恋愛戦線異常なし
By トモ様
「高木君、今日から仕事復帰なの?」
宮本由美は高木を見つけると早速話しかけてきた。
高木ワタルは滋賀県で負った傷も癒えて本日から職場復帰を迎える。
「久しぶりです由美さん。おかげさまで傷も癒えまして今日から仕事復帰です」
由美は意地の悪い顔をすると高木の腕をつっついた。
「聞いたわよ〜高木君。とうとう、愛しのお姫様への想いが通じたらしいじゃない」
「いや〜そんな」
照れて頭をかく高木に由美が近寄り耳打ちする。
「でも覚悟しといた方がいいわよ高木君」
「覚悟?」
高木は何の事かわからず首を傾げた。
「まだ美和子とつき合う事になった事を知ってるのは目暮警部と白鳥君と私だけみたいだけど美和子が滋賀県から帰ってきてから機嫌が良いもんだからみんな高木君とつき合う事になったのかと噂してるわよ」
「ええ!!」
高木は焦った。
なんせ警視庁には美和子に恋する刑事が沢山いて、今までも美和子とデートを計画したらどこから嗅ぎつけたのか取り調べ室に連行され尋問された事が多々あるのに、つき合う事になったと知れたら・・・高木は想像して身震いした。
「白鳥君は黙っているみたいだけど、彼の最近の機嫌の悪さが更に噂に拍車をかけているのよね」
なんせ目の前で濃厚なラブシーンを見せられた白鳥・・・不機嫌なのは当然だろう。
高木は美和子とつき合う事になって浮かれていたので由美に言われるまで美和子に恋する刑事達の嫉妬の事を忘れていた。
「捜査一課に行けばその凄さがわかるわよ。じゃあね〜」
落ち込んだ高木に由美は手をヒラヒラさせて行ってしまった。
☆☆☆
「おはようございます。高木ワタル、本日より職場復帰致します・・・うっ」
一課の扉を開け敬礼して中に入った高木は殺気だった空気に圧倒された。
「あ・・・あの?」
一課の刑事達に睨まれて思わず萎縮してしまう。
「高木君、今日から職場復帰だったね・・・傷も癒えたばかりなのでしばらくは書類整理でもしていたまえ」
白鳥が声をかけてきたがいつもにも増して冷たい態度だ。
「はあ・・・」
高木は机に向かったら机には書類の山があった。
(いっ嫌がらせ攻撃)
高木はため息をつき書類整理を始めた。
「高木さん、久しぶりです・・・早速こき使われてますね〜」
千葉がやってきて高木の机の山の様にある書類を見て同情する様に話しかけてきた。
「で?佐藤刑事とつき合う事になったって噂は本当なんですか?」
いきなり美和子との仲を聞いてきた千葉に高木は恨めしそうな目線を送るが彼は気づかない。
高木は回りの刑事が聞き耳を立てているこの状況で真実を言える根性を持ち合わせている筈もなく・・・。
「そっそんなわけないじゃないか・・・ハハハ・・・」
冷や汗をかきながら何とか誤魔化す。
「おはようございま〜す」
佐藤美和子が一課に入ってきた。
「高木君、おはよう」
「おはようございます。み・・・佐藤さん」
美和子さんと呼びそうになり慌てて言い直す高木。
実はワタル君、美和子さんと呼びあう様になっていたが仕事中はけじめをつけようと今まで通り高木君、佐藤さんと呼びあおうと決めていた。
「うわ〜凄い書類の山ねぇ」
美和子は高木の机をのぞき込み目を丸くする。
「白鳥警部に傷も癒えたばかりなのでしばらくは現場に出ずに書類整理しとけって言われたんですよ」
「あら〜白鳥君、優しいじゃない」
(イジメだと思うんですが・・・)
「じゃあ高木君頑張ってね〜。千葉君、この間の件の聞き込みに行くわよ」
いつもと変わらない美和子の態度に一課の刑事達は噂はデマだったのかとホッとした。
当の高木ですらこの前、愛を誓いあったのは夢だったのかと錯覚したほどだった。
☆☆☆
書類が半分整理できた頃には12時を過ぎていた。
「やっと半分片付いた」
高木は椅子にもたれて背伸びした。
「ただいま〜・・・高木君お昼ご飯もう済ませた?」
美和子が聞き込みから帰ってくると高木の所に寄ってきた。
「いえ、まだですが」
美和子は嬉しそうに高木の腕を掴んだ。
「じゃあ一緒に食べに行きましょう・・・ワタル君」
「ちょ・・・ちょっと佐藤さん」
「・・・美和子よ」
「・・・でも仕事中は」
「今は休憩時間だから良いの」
「でも佐藤さん・・・」
「・・・・・」
「・・・はい、美和子さん」
美和子は高木の言葉を聞くと嬉しそうに腕を絡めてきた。
「じゃあ行きましょう」
一課に衝撃が走った・・・やはり噂は本当だったんだと。
高木は腕に感じる柔らかい感触に幸せを感じながらも背中に突き刺さる冷たい視線にこれからの苦労を実感した。
☆☆☆
昼食から帰ってきた高木に待っていたのは朝の3倍の量の書類が高木の机を占領していた。
(やっぱり・・・)
高木は肩を落とした。
「・・・朝より書類が増えてるわね」
さすがに美和子も書類の量に引いている様だ。
「高木さん、ついでにこの書類もお願いします」
ありがたい事に千葉が更に仕事を増やしてくれる。
「ハハハ・・・好きにしてくれ」
高木は既にあきらめていた。
「あっそうだ高木さんと佐藤さん、松本警視と目暮警部が呼んでましたよ」
「え・・・なんだろう?減俸の処分をチャラにしてくれるのかしら」
「それはないと思いますが・・・」
高木も美和子も滋賀県の一件で減俸処分を受けていた。
「とにかく行ってみましょう」
☆☆☆
「鈴鹿サーキット?」
江戸川コナンは毛利蘭の言葉に首を傾げた。
「そうよ、高木刑事と佐藤刑事がこの前、減俸処分を受けたけど一応、手柄を立てた訳だしって今度のフォーミュラーニッポンのチケットと宿泊券を貰ったんだって」
「俺達の分も?」
「ええ、あの事件に関わった人の分もあるそうよ」
「車の追いかけっこなんて興味ないんだけどな」
コナンはあまり乗り気ではないみたいだ。
「良いじゃない行こうよ・・・ね?」
蘭の甘えてくる仕草にコナンが拒否できる筈なかった。
「・・・わーったよ」
「じゃあ志保・・・哀ちゃんと元太君、光彦君、歩美ちゃんも誘っておいてね」
「おいおい灰原はともかく何で元太達も誘うんだよ」
「阿笠博士と服部くんと和葉ちゃん用事があるんで来れないんだって。だから代わりに誘ってあげたらどうかなって思ったの」
元太達の前では子供の演技をしなくてはいけないのでコナンは嫌そうな顔をする。
「あの子達だって新一の大切な友達なんだから」
蘭に言われて渋々了承した。
「あ〜あ、早く元の姿に戻りてー」
ブツブツ文句を言うコナンに蘭はクスっと笑う。
「あら、私は別にこのままでも良いけどな〜」
「何でだよ?」
「だって小さくなった新一って可愛いんだもん」
蘭はそう言ってコナンを抱き上げた。
「離せ〜!!」
小さいままでは蘭に手をだせない生殺し状態のコナンは心底早く元の姿に戻りたいと願うのだった。
「うわ〜サーキットって広〜い」
歩美が感激の声をあげた。
「でもよーフォーミュラーニッポンてF1より遅いんだろ?」
「ちっちっち・・・甘いですよ元太君、フォーミュラーニッポンはF1の次の世代のドライバー達が凌ぎを削るので人気があるんですよ。」
得意げに話す光彦。
どうやら小学生にしてはかなり詳しいみたいだ。
「そうよ〜、今やF1のフェラーラとウインダムで走っているシューマイケル兄弟もこの舞台で走った事あるんだから」
美和子も光彦に同調する。
彼女も詳しいみたいだ・・・まあ、あんな車を乗り回
してるんで予想はできたが。
高木はあまり詳しくない様だが嬉しそうにしている。
彼の場合は美和子と一緒ならどこでも楽しいのだろう。
「でもオメーが興味深そうにしてるのは意外だったな」
コナンは哀がピットをじっと見ているのに意外そうに話しかけた。
「あら、大の大人がコンマ1秒のタイムを削るのに大金を使って必死に開発してるなんて興味あると思わない?」
・・・少し観点がズレている様だが哀も一応興味あるみたいだ。
「イテテテテ・・・痛いよ蘭姉ちゃん」
哀と仲良く話しているコナンにおもしろくないのかコナンの耳を引っ張る蘭。
「それで、今注目のドライバーは誰なんですか?」
抗議の声をあげるコナンを無視して蘭は美和子に聞いた。
「ん〜最も注目されているのはジュダンの佐藤匠だけど私はテレルの高木新之介に期待してるわ」
「え〜テレルって弱小チームじゃないですか」
美和子の意見に光彦が驚いた。
「だからなのよ。あのマシン性能で中段グループをいつも走ってるんだから凄いのよ・・・憧れちゃうわ」
目をキラキラさせている美和子。
同じ名前の高木は複雑な気分みたいだ。
「テレルが私を開発者にしてくれたら1年でトップチームにする自信あるのに」
「だれが小学生なんか雇うかよ」
自信ありそうに話す哀にコナンが突っ込んだ。
「このチケットはパドックにも入れるみたいだから行ってみましょうよワタル君」
「はっはい美和子さん」
仲良く歩く二人の後ろをついて行きながらコナンと蘭は羨ましそうに二人を見ていた。
☆☆☆
「え〜!!どうして蘭お姉さんとコナン君が同じ部屋なの?」
8人に対して泊まる部屋は4つ。
ホテルでの夕食中に部屋割りを高木と美和子、コナンと蘭、元太と光彦、哀と歩美と決めたとたんに歩美が抗議の声をあげた。
歩美はコナンと蘭のフインキが今までと違う事を感じとっているのか、この部屋割りに反対した。
「ハイハイ分かったわよ。じゃあ私と蘭さん、ワタル君とコナン君で良いわね?」
美和子の案に納得した歩美。
コナンは隣に蘭が寝ていても手をだせないどころか気になって寝不足になってしまうので反対はしなかったが高木はこの決定にがっかりとしていた。
「でもよ、今日の予選の佐藤は速かったよな。ダントツのポールポジションだもんな!」
目の前でフォーミュラーカーを見て感激したのか元太は興奮気味に話している。
「あら、高木もあのマシンで予選11番手なんて凄かったわよ」
「そうですよね〜暴れるマシンをむりやりねじふせて走ってるみたいでしたしね」
美和子と蘭がウットリしてるのを高木とコナンはおもしろくなさそうに見ていた。
☆☆☆
「キャー!!」
食事も終わって部屋に向かおうとした時に悲鳴が響き渡った。
真っ先に悲鳴のした方に走り出したのはコナンと高木と美和子。
「少年探偵団、出動だ!!」
少し遅れて元太、光彦、歩美も行ってしまい取り残された蘭と哀。
「・・・・・」
「どうしたの?」
少し寂しそうにしている蘭に哀が話しかけた。
「・・・私、新一の役に立てないなと思って」
「・・・馬鹿ね・・・蘭さんが彼の代弁者になれば良いじゃない」
「え?」
「組織の脅威がなくなったとはいえ、今の工藤君が人前で推理を披露する訳にはいかないでしょう・・・蘭さんのお父さんがいないんだから代わりに蘭さんが工藤君の代弁者になれば良いのよ」
哀にそう言われて蘭の表情が明るくなった。
「さあ行きましょう、名探偵さんが待っているわよ」
蘭と哀もコナン達の後を追った。
☆☆☆
「ハア・・・」
コナンのおかげであっと言う間に事件を解決できたが高木は部屋に戻ってから元気がなくため息ばかりついていた。
「どうしたんですか?高木刑事」
「なんか工藤君の推理を聞いていたら自信がなくなっちゃって・・・僕みたいな半人前の刑事が美和子さんの恋人になって良いのかと不安になってしまったんだよ」
「・・・・・」
コナンは何か考えていたがしばらくすると部屋を出ていこうとした。
「どこへ行くんだい?工藤君」
「ちょっと現場に忘れ物をしたのを思い出したので取ってきます」
5分程してドアが開いてコナンが戻ってきた様だった。
「おかえり工藤・・・美和子さん!!」
高木がドアの方を向くと入ってきたのはコナンではなく美和子だった。
「どうしたんですか?美和子さん」
「工藤君が部屋を代わってくれってやってきたのよ・・・ワタル君が落ち込んでるみたいだから慰めてくれって」
高木はコナンの心遣いに赤くなってうつむいてしまった。
美和子は高木の側にやってくると高木を抱き締めた。
「馬鹿ね・・・ワタル君は確かに半人前だけど私だってまだまだ一人前には程遠いわよ・・・これから二人で一緒に一人前を目指せば良いじゃない」
美和子はそっと高木にキスをした。
「美和子さん」
二人はもつれあう様にベットに倒れていった。
☆☆☆
「新一、一緒に寝ましょう」
蘭がコナンのベットに入り込もうとしてきた。
「バーロ!!なっ何考えてんだよ!!」
コナンは赤くなって抵抗した。
「ひどい!!私を愛してるって言ったのは嘘だったのね」
「そういう訳じゃなくてだな・・・」
(手がだせないこの状況でオメーに側で寝られたら俺が眠れねーんだよ!!)
オロオロしているコナンの隙をついて蘭はコナンのベットに潜り込んでコナンを抱き締めた。
「おやすみ〜新一」
「離せ〜!!」
コナンの長い夜は始まったばかりだった。
翌日、心なしか肌がツヤツヤしてる様に見える高木と美和子、機嫌が良さそうな蘭と寝不足でフラフラな様子のコナンの二組のカップルを見て哀は理由が分かったのか苦笑していた。
ー恋愛戦線異常なし(完)ー
〜あとがき・・・ちゅーかキャラトーク(またかいな!!)〜
平次「・・・(怒)」
和葉「・・・(怒)」
新一「どうしたんだ?二人して怒ってるみたいだけど」
平次「どないもこないもあるかいな!!なんで俺等に出番がないんや」
和葉「ホンマやで!!アタシも鈴鹿に行くもんやと思って新しい服買って出番待ってたんやで!!」
蘭「しょうがないじゃない。今回は本編で出番がほとんどなかった少年探偵団をこの外伝で登場させたいって作者の意向があったみたいなんだもん」
園子「・・・あら、じゃあ私はどうでも良かったって訳なの(怒)」
蘭「そっ園子」
園子「私なんて4話に少し電話越しに声だけ登場しただけでいまだに出番がないのよ!!」
平次「ホンマやで・・・外伝なんて作る暇があるんやったらはよー2部を始めろっちゅーねん」
新一「しゃーねーだろう。まだ作者が2部の構想が全部出来上がってないそうな
んだから」
和葉「じゃあ次回も懲りずに外伝なん?」
蘭「そうみたいだよ」
平次「次こそは俺の出番あるんやろーな?」
志保「説明しましょう」
平次「待ってたで〜説明おばさん」
志保「・・・(怒)はい、和葉さんに園子さん、次の台本よ」
平次「・・・俺のは?」
志保「・・・ないわ」
平次「・・・(汗)かんにんや〜!ベッピンのお姉さん。俺の台本もちょうだいなぁ」
志保「ない物はないのよ」
平次「・・・(泣)」
和葉「ちょっと・・・これやとアタシの役、もしかしてアタシであってアタシでないんやない?」
蘭「まあまあ、和葉ちゃん。服部君と違って出番があるだけマシじゃない」
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