前途多難殺人事件



byトモ様



高木ワタルは妙な雰囲気に戸惑っていた。

「おはようございます」

と、彼は、いつもと同じように警視庁捜査一課にやってきたが、中に入ると同僚の刑事達が一斉に高木に哀れみの目を向けてきたからだ。

(な・・・なんだぁ)

高木はワケが分からず恋人である佐藤美和子の方を見るが彼女まで目を逸らす有様だ。

「高木、来たか」

入口で不思議がってる高木に最初に声を掛けてきたのは意外にも松本清長警視だった。

「高木君、ちょっと話しがあるんだが」

高木は嫌な予感がした。
彼の経験上、上司が愛想が良いとロクな事がないのだ。

「何でしょうか?」
「うむ、実はな・・・井上の奴が胃潰瘍で入院してしまってな」
「え・・・本当ですか?」

井上とは高木の同僚の刑事である。

「ああ、そこでだ・・・君には井上の変わりにしばらくの間、大貫の下についてくれ」
「え・・・ええー!!」

高木は思わず大声をあげた。
大貫というのは警視庁きっての名物警部である大貫警部の事である。

「ど・・・どうして僕が?」
「いや・・・その・・・誰も大貫の下につきたくないと言ったものだから、ちょうど居なかった君に決まったんだ」

松本はバツが悪いのか歯切れが悪そうだ。

「そんなぁ・・・」
「と・・・とにかく大貫の奴を暴走させんように上手くやってくれ」

松本はそう言うと逃げるようにその場を後にした。

ショックで呆然と立ち尽くす高木に後ろから目暮が気の毒そうに声を掛ける。

「まあ、頑張ってくれたまえ・・・例の事件は私と千葉君で捜査するから心配しなくていいから」
「じゃあ僕は佐藤さんと千葉君が調べていた件を佐藤さんと調べます」

白鳥警部がそう言って不敵に笑う。

「では佐藤さん、行きましょう」
「え・・・ええ・・・じゃあ高木君、がっ頑張ってね」

(そ・・・そんなぁ美和子さん)

高木は、この世の終わりのような顔で去って行く美和子の後姿を眺めていた。



  ☆☆☆



「頭の〜てっぺんに〜癖毛が二本♪ぼ〜く〜は江戸川コ〜ナ〜ン♪」

米花町の街を上機嫌に替え歌を歌いながら歩いているのは、ご存知西の高校生探偵、服部平次である。
目的地はもちろん工藤邸だ。

「子供なんや〜子供なんや〜子供なんや〜けれど〜♪・・・しかし工藤も俺みたいな友達思いの奴を親友に持てて幸せなやっちゃなぁ・・・アイツ、俺以外に同年代の同性の親友おらんやろうから俺がたまには会いに来たらんとな♪」

例によってアポなしで突然、工藤新一に会いにやって来た平次。
新一が今の平次の台詞を聞いていたら「わざわざ学校帰りに大阪からやって来るお前の方がよっぽど親友がいねーんじゃねえか」と、突っ込んでいただろう。

一歩間違えたらストーカーである。



  ☆☆☆



工藤邸の前にやって来た平次。
もちろん彼は呼び鈴を鳴らすなんてまどろっこしい真似はしない。

「工藤ー!!遊びに来たったでー♪」

そう言って、いきなり玄関を開けた彼の目に飛び込んできたのは玄関先で濃厚なキスを交わしている新一と彼の彼女、毛利蘭の姿だった。
甘美なキスに酔っていた二人は突然の乱入者にキスした状態のまま固まっていた。
二人は視線だけを横に向けると、色黒で判りにくいが顔を真っ赤にしている平次が立ち尽くしていた。

「あ・・・あれや・・・こっちに用があったついでに寄ってみたんやけど邪魔やったみたいやな・・・」

平次の目線は目のやり場に困ったように泳いでいる。

「ほ・・・ほな、帰るわ。・・・ご・・・ごゆっくり」

平次はたった1分足らずで大阪に、とんぼ帰りするハメになった。



  ☆☆☆



・・・その夜



「工藤、お前薄情なやっちゃなぁ!!あーゆー時は引き留めんのが親友とちゃうんか!!」

家に帰った平次は早速、新一に電話で文句を言っていた。

『バーロゥ!!こっちだって折角良い雰囲気だったのにあの後、正気に戻った蘭が、お前に見られたって騒いで結局帰っちまったんだぞ!!』

受話器の向こうでは、新一が逆ギレしている。

『いつもいつも、いきなりやって来やがって』
「じゃかぁしいわ!!年がら年中、盛りのついた犬みたいにイチャイチャしやがって・・・ん?まてよ・・・」

何かを思いつき、急にニンマリとする平次。

「そーいや自分、前にゆうてたよなぁ」
『・・・何がだよ』
「あの姉ちゃんに正体がバレてから元の工藤新一の姿に戻るまで毎晩、姉ちゃんに抱き枕代わりにされて寝られへんて悩んでたやないか」
『・・・嫌な記憶を思い出させんなよ』
「お前はその悶々と過ごした日々の反動で元に戻った現在、必要以上に姉ちゃんとイチャイチャしてしまう・・・どや、ちゃうか?」
『・・・うっせーな』

図星のようだ。

「そーかそーか♪クールで気障が売りの、お前がの〜♪」
『・・・お前さあ、本当は羨ましいんじゃねーのか?』
「い・・・いきなり何をゆうんや」
『お前だって和葉ちゃんとイチャイチャしたいんじゃねーのかって事だよ♪』

新一の反撃開始だ。

「な・・・何をゆうねん・・・あんな、やかましい女・・・」
『素直になれよ服部・・・幼馴染の関係より恋人の方がいいぞ〜♪和葉ちゃんが、お前の胸に顔をうずめて甘える姿を想像してみろよ』

新一に言われて想像してみる平次。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
妄想・・・もとい想像中。

『どうだ、幸せな気分になれるだろ?』
「あ・・・ああ」
『だったらそろそろ和葉ちゃんに気持ちを伝えろよ』
「なっ!!」
『和葉ちゃん見てたら全身から「平次の事が好っきゃねん!!」ってオーラが出てるのは誰が見たって明らかじゃねーか。お前の告白を健気に待ってんだよ』
「・・・そやけど今更、告白なんて恥ずかしゅーてでけへんわ」
『しゃーねーな・・・俺が一肌脱いでやるよ』
「ホンマか!!」
『ちょうど来週、蘭とトロピカルマリンランドに行く予定なんだ。告白する最高の舞台をセッティングしてやるからWデートといこうぜ♪』
「工藤、お前ええやっちゃなぁ・・・お前を親友に持てて俺は幸せモンや!!」
『あ・・・ああ、親友として当然じゃねーか』

熱い友情に感動している平次だが、実は新一は平次と和葉をさっさとくっつけたら平次が頻繁に、やって来る事がなくなるという打算が働いているなんて平次には知る由もなかった。



  ☆☆☆



一方、警視庁の名物警部の大貫と組まされた高木はというと・・・。



「高木さん・・・精魂が尽き果ててますね」

一課に帰ってきた千葉刑事は机に突っ伏している高木を見て同情した。

「・・・大貫警部の凄まじさは想像以上だよ」
「そんなに疲れているなんて・・・何があったんですか?」
「ああ・・・実は・・・」







昼過ぎに大貫は高木を引き連れて杯戸町に来ていた。
ある事件を調べるためだが大貫の本命は、

「ここだ、雑誌に載っていたレストランは」

事件よりも食い気が優先のようだ。

「わざわざ予約しないと、この時間帯は入れんからな」
「でも、ここ高いんじゃないですか?」
「なあに、経費で落とせば済むことだ」
「そ・・・そんな事をしたらマズイですよ!!警部」
「お前も井上と同じ事を言うんだな・・・まあ奴は、こんな時は自分で払っていたがな」

大貫はそう言って高木をじっと見ている。

「・・・分かりました。ここは僕が払いますから」
「ん?そうか・・・お前は前から見所があると思っていたぞ!!ガハハハハ」

(トホホ・・・今度のデート資金が)




・・・10分後

「この店は俺を餓死させようと言うのか!!」

大貫のダミ声がレストラン中に響いていた。
店側の手違いで大貫の予約が入っていなかったのである。

「・・・予約を忘れる、か。一流レストランとしては失格だな・・・おい、高木」
「はあ」
「このレストランを推薦してた奴は誰だ?連絡して訂正記事を書かせろ」
「しかし・・・」
「いや、たかが予約の入れ忘れとは言えないぞ。これがもし国際的なVIPの予約だったらどうする?予約が入っていないと断られたがために外交問題に発展するかもしれん。それがもとで戦争にでもなれば、無駄な血が流される事になるのだ」

メチャクチャな理論だ。
大貫が大声で話すために店内がざわつき始めたので支配人が慌ててやって来た。

「お客様。こちらのワインは、私どものささやかなお詫びの印でございます」

と、いかにも高そうなワインをグラスに注ぐ。

「そうか・・・ふん、ささやかだな、確かに」

大貫は嫌味たっぷりに言って、

「ワインの一杯で、自分たちの手落ちを忘れてもらおうというのか」
「とんでもない!もちろん料理も、フルコース全て、私どもの方で提供させていただきます」
「そうか・・・まあ、考えてやらんでもない。我々刑事も人間だ。人情というものが分からんわけではない」

高木は、できる事なら他人のふりをしたいが一緒にいるので不可能である。

レストランの中を見回した高木は、他の客がみんなこっちを眺めていて、高木と目が合うとパッと顔をそむけてしまうのに気づき何とも恥ずかしい気分になった。
当の大貫は、人の視線など全く気にせず自分のグラスを空にすると、

「おい、高木、飲まないのか?何なら俺が飲んでやるぞ」
「警部、仕事中ですよ。まずくありませんか?」
「いや、これも仕事の内だ。ワインの味を知っておくのも、いつか役に立つかもしれん」

大貫はそう言って料理をがっつき始めた。

「・・・お口に合いましたでしょうか」

と、店の支配人が恐る恐る訊いた。

「まあまあだな」

と、大貫は腹をなでて、

「もう少し塩味がきいていると、もっと旨くなるだろう」
「シェフにそう申しておきます」

と、支配人は神妙な顔で言った。

「特別製のデザートをご用意させていただいております。ぜひお召し上がり下さい」
「うむ。どうしてもと言うのなら、食べてやってもいい」

こんな態度のでかい客は、たぶんこのレストラン開業以来初めてだろう。

「・・・おい、高木。今度はお前の彼女も連れて来い。悪くないぞ、この味は」

いくら大貫が言ってくれても高木には、このレストランでもう一度「タダで食わせろ」と言う度胸はない。
それどころか高木は以前から、この店で美和子とディナーを楽しもうと計画していたが、恥ずかしくて二度とこの店には来れないだろう。




「そ・・・それは貴重な体験をしましたね」

高木から事情を訊いた千葉は少し引いていた。

「井上が胃潰瘍で入院するのも分かる気がするよ」

大貫と組まされた初日から、思いっきり気疲れした高木の前途は多難のようである。









そして、日にちは流れて新一たちのWデートの日がやって来た。

「それにしてもトロピカルマリンランドなんてトコ、平次の方から誘おてくるなんて、雨でも降るんとちゃう」

そう言って平次の顔を怪訝な表情で見るのは彼の幼馴染の遠山和葉である。

「いやな、工藤が今日、姉ちゃんと遊びに行くから一緒にどうやて誘うてきたんや」

そう言って平次は俯く。

「なんや平次、最近おかしいんとちゃう?」

いつもだったら「誘うたってんからありがたく思え」ぐらい言いそうな平次を不審に思う和葉。

「・・・そうか?俺は普段と変わらんけどな」

そう言って和葉をチラッと見て赤面する平次。
これから和葉に告白するのかと考えたら緊張しまくっている平次。
意外と純情なようだ。

「ホラ、はよ行かな・・・工藤君と蘭ちゃん、待ち合わせ場所でだいぶ待たせてるんよ」

と、和葉が先を促した時、

「キャー!!」

平次たちの後ろの路地裏の方で叫び声があがる・・・どうやら事件発生のようだ。
叫び声を合図に平次が恋する純情少年から探偵モードに切り替わった。

「和葉、先に工藤と姉ちゃんのトコに行っといてくれ」
「あっ平次!!」

平次は帽子をかぶり直すと叫び声があがった方へ駆け出していった。



  ☆☆☆



「服部君と和葉ちゃん遅いね」

新一と蘭はレストランコロンボで平次と和葉を待っていたが時間になっても二人は来なかった。

「道に迷ったんじゃねーか?電話してみっか」

と、新一が電話しようとした時、店に和葉が入って来た。

「あ・・・工藤君に蘭ちゃん、遅うなってゴメンなぁ」

和葉が済まなそうに席にやって来た。

「あれ?服部君は?」

蘭が平次の事を尋ねると和葉はムッとして、

「それが聞いてーな蘭ちゃん!平次の奴、ここに来る途中で事件があって現場に行ってしもたんやで!!」

と、怒っていた。

「事件?・・・相変わらず事件に遭遇する確率が高い奴だな」

自分の事件遭遇率の高さは棚に上げ、呆れる新一。

「和葉ちゃん、どうしたの?元気ないみたいだけど」

そう言えば和葉の顔は浮かないようだ。

「うん・・・最近、平次の様子がおかしいねん」
「どう言う事?」
「アタシと目が合ったら顔を逸らすし、放課後もアタシを避けて一緒に帰らんようになってん・・・せやけど授業中アタシの事じっと見てるし、話してても妙に優しいんよ」

(ハハハ、服部の奴メチャクチャ和葉ちゃんの事、意識しだしたな・・・ん?電話だ)

新一は携帯を取り出して電話に出た。

「はい、工藤です・・・ああ、高木刑事・・・」

電話は高木からで、いやに慌てている様子だった。

『工藤君、大変だ!さっき服部君が・・・』
「・・・はぁ?服部が警視庁に連行された!!」

新一は思わず大声を出していた。



  ☆☆☆



大貫と高木は月見通りの路地裏で死体が発見されたとの通報があり、現場にやって来た。
二人が現場に到着すると、平次が現場を物色していた。

「なんだ、アイツは?」

大貫は訝しげに平次を見る。

「あれは、服部君じゃないか・・・警部、彼は西の高校生探偵の服部平次君ですよ」

面識のある高木が平次の事を大貫に説明する。
大貫はぶっちょう面になり、

「ふん、高校生探偵だか何だか知らんが素人が現場を荒らしおって・・・つまみ出してやる」

と、平次に近づいていった。

「・・・死因はナイフで背中を一突きによる出血死か・・・ん?」

死体を調べていた平次だったが気がつくと目の前にガラの悪そうな中年男が立っていた。

「何や・・・おっちゃん誰や?」
「警視庁の大貫だ・・・現場は関係者以外立ち入り禁止だ。さっさと出ていけ!!」

大貫は平次の腕を引っ張って現場の外に引きずり出そうとした。

「ちょ・・・何すんねん!!」

平次は腕から大貫が掴んでる手を無理やり振りほどいた。

ガチャリ

「へ?」

大貫は有無も言わさず、いきなり平次の腕に手錠を掛けた。

「公務執行妨害で逮捕する」
「ちょ・・・ちょっと警部!!」

高木が慌てて止めに入る。

「高木、もしかしたらコイツが犯人かも知れんぞ・・・いや、そうに違いない!」
「んなアホな!メチャクチャや!!」
「うるさい!俺が直々に取り調べをしてやる・・・高木、後は任せたぞ」

大貫はそう言うと平次をパトカーに乗せ、連行して行ってしまった。



  ☆☆☆



「大貫!!お前は大阪府警に喧嘩を売るつもりか!!」

平次を連行してきた大貫に対し、松本の怒号が響き渡る。

「ほお、だったら警視は大阪府警本部長の息子は絶対に犯罪を犯さないと言いきれるんですか?」

大貫は平然と言う。

「しかしだな、彼は高校生探偵として数々の事件を解決した実績が・・・」
「最近は警察関係者の犯罪が多いですからなぁ・・・警視も人相が悪いですから犯罪者に間違われないように気をつけないとけませんなぁ・・・ハハハハハ」

悪人顔では負けていない大貫に言われ松本は怒りで顔が赤くなった。

「・・・頭痛がしてきた・・・白鳥、大阪府警に電話して本部長に謝罪しておいてくれ」
「え?わ・・・私がですか」
「ああ、頼んだぞ」

大貫には何を言っても無駄だと分かってるので松本は疲れた表情で出ていった。

「・・・大貫警部、やっぱりまずいですよ」

白鳥は何とか大貫の気を変えようとするが、大貫は名探偵よろしく顎に手を添え何かを考えている。
新一や平次なら絵になるが、大貫がこのポーズをとると悪巧みしてる姿にしか見えない。

「・・・白鳥よ、動機はこうだ」
「は?」
「奴は数々の殺人事件に遭遇した・・・その内に自分でも殺人を行いたい衝動に駆られ実行したのだ」

まるで眠っていない時の毛利小五郎を思わせるトンチンカン推理だと白鳥は思った。

「とにかく奴を取り調べたらハッキリと・・・」
「大貫警部!」

美和子が慌てて部屋に駆け込んできた。

「今、月見通りの現場から高木君の連絡があり、工藤君の名推理により犯人が逮捕されました」

困難に陥っていた白鳥は、まさに天の助けに救われた。

「ふむ、名警部も木から落ちる、か・・・白鳥、ちゃんと大阪府警本部長に謝罪の電話を入れておけよ」

悪びれる様子も無く大貫は責任を白鳥に押し付け、平然と部屋から出ていった。

「そんな・・・」

どう転んでも災難は逃れられない可哀想な白鳥だった。



  ☆☆☆



「平次!!」

釈放された平次に和葉が心配そうに駆け寄る。

「ったく・・・エライ目におうたわ」
「災難だったな」

新一が平次に同情する。

「何であないな横暴な刑事がクビんもならんと警部になっとるんや?」

確かに謎である。

「それが、高木刑事の話しでは犯人検挙数の高さは本庁で一、二を争うそうよ」
「ウソやろ!あんなヘッポコ警部が」
「推理はメチャクチャらしいけど大貫警部が目をつけた被疑者は不思議と犯人だったって事が多いらしいんだって」

何とも悪運の強い警部である。

「それにしても、もう夕方やないか」

平次は赤く染まった空を恨めしそうに見つめる。

(こりゃ今日はデートどころやないな)

平次は残念なようなホッとしたような複雑な気分になった。

「あ〜あ、折角トロピカルマリンランド楽しみにしてたのに」

和葉は残念そうにため息をついた。

「いや、今からでも遅くねーよ・・・早く行こうぜ」
「え・・・今から行くつもりなの?新一」
「まあ、いいじゃねーか。折角、服部と和葉ちゃんが大阪から来たんだし」

新一はそう言い平次に意味ありげな視線を向けた。



  ☆☆☆



「えー!服部君が和葉ちゃんに告白!!」

蘭はビックリして大声をあげたが、幸い二人はトロピカルマリンランドの観覧車の中に居たので新一以外には聞こえなかった。

「ああ、今頃、一つ下の観覧車の中でな」

新一は、さっき平次に言った事を思い出し、下の観覧車を見て苦笑した。



「うわー平次見てみい、花火が絶好の位置で見えんで♪」

外の景色に感動している和葉を横にして平次は生唾を飲んだ。

『いいか服部、花火があがる時間帯に観覧車に乗るからバッチリ決めろよ』
『そんな急にゆわれても心の準備がやなぁ・・・』
『大丈夫だって、和葉ちゃんって結構ロマンティストだから、こんなシチュエーションで告白されたらイチコロだって♪』

(よ・・・よっしゃ!やったろーやないか!!)

「か・・・和葉!」

平次はいきなり和葉の両肩を掴むと自分の方に振り向かせた。

「ちょっ・・・いきなし何やの」
「え・・・ええか、いっぺんしかゆわんから、よう聞けよ」
「へ・・・平次?」

和葉はある予感に期待して頬が真っ赤に染まった。





一足早く観覧車から降りた新一と蘭は、平次と和葉の乗っている観覧車が降りてくるのを待っていた。

「じゃああの観覧車から服部君と和葉ちゃんが降りてくる時には・・・」
「ああ、新しいカップルが誕生してるハズだぜ♪」

二人はワクワクしながら下に降りてきた観覧車の扉が開くのを待った。
扉が開き、ラブラブになった二人が飛び出すのかと期待をしていたのだが・・・

「平次のドアホー!!」

怒り心頭の和葉が出てきて走り去っていった。

「あっ待って、和葉ちゃん!」

蘭は和葉を追いかけて行く。
新一は恐る恐る観覧車の中を除くと、頬に真っ赤な手形を貼りつけた平次が呆然としていた。

「工藤!話しがちゃうやないか!!」
「お前・・・まさかフラれちまったのか?」

誰の目から見ても和葉は平次一筋なのは明らかだったのに・・・新一は信じられなかった。

「いや、和葉も俺の事好きやってゆうてくれたで」
「へ?」

じゃあ何故、和葉が怒って走り去っていったのか新一にはワケが分からなかった。




「待ってぇ!和葉ちゃん」

5分ぐらい走っただろうか、和葉はやっと立ち止まったが和葉の体からは怒りのオーラが溢れ出していた。

「・・・平次がアタシの事、好きやってゆうてん」
「良かったじゃない!・・・でも何で怒ってるの?」

蘭は和葉がいかに平次の事を想い続けていたのかを知っているだけに何故、和葉が怒っているのか理解できない。

「・・・アタシも好きやってゆうたら、平次抱きしめてくれてアタシ嬉しくてボーっとなって・・・その内にキスしてくれて・・・」

蘭は、どう考えても和葉の惚気にしか聞こえないので、ますます怒ってる理由が分からない。

「アタシ嬉しかったのに・・・平次の奴・・・」

和葉は怒りで体を震わせている。

「アタシの胸をいきなり揉みだして服を脱がせようとしたんや!!」

蘭はイキナリの平次の暴走に、大きな汗を後頭部に貼りつけるのだった。




「時と場所を考えろよな」

平次に事情を聞いた新一が呆れる。

「なんでや、お前が姉ちゃんに告白した時は、その日の内にやらしい事しとったやないか!!チューしてチチ揉むぐらい、ええやんけ」

人目も憚らず大声で喚き散らす平次に人が集まりだし、周りの視線が痛い新一。

「・・・お前、観覧車が地上に降りるまでの短い時間に和葉ちゃんの服を脱がせて何しようとしてたの?」

・・・どうやら平次と和葉の恋は前途多難のようだ。



こうして平次と和葉は一応、恋人同士になり新一の作戦は上手くいったように思えたのだが・・・









「工藤!和葉がなかなかチューさせてくれへんねや!!どうしたらええ?」
「そんな事でいちいち来んじゃねーよ!!」

平次が頻繁に恋の相談にやって来るようになり、新一の作戦は意味が無かったようだ・・・。

一方、警視庁では井上刑事が復帰して大貫の呪縛から逃れられ、前途洋洋に思えた高木だったが・・・。

「ワタル君、前に言ってたレストランに、いつ連れて行ってくれるの?」
「え・・・あの店はちょっと・・・」
「えー!一緒に行こうって計画を立ててたじゃない!!」

・・・やはり前途多難のようだった。




FIN…….









〜おまけ〜



「サプライズ 3週前追いきり編」

コナン「皆さん、こんばんわ。江戸川コナンです。今回のキーワードは4つ・・・『外車』『砂』『ヒモ穴』・・・そして『ニュージーランド』」
志保「工藤君・・・変声機で江戸川君の声を出して、何をボソボソと喋ってるの?」
新一「・・・宮野か・・・とうとう半年前の、おっちゃんとの勝負の決着をつける時がきたんだよ」
志保「・・・半年前?」
新一「ああ、去年の有馬記念での、おっちゃんとの勝負は痛み分けだったから今度の日本ダービーで再戦するんだよ」
志保「確か、あの時は蘭さんにバレて折檻されてなかった・・・懲りないわね」
新一「俺は、あれから研究に研究を重ねたんだ・・・今度こそおっちゃんには負けないぜ」
志保「それで・・・変声機で何してたの?」
新一「いやな、ウォームアップ代わりにNHKマイルCの予想をコナン劇場版予告編風にアレンジしてみたんだが」
志保「4つのキーワードの意味が分からないんだけど」
新一「フフフ・・・NHKマイルCを的中させる為の大事なキーワードさ♪」
志保「外車は?」
新一「去年はトニービンが勝ったが、過去のこのレースはマル外が全部連対しているんだ。だから本命は外車・・・つまりマル外から選ぶ!」
志保「ヒューマ、タイガーモーション、エコルプレイス、ワンダフルデイズの4頭しかいないわね・・・次のキーワードの砂は?」
新一「過去の連対馬を見るとシーキングザパール、エルコンドルパサー、イーグルカフェ、クロフネ、グラスエイコウオーとダート適正のある馬が結果を残しているからダート適正の高い馬が買いなんだ」
志保「ヒモ穴は?」
新一「このレースの二着馬、ツクバシンフォニー、ブレーブテンダー、シンコウエドワード、ザカリア、トーヨーデヘア、グラスエイコウオー、アグネスソニック・・・みんなこの後、大した成績を残していない・・・そういう馬が狙い目なんだ」
志保「最後のニュージーランドは?」
新一「トライアルレースのニュージーランドトロフィーの事さ。・・・このレースは1400で開催されていた4年前までは、面白いようにNHKマイルCに直結してたのに1600に距離変更されてからは非直結レースになってしまったんだ。だからニュージーランドで好走したエイシンツルギザン、ギャラントアロー、サクラタイリンなど人気の馬は危険な人気馬って事さ」
志保「それで・・・工藤君の結論は?」
新一「・・・真実はいつも1つ!!このキーワードから導き出される馬はただ1頭・・・エコルプレイスだ!!」
志保「エコエコアザラク?」
新一「エ・コ・ル・プ・レ・イ・ス!わざとらしく間違えやがって」
志保「・・・全くの人気薄ね」
新一「だから勝負は馬連、ワイド、エコルプレイスを2着に馬単の総流しでバッチリ的中さ♪」
志保「・・・東京コースは改修されたから過去のデータは当てにならないんじゃない?」
新一「・・・あっ・・・」
志保「・・・まだまだ詰めが甘いわね」

(2003.5.10)

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