〜ユーロ2004開催年記念〜
新蘭ユーロ2000観戦記




By トモ様



2000年6月某日、毛利蘭は自宅の窓から空を見上げながら、本日何度目かの、ため息をついていた。
彼女がため息をつく理由は、やはりというか当然というか工藤新一の所為である。
二人の関係が幼馴染から恋人に変わった現在でも、相変わらず新一は事件で多忙なため、二人で過ごせる時間は少ない。
しかし蘭は探偵をしている新一が好きなので、その事に対する不満は少ない。
では彼女は何を悩んでいるのであろうか?

「最近事件もないのに新一ったらどうしたのかしら?」

ここ数日、新一は家に篭りっぱなしで学校に来ていても寝不足なのが伺えた。

「どうせまた推理小説に夢中になって徹夜が続いてるんだわ」

ようするに蘭は珍しく事件がない日が続いているのだからデートでもしたいのだが肝心の新一が誘ってくれない、自分から誘いに行っても新一は昼間から寝ている状態が最近続いていて憤慨しているのだ。

(事件が忙しくて会えないのならまだいいわ。でもこれでは新一の優先順位は「事件>推理小説>蘭」じゃない)

蘭がそう思って、もう一度ため息をつこうとした時、窓から悩みの原因である新一が凄い勢いで走ってくるのが見えた。
やがて新一の姿が毛利探偵事務所に消えると階段を駆け上がってくる音が聞こえて勢いよく蘭の部屋のドアが開けられ新一が入ってきた。
突然の事に驚いている蘭に対して新一は、

「蘭、旅行に行こう!!」
と、唐突に言い放った。









「で、どうして旅行先がオランダなのよ!!」

新一に旅行に誘われてから数時間後、蘭は日本から遠く離れた地、オランダで新一に詰め寄っていた。

「そう怒んなよ・・・一度さ、蘭と一緒にオランダに来たかったんだよ」
「唐突すぎるわよ!!普通、海外旅行なんて前々から予定を立てて・・・」

蘭が更に怒ろうとするのを新一が途中で遮る。

「だってさ、オランダを漢字一文字表記にすると蘭なんだぜ。蘭の国に蘭と一緒に来たかったんだよ」

こう言われると惚れた弱みか蘭の怒りは急激に萎んでいく。

「・・・新一」

嬉しくなってウットリと新一を見た蘭だったが、その時、彼等二人の目の前を大勢の人が通り過ぎていった。

オレンジのTシャツ、大きな旗、トランペット、サッカーボールなどを持ってる人を見ると名探偵でない蘭でさえ、新一が何を主目的にオランダに来たか解る。
その集団が通り過ぎると、二人は沈黙に包まれた。

「・・・新一」

さっきの甘い雰囲気を遠くに放り投げた蘭が半目になって新一を睨む。

「もしかして旅行はオマケで主目的はサッカー観戦だったのね」

凄味の増した蘭に新一は冷や汗を流す。

「そ、そうとも言うかな・・・ハハハ」
「サイッテー!!」
「そんなに怒んなよ・・・折角、手に入った欧州選手権、準決勝のオランダ対イタリアの黄金カードのチケットなんだぜ」
「最近、寝不足だったのは毎晩サッカーを観ていたからなのね」
「しょーがねーじゃねーか。日本じゃ夜中に放送なんだから・・・悪かったって言ってるだろ」
「いつ誤ったのよ!!私は新一と違ってサッカーに興味はないんだからね!!」



  ☆☆☆



「新一、あの選手は何て名前なの?」

怒った蘭を何とかなだめてスタジアムにやってきた二人だったが二人の機嫌は逆転していた。

「・・・ローマ所属のトッティだよ」

ぶっきらぼうに答える新一。

「ステキ〜♪」

そんな蘭を見て、ますます不機嫌になる新一。
イタリア代表のイケメン軍団に魅了された蘭に新一は面白くない。

「どうしてあの選手が退場なのよ!!」
「ザンブロッタは二枚目のイエローカードだからな」
「なんであれがPKなのよ!!あの審判オランダ有利の判定ばかりじゃない!!」
「スタジアムはオランダサポータ一色だしな。審判も人間なんだから、どうしてもオランダ寄りのジャッジになってしまうんだよ」
「キャ〜!!PK止めたわ!!あのキーパーは何て選手?」
「・・・フィオレンティーナ所属のトルド」
「トルド〜♪」
「・・・・・(怒)」

試合は一人少ないイタリアが伝統のカテナチオ(ゴールに鍵を掛ける)でオランダの猛攻を120分間、凌ぎきりPK戦の末、勝利した。

「デルピッポ〜(デルピエロとインザーギの二人を合わせた愛称)ステキ〜♪」
(・・・いつデルピッポなんて言葉を覚えたんだよ)

すっかりイタリア代表のミーハーに変貌した蘭を見て、連れてきた事を激しく後悔した新一だった。









〜2年後〜


「ねえ新一、仙台に行かない?」
「は?何だよ突然」
「今度のワールドカップでアッズーリ(イタリア代表の愛称)が仙台で直前キャンプを行うのよ」
「・・・・・(怒)」
「久しぶりに生トッティ様に会えるわ〜♪」
「絶対に行かね〜!!」

アッズーリに激しく嫉妬する大人げない新一であった。



(終わり)



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