名探偵コナン AND・NOWシリーズ


第八話 町内会の戦い(後編)


宝捜しイベント前日、江古田町の商店街にて…


快斗は会長の小林と明日のイベントの最終打ち合わせを行っていた。

「会長、暗号の方はばっちりですよ!!」
「そうか!じゃあ当然彼対策のも有るんだろ?」
「彼対策…?」
「おととし楽勝で優勝した米花町の工藤君だよ。去年は行方不明で別の人が優勝したみたいだけどね。」
「ご心配無く、あの名探偵専用の暗号も用意しておきましたから…。」
「そうか…。これで、10年前の仇を取れると良いな…。」
「10年前の仇…?」
「そっか…。君は当時、年齢的にも小学校1年生ぐらいだから覚えてないのか。10年前の宝捜しイベントで君のお父さんと当時名探偵ともてはやされた工藤氏が対決してね…。当時は今ほど規模も大きくなかったにもかかわらず、その年だけ大きく盛り上がった事が有るんだ。」
「お、オヤジと新一のオヤジさんが対決ぅ?!で、どっちが勝ったんだよっ?!」

快斗は興奮の余り、机を両手で叩きつけながら小林に詰め寄った…。
その余りの剣幕に少したじろぎながら小林は答えた。

「盗一さんも優作氏対策にかなり難しい暗号を考えたみたいだけど、所詮素人だからね…。結局、優作氏が勝ったんだよ。」

快斗は愕然とした顔でその事を聴いていた…。


  ☆☆☆


その日の夕方、近くの図書館にて…


青子は本を何冊も持って図書館から出て来た快斗を見つけ話し掛けた。

「如何したの?快斗。そんなに一杯本を抱えて…。」
「のわっ!!!」

その声に驚いた快斗は思わず本を落としてしまった…。
そして、声の主を見てホッとした表情になった。

「何だ…。青子かよ。」
「何だじゃないよ!!バ快斗!!借り物の本を落しちゃって!!」
「何言ってんだよ…。オメーが脅かすからいけねーんだろ?」
「何よ!!人のせいにしないでよねっ!!!」

口で喧嘩しながらも2人は仲良く本を拾い、落した時についたホコリをはらいながら帰宅していった…。


  ☆☆☆


そしてその後、快斗の家にて…。


青子は快斗からこれまでの経緯を聴いた。

「そうだったんだ…。」
「だからこそ、今回は特に負けられねーんだよ!!」
「そうだね…。快斗は昔から盗一叔父さんの事尊敬していたもんね…。」
「ああ…。悪いな新一、オメーに怨みはねーが本気で潰させてもらうぜ…!!!」

バックに紅蓮の炎を燃やしながら暗号製作に打ち込む快斗。
それを側で見ていた青子は…。

(快斗はホントに叔父様の事尊敬してたんだ…。)

そう思いながら、愛しげに快斗を見つめていた…。

この時も青子は重大な勘違いをしていた…。
彼がここまで本気になるのは、尊敬する父である盗一の事だけでないのだ…。



  ☆☆☆


同じ頃、米花町の近くにある図書館にて…。


「いっけない!!すっかり遅くなちゃった!!」

そう呟きながら、大急ぎで帰宅の途につく蘭…。
彼女は空手の練習ですっかり遅くなっていたのだ…。

そんな彼女の目の前に、本を大量に抱えた新一が目に飛び込んで来た。
それを見た蘭は、また大量の推理小説を買い込んだと思い込み、新一に話し掛けた。

「新一っ!!」
「わわっ!!」

驚いた新一は思わず本を落としてしまった…。
そして、声をかけたのが蘭だと判ると少し怒った顔で呟いた。


「何だ、蘭かよ…。脅かすんじゃねーよ…。」
「何よ!そんなに怒る事ないじゃない!」
「ったく、これは借り物だって言うのに…。」

そう言いながら、新一は本を拾い、ホコリをはらっていた。
蘭はそんな新一を見ながら、彼の落した本を拾い、驚いた。

「新一、これ…?」
「あ、悪い…。」
「そうじゃなくて、何なの?これ。」

その本のタイトルは、“楽譜の読み方、初級編。”と書かれていた。

「あ?見て判らねー?」
「判るけど…。」
「なら、何も言うな…。こんな本を借りている事自体、こっぱずかしいんだからよー…。」

そう言い残し、新一はさっさと行ってしまった…。
後に残された蘭は…。

「あ、待ってよぉ!!新一ぃ!!!」

そう言いながら、自分の拾った本を抱え新一を追いかけていった。


  ☆☆☆


その後、新一の家にて…。


「そっか…。それで…。」

蘭は新一から今までの話を聴いて感心していた…。

「快斗の奴、お父さんの事相当尊敬しているからな…。」
「そうね…。お父さんの死の真相を知る為に快斗君は怪盗キッドを受け継いだものね…。」
「ああ…。」
「でも新一、どうして今頃になって…?イベントは明日だよ?」
「俺もついさっき聴いて驚いているんだ。」
「えっ?!叔父様から聞いてないの!?」
「ああ。」
「どうして叔父様、新一にその事言わなかったのかなぁ…?」
「さあな…。父さんが盗一さんの正体に気付いていなかったからかな…?」
「正体って…?」
「盗一さんが初代怪盗キッドだったと言う事さ。」
「そっか。青子ちゃんのお父さんが昔追っかけていたのは、盗一叔父さんの方だったと言う事ね。」
「だけど、父さんがいくら初対面でも盗一さんにキッドのけはいに気付かないと言うのは変だと思ったけどな…。」
「どうして?」
「俺は快斗の奴と始めて出会った時にキッドのけはいに気付いたからな…。」
「ふーん…。」
「その事の詮索は後回しだ。今はこいつを頭に叩きこまねーと…。」

そう言って、新一はこれ以上ないぐらい真剣な顔で本の内容を把握していった…。

「えーっと…。白い丸が全音符でそいつに尻尾が生えると2分音符…。」
「ねぇ、新一。そんな一夜漬けで把握出来るの?」
「心配するな…。暗号の解読だと割りきれば何とかなるさ。」

そう言って、不敵な顔で微笑む新一…。
それを見た蘭は真っ赤になっていた…。
だが、この時蘭は重大な勘違いをしていたのだ。

(やっぱり、新一って推理オタクだよね…。苦手な音楽も暗号として覚えられるんだから…。)

と言う程度の認識しかなかったのだ。
だが、新一は…。

(ぜってー返り討ちにしてやる!優勝して蘭とハワイに行って…。)

新一はその後の事を考えただけで顔がほころんでいた…。
くどい様だが、新一は蘭がからむとその能力が200万倍に出来る男である…。





そしてその翌日、江古田町商店街入り口にて。


会長の小林による挨拶と宝捜しイベントのルール説明が行われ、江古田商店街主催の宝捜しイベントが執り行われた。
そのイベントに参加したのはそれぞれ二人一組で40組、合計80人で執り行われる事になった。
その中でも優勝最有力と目される米花町からは次の3組が参加していた。

大本命…工藤新一と毛利蘭ペア。
この二人については今更語る必要は無いだろう…。

要注意…円谷光彦と灰原哀ペア。
今回の賞品がペアのハワイ旅行と聴いていた光彦はある野望を内に秘めていた…。



妄想劇場その5…。(光彦の場合)


ハワイのビーチで寄り添う小さなカップルが一組…。
光彦と哀である。
光彦は心臓が爆発しそうなぐらい緊張しながら切り出した。

「は、灰原さん…。」
「もお止めて…。」
「えっ!?」
「哀でいいわ、光彦君…。灰原さんと円谷君じゃあ他人みたいじゃない…。」
「は、灰原さ…、い、いえ、あ、哀さん…。そ、それって…。」
「こう言う意味よ…。」

そう言いながら二人の影はこの時一つになった…。



妄想劇場終わり…。








(この大会に優勝して、一気に灰原さんとの仲を進展させて見せますよ!!コナン君!!!)

バックに紅蓮の炎を燃やしている(ませガキ)光彦であった…。
ちなみに、灰原は…。

(円谷君が簡単にOKしてくれて助かったわ…。やっぱり怪盗キッドと名探偵工藤新一の直接対決は間近で見たいからね…。)

と言う程度の認識しかなかった…。


超大穴…小嶋元太と吉田歩美ペア。
この二人も胸にある野望を秘めていた…。



妄想劇場その6…。(元太の場合)


「元太君!!すごぉい!!あっさりと優勝しちゃうなんて!!!」
「へっ!!コナンや光彦と違っておれは能力を隠してるからな!」
「げ、元太君…。わ、わたしずっと前から元太君の事…。」
「あ、歩美…。」



妄想の終了…。








「元太君、なにニヤニヤしてるの?」
「えっ?!べ、別に、な、何でも無いぜ。」
「ふーん…。変な元太君。」

小首を傾げる歩美の前で、元太は笑って誤魔化す事しかできなかった…。
ちなみに歩美も胸に大きな野望を持っていた…。



妄想劇場その7…。(歩美の場合)


「あ、歩美ちゃん…?!」

ハワイのビーチで歩美はコナンと再会した。

「会いたかったよ…。コナン君。」
「僕もだよ。歩美ちゃん。」
「ねぇ、コナン君…。」
「な、なに…。」
「私の事好き…?」
「もちろんさ…。歩美…。」

そして二人はキスをした…。



妄想劇場の終了である…。








そうこうしている内に、出題者の快斗が青子と一緒に現れた。
この時の快斗の格好は、マントとシルクハットこそしていないがキッドの扮装をしていた。
青子もまた、白いフリフリのドレスをかなり照れながら着ていた。
そして、快斗が花びらをポケットから取り出しながら、出題を始めた。

「さて、皆さん…。これから、日の入りの時刻までにこの江古田町の何所に眠る宝箱を見つけていただきます。ヒントは全部で四つ。全てを見つけて始めてその中にあるお宝をてにできるのです。」

そう言い終わると、快斗は花びらを撒き散らした。そしておもむろに指を鳴らすと、その花びらはあっという間にメッセージカードに早変りした。
参加者達は、こぞって落ちてくるカードを拾おうと大変な騒ぎを起こしていたが、一人(正確には一組)微動だにしていない人物がいた…。
新一である…。




妄想小劇場…。怪盗vs名探偵。


風雲急を告げる雷が鳴り、黒い雲が空を被う。
今、正に怪盗と名探偵…。会い入れない2つの存在が決着を着けるべく対峙していた。


怪盗は世界的に知られた存在…。
全世界の女性を魅了したとまで言われ、その正体はミステリーを愛する物なら誰でも探らずにはいられないとまで言われた存在…。
人は彼を敬愛と尊敬の意味でこう呼ぶ…。

“キッドザファントムシーフ…怪盗キッド”と…。

探偵もまた有名な男であった。
日本警察の救世主にして東の高校生探偵。
多くの事件をその慧眼(けいがん)で見破り、真実の光を追い求める探偵…。

彼の口癖は“真実は何時も一つ”と言っている男。

その名を工藤新一といった…。

怪盗の右手には一枚の予告状が握られ、そしてその左手には彼が唯一その心を魅了された小さな宝石が握り締められていた。
その宝石は、もろく、儚く、そして力強い青い光をたたえていた。
そしてその宝石には光の色とその小ささから、“ブルーチルドレン”と名付けられていた。

それに対する探偵もまた、その左手に彼の全てを賭けて守っている一輪の花を握り締めていた。
その花は可憐で清楚ながらも力強い美しさを備えていた。
その名を“蘭”と総称されていたと言う…。


戦闘の口火を切ったのは怪盗の方だった。

「所詮、怪盗と名探偵とはお互いに相容れない関係…。決着を着けましょうか?名探偵。」
「ケッ!相変わらず素直じゃねーなオメーも…。正直にその宝石が欲しいからそのチケットを渡せねーって言った方がまだマシだぜ?」
「そう言う貴方こそ、その花を独占したいしたい為にチケットが欲しいんですか?」
「悪いか?」
「いえ、別に…。」

そう言いながら二人はお互いに大切にしている物を愛しげに接吻した。
その時、宝石と花は恥ずかしげに揺らめいた。

「では、勝負と行きましょうか?名探偵…。」

そう言って、怪盗はメッセージカードを探偵に投げ付けた。
それを受け取った探偵は不敵な顔でこう叫んだ。

「オメーの挑戦、受けて立ってやるぜ!!」




妄想劇場の終了である…。



蘭と青子は文字通りユデダコ状態になっていた…。
何故なら、不敵な顔をした快斗と新一は左手に(しっかりと)彼女を抱きしめていたからである。
完全に二人だけの世界(さっきの妄想劇場)に浸っている快斗と新一はそんな蘭と青子に全く気付いていなかった。


  ☆☆☆


それから約1時間後…。


全く暗号が解けず、諦めて脱落した参加者が出始めていた。
その中にはこの一組が含まれていた。
「くっそー!さっぱりわからねーぜ!!腹も減って来たしよぉ…。」
「もー!!元太君しっかりしてよぉ!!!ああ、こんな時にコナン君がいたらなぁ…。」

仲間割れしたこの二人も早々にリタイヤしていた…。


その頃、コナンいや新一は…。

「そうか!!そう言う事だったのか!!!」

そう言い残して、新一は凄まじい速度で走り去っていった。

「ちょっと、新一!!!離してよぉーーーーーっ!!!!」

真っ赤になった蘭を抱きかかえたまま…。


  ☆☆☆


それから約4時間後、江古田町商店街にある公園にて。


参加者達はあちこち走り回されてすっかりばてていた。
その中で唯一、元気一杯の新一がいち早く快斗を見つけた。

「快斗!やっと見つけたぜ!!これで俺の優勝だ!!」
「フッ!甘いですね名探偵…。確かに宝箱はここに有りますよ。でも、貴方に開けられますか?」
「なに?!」

そう言って、宝箱(市販の金庫をそれらしくした物)を見る新一…。
良く見ると、その宝箱には鍵が施錠されていた。
しかもその鍵は4桁の番号を合わせるタイプの物だったのだ。

「こ、これは…?!」
「これが、最後の謎ですよ名探偵…。」
「なに?!ヒントは全部で4つと言ったのは嘘だったのか?!」
「嘘ではありません…。他の人はちゃんと暗号を解けばその答えが解除の番号になっているんですよ。」

その快斗の言葉にざわめく新一と一緒に来た参加者達…。

「フフ…。甘いですよ、皆さん…。この名探偵に付いて行けば、取り敢えずゴール地点まで行けると思っていた様ですね?そんなズルをさせると思っていたのですか?」

その言葉にしてやられたと言う顔になった他の参加者達は、大慌てで暗号と格闘していた。
そう、彼等は暗号を全く解かないで、新一に付いていって他の3枚のカードを入手していたのだった。

「くそっ!2重暗号だったのか!!」

そう叫んだ新一もまた暗号と再格闘し始めた…。
実は、新一の暗号のみ4つの答えから最後の4桁を推理する様になっていたのだ。
(他の人は答えが全部数字になっていて、それを一枚目から順に合わせていくだけで開く様に出来ていた。)



  ☆☆☆


それから更に2時間後…。


「やったー!!!開いたー!!俺達の優勝だぁ!!!」
「「なにぃ!!!!」」

愕然とする快斗と新一の目の前で杯戸町から来たカップルが優勝し、ハワイのペアチケットを手にした。
その後、がっくりとうなだれる二人の男をなにも知らない(もし優勝していたなら貞操の危機だった)二人の彼女が慰め続けていたそうな…。



第9話に続く…。




「オマケ……。」に続く。