お魚の祟り?!
Byシャドーバロン様
黒羽快斗はここ最近すこぶる機嫌が悪かった。
何故なら…、
「魚、魚、魚ぁ〜、魚を食べぇ〜るとぉ♪」
「何なんだよ、その歌は?!」
「快斗、知らないの?今流行ってる“お魚天国”だよ。快斗にピッタリの歌なんだからねっ!」
「何で?!」
ものすごく不機嫌な顔で快斗は青子に尋ねた。
「快斗、お魚食べないし…。」
「んなもん食わんでも良いっ!」
「何よ!歌にもあるんだからねっ!!」
「何が?!」
「魚を食べると頭が良くなるんだからねっ!!」
「俺はんなもん食わんでも十分頭は良い!!お子様青子の方こそたっぷり食った方が良いぜ!!!」
「何よ!!バ快斗!!!お魚は身体に良いんだからねっ!!」
「魚以外にも身体に良い物はいっぱい在るっ!!」
「魚は僕等を待っているんだからねっ!!!」
「待たんで良いっ!!!!」
そう言い放つと、快斗はプリプリ怒りながらさっさと学校に向って行ってしまった…。
後に残された青子は…、
「何よ!バ快斗!!快斗の方こそ雑魚を食べるべきよ!!カルシウムが足りないから、怒りっぽくなるってテレビでも言っていたんだからねっ!!!」
自分もものすごく怒っている事を棚にあげ、青子は快斗に怒っていた。
☆☆☆
その日の昼休み。
快斗は紅子に呼び出され屋上に来ていた。
「世界中の女性を魅了し、警察すらも翻弄する白き怪盗キッドにも意外な弱点があったわね…。」
「またその話か!?俺はキッドじゃねーよ!!!」
「良いから、聴きなさい。もし貴方がキッドなら絶対次の予告をキャンセルする事ね…。」
「ケッ!!くだらねぇ!!またルシュファーとやらのお告げかよ?」
「そうよ。今度の予告は祟られているのよ…。」
「はぁ?!ルシュファーの次は祟りだぁ?!」
「そうよ、祟り…。貴方が嫌っている“お魚”の祟りが在るわよ。」
「ケッ!バカバカしい…。祟りだ、ルシュファーのお告げだバカらしくって付き合いきれないぜ!!」
そう言い放って快斗はさっさと立ち去ってしまった。
後に残された紅子は…、
「まぁせいぜいがんばる事ね…。キッド…。」
不敵な笑みでそれを見送っていた…。
それから数日後…。
警視庁捜査2課の中森は対キッド戦の準備を整えるべく捜査員を集め、作戦会議を開こうとしていた。
もちろん、キッドがその中に紛れ込まない様に一人づつホッペを抓って変そうでない事を確かめると言う徹底ぶりだった…。
だが、その会議場に盗聴機を足に着けた白い鳩がいた…。
『以上が今回の布陣である!!各自、キッドを捕まえるべく努力する様に!!!』
快斗は受信機から流れる警部の声にほくそえんでいた。
「警部さんにしちゃー、良く考えられてるな…。でも、俺に盗聴されていたら無意味だよな…。」
快斗(キッド)に全て立ち聞きされている事とは露知らず、中森銀三は満足そうに高笑いをしていた。
『アーハッハッハッハ!!さしものキッドもこの洗練された秘密作戦の前に敗れ去るのだぁ!!!!』
(全部聞こえているのに秘密もクソもねーよな…。実際…。)
だが、そう思っている快斗の受信機に突然この歌が流れてきた。
『好きだとイワシしてサヨリちゃん♪』
ズデッ!
(←快斗がずっこけた音)
快斗がずっこけているのをあざ笑うかの様に、魚の名前が軽快な音楽にのって羅列される…。
『サンマ、ホタテ、ニシン、キス、エビ、タコ…♪』
大嫌いな魚の名前が羅列する歌に快斗は遂に切れてしまった。
「ふざけるなぁ!!これの何所が秘密作戦なんだぁ!!!」
ガシャン!!
完全に頭に来た快斗は思わず受信機を叩き壊してしまった…。
だが、この事が彼を後に窮地に立たせてしまう事になる。
☆☆☆
そして、予告時間。都内某所の美術館にて…、
警報装置をあっさりと突破し、キッドは予告した宝石を手に入れた。
だが、その時。
「今だ!!!かかれぇーーーーーっ!!!!」
中森警部の号令の元、待ち伏せていた警官隊が一斉に襲いかかった。
が、キッドは全く慌てる事なく煙幕を張り、警官に変装して紛れ込んだ。
そして、リモコンを操作してダミー人形を吊った風船を発進させた。
そして、あたかもそれに気付いた警官の振りをして中森に報告した。
「警部!!あそこに怪盗キッドが!!!」
確かに彼の言った通り、風船に吊るされたキッドが、
「ほんじゃまーーー、さいならーーー!」
と言いながら、飛び去っていっていた。(もちろん、この声はテープである。)
「警部!!何をしてるんですか?!早くキッドを追い駆けましょう!!!」
そう言いながら、先導をするかの様に走り出そうとするその警官を中森は腕を捕まえてこう言い放った。
「待て!!」
「な、何ですか…?(変装防止の氏名確認か?甘いな警部さん…。)」
賢明な読者諸君は既にお気づきであると思うが、彼は警官に成りすましたキッドである。
もちろん、変装防止の氏名確認対策に外で待機していた本物を眠らせ、警察手帳を奪い氏名、生年月日を頭に叩き込んでおいたのだ。
だが、中森の放った質問はキッド(快斗)の予想を大きく裏切る意外なものであった。
「好きだ言わしているのは誰だ?」
「はぁ?!」
あまりにも予想外の質問に、思わずこう答えてしまう快斗(キッド)…。
だが、中森はその言葉を聴くと少し驚いた後、心底嬉しそうにその腕に手錠をかけた。
「なっ?!何をするんです警部!!バカな事をしてないで早くキッドを追い駆けないと…!!!」
「その必要は無い…。何故ならあのキッドはダミーだからだ!!!」
「ええっ!!(な、何でばれたんだ?!)」
その時、彼は他の警官達もにやにや笑いながら自分を取り押さえようとしているのに気がついた。
その事に気付いた中森は心底嬉しそうに言い放った。
「フフフ…。ようやく気付いた様だなキッド!!貴様の変装は見破られていたんだよ!!!」
そして、中森はその腕を引っ張り、開いている手でそのキッド変装を剥ぎ取ろうとした。
が、そのまま勢い余って後ろに吹っ飛び、尻餅をついてしまった。
何故なら、彼の掴んでいた腕が手首までしかないマネキンだったからである。
そしてそのマネキンから突然、白い煙が噴出し煙幕になった。
「くっ!!し、しまった!!!」
「中森警部、少し詰めが甘かったようですね…。」
そう言い残して、キッドは煙の中に消えた。
煙が晴れると中森は直ぐにその場にいた警官を集めた。
「ここにいるのはこれで全員だな?」
「はい。」
「よし!各自隣にいる奴のホッペを抓れ!!」
「はぁ?!」
「ばか者!!未だ判らんのか!!いかにあのキッドであろうとこの短時間で逃げ出すのは不可能だ!!また変装して紛れ込んでる可能性が高い!!」
「でしたら秘密作戦の合言葉を…。」
「大ばか者!!!それを今使えばキッドに答えを教えてしまうだろうが!!!」
中森警部のその言葉に部下たちは渋々お互いの頬を抓りあった。
☆☆☆
同じ頃、天井裏の通気孔にて…。
(そう言う事だったのか…。考えたな警部さん…。)
キッドはまた変装がばれる危険性を察知してここに潜んでいたのだ。
(つまり、あの時流れていたあの下らない歌の歌詞を合言葉にしたんだな…。)
キッドは中森率いる警官隊がその辺を捜索しているのを覗きながら考え、その歌詞を思い出そうと努力してみた。
だが、魚と聴いただけで嫌悪感を抱いてしまう快斗にとってその歌詞を思い出すのは不可能に近かった…。
(くっそー!紅子の予言が当ってしまったぜ!!!)
そう思いながらなんとか変装術抜きで美術館の屋上に出、宝石を月夜にかざして見た…。
だが…、
「ちっ!外れかよ!!」
あれだけ苦労したのに宝石にはパンドラのけはいすら無かったのだ…。
やむなく宝石を返し、中森警部達がその事に気を取られている内に脱出する羽目になったのだ。
翌日…。
快斗は苦虫を噛み潰したような顔で新聞を見つめていた…。
その新聞にはデカデカと“怪盗キッド、中森警部の秘密作戦に破れる!!!!”と書いてあり、満面の笑顔をした中森警部の写真が載っていた…。
(くっそー!盗み自体は成功してんだぜ!!!!)
快斗はそう思ったが、既に警察発表で盗みに失敗した様に書かれている以上何を言っても負け惜しみにしかならない事は十分承知していた。
そして、そんな快斗の神経を益々逆撫でするかのように超ご機嫌な青子が現われた。
「ねえねえ快斗、昨日のお父さんの会見見た?」
「ああ…。」
「何よー!随分ご機嫌斜めねー!!あっ!判ったぁ!!快斗ごひいきのキッドが負けちゃったから、機嫌が悪いんだぁ!!」
「うっせーぞ!!アホ子!!!」
「ふっふーんだ!何時もなら青子も怒ちゃうけど、今日は許してあげるねっ!」
「ケッ!ケッ!ケッ!何が許してあげるねだ!!別にオメーがキッドを退治した訳じゃねーだろ!!!」
「良いもーん!お父さんの喜びは、青子の喜びでもあるもんねーだ!」
「フン!何が喜びだ!!警部さんの仕事はキッドを追っ払う事じゃねーだろ?!」
「判ってますよーだ!!お父さんが、今度はちゃんと捕まえられる様に更に万全の備えをするって言ってたもんねーだ!!」
「ケッ!どんな備えか知らねーけどキッドを甘く見るなってんだ!!」
「大丈夫だもーん!秘密作戦ある限り、キッドご自慢の変装術は完全に封じれるてお父さんが言ってたもんねーだ!」
「なっ!」
快斗はその一言に思わず愕然としそうになったのをなんとかこらえ、勤めて平静を保ちながら青子と話を続けていた…。
☆☆☆
その日の夕方…。
「拷問だな…。これは…。」
快斗はそう呟きながら、血を吐く思いであの歌の歌詞を暗記し、次の予告に備えていた…。
そして、次の予告日…。
「好きだと言わしてるのは?」
「サヨリちゃん!!」
「大したもんだよと言われているのは?」
「スズキ君!」
「サンマ、ホタテ、ニシンと来たら次は何?」
「キス!」
「オッケーです警部!」
「そうか…。」
(フン…。何度も同じ手でやられてたまるかってんだ!!)
キッド(快斗)はそう思いながら警部の最終チェックをクリアーし、今度の獲物が展示してある展示室に向おうとした…。
だが…。
「待て!」
「な、なんですか警部…?(オッケーじゃねーのかよ…。)」
「キッドもバカじゃない…。ここまでは前回の失敗を教訓にして覚えているだろう…。」
「はぁ…。(ふーん…。判ってるじゃん。警部さんも…。)」
「其処で最後の質問をさせてもらう…。良いな?」
「は、はい…。(どんな質問なんだ?警部さん…。)」
「益々綺麗なのは誰だ?」
「はぁ?!」
「こいつはキッドだぁ!!かかれぇ!!!!」
「な、なにぃ!!!!」
彼(快斗)は1番を覚えるだけで力尽きたので知らなかったのだ…。
あの歌(お魚天国)に2番があると言う事を…。
さらに、その翌日…。
“怪盗キッドスランプ?!悪夢の2連敗!!!”と言う見出しの新聞を超ド級に不機嫌な顔をして読む快斗の姿があった…。
そして、その後さらに血を吐く思いで2番を覚え、ヘロヘロになりながらフルコーラスを口ずさめる様になったと言う…。
教訓:好き嫌いを無くし、何でも残さず食べましょう…。
取り敢えず終わり…。
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