が抱き上げ(もちろんお姫様抱っこで)会場に向った。



彼女は暫らくそれを呆けた表情でそれを見つめていたが、はたと我に返り最後の紹介に入った。

「ロイヤルガード最後の一人は大阪府警本部長服部平蔵氏の一人息子で西の高校生探偵として有名な平次様です!」

その紹介の後、平次はかなりムッとした表情で現れた。
何故なら…、

(何で俺が最後やねん…。幾等紹介の順番が50音順やと言うても、工藤が一番と言うのが気に食わん。大体、招待されとったのは毛利の姉ぇちゃんやで?それやったら、50音順で俺より後ろにならな可笑しいやんか。)

と、新一が聴いたら“んな細かい事いちいち気にしてるんじゃねーよ!”と言われそうな不満を愚痴っていた。
だが、そんな不満タラタラの平次の態度を一変させる存在が有った。

それはもちろん…、

「そして、パートナーは彼の幼馴染であり、遠山刑事部長の一人娘でもある、和葉様です。」

その紹介の後、女性係員に促される様にして現われた和葉は平次ですら見た事も無いぐらい美しく変身していた。
あまりの事に口をポカンと開けたまま、(色が黒いので少し判り難いが)真っ赤になり硬直していた。

それを見た和葉は…、

「へ、平次どないしたん?なんや鳩が豆鉄砲食らったような顔になっとるで?そんなにアタシの格好変か?」(////)
「そ、そんな訳あるかい…。」(///////)

そう言った後、いきなり平次は和葉をお姫様抱っこで抱き抱えた。

そうなると当然、和葉はうろたえだした。

「ち、ちょっと平次、何すんのよ?!」(////////)
「暴れんなや。俺かてすっごい恥ずかしいけど、他の皆がやっとるんやからしゃあないやんか…。」
「あ、アホっ!!それは工藤君らが勝手に…。」(///////)

其処まで言って、和葉は口篭もってしまった。
無理もない、彼女自身が少し期待していた事だし、なにより平次の目の焦点が合ってない事に気が付いたからである。
そう、和葉の美しさに混乱した平次は取り敢えず他の人の真似(よーするにお姫様抱っこで相手を抱き、会場に向う事)をしただけであった…。



女性アナはもうやっていられないと言う気分になったが、一様仕事なので最後までやろうと思い直した。

「最後は、このイベントの主賓である鈴木財閥の玲嬢、園子様です。」

その紹介の後、女性係員に促される様にして現われた園子は他の誰よりもきらびやかなドレスに見を包み、表情こそ冴えないが他の者に負けなぐらい美しくなっていた。

だが、彼女の心は暗く沈んでいた。
何故なら…、

(はぁ〜っ。結局最後までママが用意した相手が誰なのか判らなかったわね…。)

そう、今だ相手が誰なのか判らないのだ。
そして、なんだかんだ言いながらもしっかり幸せそうにしている友達(もちろん蘭達の事)を見ていると無性に腹が立って来た…。

そして、思わず叫んでしまった。

「ったく!私の相手は何所の筋肉バカなのよ!!!」

その叫びはざわついた会場の者達に聞かれる事は無かったが、しっかりと相手役には聞こえたらしくこんな返事が返って来た。

「申し訳ありません。一様、親は瓦屋旅館と言う民宿をやってますが、園子さんに言わせれば何所の馬の骨かも知れない筋肉バカですよね…。」

そのあまりに聞きなれた口調と声に園子は真っ赤になりながらその声の方に振り向いた。

そこに立っていたのはもちろん…。

「そのパートナーは先日鈴木財閥が開催したK−1グランプリの覇者、“襲撃の貴公子”の異名を持つ京極真様です。」

そう、黒の燕尾服に身を包んだ京極真であった…。

「まっ、まっ、まままままままま、まっ、まっ、まっ!!!!」

あまりの事にパニックに陥り、呂律が回らなくなる園子…。
真はそんな園子を愛しげに見つめると…、

「申し訳ありませんが、少しじっとしていて下さい。全く、イベントとは言えこんな事までやるとは…。」

そう呟きながら、さも当然の様に園子をお姫様抱っこで抱き抱え、会場に向った。

この時、園子はこれ以上無いぐらい真っ赤になっていたのは言うまでもない。
そして、真もまたはめられていた。

何故なら…、

 

回想、イベントが始まる少し前の特別控え室。


真は朋子からイベントの段取りを聞いていた。

「段取りはお判り頂けましたか?京極さん?」
「真で結構ですよ。園子さんのお母さん。」
「そう?ではお言葉に甘えて…。真さん、他にご質問は?」
「イベントの流れは判ったのですが、会場入りの段取りが判らないのですが…?」
「それは、気にしなくて結構よ。貴方の順番は一番後だから他の人と同じ様にやってもらえれば良いわ。」
「判りました…。」

 

そう、真は他の皆がやっているからやらなければならないと思い込んでいたのである。
花嫁をお姫様抱っこで抱き抱えながら会場入りしなければならないと…。

ロイヤルガードの者達が揃うと、朋子は高らかにキッドに対して宣戦布告をした。

「さぁ!天下にその名を轟かす怪盗キッドよ、我が娘園子とそのロイヤルガードのパートナーが着ている花嫁衣裳の胸に輝く“人魚の瞳”を見なさい!その内4つは私がこれを取り寄せた時に作らせた精巧なるダミー、持ち主である私ですら一目で見分けられない精巧なダミーの中に隠れた本物を盗み出して御覧なさい!しかし、私が集めた最強のロイヤルガードがその愛しい存在を簡単に離すとは思えませんけどね!!!!」



  ☆        ★        ☆



その夜、披露宴を兼ねた後夜祭にて…。



参加者達は(夜遅くまで居られない子供を除いて)こぞって此方の披露宴も参加していた。
披露宴も兼ねた後夜祭は外で行われるナイトパーティ形式を取っていた。
参加者達はバイキング形式で出された食事や飲み物を自分の席に持ち込み、結婚した相手と楽しい時を過ごしていた。

 

それから暫らくして…。


突然、会場中のスピーカーから朋子の声が響き渡った。

「会場の皆さん、いよいよ月食の時、そしてキッドの予告時間が迫って来ました。」

その声に会場中の者達がざわめいた。

「会場の皆様は月食の闇を利用して一時の甘い時間をお過ごし下さい。そして、ロイヤルガードの皆様はキッドにそのパートナーを奪われない様にして下さい。」

その声と共に会場中の明かりが落され、月明かりだけになった。
それと共に、何所からとも無くキッドコールが沸き起こり、会場中が異様な雰囲気に包まれた。

 

そして、月が闇に蝕まれ、やがて真っ暗になってしまった。
その時、良く通る凛とした声が会場中に響いた。

「お美しい奥様のせっかくの招待を無下にするのは私の主義に反しますからね…。」

その声に会場中の者達が辺りを見渡し、程なくして会場側の(朝、ロイヤルガードが集められた)ビルのバルコニーにキッドの姿を確認した。

すぐさま、探と平次がキッドに向って行った・

「キッド!!!!」
「今日こそ、私の手で捕まえて見せます!!!」

だが、そんな2人を制する声が後ろから響いた。

「服部、白馬!!オメーら何やってんだよ?!」

それは、真っ赤になった蘭を連れた新一だった。

「工藤探偵?!如何したんですか?蘭さんなんか連れて?」
「白馬の言う通りやで、幾等その姉ぇちゃんが空手の達人でもそんな格好やと足手まといにしかならんで!」

そう言われた蘭は少し申し訳なさそうに新一に向って言った。

「新一、服部君の言う通りだよ?私、和葉ちゃん達の所に行くね。」

そう言われた新一は少し怒った様子で言い返した。

「ば、バーロぉ!!蘭、俺は自分の使命が判っているから連れて来てるんだよ!」
「えっ?!」(/////)
「白馬!オメー、自分の推理を忘れたのかよ!!自分で言ってたじゃ…。」

その時、新一の言葉を遮る様にキッドがトランプ銃を撃った。

だが、発射された何枚かのトランプは全て平次達の足元に当った。
その時の4人の反応は…、

「?!(可笑しいですね?キッドがこんな距離でトランプを外すなんて…?)」(←首を捻っている)
「へったくそやなぁ、キッド!お前、何所狙っとるんや?」(←鼻で笑っている)
「???!(こ、これは…?!)」(←蘭をしっかりと抱きしめている)
「し、新一ぃ…////////」(←ユデダコ状態になっている)

その時、突然全てのトランプから大量の白煙が立ち上り、4人を包んだ。

「くっ!(し、しまった!最初から当てるつもりが無かったのか!!)」
「キッド!!何の真似や!!煙幕なんぞ張りくさって!!!」

2人がせき込みながらそう呟いていると、同じく煙に巻かれた新一が叫んだ。(もちろん、さっきよりキツク蘭を抱きしめながら。)

「バーロォ!オメーら未だ気付かねーのか?!キッドの本命は…!!!」

その時、会場から和葉の悲鳴が飛んだ。

「へ、平次ぃ!!!!」
「ゴホッ!か、和葉ぁ!どないしたんやぁ!!!」
「くっ!!遅かったか!!!」
「なんやて?!工藤、それは一体…。」
「し、しまった!!!あのキッドは囮か!!!」

そう、話は4人が煙に巻かれた直後に遡る…。

 

4人の居る所から大量の煙が立ち昇った時、和葉と紅子は思わず駆け寄ってしまったのだ。
キッドを捕まえるまで真と園子の近くに居ろと言われたのを忘れて…。
そして、2人は平次(紅子は探)の事を案じるあまり、足元に黒い小さな固まりが何個か転がって居るのに気付かなかったのだ。
そして、その黒い固まりから大量の煙が立ち昇り、2人を包んだ。

 

そして、ようやく煙が晴れた時、和葉は更に大きな悲鳴を上げた。

「へ、平次ぃ!あ、アタシの胸にあった“人魚の瞳”が無くなってるぅ!!!」
「な、なんやてぇ!!!!」

「先ずは、2つ…。」

その声に4人が振り向くと、バルコニーに立つキッドの手には2つの人魚の瞳が握られていた。

それに気付いた新一が忌々しげに叫んだ。

「くそっ!何のトリックもなくいやにあっさりと姿を現しやがったと思ったら、俺達をパートナーから引き離す作戦だったんだな?!」
「そうか!わざと僕達の前に現われ、パートナーを無防備にしたのか!!」
「ほんなら、あの2つは…?!」

其処には心底すまなそうにしている紅子がたたずんでいた。

「白馬君、ゴメンナサイ。私…。」
「良いんですよ。僕が迂闊だった…。」
「しかし、流石は“日本警察の救世主”ですね。探偵諸君の中で貴方だけがパートナー同伴で来られるとは…。」
「お褒めに預かり光栄だ。と言っておくぜ、キッド。(ホントはちょっとやばかったんだけどな。)」

 

回想、キッドが現われた直後…。


平次と探がキッドを見つけて飛び出して行ったので、新一もまた走り出そうとした。
その時…、

「新一、頑張ってね!!」

その蘭の激に思わず振り向く新一…。
其処には何時も事件で学校を早退する時に見せる少し淋しげな顔があった。
その顔に一瞬硬直する新一…。

だが、その事が後に明暗を分ける事になる…。

そんな新一を見た蘭は少し小首を傾げて更に言った。

「如何したの新一?早く行ったら?怪盗キッドが待っているわよ。」

その瞬間、新一の心は決った。

「何言ってんだよ?!今回はオメーも一緒だぜ!!(ったく、寂しいって顔に書いてあるのに無理しやがって…。)」
「えっ?!えっ?!ええっ??!」(///////)
「ったく、忘れたのかよ?今回、キッドが狙っているのは…。はっ!し、しまった!!!!」

そして、新一は蘭と共に遅れてやって来る事になる…。

なお、この裏事情は永久に新一の心の中に封じ込められたのは言うまでも無い…。

 

「くっ!だが、その2つだけです!!同じ手はもう通じませんよ!!!」
「確かに…。だが、このままでは貴方達も私を追い詰められませんよ?」
「そうは問屋が降ろさんで!工藤、お前姉ぇちゃん連れて真ハンの処へ行っとれ!俺と白馬であそこにおるキッド捕まえたる!!」
「服部、落ち着けよ。これ以上戦力を割くのは考え物だぜ?」
「工藤探偵の言う通りですよ。それに黒羽君の姿が見えないのも気がかりですし…。」
「ったく、未だ俺を疑ってるのかかよ?」

そう言いながら快斗は真っ赤になっている青子と共に現われた。

「快…。」
「そんなに疑わしいなら俺も付き合ってやるよ。それに青子の“人魚の瞳”も守らなきゃいけねーし…。」
「良いでしょう…。京極さん、園子嬢の“人魚の瞳”を宜しくお願いします。」
「言われなくても判ってますよ。」

そう言いながら、真は真っ赤になった園子を抱きしめていた…。



  ☆☆☆

 

そして、バルコニーに向う通路にて…。



新一、蘭、快斗、青子、平次、そして探の6人は平次を先頭にしてキッドの居る所に向っていた。
もちろん新一と快斗は蘭と青子を抱き抱える様に走り(もちろん抱き抱えられた2人が真っ赤なのは言うまでも無い)、探は最後尾に付いていた。
それに気付いた快斗が話し掛けて来た。

「白馬、俺や新一と違って身軽なんだから平と一緒に先に行けよ。」
「そうはいきませんよ。」
「未だ疑っているのかよ…。」
「まぁ、それもありますがキッドの狙いは中森さんや毛利さんの胸に光る“人魚の瞳”ですからね…。」

そんな探に対して、快斗が何か言い返そうとした時、不意に辺りが真っ暗になった。

「キッドの奴、電源を切りよったで!」
「落ち着けよ!オメーだってこんな時の為に暗視スコープを貸してもらってるんだろーが!!」
「し、新一ぃ!ちょっと苦しいよぉ!もう少し力を緩めてよぉ!!!」(/////////)
「ば、バーロォ!キッドがこの闇を利用しない訳がねーだろ!!蘭ごと盗まれたらたまんねーからな!!」

そんな事を言い合っていた正にその時、

「うわっ!」
「快?!」
「きゃっ!」
「中森さん?!」
「皆落ち着け!暗視スコープを装着するまでヘタに動くな!!」
「言われんでも、もう着けとるわ!!」
「くっ!黒羽君と中森さんが倒れてますね!!」

そう言いながら倒れた二人を調べる探と平次。

「くそっ!青子姉ぇちゃんの“人魚の瞳”も盗られとる!!」
「流石の快斗も青子ちゃんを連れて、しかもこの暗さじゃどうする事も出来なかったみてーだな…。」
「後は貴方のだけですよ、名探偵どの?」

その声に4人は振り向くと何時の間にかキッドが佇んでいた。

「流石だな、幾等俺達が快斗の事に気を取られていても、こんなに接近を許すとはな…。」
「キッド!さっきの話は如何言う事や?!あの“襲撃の貴公子”が園子姉ぇちゃんを簡単に奪わせるとは思えん!!」
「簡単な事ですよ。私は奥さんに成りすまして宝石を管理している人にこう言うだけです。“キッドなら本命が園子だと直ぐに気付くわ!だから内密に本物を他の人に移しといてね。”と…。」
「くっ!やはり本命が園子だと気付いていたのか…!!」
「ね、ねぇ新一、如何言う事なの?」
「毛利さん、簡単な推理ですよ。朋子奥さんが昼間言ってたじゃないですか、“我が娘の結婚式の為に取り寄せさせた。”と…。そんな物を他の人の胸に着けさせる訳がありません…。」
「そうか!それでK−1グランプリを開催したんか。」
「そう言う事らしいな…。(だが、本当にそれだけか…?あのキッド、いや、快斗がそんな片っ端に盗むという荒業に訴えたりするんだろうか…?)」
「せやけど、失敗したなキッド!残った物の中で本物を探すつもりが、最後の最後まで見つけられへんかったんやからな!!」
「そう思いますか?西の名探偵。」
「ま、まさか、既に本物を…?!」
「もちろんですよ…。では…。」

そう言ってキッドは後ろを振り向き逃げ出した。

もちろん、それを追いかけるのは2人の探偵…、と一組のアツアツカップル。
それはもちろん…、

「ち、ちょっと、新一!もうキッドは獲物を手にしたんだから離してよぉ!!!」(//////)
「ば、バーロォ!キッドがこんな暗がりで本物を見分けられるかよ!!恐らくそう言って俺を油断させる罠に決ってるんだ!!(ったく、こんな暗いところに置き去りにされたら恐くて泣くくせに意地張り過ぎだぜ…。)」

この時、誰も気付かなかったが、眠らされた筈の快斗と青子の2人が起き出し、何所かへと去って行った。

 

そして、先ほどキッドが現われたバルコニーにて…。



キッドはバルコニーの端に追い詰められていた。

「ここまでですねキッド!!」
「もう逃げ場は無いで!!!」
「そう思いますか?」
そう言うと、おもむろにキッドはグライダーを開いた。
それを見た二人は動揺するどころか不敵に微笑んだ。

「お得意のハンググライダーで逃げるつもりですか?でもこの高さでは遠くに飛ぶ事は不可能ですよ?」
「それに、下を見てみぃ!既に参加者達は一箇所に集められ、会場内は警官隊で一杯や!!参加者に紛れ込むことはおろか、警官に成りすます事も出来ひん様にしてあるからな!!!」
「月食も既に終わりかけ…。もう月が現われ始めた様ですね…。もう少しで暗視スコープも必要無くなりますよ。」
「そりゃーどうかな?」

そう呟くとキッドはおもむろに懐に隠してあった遠隔操作のスイッチを入れた…。

その途端、


ヒューーーーーーーーーー……ドン!


なんと、会場のあちこちから花火が上がったのだ。
しかも、それと同時にあちこちで悲鳴があがった。

「うわっ!!!」
「め、目がぁ!!」
「ご、ゴーグルが壊れた!!!!」

あまりの事にしばし呆然とする探と平次…。

「こ、これは一体…。」
「キッド!この花火は只の花火とちゃうな!!!」
「その通り…。」

そこに遅れて新一が蘭を抱き抱えながらやって来た。

新一は瞬時に状況を把握するとこう叫んだ。

「白馬、服部、直ぐにスターライトゴーグルのスイッチを切れ!!」

「そうか!!対スターライトスコープ用に作った閃光花火か!!」
「なんやて?!」
「その通り。この特製花火は光量増幅式の暗視スコープを壊す閃光が出る奴でしてね…。光を増幅するコンデンサーが破壊される量の光を出す事が出来るんですよ…。」
「フン!味な真似するやんけ…。」
「ですが、僕達のは赤外線との併用型でしてね。無意味なんですよ。」
「それにや、警官隊も全員がスターライト式で統一ささんと赤外線暗視スコープも用意させとったんや。」
「成る程、ではこう言うのは如何でしょうか?」

そう言ってキッドは人の拳ぐらいの大きさがある袋を取り出した。
そして、おもむろにその袋の中身を辺り一体に撒き散らした。

「キッド?!」
「な、なんのつもりや?!」

そう言っていた2人だが、急にうろたえだした。

「くっ!!こ、これは?!」
「な、何や?!急にスコープが真っ白になったど!!!」
「何だって?!」
「対赤外線用に持って来た砂鉄と酸化剤の混合物ですよ。」
「そうか!使い捨てカイロの原理か!!!」
「くっ!砂鉄が酸化剤で急激に酸化し熱…、つまり赤外線を大量に放出しているのですね…。」
「その通り。」

そう言って、キッドはバルコニーの影に隠してあった大きな袋を破り、会場中に撒き散らした。
程なくして、警官隊からも同様の悲鳴が聞こえた。

そして今だうろたえている2人に向ってキッドは優雅に挨拶した。

「これで、私の邪魔をするのは居なくなりましたね…。では、ごきげんよう…。」
「待てよ!未だ俺が居るぜ。」
「工藤?!」
「工藤探偵、貴方はキッドが何所に居るのか判るのですか?」
「ああ…。俺のは父さんから借りた米軍特殊部隊仕様のソナースコープでね。」
「成る程、光源や赤外線が無くても問題無く使える音響式があるとは聞きましたが、それですか…?(ったく、そんな物を簡単に借りれるこいつのオヤジって一体…。)」
「ああ、そうさ。コウモリや潜水艦と同じ様式のこいつに目晦ましは無意味だぜ?」
「ですが、同じ事ですよ?貴方が私を捕まえるにはその両手を離さなければならないのですからね…。」
「くっ!!」
「新一、良いよ。私の事なんか気にせずキッドを捕まえてよ。ねっ?!」

新一は蘭のふんわりとした微笑にある決意をした。

「キッド!残念だが、今回はオメーの勝ちだ。」
「えっ?!」
「工藤、お前どないしたんや?!」
「工藤探偵…?」
「そう言うと思ってましたよ。では、ごきげんよう。」

そう言い残し、キッドはいずこかに飛び去って行った…。

後に残された者達は新一の態度に疑問を投げかけていた。

「工藤、お前何で…?」
「如何言う事です?!毛利さんの“人魚の瞳が”万一本物だったとしたらと考えたのですか?」
「そうさ、白馬。いくら奴がキザな怪盗でも、所詮泥棒だからな…。アイツの言葉を信じきれなかったんだよ。」

「そうなの?新一。」

3人は口々にそう言ったが新一がそれ以上言及しなかった為、それ以上の詮索が出来なかった…。



その後、首尾を聞きに来た朋子に3人が平謝りしたのは言うまでも無かった…。

なお、イベント自体は大成功に終わり、人魚の瞳も後でこっそりと返されていたのは言うまでも無い。