いつからだろうか。

毎年、決まった日に、嘘をつく自分。

いや、正確には“フリ”をする自分。

なんでそんな事をするのか?

それは……大好きなあの人と、出来るだけ一緒にいたいから。







Love Magic



By 蓮見優梨亜様



SIDE* Shinichi


5月4日

今年もこの日がやって来た。
それは、俺、工藤新一の誕生日。
昔は、本当に忘れていた事もあったけど、この数年は必ず覚えている。

けど、蘭はこのことを知らない。
毎年、自分の誕生日を忘れる変わり者だと思い込んでる。
だから毎年、俺が自然と誕生日を思い出すようにと、何だかんだ仕掛けてくる。

そして、その日の夜は、精一杯の気持ちを込めて、その辺のレストランなんかじゃ食べられないような、
最高の料理を作って俺の誕生日を祝ってくれる蘭を見ていると、嬉しくて堪らない。

だから俺は毎年“忘れたフリ”をしていた。





けど、それもそろそろ終わりにして、蘭に真実を明かそうかと思っている。


理由?
そりゃあ、、、なぁ。

今年の誕生日は特別だから忘れたフリのしようがない。

俺が18歳になると同時に、蘭が俺の奥さんなった。

そう、つまり蘭とずっと一緒に居られる様になったと言う訳だ。

こんな日を忘れただなんて、たとえ冗談でも言えない。

蘭が傷つくことが分かっているから。




今まで俺が“忘れたフリ”をしていた最も大きな理由。

それは、“自分が生まれた日を、蘭と一緒に過ごしたい”というもの。

去年までは幼馴染という微妙な関係だったもんだから、コレも仕方が無かったとしてくれ。








今は、市役所に婚姻届を出してきた帰り道。
途中までは俺と蘭の両親達も一緒だったんだけど、4人でどっか行っちまった。
だから今は蘭と2人っきりで歩いてる。

別れ際、母さんから言われた言葉が妙に照れくさくて、俺は蘭に話しかけられずにいた。

有希子に“今日から2人が夫婦なのね〜〜!!コレでやっと、蘭ちゃんが娘になったのねvvここまで長かったわ…”と言われて、

その“夫婦”という部分に妙に反応してしまった。





けど、今までのウソを白状するには今が絶好のチャンス。
たぶん、今日の夜はまた母さんに邪魔されるんだろうし…




新一は心を決めると、一呼吸置いて口を開いた。

「あのさ…」





  ***





SIDE* Ran


5月4日

今年もこの日がやって来た。
それは、私の幼馴染で大好きな人、工藤新一の誕生日。
新一は、昔から自分の誕生日を忘れるのだけは得意だった。

けど、ちょっと前から変わった。
絶対に誕生日を忘れてないという事に、私は気付いた。
本人は忘れてたって言ってるけど、あれはウソ。
間違いなく“忘れてるフリ”だわ。
新一が、私のウソを見抜くのが上手いように、私だって負けてないと思う。
なんでウソだと思うかなんて理由はないの。
ただ、私の中の何かが確信しているだけ。

けど、新一はこのことを知らない。
自分の嘘がバレてないと思ってるみたい。
だから毎年、同じように“忘れてるフリ”を続けていたわ。


そして私も、同じようにフリを続けていたの。
“新一のウソに気付いていないフリ”


私は、自分が新一のうそに気付いていないフリをしているだなんて、本人気付かれちゃ大変だから、
今までと同じように、誕生日が近くなるとそれっぽい話題を出したりして、思い出してもらうようにしていた。

そして、誕生日の夜は、精一杯の気持ちを込めて新一の大好物を作って一緒に食べるの。
あ、コレだけは“フリ”じゃなくて本当に気持ちを込めてるわ。
それを美味しそうに、まるで子供みたいに食べる新一を見ているのが嬉しくって仕方なかったの。

だから私は、毎年“新一のウソに気付いてないフリ”をしていた。





でも、それもそろそろ終わりにして、新一に本当のことを言おうかなって思ってるの。


理由?
そりゃあ、、、ねぇ。

今年の新一の誕生日は、いつもよりももっと特別だもの。

新一が生まれたこの日、私は“工藤 蘭”になったのだから。

そう、新一とずっと一緒に居られる様になったって訳。

こんな日特別な日に、嘘なんかつきたくないからね。

たとえそれが、“新一と一緒にいたい”という理由のウソでも。




今まで私が“気付いていないフリ”をしていた一番大きな理由。

それは、“新一が生まれた日を、一緒に過ごしたい”というもの。

去年までは幼馴染という微妙な関係だったから、こうでもしないと一緒に過ごす理由が無くて…仕方なかったの。








今は、市役所に婚姻届を出してきた帰り道。
途中までは私と新一の両親達も一緒だったんだけど、4人でどっか行っちゃったみたい。
だから今は新一と2人っきりで歩いてるの。

別れ際、お義母様から言われた言葉が妙に照れくさくて、私は新一に話しかけられずにいた。

お義母様に“今日から2人が夫婦なのね〜〜!!コレでやっと、蘭ちゃんが娘になったのねvvここまで長かったわ…”と言われて、

その“夫婦”という部分に妙に反応しちゃった。





けど、今までのウソを白状するには今が絶好のチャンス。
たぶん、今日の夜はまたお父さんに邪魔されるんだろうし…




蘭は心を決めると、一呼吸置いて口を開いた。

「あのね…」





  ***




「あのさ…」
「あのね…」

「「え?」」

話し始めようとしたのも一緒なら、驚いたのも一緒。
互いに目が点になっている。

「何だ?蘭から言っていいぞ」
「ううん、新一から言っていいよ」

「蘭から…」
「新一から…」
何だか知らないが、妙に遠慮しあっていた2人。
しかし、このままでは埒が明かないと、新一が先に話す事になった。


「んーーーじゃあ、言うな。」
というと、途端に神妙な面持ちに変わった新一。
「っ、うん。」
蘭も、思わず背筋を正した。


「俺さ、オメーに言っときたいコトあるんだ」
「うん、なに?」
「俺、何年か前から、蘭に隠してるコトがある…」
「ん?」
「実は、誕生日を忘れてなんか無かったんだ。」
「あっ…」
蘭は、自分も何か言おうと口を開きかけたが、すぐに続いてきた新一の言葉によって遮られてしまった。

「ずっと忘れたフリしてた…ごめん。蘭にはもう、ウソつきたくねーしな。それに…つく必要もなくなったし。」
蘭を見て、何処か吹っ切れたように子供っぽく笑った新一。


それから数秒後、蘭は嬉しそうに笑った。
「新一ぃ…」
「ん?」
「あのね、実は、私、気付いてたんだ。それ。」
「は?」
「だから、新一がしてた“忘れてるフリ”!!」
「ま、まじ?!」

「うん。でも、私もフリしてたの。“気付いていないフリ”。だって、そうでもしないと、ただの幼馴染じゃ一緒に居られないと思ってたし…
でも、誕生日は、絶対一緒に祝いたかったから…新一が忘れてるのを思い出させるフリして、実は新一のコト騙してたの、ゴメンね。」

「…………………」
すっかり黙り込んでしまった新一に、蘭の瞳に不安の色が浮かんだ。

「怒って当たり前だよね…本当にごめんなさい。」
最後の方は絞り出すかのような声で、その顔は今にも泣きそうなほどになっている蘭。
それに慌てたのは新一。

「なっ、なに、泣きそうになってんだ。別に怒ってる訳じゃねーよ!!ただ……」
「??」
蘭の瞳が、新一の言わんとする事を分かりかねた様子で見返してくる。
新一は、プイッとバツが悪そうに少し視線を逸らすと、ぼそぼそと呟いた。

「その…何つーか、悔しいんだよ。俺は必死に蘭に気づかれない様にしてたってのに、簡単にバレてたなんてよっ。
でもまぁ、俺の誕生日を一緒に祝いたいっつーだけで嘘の苦手な蘭が、必死に頑張ってたってのは、正直なとこ嬉しかったよ。
蘭も俺と同じように思っててくれたんだって思うと、なんかな。
だから、全然怒ってなんかいねーし、怒る必要もない。ただ、すっげー悔しかったのはホントだぞ。」

新一は、ニッと笑って「俺が蘭に騙されてるなんてな。やっぱオメーには適わねーよ」と、最後に付け加えた。


悪戯っぽい笑みは、時々新一が見せる子供っぽい姿のひとつ。
怒ってなんかいないという証拠。


蘭も、つられて嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ねぇ、新一。」
「ん?」
「今年の5月4日も、来年の5月4日も、十年後の5月4日も、この先全ての今日を、ずっと………私に祝わせてね!!」
「ったりめーだ、今年は蘭に。来年からは子供にも一緒に祝ってもらうつもりでいるから、蘭こそ忘れんなよ。」
「こんな最高の日、忘れるわけないでしょ!」
「だな。」


「よし、さっさと帰ってゆっくりしよーぜ。夜になったらどうせ又うるせーのが帰ってくんだろうし。」
「だれのコト?」
「母さんしかいないだろ?」
「もう、またそんなコト言ってっ!お義母様に失礼でしょ!!」
「はいはい。」
「ハイは一回でいいの。」
「はい!」



まるで子供を躾けているかのような接し方をしてくる蘭に、新一は内心で呟いていた。
『俺、一生コイツには適わねーな…たぶん。何てったって、俺にとって最愛で、時に最大の弱点にもなり得る、最強の女だからな』





2人は、いつの間にか立ち止まっていた足を、再び工藤邸へと向かって動かし始めた。










最高の日となった今日、5月4日。



蘭が工藤家に嫁いだ今日のこの日を。



祝い、新しい2人のアルバムの1ページに刻むため。














HAPPY BIRTHDAY!!!














FIN.




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