バレンタイン戦争 バレンタインの思い出
By山口多聞様
人物設定
小嶋瞳 帝丹小学校二年。小嶋元太小嶋(旧姓吉田)歩美の娘。外見、性格ともに歩美の小学校時代そっくり。
その他のキャラクターは、名探偵コナン本編登場キャラクター、及びBLUE-WING!!管理人のlito様創作の小説のキャラクターを許可を得て使わせて頂きました。
20xx年2月11日 帝丹小学校脱靴室
「あれ、おかしいな。」
この日、2年生の工藤勇人は下校の準備を終え、いつもどおり幼なじみといっしょに帰ろうとしていた。所が、その幼なじみの姿が見えなかった。
「どうしたの、江戸川君、じゃなかった工藤君。」
困っている彼に、この学校二十年のベテラン教師で今は副校長(教頭)である小林先生が声を掛けた。かつての若々しさはさすがにないが、かわりに今は頼れるお母さんといった雰囲気をかもし出している彼女は、生徒や教師、父兄からも厚く信頼されていた。そして、時々かつての教え子であった江戸川コナンと瓜二つの彼を間違えて呼ぶ。最初の頃は文句を言っていた勇人であったが、今はもう慣れてしまっていた。
「あ、小林先生。希見ませんでした?」
「え、ああ円谷さんね。さっき大急ぎで走っていったけど。」
「え!本当ですか?」
小林先生の言葉に、素っ頓狂な声をあげる勇人。
「ええ。」
勇人の叫びに驚きつつ、小林先生はそう言った。その言葉に、勇人は俯く。
「どうかしたの工藤君?」
表情を暗くした彼に、小林先生は心配そうに声を掛けた。
「先生。実は希のやつ、ここんとこずっと一人で先に帰っちまうんだ。俺何か悪い事したかな。理由を聞いても言ってくれないし。」
「本当に?工藤君なんにも心あたりないの?」
小林先生の問いに、勇人は頷く。
小林先生も首をかしげた。勇人と希の二人といったら、卒業した優輝と藍、秋と鈴の再来と言われるほど仲が良く、お似合いのカップルで有名だ。その二人の間に、特に何の理由もなく亀裂が発生するのはどう考えてもおかしい。
小林先生は希が勇人を避ける理由を考えてみた。だいたい女の子が男の子を避ける理由といったら何か知られたくない事がある時だ。そこまで考えて、小林先生はふと今日が何日であるかを思い出した。
今日は2月11日。つまり3日後は2月14日である。そこから小林先生が導き出した答えは1つであった。
「なるほど、そういうわけか。」
小林先生のその言葉に、勇人は驚きながら聞いた。
「え、わかったの先生?」
「ええ。ははん、さすがの名探偵君も判らないか。」
どうやら工藤家の男というものは色恋沙汰に鈍感らしい。しかも、自分の。
「じゃあ教えてよ。」
「だめ。それは君自身で考えなさい。」
そう言い残して、小林先生は行ってしまい、後には勇人だけが取り残された。
勇人は帰る途中もずっと考えつづけていた。しかし、中々答えを出せずにいた。
「畜生。何で小林先生にはわかって、おれにはわからねえんだ。」
そう言いつつ頭を抱える勇人。だがいくら考えても答えは出てこない。
そんな彼の目に、コンビニの駐車場に建てられた旗の文字が飛びこんできた。
旗には、カラフルな文字で、『間もなくバレンタイン』と書かれていた。一時期は廃れかかったバレンタインデイであったが、お菓子メーカーのプロジェク○Xなみの努力によって、日本のイベントとして残る事が出来た。もっとも、趣向が手作り主流になったため、メーカーの売上が落ちた事に変わりはなかった。
「バレンタインか。」
そう呟き、勇人は去年のバレンタインを思い出す。
去年のバレンタインといったらそれはもうすさまじいものであった。以前から袋一杯のチョコを持って帰ってくる父や兄達の姿を見て育った彼であったが、あくまでそれは自分には関係のない他人事と思っていた。しかし、現実は彼の予想を大きく裏切った。
一年生であったにも関らず、彼の元に袋一杯分になろうかというチョコが届いたのだ。しかも同級生だけではなく、上級生からも結構な量が届いた。そりゃそうだ。あの工藤家の二男にして容姿端麗、音楽を除く全ての教科は最優秀で推理力も兄顔負け、それでもってサッカーや格闘技も出来るのだから彼の人気が低いはずがない。
それらのチョコを持って帰って母親の蘭に見せたら。
「こういうことでも血は争えないわね。」
と言われた程だ。しかし、彼にとってはそれ以上に深く心に残ったのは、希の悲しそうな表情だった。
希も去年、勇人にチョコを渡したものの、そのチョコは市販の物で、他の女の子達が勇人に渡した物(さすがに小学校低学年では手作りは難しいらしい)と大差なく、結局多くのチェコの中にうずもれてしまったのだ。
勇人はちゃんと分けなかったのを後悔したが、時既に遅しであった。
その苦い思い出が彼の脳利をよぎった。それと同時にある思いが心の中に浮かんできた。今年、希からチョコをもらえるかは最近の希の態度から見て微妙な所であった。しかし、もしもらえるのなら。彼はこの時、ある決意を固めたのであった。
一方その頃希はというと
「…・・でそこはそうするの。判った希ちゃん。」
「うん、ありがとう鈴おねえちゃん。」
例によって工藤邸にいた。
彼女は真剣な眼差しでメモを取っていた。教えてもらっている相手は勇人の姉の工藤鈴だ。そして、何を聞いているかというと、賢明な読者なら既にわかるであろう。そう、チェコレートの作り方だ。
「どういたしまして。それにしても希ちゃん偉いわね、その歳で手作りチョコを勇人にあげようなんて。何かあったの?」
そう鈴が言った途端、希の顔が真っ赤になった。
「べ、別に訳なんて。ほ、ほら、私勇人から誕生日プレゼントに手作りの物もらったからそのお返しと思って、ただそれだけ。」
そう言って、希は手に付けていた貝のブレスレットを見た。だが、それだけでないのは彼女の顔を見れば一目瞭然だ。ただ鈴も同じ女である。それ以上は何も言わなかった。
「ふーん、そう。それよりももう行かなくて良いの?早くしないと勇人帰ってきちゃうわよ。」
鈴が時計を見ながら希に言った。
「あ、そうだった。じゃあね、鈴お姉ちゃん。ありがとう。」
「うん、希ちゃんも頑張ってね。」
鈴に見送られながら、希は帰っていった。
「全くあの歳で。二人ともマセてるわね。でもまあいいか。さーて、私も頑張らなくちゃ。」
そう言って、彼女は自分の方の事をするべく、台所に向かったのであった。
一方出ていった希はというと。
(今年は勇人に、他の人にはあげられない物をあげてみせる。)
と心の中で思っていたのであった。そう、ここ最近勇人を避けていたのはこの事が勇人にばれない様にするためであったのだ。そして幸いにも、この後も14日まで、勇人に希がしていたことはばれなかった。
そして運命の2月14日
午前七時 帝丹小学校 脱靴室
「ふふふ。勇人君に私のチョコを最初に食べてもらうんだ。」
普通(この日は偶然にも開いていた)なら先生さえまだこない早朝に、カチューシャが良く似合う少女が大事そうにチョコ(ちなみに手紙つき)を持ちながら登校してきた。
この日、2年生の小嶋瞳(こじまひとみ)は例になく早起きして登校していた。余りに早い彼女の起床に、母の歩美と父の元太は目を丸くした程である。
その目的は、工藤勇人の下駄箱に、最初にチョコをいれるためであった。
そう彼女は勇人が好きだったのだ。母親がコナンを好きだったように。
どうやら、好きな男のタイプは母親から遺伝したらしい。
そしてお目当ての下駄箱に向かう。
「ええと、勇人君の下駄箱はここか、って、え?」
下駄箱を見つけた途端、彼女はそう言って、手からチョコを落とした。
そこにはこう書いた張り紙がしてあった。
『チョコいれるのお断りします。 工藤勇人』
「そんな!!」
彼女は叫びながら崩れ落ちた。
初恋が玉砕するのもどうやら遺伝したらしい。
その後、いつもどおり登校してきた勇人であったが、なんと彼は自分の机にも同じ張り紙をして、チョコを机に入れられるのを防いでいた。
さらに、チョコを直接持ってきた同級生と下級生には。
「ごめん、俺もらえないんだ。」
と謝り。上級生には。
「ごめんなさい先輩。僕どうしてももらう訳にはいかないんだ。」
と謝って受け取りを完全に拒否した。
とにかく、この日勇人は全てのチョコを断ったのであった。
むろん、これによって彼の評判(主に女子)ががた落ちになったのは言うまでもない。
男子からも、『うぬぼれやがって』とさんざん言われた。しかし、勇人はそうなる覚悟をあらかじめしていた。大事な人のためならと思って。
そして夕方
勇人は下校の仕度を終え階段を降りていた。図書室で調べ物をしていたため、少しいつもより遅くなってしまっていた。
結局この日、希は彼にチョコを渡さなかった。それどころか、ひっきりなしに人がやって来たため、会話する事さえ出来なかった。そして、授業が終わると希はさっさと教室を出ていってしまっていた。
「やっぱ嫌われちまったのかな、俺。」
真剣にそう考えてしまう勇人であった。だが、彼を驚かす事態が脱靴室で待っていた。希がそこに一人立っていたのである。
その姿に驚く勇人。
「か、希!どうしたんだ、今日は早く帰らなかったのかよ。」
「うん。今日は勇人に渡したい物があったから。」
そう言って、希は持っていた包みを彼に見せた。
「え、それってまさか。」
「そう、チョコレート。直接誰にも邪魔されず渡したかったの。ごめんね勇人遅くなっちゃって。」
「いいよ、そんなこと、謝らなくたって。けどこれって。」
そう言いながら包みをまじまじと見つめる勇人。明らかに市販の物ではない。
「おいしくないかもしれないけど。」
小さな声でそういう希。
「ま、まさか!お前の手作り!?」
勇人の叫びに、希は恥ずかしそうに首を縦にふった。
この瞬間、ここ数日間さんざん勇人を悩ませ続けた疑問が全て氷解した。どうして希が早く帰ってしまったのか、どうして自分を避けていたのか、その答えがそこにあった。
「もらってくれる?」
不安そうに言う希。
「え、なんでそんな事聞くんだよ?」
勇人が不思議そうに聞き返した。
「だって、勇人皆のチョコ断ってたから。」
その希の言葉に、勇人は笑顔になって言った。
「ああ、あれか。あれは今年は一個しかもらいたくなかったからだよ。」
「え、それって!?」
希の顔が真っ赤になった。勇人は1個しかもらわないつもりでいた。そして希が渡そうとしているのはもらってくれると言っている。つまり、それは。
「そう、お前からしかもらいたくなかったんだ。去年みたいに、お前の悲しい顔を見るのはごめんだからな。」
勇人も真っ赤になりながらそう言った。
「ありがとう、勇人。」
目を潤ませながら希はそう言った。
「ば、バーロー泣くなよ。それよりさ、これ俺だけが食べちゃ勿体無いから、一緒に家に帰って食べないか、紅茶でも飲みながら。」
「うん。」
勇人の言葉に、希は極上の笑顔で返した。その表情に心臓が高鳴る勇人。
「じゃあ帰ろうぜ。」
そう言って勇人は片手をさし出す。希は無言で自分の手を彼の手につなげた。
二人は仲良く下校の途についた。
ちなみに二人はこの時、誰にも邪魔されなくてよかったと心の中で感謝していた。
この後、二人が工藤邸にて楽しくお茶を飲みながらチョコを食べたのであったのは言うまでもないことである。
翌日
勇人と希は久しぶりに、2人そろって登校していた。ところが。学校についた途端、偶然あった小林先生にこう言われ、二人は大いに衝撃を受けることとなる。
「おはよう。工藤君。円谷さん。その様子だと仲直りできたようね。それにしても本当に二人とも仲が良いのね。工藤君、昨日ああしたなら、円谷さんをしっかり守ってあげるのよ。」
「「え!!」」
驚いて顔を真っ赤にする2人。
実は、2人は気づいていなかったが、あの場にいたのは希と勇人だけではなかったのだ。2人の人間に見られていたのである。
目撃者1 K先生の証言
「本当に工藤君とても男らしかったわ。小学校二年生とはとても思えない。それに円谷さんも顔を真っ赤にしちゃってとても可愛かったわね。」
目撃者2 2年生のH,Kさん
「うわーん!!悔しい。まさかあんなに勇人君と希ちゃんが仲いいなんて。けど、瞳負けないもん。」
このお二人を震源地に、この時の話はまたたくまに帝丹小学校中に広がり、再び勇人の株を盛り上げることになる。しかも、前以上に。
これが原因で、2月後半の勇人と希のファンの数は先月比2倍になったという。
<完>
あとがき
この作品は2月14日に構想したものです。当初は余りに多いバレンタインのチョコに困る工藤邸の話を書こうと思いましたが、勇人と希のキャラが中々よかったので、使わせてもらいました。ただ事後承諾になってしまいましたが。
小嶋瞳は小嶋元太と吉田歩美の子供というもちろん架空の設定です。今回は彼女に妨害キャラ(?)
になってもらいました。ちなみに勇人達と同じクラスという設定です。ただ、希を好きな男の子の妨害キャラがどうしても考えつかなかったのはお許し下さい。
そして、キャラクターを使う事を許可して下さいましたlito様、自分の作品を掲載して下さいました東海帝皇様、本当に感謝しています。
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