幽霊探偵



Byトモ様



〜プロローグ〜



「横溝警部、被害者の部屋から遺書らしき手紙を発見しました」

静岡県警の横溝警部の元に、部下が被害者の遺書らしき手紙を持って来た。

「・・・ふむ、ワープロで書かれた物だが、被害者の部屋が密室だった事を考えたら、自殺の線が濃厚だな」
横溝は毛利小五郎を名探偵と崇拝してる辺り、人を見る目が無いのかもしれないが、なかなか優秀な刑事である。
その彼が、自殺だと断定しようとした時、現場に集まっていた野次馬の中から声がした。

「待ってください・・・これは殺人事件です!」

横溝は訝しげに声の主に顔を向けると、10代後半ぐらいの青年だった。

「・・・一見すれば自殺に思えますが、全ての状況が殺人だと物語ってます」

横溝はムッとして、

「何だいきなり・・・君は誰なんだね?」

と、訊ねる。

「工藤新一・・・探偵さ」

青年、工藤新一は不敵な笑みを浮かべ、横溝を見据えていた。









(1)



『ちょっと、聞いてるの新一!!』

公衆電話の受話器を通して、江戸川コナンの耳に毛利蘭の怒声が届いた。

「わりぃな・・・まだ厄介な事件を抱えちまってるから、しばらくは帰れねえよ」

言うまでもないが、コナンは変声機で新一の声を出して蘭に応対している。

『もぉ、事件事件って、いつまで掛かってるのよ!・・・アンタ、ホントに探偵としての腕が落ちちゃったんじゃないの』
「バーロ、この俺に解けねえ事件はねえよ」
『・・・自信満々なのは相変わらずね』

電話の向こうで蘭は呆れた様子だ。

「いけね!・・・わりぃな蘭、そろそろ事件に戻らねえと・・・また電話すっからよ」
『あ・・・ちょっと新一・・・』

強引に電話を終わらせたコナンは、

「あー早く元の姿に戻りてえ」

と、大きなため息をつくのであった。

「よおコナン」

そんな意気消沈気味のコナンに声をかけたのは自称、少年探偵団のリーダ小島元太だ。

(・・・またオメーらかよ)

コナンは蘭と電話で話した直後なだけに余計、自分は今は子供なんだと思い知らされてしまう。

「どうしたのコナン君?」
「何か元気がないですね」
「・・・別に何でもねえよ」

探偵団の残りのメンバーである円谷光彦と吉田歩美がコナンを慰めるのでコナンは空元気を出し、何もないように振舞った。

「で、オメーらは何してんだよ?」
「みんなでこれから博士の家に行くの」
「何でも、凄い発明をしたらしいんですよ」
「コナン、お前も来いよ」

と、3人は半ば強引にコナンを引き連れて、阿笠博士の家に向うのだった。









(2)



「なんだこりゃ・・・」

阿笠の発明品を最初に見たコナンの感想だった。
阿笠邸の庭には大きなカプセルとプレートが置かれていた。

「馬鹿でっかいモンを造って・・・どうせロクなモンじゃねーな」

普段、博士の発明品に色々世話になってるくせに、コナンの評価は手厳しい。

「あら、今回は私も関心したぐらい、この発明品は素晴らしいわよ」

そう言って博士の発明品を擁護したのは灰原哀である。

「へえ、オメーが誉めるなんて珍しいな・・・で、アレは何なんだ?」
「論より証拠、まあ見ていなさいよ」

と、哀が言うと得意顔の阿笠がやって来た。

「オホン!!これが、今回の発明品のホログラム投影機じゃ!!」
「「「おおー!!」」」

意味が分かっているのか至極怪しいが感心する元太、光彦、歩美。

「誰か最初に試したい者はおるかの?」
「「「はーい!」」」

さすが怖いもの知らずの子供だ。
みんな我が先にとの勢いだ。
ちなみにコナンは爆発を恐れて立候補しない・・・失礼な話しである。
・・・結局、最初の被験者は元太に決まった。

「よし、じゃあカプセルの中に入るのじゃ」

言われたままにカプセルの中に入った元太。

「次に、このパソコンで起動させると・・・」

阿笠が手元のノートパソコンを操作するとプレートにカプセルの中に居る元太の映像が映し出された。

「「うわー凄い!!」」

感激する光彦と歩美。

「驚くのはまだじゃ!」

阿笠は更にパソコンを操作して何かのプログラムを起動されると、プレートに映し出されている元太の姿が仮面ヤイバーに変身した。

「お・・・俺が仮面ヤイバーになってる」

カプセルの小窓から、プレートを見た元太は感激している。

「どうじゃ!このパソコンにプログラムすれば、どんな姿にも変身させて映し出す事が出来るのじゃ♪」
「へえ、これはなかなか・・・」

コナンも珍しく阿笠の発明品に関心している。

「じゃあ今度の学芸会でやる仮面ヤイバーの劇にこの装置を使えば変身シーンをカッコ良く演出出来ますね」

(おいおい・・・折角のマトモな発明品をそんな事に使うのか)

光彦の案に心の中で突っ込むコナンであった。









(3)



「・・・であるからして、犯人は貴方しか考えられないんですよ」

週末、コナンは小五郎と蘭と共に、軽井沢に旅行に来ていたのだが例によって事件に遭遇していた。
眠りの小五郎の推理によって観念した犯人はガックリと肩を落とした。
言うまでもないが解決したのは小五郎ではなく、コナンの尽力のおかげである。

「いやー相変わらずの名推理!さすがですね毛利さん」

事件を担当していた横溝が嬉しそうに小五郎を褒め称える。

「まあ、俺にしてみれば、こんな事件は朝メシ前よ♪」

目覚めた小五郎は得意げになる。

(ったく、誰のおかげだと思ってんだよ)

有頂天の小五郎を見て、ムッとするコナン。
自分の手柄を全部、小五郎に持っていかれるわけだからコナンが不機嫌になるのは当然の反応だろう。

「いやー、同じ名探偵でも工藤新一とは一味違いますね」

(え・・・俺?)

いきなり横溝の口から自分の話題が出たのでコナンは驚いた。
新一の話題に反応したのは蘭も同じで、

「新一がどうかしたんですか?」

と、横溝に尋ねる。

「先日、ある事件にひょっこりと彼が現れたんですよ」
「新一が!」

(ウソ〜)

横溝の話しに蘭は驚き、身に覚えのないコナンは唖然としていた。

「それで、その事件を我々警察が自殺だと断定しようとした時に彼が現れて、殺人事件だと言い張ったんですよ」

(・・・そんなの俺は知らねえぞ)

「・・・結局、彼の主張は、どうもちぐはぐで的を得られない内に自殺の決定的な証拠が出て、彼は逃げるように姿を消したんですがね」
「まさか・・・新一が」

信じられない様子の蘭の横で小五郎はニンマリと笑うと、

「ハハア・・・さてはあの野郎、自分の推理が外れて逃げ出しやがったな」

と、あざ笑っている。

(一体、どういう事だ・・・誰かが俺の名前を語っているというのか?)

コナンはワケが分からなかった。









(4)



「なあ博士、何処かに俺の偽者が居るんだよ・・・そいつを見つけ出す発明品はねえのかよ?」

軽井沢から帰ってきたコナンは早速、阿笠の所に相談に来ていた。

「無茶を言うな・・・いくらワシでも、そんなモン造れんぞ」
「・・・クソー!こうしてる間にも、俺の偽者が何処で何してるか分かったもんじゃねーってのに!!」
「あら、工藤君の偽者と決めつけるのは早計じゃない」
「灰原・・・どういう事だよ?現に俺には身に覚えがねーんだぞ」
「元に戻りたいと願う工藤君の願望が、もう一人の工藤君を生み出したんじゃないかって事よ」
「オメーが、そんな非科学的な事を言うなんて意外だな」

コナンは科学者である哀を皮肉るが哀は冷静な姿勢を崩さない。

「・・・ドッペルゲンゲル現象」
「ドッペルゲンゲル?」
「同一人物が違う場所に同時に存在する現象・・・この現象は世界の各国でしばしば報告されていて珍しいものではないの。例えばその人物が、もう一人の自分を町中で見かける・・・といった具合にね」
「バーロ・・・例えそうだとしても、この俺が推理ミスなんかするかよ・・・何処かで俺の名を語ってる偽者が居んだよ」

いまいち信じられない様子のコナン。

「・・・まあ、正体が工藤君の偽者だろうがドッペルゲンゲル現象だろうが、早く何とかしないと・・・」

哀は無表情を一転、険しくさせると、

「もし、その工藤君の存在を彼等が気づいたら・・・」

コナンの脳裏にジンとウォッカが浮かび上がる。

「彼等が工藤新一は生きているとみなして、貴方の周りの人達にも危険が迫るかもしれないわよ」

哀の指摘は的を得ているとコナンは思った。
このまま偽者の新一が姿を現し続けたら、黒ずくめの組織の耳に入るかも知れない。
そうなればコナンの大事な人達にも危険が及ぶ事になる。

(・・・蘭)

真っ先に思い浮かぶのは、やはりコナンにとって、最も大切な女性である。

(灰原の言う通りだ・・・早く何とかしねーとな)

コナンは身の引き締まる思いで気合を入れて阿笠邸を後にした。









(5)



「ちょっと何なんですか!!」

毛利探偵事務所に帰ってきたコナンは、事務所の入口の前で蘭の叫び声が聞こえてきた。

(まさか、ヤツらが!!)

コナンがドアを開けると彼が心配した黒ずくめの人物は見当たらなかった。
中に居たのは黒と正反対の人物・・・ハデハデしいカッコの女性が蘭に噛み付いていた。

「だから工藤新一を出しなさいって言ってるのよ!!」

女は声を荒げて新一を出せと喚いている。

「ちょっとアンタ!いきなりやって来て、あの探偵坊主を出せと言われてもウチはアイツとは赤の他人なんだよ」

小五郎が女に食って掛かるが、女は怯まない。

「なによ!!ここで工藤新一をかくまっているのは鈴木って娘に聞いて知ってるのよ!!」

(あのアマァ・・・)

情報源は、やはり新一と蘭の同級生の鈴木園子みたいだ。

「新一に一体、何の用なのよ」

と、蘭が訊ねると女は悔しそうな顔をして、

「・・・彼、私と付き合うって言ったくせに、一度私と関係を持ったら、あっさりと私を捨てて姿を消したのよ!」

と、喚き散らす。

「まさか・・・新一が・・・」

これには、さすがの蘭もショックを受けたようだ。

「あの野郎・・・厄介な事件に巻き込まれたんじゃなくて、厄介な女関係に逃げただけじゃねーのか?」

ニンマリとする小五郎をムッとして睨むコナン。

(おっちゃんじゃあるまいし・・・まさかこの女も俺の偽者がらみなんじゃ・・・ニャロー!!)

コナンは身に覚えのないスキャンダルの罪まで擦り付けられて、偽者を確保するために非常に気合が入るのだった。









(6)



コナンは夜中にトイレに行きたくなって目が覚めた。

(あースッキリした・・・ん?)

用足しを終えたコナンは部屋に戻ろうとした時、蘭の部屋から光が漏れているのに気づいた。
コナンは、そっとドアを開けて中を覗くと、蘭が椅子に座って何か考え込んでるようだった。

(・・・蘭)

コナンは蘭の部屋の中に入った。

「蘭姉ちゃん・・・どうしたの?」
「コナン君・・・まだ起きてたの」

蘭は心なしか元気なさそうに見えた。

「でも良かったね。新一兄ちゃん無実でさ」

あの後、機転を利かせたコナンが蘭の部屋に飾っていた新一と蘭のツーショット写真を女に見せたら、

「・・・なかなかカワイらしくて私の好みだけど・・・この人誰?」

と、答えたため新一の無実が立証されたのであった。
だけど女が帰った後も蘭はずっと元気がなかった。

「・・・私ね、新一が私の知らない所で別の女の人と・・・って思ったら急に不安になったの」
「まさか、新一兄ちゃんが蘭姉ちゃん以外の女の人となんて、そんな甲斐性があるワケないよ」

(自分で言うのは恥ずかしいけど、事実なんだからな)

実際にコナンは蘭以外の女性に異性として興味を持っていないぐらい蘭一筋なのだ。

「・・・ありがとうコナン君。なぐさめてくれて」

蘭はそう言うと、あの女が帰って以来、初めて笑った。

「そうよね、あの推理オタクにそんな甲斐性なんてないわよね!」

(悪かったな推理オタクで)

「きっとまた新一兄ちゃんの偽者は横溝刑事の前に姿を現すから、みんなで偽者のトコに行って、とっちめてやろうよ!」

偽新一に騙された女も静岡在住なので静岡付近に現れる事は容易に想像できたので、既に横溝に偽新一が現れたら連絡してもらうように頼んでいる。

「フフフ・・・そうね」

蘭の笑顔が完全に戻った。









(7)



・・・そして1週間後。



PRRRRRRRR・・・PRRRRRRRRRR

「はい、毛利探偵事務所です」
『蘭さんですか、静岡県警の横溝です』
「・・・本当ですか!すぐにそっちに行きますんで引きとめておいてください」

事務所に横溝からの電話がかかってきて、偽新一が伊豆の殺人現場に現れたとの連絡が入った。

「行くわよコナン君」
「うん、あ・・・ちょっと僕トイレ行ってくるから待ってて」

コナンはそう言いトイレに駆け込むと何処かに電話をかけた。

「あ・・・俺だけど、偽新一が現れたから例のヤツ持って伊豆に向ってくれ」

コナンは電話を終えると不適な笑みを浮かべた。









(8)



「・・・だからこれは外部の犯行ですよ」

伊豆の殺人現場では偽新一が犯人は金目当ての外部の人間だと主張していた。

「しかしだねぇ工藤君」

横溝は相変わらずの矛盾だらけの新一の推理に困り果てていた。

(蘭さんの言う通り、この工藤新一は偽者なんだろうか?でも、毛利さんも最初は必ずチグハグな推理をするからなぁ)

横溝は、この新一が本物か偽者かを計りかねていた。

(師匠の毛利さんと同じで弟子の工藤君も同じなのかもしれないし・・・う〜ん、わからん)

勝手に小五郎と新一は師弟関係だと思い込んでいる横溝。コナンにしてみれば、ものすごく不本意な勘違いをされていると言えるだろう。

「横溝刑事」

コナンと蘭がやって来た。

「待ってましたよ蘭さん」

偽新一は蘭を見るなり口説きにかかった。

「お嬢さん、この事件が解決したら僕と食事でもどうですか?」
「あなた誰なんですか?」

と、蘭。

「工藤新一・・・探偵さ」

と、気障に決める偽新一。

(俺はそんなに気障じゃねーぞ)

と、怒鳴りたくなるのをとりあえず我慢するコナン。
蘭は蘭で、

(新一はもっと気障でかっこつけなんだから)

なんて思っている。
・・・どうも、工藤新一に対するイメージはコナンと蘭では大きな隔たりがあるようだ。

「えー!!貴方が有名な工藤新一さんなんですか!!」

蘭は驚いた風に装う。そしてニッコリ微笑むと、

「・・・でも私、新一の幼馴染なんだけど・・・アンタなんか知らないわよ」

と、笑みを崩さず静かに言う蘭。怖すぎる・・・と、コナンは思った。

「え?」

と、明らかに狼狽する偽新一。

「ハハハ・・・な・・・何を」

何とか誤魔化そうとする偽新一の鼻先を蘭の廻し蹴りが掠めた。
その蹴りのすさまじさに偽新一は腰を抜かしてしまい、ペタンと座りこんだ。

「何を驚いているの・・・アンタが新一なら私が空手の都大会で優勝したのを知ってるハズよ!!」
「じゃあ蘭さん、彼はやはり工藤新一ではないんですね?」

横溝も蘭の迫力にびびっているのか、少し腰を引かせながら蘭に訊ねる。
蘭は一度、横溝を見て頷くと、偽新一を見据えて、

「さあ、話してもらうわよ!アンタが何故、新一のフリをしてたのか!!」

と、まくし立てた。

「ご・・・ごめんなさい。工藤新一のフリをしてたら女性にモテたので・・・つい・・・もう二度としませーん!!」

そう言って偽新一は逃げ出して行った。

(ったく、そんな理由で俺のフリなんかすんなよな)

偽新一が蘭の迫力にびびり、簡単に自分が偽者だと認めたため、コナンの興味は偽者より事件に移ったのか現場を物色していた。
自分の偽者よりも事件を優先してしまうコナンを見る限り、探偵がいかに救いがたい存在なのかよく分かる。
やがて事件の真相が解けたのかニヤっとしたコナンは、

「蘭姉ちゃん、僕ちょっとトイレ行って来るね」

と言い走り去ってしまった。

「あ・・・ちょっとコナン君・・・もう」

傍から見ればクラーク・ケントが事件の度にトイレに行くぐらい怪しいコナンの行動だ。
しかし、幸いな事にロイス・レーン同様、蘭もあまり気にしてないようだった。









(9)



「しかし弱ったな。犯人は被害者の知り合いである彼等としか考えられないのだが」

横溝は捜査が行き詰まり困った様子だ。

「スミマセン・・・父も連れてくれば良かったですね」

隣りで蘭は申し訳なさそうに言った。

「いえ・・・別に、蘭さんの所為では・・・」
「ちょっと刑事さん、私達はもう帰っていいかしら?」

口を挟んできたのは、被害者の知り合いである。

「いや、それはちょっと・・・」
「なんでよ!!私達が殺したって証拠でもあるって言うの!!」

いきり立って横溝に噛みついているのは被害者の友人の女性だ。

「何の騒ぎなの?蘭姉ちゃん」
「あ・・・コナン君、帰って来たんだ・・・って、どうしたの!そのマスク?」

トイレから戻って来たコナンは口にマスクを付けていた。

「・・・ちょっと風邪を引いたみたいだから」

と答えるコナンに蘭は何かデジャブーを感じた。

(あれ?このコナン君の雰囲気・・・前に何処かで)

蘭が記憶を遡らせていくと、ある時期のコナンの雰囲気に辿りついた。

(そう、あの時の・・・学園祭の時のコナン君に・・・)

その時、蘭の思考を中断させる声が後ろからした。

「横溝刑事、貴方の想像通り、この事件の犯人はそこにいる中に居ます・・・羊の皮を被った殺人者がね」

その声を聞いた蘭は心臓がドクンと飛び跳ねた。

「誰なんだね君は?」

横溝が訊ねると同時に蘭は恐る恐る後ろを振り返った。
蘭の視界に捕らえたのは、最も逢いたかった人物だった。
その人物は横溝を見据えて、

「工藤新一・・・探偵さ」

と言い、ニヤっと不敵に笑った。









(10)



「新一!!」

蘭はすかさず新一の元へと駆け寄っていく。

「新一・・・ホントに新一なの?・・・って何よコレー!!」

新一の近くにやって来た蘭は新一の姿はホログラムに投影された物だと知り思わず叫んだ。

「あんだよ、その声は・・・折角、本物が現れてやったってのに」
「それならちゃんと姿を現しなさいよ!今ドコにいるの?」
「・・・それが、コナンのヤツに俺の偽者がいるから、直ぐに来てくれって連絡があったんだけど、俺は手がけてる事件から離れられなかったから博士の発明したこの装置で現れたってワケさ」
「そうなのコナン君?」

蘭が後ろにいるコナンを見るとコナンは頷いていた。

「・・・それで、俺の偽者は逃げ出したみたいだけど、ついでにコナンに事件の概要を聞いて犯人が分かったから、こうやって現れたんだよ」
「ついでにってアンタねぇ・・・」

蘭が半目になってホロ新一を睨む。

「・・・そんな事より蘭に大事な話しがあるんだ」
「話し?」
「ああ・・・直ぐに事件を解決させっから待っとけよ」

少し顔を赤くさせ答えた新一の姿を見たコナンはメガネを怪しく光らせた。

「工藤君、犯人が分かったって本当ですか?」
「ええ、犯人は横溝刑事の後ろにいる被害者の知り合いである3人の中にいます」
「ちょっと!いい加減な事を言わないでよ!!」

さっき横溝に文句を言っていた容疑者の女性が新一にも文句を言うが新一は気に留めていない。

「ではそろそろ血塗られた犯人に舞台から降りてもらう幕引きを始めましょうか」

気障な台詞で推理を始める新一を見た蘭は、

(やっぱり偽者より本物の方が気障でかっこつけだわ・・・でも、やっぱり推理してる時の新一って良いな♪)

などと思ったりして推理してる新一をウットリと見ていた。









(11)



「・・・と、言う方法により彼女は被害者を殺害したんです」

新一が推理によって導き出された犯人は、散々横溝に不平を言っていた女性だった。

「・・・確かにその方法なら私の犯行は可能だけど・・・証拠はあるの!!」

犯人扱いされた女性が証拠を見せろと新一に対して声を荒げた。

「・・・証拠は、貴方がさっさと帰りたがっていた事と、さっきから庇うようにしてる右肘を照らし合わせると・・・付いている筈ですよ。貴方の右肘に被害者が引っかいた跡が」

新一の指摘にサっと蒼ざめる女性。

「・・・被害者の爪に付着している皮膚を鑑識に調べてもらったら貴方の皮膚だと判りますよ」

新一の追及に、とうとう女性は観念してガックリと肩を落とした。

「いや〜さすが毛利さんの一番弟子!!見事な推理でした♪」

と、横溝は嬉しそうにして犯人を連行して行ったが案の定、小五郎の弟子扱いされた新一は憮然としていた。

「さっき言ってた話しって何?」

蘭が新一に駆け寄ってきた。

「あ・・・ああ、えっと・・・」

さっきまでの自信満々の姿は消え去って歯切れが悪い新一。
そんな新一の様子を見てコナンのメガネが再び怪しく光り、コナンは右手に隠し持っていた何かの装置のボタンを押した。

「お・・・俺はお前の事が・・・その」
「・・・新一?何か映像が乱れているわよ」
「え・・・うわっ・・・何だコレ・・・」

その言葉を最後に新一のホログラム映像が消え去った。

「ちょ・・・ちょっと新一!!」
「〜♪」

突然、新一の映像が消えて唖然とする蘭の後ろで何故かコナンは上機嫌だった。









(12)



・・・蘭達のいる場所から少し離れた場所では

「・・・ケホッ」
「な・・・何でいきなり爆発したんじゃ?」

ホログラム投影装置の爆発によって真っ黒になったコナンと阿笠が呆然としていたのだった。









〜エピローグ〜



「なあ博士、またあの装置を造ってくれよ」
「馬鹿を言うな!爆発した原因も解らんのに簡単に造るワケにいかんのじゃ」

コナンはもう一度ホログラム投影機を造ってくれるように阿笠に頼みに来ていたが安全性の問題があると断られた。

「・・・こんな事なら、さっさと蘭に言うこと言っとけば良かったぜ」

そう言って落ち込むコナンを見て哀は微笑むと紅茶を美味しそうに飲んだ。

「そう言えば、あの工藤君の偽者はどうしたのかしら?」

哀は偽新一の事をコナンに訊いてみた。

「さあな・・・あれに懲りて大人しくしてんじゃねーか」

と、コナンは既に偽新一には興味がないようだった。



  ☆☆☆



・・・同時刻、大阪では。



「平ちゃん、これはまさか!」
「そやで大滝ハン。一見、自殺に見えるけど、これは殺人・・・」
「これは自殺でっせ!!」

現場にいた服部平次と大阪府警の大滝警部の後ろからエセ関西弁の声が割りこんできた。

「何や君は?」

大滝がその声の主にそう言う。

「俺か?俺は西の高校生探偵の服部平次でんがな♪」

自称、服部平次は得意げに名乗った。

「・・・ホ〜・・・アンタが、あの有名な服部平次なんや」

平次は、そう言って目を据わらせ、指をポキポキと鳴らしながら、ゆっくりと偽平次に近づいて行った。



FIN…….



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