お話しよ



byゆう様



青子の幼馴染は青子自慢の幼馴染。
頭が良くて、ルックスも良くて、顔もいい、
人懐こくて、明るくて、 お調子者だけど、親しみやすくて、マジックが出来る人気者なんだ。





長かった梅雨がようやく終わり、眩しい太陽が夏の近づきを感じさせる。
晴れ晴れした朝日に青子がご機嫌で学校に向かっていると、後ろから幼馴染の声が掛けられた。

「おーっす青子」
「快斗。おはよう。」

朝、幼馴染の快斗と一緒になるのは快斗が遅刻しない日のいつもの光景。
それはお互い約束しているわけではないのに繰り返される日常だ。
青子は朝、通学路で快斗と一緒になることにささやかな幸せを感じていた。
なぜなら、彼は人気者であるが故にいつも誰かがそばにいて、
落ち着いて話が出来るのは登下校の時くらいであるからだ。

「快斗。今朝のニュース見た?
世界的に有名なマジシャンのブレントさんが日本に来日してマジックショーやるんだって。」

青子は目を輝かせて今朝見たニュースの話を快斗に聞かせる。
滅多にお目にかかれない世界的マジシャンの来日は快斗ももちろん知っていた。
快斗にとっても目を輝かせて話したくなるようなビックニュースなのだ。
2人であーだこーだと楽しく話し、青子がひとしきりマジシャンの話をした頃には、もう学校の門の前まで来ていた。

「快斗、そのマジックショー、一緒に 行 こ う よ 。
「おーっす黒羽。」
「黒羽君おはよー」
「おはよー。」

青子が快斗をマジックショーを誘おうとした時、快斗は次々と声をかけられた。
上級生に下級生。
快斗を知っている人はみんな気軽に声をかけてくるのだ。
お調子者の快斗がそれに返事を返していると、
今度はどやどやとやってきた悪戯仲間の男子生徒に連れさられて行ってしまう。
一人取り残され快斗の後ろ姿を見つめる青子。

『一緒にマジックショー行こうって言おうと思ったのにな。』

「黒羽君相変わらず人気者ねー。」
「恵子。おはよう。」

たまたま一部始終を見ていた友人の恵子に声をかけられ挨拶を交わす青子、なんだかいつもより大人しい。

「どうしたの?元気ないじゃない。」
「そっそんなことないよ。」
「そう?」
「そうだよ。」

恵子にはそう言った青子だったが、寂しい気持ちがないわけではなかった。
快斗のまわりはいつも人でいっぱい。
悪ふざけが好きな快斗は男子生徒とつるんで更衣室覗いたりして男友達が多い。
だからといって女性徒に犬猿されているわけではなく、
そのルックスの良さや基本的に優しい性格、話し掛けやすい雰囲気に自然に女の子たちに囲まれるのだ。
エンターテイナーとして人を弾きつけられるのはものすごい才能だが、
青子は、快斗をとられたような複雑な気持ちになのだ。



休み時間。
教室で、快斗が一人で新聞を読んでいるのを見つけて青子が近づいていく。

「快斗。今朝の話なんだけど。」
「黒羽ーっ(小声で)更衣室が覗けるナイススポット見つけたぜ。」
「なにっ♪すぐ行こう。後でな青子。」
「あっ快斗ー」

悪戯仲間の男子生徒の誘いにすばやく去っていってしまう快斗。
再び取り残された青子は今朝にも増して寂しさを募らせてしまう。

『もっと快斗と話したいのに〜』

「青子羨ましがられてるよ」

取り残された青子に恵子が話し掛ける。

「えーなんでー?」
「青子いつも黒羽君と話してるからさ、あんまり話せない下級生とかが羨ましがってたよ。」
「ぜんぜん話してないよー。」

今の青子にとって自分が不満に思っていることと全く逆の内容に思わず声が大きくなる。

『いつも青子が快斗と話してると必ず誰かが話を遮っちゃうんだから。。。青子の方がもっと話したいよ。』

青子の心に生まれた小さな不満が次第に大きく膨らんでいた。



昼休み。

食事を済ませ急いで目的地へ向かう青子。

「青子ーどこ行くのー?」
「ちょっと屋上!」

振り向きもしないで走って行く青子に苦笑する恵子。

「まーた黒羽君か。」

快斗は食事が終わると、たいてい屋上で寝ている。
そのことを知っている青子は今度こそとばかりに屋上へ来たのだ。
音を立てないように静かに屋上への扉を開くと、案の定快斗はそこで気持ちよさそうに寝ていた。
あまりに気持ち良さそうに寝ているため、意気込んでやってきた青子だったが、
起すのはかわいそうかなと躊躇し、自分も隣に寝て快斗が起きるのを待つことにした。
寝転がると澄み切った空が果てしなく広がっているのがわかる。
真っ白な雲がゆっくり流れていくのを見ていたら、時間の流れまでゆっくりになったように穏やかな気持ちになっていた。

「快斗。」
「あん?」

青子が無意識に快斗の名前を口にすると、すぐさま快斗から返事が返ってきた。
いつから起きていたのか青子は驚いて飛び起きる。
快斗も起き上がって、両腕を伸ばしたり、目を擦ったりしている。

屋上で2人きり。
快斗と話が出来る絶好のチャンスに青子の声が弾む。

「あのね。今朝の話なんだけど。」

笑顔がどんどん増していく青子。

「あっ黒羽君。見つけたー。」

せっかくの2人っきりの時間の中に、突然響きわったった黄色声の方を向いてみると、
そこにはお約束とでも言わんばかりに、また話を遮る人物が訪れていた。
それは快斗に好意を寄せていると噂の下級生の女性徒であった。

「黒羽先輩。今朝のニュース見ましたか?世界的マジシャンが来日したんですよ。
そのマジックショー今度一緒に観に行きましょうよ!」

いとも簡単に青子と快斗の間に割り込み、快斗を独占してしまう女生徒。

『青子は朝から一緒に行こうって言おうとしてたのにな。。。』

女好きの快斗は女生徒の話を鼻の下を伸ばして聞いている。
青子は快斗が何と返事をするのか聞きたくなかった。
きっと行くと答えるだろう。
楽しそうに笑っているのだから絶対そう答えるはずだ。
そう思うと胸が締め付けられうように苦しくなり、居た堪れなくなってそっとその場から離れてしまった。

『どうして青子が快斗と話してると、必ず話を遮られちゃうんだろ。。。』

うまくいかない苛立ちと女性徒とうれしそうに話す快斗の顔を思い出して、
青子の寂しさはさらに募っていった。



放課後。
通学路をとぼとぼと帰る青子。
傾きかけた太陽が一人で帰る青子のシルエットをひっそりと浮かび上がらせている。

考えてしまうのは、昼間の女生徒のこと。
快斗はなんて返事をしたのだろうか。
そればかりが気になってしまい、表情が曇るのを止められない。

「青子、一緒に帰ろうぜー。」
「快斗」

後ろから軽く掛けてくる快斗。
帰り道もたいがい青子は快斗と一緒になることが多いのだ。
自分の気持ちも知らないで陽気にやってくる快斗を見た瞬間、青子はぷいっと快斗から顔を背けてしまった。
青子のそんな態度に、快斗は怪訝そうな顔をしている。

「なんだ?何怒ってんだ?」
「怒ってないよっ」
「怒ってるだろっ」
「怒ってないってばっ」
「じゃ何でこっち見ないんだよ。」

原因のわからない青子の態度に快斗も次第に喧嘩腰になっていく。

『快斗が悪いわけじゃないのに。。。』

必ず邪魔が入ることへの苛立ちと、自分以外の女の子が快斗を誘ったことに対する焼き餅から
素直になれない青子。
やっと誰にも遮られることなく話が出来る状況のはずなのに。。。


ずんずん一人で歩いて行ってしまう青子の腕を、後ろから掴んで止める快斗。
真っ直ぐに自分に向けられる視線は自分のすべてを見透かされているようでつい思っていることを口にしてしまう。

「なによっ快斗なんかっ」
「なんだよ。」
「私じゃなくて昼間の女の子と一緒に帰ればいいじゃない! マジックショーだってその子と観に行くんでしょ!」
「は?何言ってんだ。行かねーに決まってるだろっ。」

自分の不安を一気に打ち消す言葉が発言されたが、すぐにはうまく飲み込めない青子。
もう一度確認するように尋ねる。

「行かないってどうして。。。」
「どうしてって。朝、青子が一緒に行こうって言ってたじゃねーか。」

あっけらかんとそう言う快斗を前にして、青子は自分の幼い思考回路にため息をついた。

『青子一人で不満に思ったり、焼き餅やいたりして恥ずかしい。』

しかし、それを嘆くと同時に快斗が自分を選んでくれたことへのうれしさが込み上げてくる。
快斗はそんな青子の気持ちが知ってか知らずか、楽しそうに”にやっ”と笑って青子の顔を覗き込んで言った。

「何だ?他の子に誘われてたから焼き餅妬いてたのか?」
「ちっ違うもん。」

すぐに否定はしたものの、青子の顔は2人を照らす太陽よりも赤く染まっているため違わないことがばればれである。
快斗は青子がそれだけのことであんなに落ち込んだり、怒るはずはないともっと確信に迫ろうとしていた。

「じゃあ何で怒ってたんだよ。」
「怒ってたわけじゃ。。。」

『快斗と話したかったなんて言えないよ。』

「言えよ。」

声色が穏やかに変わり、優しく自分を見つめる快斗に青子の心は自然に素直な気持ちになっていく。

「だって。。。青子が快斗と話してると必ず誰かが遮っちゃうんだもん。」

俯きながら、ぽつりぽつりと話す青子。

「そんなの青子とはいっぱい話すんだからあったりめーだろっ」
「へ?」

青子は快斗の言葉にきょとんとした。
まだ自分の言葉を理解しきれてない青子にちょっと呆れながら説明する快斗。

「だ〜か〜ら〜たくさん話す分、遮られる可能性も高くなるって言ってんだよ。」

仏頂面で拗ねたように言う快斗の言葉に、青子の顔はぱぁ〜っと明るくなった。

「そっかー。」
「そうそう。」

偉そうに快斗が相槌を打つ。

『青子は快斗と一番お話してるんだ。だからなのかー。なんだなんだ。そっかそっかー。』

青子は、いつものように快斗を幸せにする飛び切りの笑顔で無邪気に笑った。
2人っきりで話せるささやかな幸せを思う存分満喫しながら。。。


並んで歩き始めた2人の背中を沈みかけた太陽が暖かく見守っている。



『快斗。これからもたっくさんお話しようね。』




end


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