名探偵コナン AND・NOWシリーズ


第3話 文化祭



その1 帝丹編


週明けの月曜日、帝丹高校講堂にて…。


多くの男子校生が黙々と合同文化祭特別ゲスト黒羽快斗マジックショーの舞台作りにいそしんでいた。
その中には設計図を片手に陣頭指揮を取っている工藤新一の姿も有った。
そこに3年の実行委員長の園子がやって来た。

「調子はどう?工藤君。」
「思った以上に順調だよ。この分だと予定より早く終わるかも知れねーな。」

そう言いながら、細部の調整を真剣な表情でこなしていた。
そこに、お茶を入れた蘭がやって来た。

「みんなー!!お茶が入ったから休憩にしましょー!!!」
「よーし!!!10分休憩だ!」
「「「「おー!!」」」」

そう言って、男達は休憩に入った。
蘭はてきぱきとお茶を入れ、極自然に新一の隣に座った。
それを見た他の男子は、

「相変わらず、工藤と毛利は夫婦してるよな…。」
「「なっ!!!!」」

真っ赤になる2人…そして、一言。

「「夫婦じゃない(ねーよ)!!!!」」
「どう見ても新婚夫婦にしか見えんな…。」
「同感。」
「「違う!!!!」」

そこに園子がニヤニヤしながら割り込んだ。

「あら、私には演技ではなく、極自然に夫婦してる様にしか見えないわよ?お2人さん。」(ぼそっ)
「「なっ!!!!!」」
「ば、バーロぉ!な、何言ってるんだてめー…あ、じゃなくて蘭とは只の幼馴染なんだよ!!!!」
「そ、そうだよ!!!か…じゃなくて新一とは別に何も無いわよ!!!」

真っ赤になって慌てふためく2人…。
その姿は、結婚式直後にからかわれた新婚夫婦にしか見えなかった。


「あら、そう?(でも、この辺は私でも見分けがつかないわね、実際。)」
「そうだぜ…。(あーびびった…マジで演技しきれなくなる所だったぜ。)」
「園子…、からかわないでよね…ホント。(これ以上やられたら演技出来ないよ…。)」

賢明なる読者諸君には既にお気づきであると思われるが、この2人…、新一と蘭ではなく、快斗と青子だった。
で、本物の新一と蘭は何所に居るかと言うと…。


  ☆☆☆


同日、江古田高校…。


「と、言う訳で我がクラスは喫茶店の模擬店をやる事に決定しました。」

議事進行役の恵子がそう言い、文化祭の参加内容が決定された。

「じゃあ、今年は快斗君のマジックは無いのね。」

凄く残念そうに女子生徒達が口々に不満を言った。

「しょうがねーだろ?去年の一件で学校から警告食らったんだから…。そんなに見たきゃ当日帝丹行けよ。」
「そうそう。みんなして何時も、快斗のショーを当てにするから罰が当ったんだよ。」
「そうね…。今年は白馬君とスペシャルゲストの工藤君の対談がメインなんだし、そっちに期待しますか。」
「そうだぜ…。じゃあ青子、一緒に帰るか。」
「うんっ!快斗!」

そんな2人を観た恵子は、

(この2人も完全に夫婦してるわね…。)

と思いながら、快斗と青子を見送った。(もちろんこの2人が本物の新一と蘭である。)
何故この2人が入れ替わったのか、話は週末に遡る。





週末(帝丹と江古田の、文化祭実行委員の会合後…。)


「じゃあ、お互いの高校のメインイベントはこれで決まりだな。」
「ああ。」
「異議はないぜ。」
「じゃあ、早速俺は帝丹でマジックショーの準備に取りかかるぜ。」
「快斗、オメー帝丹に入り浸る気か?」
「だって、しょうがねーじゃん。マジシャンにとって飯の種とも言えるタネや仕掛を他人に教えるバカはいねーぜ?」
「確かにそうだけど…。」

快斗は、さらに何か言いたげな新一に近づくとひそひそ耳打ちをした。

「それに、探偵にトリックを教える怪盗なんてこの世に居ませんよ。」
「て、てめぇ…!!」
「違いますか?名探偵。」
「くっ!(これ以上コイツを怒らせるのは得策じゃねーな…。)でも、如何する気だ?」
「その為にオメーと取引をしたんだよ。」
「「「「取引?!!」」」」

周りに居た人達は素っ頓狂な声を上げた。
新一はその声に答えるように嫌そうな顔をしながら言った。

「快斗のマジックを帝丹でやってもらう代わりに、文化祭が終わるまで俺は快斗の助手をする羽目になったんだよ!!」
「と、言う訳だから、移動しようぜ。」
「どこへ?快斗?」
「直ぐに判るよ…、青子。」

そう言って快斗は、他の皆を連れて隣の阿笠邸に向かった。


  ☆☆☆


数分後、阿笠邸…


「なるほどのぉ…。」

博士は快斗から今までの経緯と計画を聴いた。

「ボイスチェンジャーを創った偉大な博士なら、簡単じゃないですか。」
「そうじゃのぉ!!やってみるわい!!!」

博士はそう言って胸を叩いた。
その一部始終を観た新一は心底呆れて呟いた。


「博士も、おだてに弱いよな…実際。」





翌日、再び阿笠邸…。


新一、蘭、快斗、青子の四人は博士の連絡を受け、集まった…。
博士に会うなり快斗が口を開いた。

「博士!!もう出来たのですか?!さすが天才!!頭の中身が違う!!!」
「ま、ワシがちょっと本気を出せばこんなもんじゃ!!!」
快斗におだてられ、得意満面の博士…。
それを観た新一は同じく呆れている灰原に耳打ちした。


「灰原…、マジで頼む。快斗の奴、本気でキッドのメカを博士に創らせるつもりだ…。止めてくれねーか。」
「そうね…、努力するわ。」

快斗はそんな2人の会話を無視して続ける…。

「それで、どう言った物が出来上がったんですか?」
「これじゃ。」

そう言って博士は、一本のネクタイとペンダントのような物を取り出した。

「博士、これは…?」
「これこそ新発明、ネクタイ型変声機とペンダント型変声機じゃ!!」
「おおっ!!す、凄い!!!」
「快斗…、オメー、マジで言ってるのか?単に俺がコナンの時に使っていた蝶ネクタイ型変声機の形を少し変えただけじゃねーか。」
「ハハハ…。そ、そうかもしれんのぉ…」

乾いた笑いで誤魔化す博士…。
新一はそれをジト目で睨んでいた。

青子と蘭はその二つを興味深げに見ていたが、蘭が博士に話しかけた。

「ねぇ、博士…。今思ったんだけど、喋る時何時もこのネクタイやペンダントを使うの?それって凄く不自然じゃない?」
「心配いらん…。この二つは本体じゃ。」
「「「「本体?」」」」
「そうじゃ…。ネクタイは帝丹の制服と同じ様に創っておる…このまま青子君が制服の上につければ良いんじゃ。」
「じゃあ、ペンダントの方は…?」
「これを制服の上から下げ、スカーフで隠すんじゃ。江古田はセーラー服が制服じゃと聴いたからのぉ。」
「でも、青子ネクタイの締め方なんて…。」
「これは、普通に絞めれんのじゃ。結び目に見せかけた本体があるからの…解く事すらできんわい。」
「じゃあ、どうやって着けるんだ?博士。」
「ワンタッチで着けられる様になっておる。ほれ、市販もされとるじゃろ?ネクタイを結べない人の為にワンタッチで着けられるネクタイが…あれと同じじゃ。」
「なるほど…、さすが博士、青子の事まで心配して下さるなんて。」
「ま、当然じゃわい。」

そう言って、得意満面に笑う博士を新一と灰原は思いっきり呆れた顔で見ていた。

「じゃあ、どうやってその本体に声を送るの?博士。」
「それが、これじゃ。」

そう言って、博士は2つのマウスピースを取り出した。

「これは…?」
「これこそ新発明、マウスピース型マイクじゃ!!」
「俺が、コナンの時使っていた小型マイクを改造したな?」

新一の指摘に博士は一つ咳払いをし、続けた。

「これを2人の口に着ければ、普通に喋っている声が全部変声機に送信されると言う仕組みじゃ。」
「おお、なるほど。」
「何がなるほどだよ…、快斗…。(何が新発明だ…単なる改造じゃねーか。)」
「そして、この蘭ちゃんの髪型カツラと、青子の髪型カツラを2人に着ければ完成さ!」
「なぁ、快斗。これって、もしかしてブラックスターを盗んだ時にしてた奴か?」
「(ドキッ!)そ、そーかもしれねーな…。」
「じゃあ、こっちはお父さんが以前、キッドが青子に成りすましたって、怒ってた時に使った奴ぅ?!」
「(ギクッ!)ま、まーな…。」

それを聴いた、新一と青子は…

「蘭に着けさす前に、しっかり洗っとくか…。」
「青子も、そうしようっと。」

そう言って、二人は洗面所に向かった。





そして、文化祭当日…。

「レディース・アンド・ジェントルマン!!イッツ黒羽快斗ショー・ターイム!!!」

会場を埋め尽くす観客に笑顔で答える快斗と助手の青子。
その舞台裏で、すっかりくつろぎモードに入っている新一と蘭。

「今回はあいつ等のお陰で、楽が出来たな…。」
「新一って、お母さんが女優なのにこう言う事嫌いで、直ぐ裏方に回ろうとするよね。」
「ああ。俺が、探偵として有名になったのも、より多くの依頼を得る為にやむを得ず、やっていたのさ。」
「その割には、随分嬉しそうだったような気がするけど?」

蘭はそう言って、新一をジト目で睨んだ。

「そ、そうかな…。」

そう言いながら、乾いた笑いをして誤魔化す新一であった。
そんな2人を影で見つめる一人の女性…園子は、

「甘いわね…、お二人さん…。帝丹は貴方達の意向にそってるだけなのよ…。」

そう言って、意味ありげに微笑んだ…。
2人はその事に最後まで気付く事が無かった。



江古田編に続く。



「オマケ……。」に続く。