第四話　専用の目覚まし時計

名探偵コナン　ＡＮＤ・ＮＯＷシリーズ

第４話　専用の目覚まし時計

１１月２３日、工藤邸…。

１１月最後の３連休を新一は新作推理小説を読みながら過ごしていた。
そこに、携帯の着信が入った。
新一はその携帯の着信メロディに少し嫌そうな顔をしながら出た。

「もしもし…？」
『おお！工藤か？元気しとったか？』
「何だ、服部かよ…。」

相手が判っているとは言え、新一はかなり嫌そうに答えた。

『相変わらず、つれないやっちゃやのぉ…。』

相変わらずの口調で話しかける平次、それに対して新一はこう答えた。

「用件は何だよ？」
『ちょっと、工藤に頼みたい事が有るんや。』
「俺に頼みたい事…？」
『そや。』
「何だよ、頼みたい事って？」
『ちょっと目覚し時計を借りたいんや。』
「目覚まし時計？」
『そや。』
「何でそんな物を？」
『連休明けに剣道部の朝錬が有るんや。』
「まだ引退してねーのか？」
『１１月末に大会が有ってな、それを最後にするんや。』
「ふーん…。」
『工藤、頼むわ。ちょっと２～３日貸してくれや。』
「なにも俺に頼まなくても、静華おばさんに頼んだら良いじゃねーのか？」
『オカンの奴、オヤジと一緒にそっちに行ってるんや。』
「こっちに…？」
『そや。２人して３連休を東京見物してから、週明けに警視庁での会合に出るんやと。』
「じゃあ、和葉ちゃんに頼めば良いじゃねーか？」
『アホな事言うなや！！和葉に頼んだら、文字通り叩き起されるわ！！！』
「別に良いじゃん、それで起きれるんだから。」
『こっちの身が持たんわ！！！』
「そんなに凄いのかよ？」
『和葉の辞書に“力加減”の項目は無いで…、実際。』
「だったら、自分で適当な物を買った方が安上がりじゃあねーのか？」
『俺もそれは考えたわ！！せやけど、工藤の目覚ましの方が起きれると思ったんや。』
「何でだよ？」
『お前、一人暮ししとるやろ？』
「それがどうかしたか？」
『ほんなら当然、新作の推理小説を読んで徹夜しても誰も何も言わん訳や。』
「（ギクッ！！）ま、まーな…。」
『なら当然、次の日は起きれんわな。』
「ま、まーな…。（事実だけに反論出来ねー…。）」
『その時使っている目覚ましを貸して欲しいんや。』
「断る。」
『つれんやっちゃやのぉ…。送料ぐらい出したるがな。』
「そう言う問題じゃねーよ。」
『ほんなら、何んやねん？』
「その目覚ましは俺専用なんだよ！オメーが使っても多分起きれねーよ！！」
『何やそれは？！どんな目覚ましやねん！！』
「オメーは、ホントこう言う方面弱いよな…。」
『はぁ？！何やそれは？！』
「良いから！和葉ちゃんに頼めよなっ！！！」

新一はそう言って強引に電話を切った。

　　☆☆☆

同じ頃、大阪では…。

「工藤の奴、強引に切りよった…。」

そう呟きながら、恨めしそうに携帯を睨む平次であった。

暫らくそのまま佇んでいたが、気を取り直すとこう呟いた。

「まぁええわ…。快の奴にも聞いてみるか。」

そう言いながら、快斗の携帯にダイヤルした。

暫らくして快斗が出た…。

『この携帯はただいま使われておりません。番号をお確かめの上、おかけ直して…。』
「何をしょうも無い事を言うとるんや？快！」
『折角の休日を西の名探偵に邪魔されたくねーんだよ。』
「そう言う言い方をするちゅう事は、青子ねぇちゃんとデートやな？」
『（ドキッ！）べ、別に良いじゃねーか！！』
「快も意外と判りやすいやっちゃなぁ…。」
『それで、用件は何だよ？』

快斗は不機嫌極まりない声で聴いてきた。
平次は今までの経緯と新一との会話を、快斗に話して聴かせた。

『それで、俺に目覚ましを…？』
「そや。工藤の奴、専用の目覚まし時計が有るのに貸しくさりよらん…。けち臭いやっちゃ…。」
『まぁ、新一の気持ちも判らねー訳じゃねーけどな…。』
「さよか。それで、貸してくれるんか？」
『平、悪いけど俺も専用の目覚ましなんでね…。オメーが使っても多分起きねーよ。』
「なんやそれはぁ？！工藤と言い、快と言い、訳判らんわ！！」
『ホントに判んねーの？』
「判らんわい！！」
『和葉ちゃんも苦労するよな…。こんな男を相手に選ぶなんて…。』
「はぁ？！何で和葉が唐突に出て来るんや？！」
『それぐらい自分で考えろ！悪いけど俺、青子が来たから切るわ…じゃあな。』
「あっ！！おい！！！ちょお待てぇ！！！！快っ！！！！！…アカン…切りよった…。」

平次はむなしく機械音を出す携帯を睨みながら呟いた。

その後、平次はやむなく（渋々）和葉に頼んだ…。

連休明け月曜日の朝、大阪の平次の家にて…。

「平次！！！平次！！！！！」

朝も早くから、和葉の平次を起こす声がしていた…。

「早よ起んかい！！！アタシはアンタの目覚ましとちゃうで！！！」

などと文句をたれながらも、しっかり平次を起こすべく奮闘している和葉…。
それに対して、平次は…。

「和葉ぁ…、後５分…いや３分でええから…。」
「そう言うて１時間近く寝てたんは、何所の誰や！！！！」

そう怒りながら、平次を揺さぶり続ける和葉…。
それに対して、平次は甘える様に和葉に言った。

「和葉ぁ、そんな冷たい事言うなや…。それやったら、せめておはようのチューぐらいしてくれや…。」

何時もの平次なら、口が裂けても言えないセリフである…。
だが、寝不足で十分に頭が冴えてない平次は、とにかく和葉を追い払う為にこんな事を言って来たのだ。
だが、そう言われた和葉はユデダコのように真っ赤になり、うろたえ始めた。

「あ、あ、アンタ何言うとるんや！！！朝っぱらから寝ぼけた事言うんやないっ！！！！！」

バシ、バシ、バン！バシ！！

照れた和葉は、真っ赤になりながら平次の背中や頭を平手で叩きまくっていた…。
当然力加減など出来るはずも無い為、平次はその痛みで目を覚ました。（服部平次…哀れなり…。）

「ったぁ…。和葉ぁ！何さらすんじゃあ！！！」
「起こしたったんや！！文句あるんか！！」

そう言われて文句を言う勇気は平次には無かった…。
そして、目を覚ました事を確認した和葉は平次に向かってふんわりとした笑顔で聴いた。

「ちゃんと目ぇ覚めたやろ？」
「お、おう…。」

平次はその笑顔で怒りが何処かへ飛んで行ったようである…。

「アタシは朝食の準備するから早よ着替えて来いや。」
「あ、ああ…。」

和葉はその答えに大満足で平次の部屋から出て行った…。

（あんなカワイイ笑顔しくさって…。反則やんか…。）

後に残された平次は、そう思いながら着替えに入った。
２人にとっては、これが何時もの朝の光景になっていた…。

第５話に続く