第９話　バレンタイン大作戦α

名探偵コナン　ＡＮＤ・ＮＯＷシリーズ

第９話　バレンタイン大作戦

プロローグ（その１）一月最後の週末、改方学園にて…。

卒業まで秒読み段階になったこの日、遠山和葉は仲の良い女友達と帰り支度をしていた。
ちなみに、何時も一緒に帰っている（本人は腐れ縁と言っている）彼氏（本人達は幼馴染と言って聴かない）服部平次は毎度お馴染みの府警の応援（よーするに事件）で早退していた。

「なぁ、和葉。」
「なんや？」
「アンタ、バレンタインはどないすんねん？」
「どないって…。まだ考えてへんけど？」
「アンタも相変わらずな子やなぁ…。そんなんではアカンで？」
「何で？」
「何でって…。アンタ、高校生活最後のバレンタインまで買ったチョコでお茶を濁す気ぃかいな？」
「アカンの？」
「アカンに決ってるやん！！服部君は後一月ちょいでここから卒業すんのやで？」
「それがどないしたん？アタシかてそうやで？」
「判らん子やなアンタも…。エエか、アタシ等はアンタの気持ちも判っとるから何もせぇへんけど、後輩連中が駄目元で告白するのは確実なんやで？アンタはそれでもエエ言うんか？」
「告白ぅ？！」
「そや！！今度のバレンタインが一二年の連中にとって実質最後のチャンスなんやから、当然やんか！！」
「そやから言うて、何も手作りにせんでも…。第一、アタシの腕でまともなチョコなんか作れへんで？」
「そう言う問題や無い！！！」
「せやったら、此の際思いきって高級チョコにするわ…。それやったら…。」

「アカン！」

その言葉に思わずたじろいでしまう和葉…。

「そんな程度の小細工やったら、他の子と変らへんやんか！！！ちゃんと自分作らなアカンで！！」
「そないな事言うたかて、アタシ料理はさっぱりやし…。」
「オカンに頼んで教えてもらい！！」
「そやかて、オカンも色々忙しいさかい…。」
「料理の出来る友達に頼むとか、応用を利かさんかい！！！」
「料理の出来る友達言うても…。」
「東京に居る蘭ちゃん言う娘はアカンのか？」
「遠いやん…。」
「そないな事言うてる場合とちゃうわ！！アンタ、服部君取られてもエエ言うんか？」
「そ、それは…。」
「それやったら、答えは一つやろ？！明日にでも行きや！！」
「う、うん…。」

結局、彼女に押しきられる形で和葉は明日東京に行く事になった…。

プロローグ（その２）その日の夕方、毛利探偵事務所にて…。

蘭は買い物を済ませ帰って来た。
受験生でもあった蘭は空手の練習も休止し、ここ最近はかなり早い時間に帰って来ていた。
そこに電話が掛かってきたのだ。
しかも、三階の自宅の方に…。

「ハイ。もしもし、毛利ですが？」
『蘭ちゃん？！私…。青子だけど。』
「青子ちゃん？！」
『蘭ちゃん、明日の日曜開いてる？そっちに行って良い？』
「うん…。新一も事件で目暮警部と一緒だし、お父さんも他の用事で居ないから良いけど？」
『良かった！じゃあ、明日の朝１０時頃行くからね。』
「ねぇ、青子ちゃん…。一体何の用で…？」

蘭はそう質問したが、既に電話は切れていた。
その為、彼女は？マークを飛ばしていた…。

その後、更に同じ内容の電話を和葉から受け、更に？マークを増やす事になろうとはこの時思ってもいなかった…。

翌日朝、米花駅の改札にて…。

朝一番の新幹線でこっちに来た和葉と１０時に間に合う様に電車でやって来た青子は改札で鉢合わせになった。

「和葉ちゃん！！」
「あ、青子ちゃん？！ど、どないしたん？」
「それはこっちのセリフだよ。如何して和葉ちゃんが東京に？」
「アタシは蘭ちゃんに会いに来たんや…。そう言う青子ちゃんは？」
「青子も一緒だよ。」
「それやったら、一緒に行かへんか？」
「うんっ！」

そう言って、二人は仲良く毛利探偵事務所に向って行った…。

　　☆☆☆

その後、毛利探偵事務所３階にて…。

「ねぇ、二人とも一体何の用なの？」
「判らへんの？蘭ちゃん。」
「判る訳無いじゃない…。二人とも用件だけ言ったらさっさと切っちゃうんだもの…。」
「青子、蘭ちゃんに相談したい事が有るのよ。」
「相談…？」
「今度のバレンタインどないすんの？」
「バレンタイン？！」
「うん。蘭ちゃんはどんなチョコを買うかなーって思って…。」
「買う？！も、もしかして青子ちゃんバレンタインのチョコを今まで買っていたの？！」
「やっぱり蘭ちゃんは作ってたんやな…。」
「ええっ？！二人ともそんな事で来たの？！」
「そんな事って言われても…。なぁ、青子ちゃん。」
「うん…。青子、手作りチョコなんか作った事無いもん…。」
「アタシなんか料理すら出来ひんわ…。」

そう言って、盛大なため息をつく二人…。

「それで、私に作り方を教わりに来たんだ…。」
「そうなんや…。」
「で、どんなチョコを作りたいの？」

蘭のこの質問に更に盛大なため息をつく二人…。
そんな二人に蘭は少しうろたえた。

「ど、如何したの二人とも？」
「アタシと青子ちゃんは駅で偶然出会うてなぁ、ずっと考えてたんや…。」
「だって、服部君も快斗も去年いっぱいチョコ貰ってるから、生半可な物じゃ太刀打ちできないんだもん…。」
「それ、判る…。新一も結構フェミニストな所があってね…。以前は紙袋一杯にチョコもらってたのよ…。」
「工藤君もそうなんや…。」
「うん…。」

その後、三人の女性による愚痴が延々と続いた…。

　　☆☆☆

その頃、男性陣は…。

「「「ヘーックション！！！」」」

それぞれ別の場所で盛大なくしゃみをしていた…。

　　☆☆☆

一方、女性陣は…。

あれから延々と愚痴を言い続け、すっかり落ち込んでいた。

「なんやかんや言うても、平次はもてるさかいなぁ…。」
「快斗も両手に山盛りチョコを貰って嬉しそうにしてたし…。」
「新一なんか、紙袋に詰めないと持って帰れないぐらい貰ってたわよ…。」
「「「はぁ…。」」」

彼女達はもう数え切れないぐらい、盛大なため息をついていた…。
そんな時、着けっぱなしになっていたテレビがあるエピソードを放映した。
そこには、甘味大食いの記録映像が映し出されていた。
選手達は本当に食えるのかと思うぐらいの巨大なお菓子を相手に格闘していた。
そして、彼等は見ているだけで胸が悪くなるようなお菓子を食べ尽くしていた。
それを観た和葉は大声で叫んだ。

「これや！！！」

その光景を残りの二人は？マークを飛ばしながら見つめていた。
そんな二人を無視して、和葉は続ける…。

「これや！！これ！！！このでっかいお菓子をチョコにして平次達に食べさせたらエエねん！！」
「ええっ？！」
「和葉ちゃん！！それ、良い考えだよ！！」
「ち、ちょっと、青子ちゃんまで…。」
「蘭ちゃん、アンタ何をためらってるんや！！蘭ちゃんかて、バレンタインで他の人のチョコを美味しそうに食べてる工藤君を見た無いやろ？」
「う、うん…。」
「皆でお金を出し合って、おっきなチョコを作ろうよ！！」

結局、蘭は二人に押しきられる形でその計画に乗った…。

　　☆☆☆

その後、三人は巨大チョコ製作計画を話し合った。

「この計画の最大のポイントは、そんだけ大量のチョコをどうやって手に入れるかやな…。」
「快斗、甘党だからグラム単位のチョコじゃ駄目だよ…。」
「でも、青子ちゃん…。１キロ単位になったら、業務用になっちゃうよ…。」
「そや！工藤君のお母さんに頼んだらどやろ？」
「おば様に？！」
「そや！アタシ、小耳に挟んだやけどアメリカって何でもでっかいのが売られてるそうやんか…。」
「そうなの？」
「蘭ちゃん、駄目元で聴いてみようよ！！」
「うん。」
「じゃあ、早速電話してよ。蘭ちゃん！」
「駄目よ、青子ちゃん！！おば様今ロスに居るから時差を考慮しないと！！こっちは真昼でもむこうは深夜かも知れないじゃない！！」
「あ、そうか…。」
「世界地図を元に調べたらエエやん…。」

そう言って和葉は蘭の部屋から世界地図を持ち出し、調べ始めた…。

「大丈夫やで、蘭ちゃん…。ロスはアメリカ西部時間やから時差は７時間や…。」
「７時間？！」
「そや、こっちはもう直ぐお昼やから、むこうは夜の７時やな…。」
「夜の７時…？」
「と言うても、昨日の夜やけどな…。」
「昨日の夜…？！如何して？和葉ちゃん。」
「日付変更線をまたいでるから、一日むこうが遅いんや。」
「そうなんだ…。」
「じゃあ、早速電話するね。」
「ねぇ、蘭ちゃん。国際電話をかけた事有るの？」
「無いけど、おば様の家に直通の番号を知ってるから多分大丈夫だよ。」

その後、蘭から事情を聴いた有希子は２つ返事で引き受けたのは言うまでも無い…。

それから、１週間後…。

蘭は有希子から送ってもらったチョコの缶の前で途方にくれていた。
無理も無い、その缶には“１０ポンドお徳用サイズ”（１ポンドは大体４５０グラムなので約４．５ｋ）と英語で表記されていたのだ。
蘭はその文字を翻訳し、その重さの前に呆然としていた。
そこで彼女は急遽阿笠博士に連絡を取り、青子の家まで運んでもらったのだ。

更に１週間後、青子の家にて。

連休を利用して泊りがけでチョコを作りに来た和葉と合流した３人は早速巨大チョコを作るべく買出しに出掛けた。
その後、青子の行き付けのスーパーで買い物を終えた３人が戻り、早速お喋りをしながら製作に取りかかった…。

「ねぇ、青子ちゃん。快斗君は如何してるの？」
「快斗ならマジックの練習だっ！て、寺井さんと行っちゃったよ…。そう言う工藤君は如何なの？」
「新一は相変わらず目暮警部の呼び出しだよ…。」
「平次も大滝ハンと行ってもうたわ…。折角の連休を何やと思ってるのやろ？あのアホは…。」
「そうだね…。」

３人はそう言いながら、それぞれ役割を分担して巨大チョコを製作していた。

青子は苦手な数字と格闘していた…。

「えーっと…、青子の分のチョコが１．５キロ有って、レシピに書いてあるチョコパフェの分量から逆算すると…。」

青子は以前快斗が言った、“いっぺんで良いから嫌と言うほどチョコパフェを食ってみてーな。”と言うのを実行するべくレシピを参考に巨大チョコレートパフェの製作に取りかかっていた。

一方、蘭と和葉は大工のような事をしていた。

「なぁ、蘭ちゃん。」
「何？」
「自慢の空手で叩き折った方が早いんとちゃうの？」
「駄目よ、和葉ちゃん。空手で折っちゃったら切り口が汚くなって後でくっ付けられなくなっちゃうよ。」
「あ、そうか…。」

二人はそう言いながらのこぎりで角材を切り分け、巨大チョコの木型の製作に入っていた。

　　☆☆☆

それから、２時間後…。

蘭と和葉は切り分けた角材を木工ボンドで繋ぎ合わせ、ハート型にした。

「これで、ボンドが固まったらハート型にくりぬいて完成よ。」
「ボンドなんか使って大丈夫なんかいな…？」
「大丈夫よ。型の淵にそってラップをすれば直接チョコと触れないし、型抜きも簡単になるんだよ。」
「そうなんかいな…。」

二人はそう言った後、青子の手伝いをする為に台所に向った。

　　☆☆☆

更に４時間後…。

ようやくチョコパフェが完成し、後は冷蔵庫で冷やし固めるだけになった。

「やっと出来たよー…。」

青子は１．５キロのチョコを格闘してヘトヘトになっていた。

「後はこれを冷蔵庫に入れて冷やし固めれば出来あがりやな。」
「でも、青子今思ったんだけど、こんなに大きいの私の家の冷蔵庫に入るかなぁ？」
「その事で博士に頼んでおいた事が有るの。」
「博士って…？」
「阿笠博士よ。和葉ちゃんも知ってるでしょ？」
「知ってるけど、何を相談したん？」
「この大きなチョコを保管する冷蔵庫の事よ。」
「そんなん何時相談したん？」
「先週末よ。ちょうどおば様から巨大なチョコ缶が届けられた日。」
「そっか！それで先週の土曜日突然来たんだ。」
「ごめんね、青子ちゃん。突然押しかけた挙句あんな大きな保冷室の管理してもらって…。」
「いいよ、蘭ちゃん…。青子も賛成した事なんだし…。」
「その保冷室はまだ使えるそうだから、あれで冷やし固めたら良いんだよ。」
「そっか…。」

そう言って青子は残り２人の手を借りながら巨大チョコパフェを冷蔵した。

　　☆☆☆

そして、その夜…。

３人は遅い夕食を出前で済ませると、彫刻刀を持ち３人がかりで昼間繋ぎ合わせた角材をハート型にくり貫き始めた。
彼女達の作業は夜中近くまでかかり、型が出来たころには３人共力尽きる様にして眠ってしまった…。