THE STAR FESTIVAL 〜七夕の夜の真実〜




By 蓮見優梨亜様



――――――――新一・蘭、5歳



7月7日、七夕。
新一の母・有希子が夕食の用意をしている間、新一と蘭は新一の自室で七夕の飾り付けをしていた。


「新一は何をお願いしたの?」

ベランダの手摺りに括り付けられた笹に自分の書いた短冊をつけていた俺の背後から、蘭がチョコっと顔を出してきた。
そして俺の手元を覗き込もうと試みながら、興味津々と言った様子で問いかけてくる。

俺は、見られない様にとわざと高い位置に取り付けていた短冊を見られまいと、パッと笹から手を離した。
折れてしまうのではないかと言うほどに無理な体勢だった笹が元の位置へと戻った。
天にも届きそうなほどに長く真っ直ぐな笹の、ほぼ頂上に括り付けた俺が書いたたった一枚の短冊。
今の俺たちの身長からでは、どんなに視力が良くても到底読める筈はないと分かってはいながらも、もしもの事があってはいけない。
俺は、自分が部屋に戻るのに合わせて、蘭の背中を押すと半分強制的に室内へと入らせた。


「ねぇ、教えてよぉ。」

部屋に入っても尚、飽きずに聞いてくる蘭に、俺はちょっとばかり意地悪な反論をしてみた。

「蘭のを教えてくれたら教えてやるよ。」
「えぇ〜!駄目だよ…だって人に教えたら叶わないのよって…園子が言ってたもん。」
「へぇ〜そうなんだ。じゃあ、俺のも尚更教えられないな。」
「なんでーー?」
「万が一叶わなくなると、すっげー困るからな。」
「いじわるぅーー。」
「駄目なもんはダメ。ほら、夕食できたみてーだし、さっさと下行くぞ。」
「は〜い…」

渋々と言った様子で返事をすると、蘭は1階へと下りていった。
俺も蘭の後を追おうとして一歩踏み出したところで、ふと足を止めた。
ベランダの方を振り返り、笹の頂上にぶら下がる細長い紙を見つめると軽くため息をついた。


ったく、教えられる訳ないだろ?

“蘭と、ずっと一緒にいて、ずっと笑顔を見ていたい”だなんて。

ただでさえ教えられるような内容じゃないのに、人に言ったら叶わないなんて冗談じゃないっ!!
これだけは何があっても叶えて見せるんだから…
こんな所で挫折するわけには行かないんだ。


自分自身にそう言い聞かせると、新一は踵を返して部屋を出て行った。





※※※※※





―――――――――10数年後




「ねぇ、新一は何て書いたの?」
「ん?秘密。」
「いいじゃない教えてよ〜」
「蘭のを教えてくれたら、教えてやってもいいけど?」

新一は、今年もまた、いつもの様にちょっとばかり意地悪な反論をした。
けれど、そんな新一に帰ってきたのは、例年とは違う言葉だった。

「……いいよ。」
「へ?」

あからさまに素っ頓狂な返事をしてしまった新一。

「はいっ。」
驚いている新一を気にすることなく、蘭は自分が書いた短冊を新一に向けて差し出した。

「なんで?」
「だって、、、私のを見せたら新一のも見せてくれるんでしょう?」
「え、あ、いや、その…」
「違うの?」
「いや、そうじゃなくて…今までは毎年、人に見せたら叶わないからって言って見せてくれなかったのに、なんで今年は見せてくれるんだ?」
「だって、もう叶っちゃったから。」
「え?」
「もう、今までお願いしてたことは叶っちゃったから。」
「何が叶ったんだ?」
「だから、これ。」

そう言って、蘭は更に新一の顔に短冊を近づけた。



新一は、差し出された短冊を手に取るとそこに書かれている文字に目を走らせた。

“新一のお嫁さんになれますように……”


更に、その横に少し小さめに書かれている文字に視線を動かす。

“2004年5月4日、無事に叶いました。ありがとうございました。”


蘭の綺麗な字で書かれている文字を、じっと凝視していた新一の顔が、微かに赤みを帯びてくる。
ゆっくりと顔を上げると蘭の視線とぶつかる。



新一は気恥ずかしさを必死に押さえ込むと、蘭に自分の短冊を差し出した。

「ほらよ。」
「え、あ、ありがとう。」

蘭が、恐る恐るといった様子でソレを受け取った。

新一の字を目で追う。
みるみる内に、顔が赤く色づいた。

“蘭と、ずっと一緒にいて、ずっと笑顔を見ていたい”



「新一……」
「俺、もう15年近くその願い事書いてるんだぜ?」
「え、そうなの?」
「嘘言ってどうすんだよ。」
「これだったんだ…」
「は?」
「毎年、毎年、新一の短冊が気になってしょうがなかったの。。。でも新一ったら教えてくれないし…」
「蘭だって一緒だろ?」
「うっ…確かにそうだけど…」

痛いところを突かれて言葉に詰まる蘭。


と、それを見ていた新一が、突然声を出して笑い出した。

「でもさ、俺らってホントいつまで経っても、やっぱり幼馴染なんだな。」
可笑しくて仕方がないといった感じで笑みを浮かべて言う新一。
「そうみたいね…」

蘭も、つられて笑顔になる。




二人揃って、二階のベランダの笹に短冊を括り付ける。
二人っきりで過ごす、最後の七夕の夜の出来事だった…




FIN.



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