痛み止め



By ゆうみ様



俺の名前は工藤新一。
春から探偵業をやっている。
はじめは胡散臭そうにしていた目暮警部も、今では難事件があると俺に応援を求めてくる。
もちろんすべて解決さ。

マスコミにも取り上げたりされてるし、女の子からのファンレターもいっぱい貰ってる。
そんな俺に向かって、あいつは

「なに言ってるの?ただの推理おたくじゃない」

と言ってのける。

ちぇっ。「かっこいい」くらい言ってくれてもいいじゃねぇか。
俺はおめぇ一人にさえそう言ってもらえればいいのに///

あいつ、俺のこと男だと思ってねぇのかな。
嫌われ・・・てたら、朝一緒に学校に行ったり、二人でいろんなとこに遊びになんて行かねぇよな。

(俺にとっちゃデートでも、あいつにしたら子供の頃の延長に過ぎないだけかもしんねぇし・・・)

そう思うと、告白なんかして、うまくいけばすっげー嬉しいけど、断られた場
合、今の状態さえ失うかもしれないと思うと・・・で、現状に甘んじているわけだが、最近やばいんだ。
あいつ、やばいぐらいめちゃめちゃ可愛くなってきて(前から充分可愛いんだけど/////) 早くなんとかしないと他の誰かに取られちまいそうで。

そう思っていながら、ここ数日あいつに会っていない。
事件で呼び出されて。
もちろん電話したけど出たのがおっちゃんで、まったく取り次いでもらえなかった。
昨日帰って来たのも遅い時間で、会いにも行けなかった、というか、会いに行く口実も見つからなくて(ただ、会いたいだけ・・・なんて言えねぇよな////) 
あいつも携帯持てばこんな苦労はしないのに。はぁ・・・



  ☆☆☆



今日は土曜日。学校は休みだ。
いつもならあいつが、

「もう、いくら休みだからって、いつまで寝てるのよ」

とか言いながら家に来てくれた。
でも今日はこのまま家にいたってあいつに会えないような気がする。
夕べからなんか胸騒ぎがしていた。
あいつに呼ばれているような気がしてならなかった。 
口実なんてなんでもいい!!
とにかく会いたくてあいつの家に向かって自転車を飛ばした。

キキキィッッ!!!

自転車に乗ったまま事務所のある二階を見つめた。
人のいる気配が感じられない。

(・・・・? いない? まだ8時前だよな・・・)

「あれ?おはよう新一くん。今朝ニュース見たわよ。また事件解決したんですってね!!」

と、声を掛けてきたのは1階の喫茶店「ポワロ」の梓さん。
店の前を軽く掃除をしていたようだ。

「え?あ、はい。おはようございます梓さん。」

(あいつのことばっか考えてたから、まわり見えてなかったか?//)

「今日は蘭ちゃんとデートなの?」
「え?/////  いや、そういうわけじゃ//////」
「毛利さんなら、昨日久しぶりに調査の依頼が入ったってはりきってたわよ。で、今日は朝一で出かけるって言ってたから、蘭ちゃん一人で留守番のはずよv」
「や、だから別に俺とあいつはそんなんじゃ////」

カランカラーン♪

「いらっしゃいませぇ。じゃ、新一くんがんばってねvvv」

お客さんが来て、梓さんは店の中に戻っていった。

・・・・・・いつも思うんだけど、俺ってひょっとしてばればれなのか?
気づいてないのはあいつだけなのか?

(・・・・いち・・・・・しんいち・・・)

!!! また、あいつの声が聞こえた気がした。

「蘭!!!」

ダッシュで階段を登ると、呼び鈴を連打する。
でも、何度鳴らしても一向に出てくる気配がない。

(まだ寝てる? いや、そんなはずはない。いつもならとっくに起きてるはずだ。いくら一度寝たらなかなか起きないにしても、この時間だ。寝ていたとしても呼び鈴で目が覚めるはず。 あいつも出かけてて留守なだけなのか? その可能性も否定できない。でも、なんかやな予感がする!!)

いくら心配でも鍵を持っていない以上、中に入ることは出来ない。
携帯を取り出すと、あいつの自宅に電話をかけた。
家の中からコール音が聞こえる。

俺は携帯を握り締めたまま、ドアを叩きながら叫んだ。

「蘭っ!! 蘭っっ!!! いるんだろっ!! ドア開けろよっっ!! なんかあったのかっ!!? 蘭っっ!!!」

心臓の音がやけに大きく耳に響いている。

(蘭! 蘭!!)

随分と長い時間が流れたような気がした。

ガチャッ。

「し・・ん・・・・い・・・・」
「らんっっ!!!」

ドアの鍵を開けて、そのまま力尽きたようにその場に崩れ落ちかけた蘭を俺はとっさに抱きかかえた。

(!!!体が熱いっっ!!)

「おめー、めちゃめちゃ熱あるんじゃねぇ? なんでおっちゃんに言わなかったんだ?」
「・・・・・っ、だって・・・・(泣)」
「あーもーんなことどうでもいい!!」

俺は蘭を抱きかかえると、蘭の部屋まで運んだ。
体温を測るまでもなく、かなり高い熱だとすぐ分かった。
ベッドに下ろすと蘭の目が潤み始めた。

そんな場合ではないのは百も承知なのだが・・・

(んな目で見つめるなよ///// やべぇよ、すっげー可愛いかも・・・ パジャマ姿なんて見るの何年ぶりだ? さっき抱きかかえた時の背中の感触からいくとノ・・ノーブラ・・・//////////)

頭をぶんぶんと振って雑念を追い払う。

「///蘭、どこ痛いんだ? 頭? のど? 関節痛くねーか?」
「・・いち・・・ ずっと・・・ 呼んでたの・・・ そし・・た・・ら・・ほん・・と・・・に・・き・・て・・」

言いながら蘭はぼろぼろ泣き出してしまった。

「うっ・・えっ・・えぐっ・・・うっ・・うっ・・・」

(え?今俺を呼んでたって言ったよな?////)

蘭の言った言葉を反芻して思わず俺は真っ赤になってしまった。

「あ、えっと、その、あの、あああ、どこ痛いんだ?」
「うっ、あ、頭痛いの・・・ あと、お腹・・痛いのぉ・・・ 気持ち・・・悪いよぉ・・ えっ・・えぐっ・・・」
「あっ、風邪・・かな? とりあえず熱下げないと・・解熱剤あるか? あっと、腹痛にも効くのかな?」
「・・がう・・・ ちがう・・・ おなか・・痛いのは・・違う・・の・・・」
「?違う?痛くないのか?」

蘭はベッドにうずくまり、手でお腹を押さえ体を丸くしながら頭をふって泣いている。
・・・痛くないわけじゃなさそうだ・・・というよりめちゃめちゃ痛そうだ。
じゃ、何が違うんだ?

「・・なか・・が・・いたいのは・・風邪・・じゃないの・・・」
「え?風邪じゃない?変なもんでも食ったのか?」
「ちが・・せい・・り・・・つう・・・・・」
「へ?」

(・・・・・・・・・・・・・・・え?せいりつう?・・・・せ・・・生理痛?・・・・・・・・・生理痛!!!???
?げぇっ! んだよそれ! え? え?ってことは蘭は今生理中???//////// え? どうすりゃいいんだぁ???)

もちろん知識としてはそれがどういうもんか知ってるし、蘭だって女の子だ。
それがあって当たり前なのは良く分かってるつもりだ////   いずれ蘭とそういう関係になりたい俺としては、蘭のそういったことを把握しとくのは必要だと思ってるし/////// だがしかし・・・(そんなこと思ってるなんて蘭に話すわけはないんだが/////)

「ふぇ・・・いたい・・よぉ・・・・・・・・」

あーーーーっっ今はそれどころじゃ
ねぇっっ!! 蘭が苦しんでるんだ! 
何とかしないと!!

「蘭、薬どこあるんだ?」
「うっ・・・うっ・・・うえっ・・・・く・・くすり?・・・・うっ・・・ふぇっ・・・・」

(だめだ。熱と痛みで、訳わかんなくなってるみてぇだ。薬飲ませないと・・・・・・って、解熱剤と頭痛薬と生理痛止めの薬ってどれだ?ってか、同じ薬で良いのか?違うとすれば一緒に飲んでもいいもんなのか?分かんねぇ!!!!)

(そういや確か近くに薬局あったよな・・・もうそろそろ開いてるはず。あそこで聞いたほうがいいかもしんねぇ)

「蘭、近くの薬局で薬買ってくるから待ってろよ!!」

「や・・・だ!!行・・かな・・い・・・で・・・・そばに・・・いて・・・・お・・・ねが・・い・・・・ひとり・・・に・・し・・ないで・・・・・・」

手にしがみつかれながら、上目遣いの涙で潤んだ目で見られると・・・

(だからっ、そりゃやばいだろ///  熱あるんだし、あれの最中だし・・・って、そうじゃねぇーーーーー!!!!////////)

「20分・・・いや15分・・・・・10分、10分で必ず戻ってくるから!!」
「で・・・も・・・・・」
「薬買ってくるだけだから! すぐ戻ってくっから!! なっ?」
「う・・ん・・・はや・・・く・・・き・・て・・・」
「分かってる!!」

俺は引出しから蘭の家の鍵を取り出すと、なるべく早く戻ってくるべく速攻で家を出るとすばやく鍵をかけ、自転車に飛び乗ると一路薬局に向かった。

(いくら短時間でも蘭一人きりの家の鍵開けっ放しで出るなんて出来ないし、蘭のあの様子じゃ鍵の場所訊くのも大変そうだし・・・ こういうとき幼馴染っていいかも。鍵の置き場所も分かるし・・・って、前来た時蘭がしまってるの見たせいだけど・・・ や、やっぱ他の男は知らないことだろうし、他の男が知らないといえば、蘭の生理・・・・・って、あーーー考えるんじゃねぇーーーー////////)

あゆうく俺はコケそうになってしまった。

(あった!薬局!!早く薬買って蘭の元へ帰らねーと!!!)

薬局に飛び込むのと同時に、俺は、

「すいませんっっ!! 生理痛止めの薬下さい!!!」

と叫んでいた。

シーーーン・・・と静まり返る店内。 
店内にいる客と店の人の視線が突き刺さる。

(!!!やべっっ!!!蘭のあの言葉が頭から離れなくてついっっ////////)

「やっ、あのっ、俺が使うんじゃなくて(←当たり前か///)、あいつが痛いって泣くから、あっ、そのっ////」

そんな俺の様子を、はじめはボー然と見つめていたカウンター内にいた女性店員
が、何事もなかったかのように

「生理痛止めのお薬ですね。それですと、これがいいかと・・」

と一つの薬箱を取り出した。

「あっ、いえ、それだけじゃなくて、あいつすげー熱あって、頭も痛いって言ってたし、それにも効く薬無いかと思って!!」
「症状は熱と頭痛と生理による腹痛なんですね? 他には何か?」
「えっ?いや特には・・・咳はしてなかったし・・・ 熱のせいで涙もろくなってた・・・・ ハッ、いえ、何でも/////」

クスクスッ・・・ 周りから笑い声がする////

「それではこの薬で大丈夫ですよ。空腹時はさけてお飲みくださいね。」
「あっ、はい、それ下さい/////」

(早くこの場所から出たいっっ/////)

「では、・・・・円になります。彼女早く良くなるといいですね。」
「!!!なっ、あいつは別にそんなんじゃ!!!!//////////////」

俺は会計を済ませると速攻店を後にした。

(あそこの薬局、二度と行けねぇ//////)



  ☆☆☆



きっちり9分、蘭の家へ戻ってきた。

「!!! 蘭、何してんだ!! 寝てねーとだめじゃねーか!!」

廊下でうずくまる蘭を見て、俺は駆け寄った。

「すぐ戻ってくるって言っただろ!!?」
「だって・・ト・・イレ・行こうと・・・」
「あ?トイレ?」
「だっ・・て・・・や・なんだ・・もん・・・」
「え?何が?」
「横・・モレ・・・した・・く・・ないも・・・ん」
「・・・・へ?」
「シーツ・・とか・・に付く・・・・と大・・変だし・・・・気持ち・・悪・・いし・・・」

(・・・・・・・・!!!げぇっ!!!横モレ? 何だそりゃ? そんなになっちまうくらいすごいのか?って、オイオイ、んなこと俺に言われたって/////)

とにかく蘭をトイレに連れて行き、しばらくたってから様子を見に行き、何とかベッドに寝かせつけた。

(ま、まずは薬飲ませないと/////  あ? 空腹時はだめ? そういや、買った時そんな風なこと言ってたかも・・・蘭の様子から行くと、何も食ってねーよな。 冷蔵庫に何かあっかな? ああ、くそっ、何か食いもんも買ってくりゃ良かった!)

冷蔵庫を覗くとプリンがあった。

(これでいいか。)

「蘭、薬飲む前に何か食わねーと。プリン食べれっか?」
「う・・ん・・・・」
「・・・・・・食わせてやろっか?」
「・・う・・・・ん・・・?」

なんてゆーか、そういう気分になったっていうか、蘭は苦しそうだし、自分で食べるのも大変そうだし・・・俺はプリンをスプーンで掬うと蘭の口元に持っていった。

「ほら、口開けよ////」
「んっ・・・」

蘭は抵抗もせずに素直に口を開くとパクッと食べた。

(か、可愛いかも////////)

その後、何口か食べると、もういらない、という風な仕草をした。

(まっ、いっか、少しは胃に入ったわけだし)

「薬飲むぞ。飲めるか?」

(はっ、こういう時ドラマなんかでは、口移しで飲ませたりとか・・・・///もし蘭が一人で飲めなかったら、それもありなのか? いや、いくらなんでもそりゃまずいだろ、いや、でも、しかし・・・・//////)

「し・・んいち?」
「あ? いや、これ薬・・・」
「あ・・りがとぉ・・・」

そういうと、蘭は薬を口に含むと水を飲んだ。

(ありゃりゃ、自分で飲めたか・・・・って、な、何残念がってんだ俺///////)

「蘭、横になってあったかくして寝ろ!」

そう言って蘭に布団を掛け、部屋を出て行こうとした俺のシャツを、頼りなげに蘭の指先が捉えた。

「そばにい・・て・・・くれるん・・・・・じゃ・・ない・・・・・の?」
「//////// え? その」

見つめる目の中に不安の色を見たような気がした。

・・・・・・・こいつのことだ。
ギリギリまで我慢してたんだろう。
久しぶりの仕事に張り切ってたおっちゃんに心配かけねーようにってしてたのかもしれな
い。
おっちゃん朝早いって言ってたから、起こさないで行くって言ってたのか
もしれない。寝る前まではホントにまだそんなに辛くなかったのかもしれない。
じゃなきゃ、おっちゃんが気づかねー訳ないよな。
すっげー娘思いだし

(それで俺も苦労してるし・・・)

・・・・・俺が来るまでの何時間こいつ一人で耐えてたんだろう・・・

(俺来てからも買い物に出ちまってまた一人にしちまったし・・・)

「・・・いる、ずっとおめーのそばにいる。だから安心して眠ってろ。な?」
「うん、ありがと・・・」

そういうと、安心したかのように眠り始めた。
これで少し症状が治まるかもしれない。
でも、

(起きたら一度医者に連れてった方がいいかもな・・・)
(にしても、お、女の子っていろいろと大変なんだな/////  せ、生理痛とか、横モレの心配とか・・・・っつーか、普通男にんな事いうかぁ? はっ、男として見られてねーとか? 同性の友達と同類とか? いやいや、熱に浮かされて口走っただけで、俺がどーとかって問題じゃなかったのかも。いや、でもまて、それだと俺以外の男が蘭のあんなこと聞くかも? 冗談じゃねー!!んなこと絶ってーさせねー!! 蘭の生理日は俺が把握するだけで充分だ!!いる、絶対蘭の傍にいる!!)

「ん、・・・し・・んい・・・」

俺はとっさに蘭の手をぎゅっと握った。

「蘭? 蘭? ・・・・寝言か・・・・」

蘭の顔を見ると、さっきまでの苦痛がうそのように穏やかな表情で眠っていた。

(フッ。 そういや、さっきも俺のこと呼んでたって言ってたよな。 こいつがどういった意味で俺のこと呼んでくれてるか分かんねーけど、ずっと傍にいるから。 俺が守ってやっからな。 おめー、他の奴なんて呼ぶんじゃねーぞ・・・ずっと傍にいてくれよ、な?)



  ☆☆☆



2時間くらい経っただろうか。
蘭が目を覚ました。

「・・・あれ?新一?どうしているの?」
「ったく、覚えてねーのか? 朝俺が来た時、おめーすっげー熱出して倒れてたんだぜ。で、俺がここまで運んだり、薬買ってきたりとかしたんだぜ?あっ、そういや薬飲む時空腹じゃまずいと思って、冷蔵庫にあったプリン出しちまったけど、いい・・よな?」
「え? うん・・・・」

(あれ、なんか熱あってふわふわしてて良く覚えてないけど・・・・・)

「ね、ねぇ新一、あ、あたしなんか変なこと・・しゃべんなかった?・・・」
「はぁ?」
「あっ、ううん、なんでもないのっ。えっと、いろいろ迷惑掛けちゃったね、ごめんね?///////」

(そ、そうよね、夢よね////  なんか思いっきりはずかしいこと口走ったような気がするけど、新一いつもと変わらないみたいだし。ほ、ほんとにあんなこと口走ってたら恥ずかしくて死んじゃいたいかもーーー(泣))
(蘭のやつ、やっぱ熱あって何話したか覚えてねーんだな。お、俺も恥ずかしいし、なんも聞かなかった事にしよう・・・///////) 

「蘭、なんか食えるか?」
「え?・・・・・あんまり食欲ない・・・」
「食べたほうがいいぞ。あ、さっきの残りのプリンあるけどどうだ?」
「んーー、それくらいなら食べれるかも・・・」
「OK! じゃ、今持ってくっから」

俺がプリンを渡すと一人で食べ始めた。

(って、当たり前か? ・・・・今食べさせてやるって言ったらこいつどんな反応すっかなぁ)

なんてぼんやり考えている内に、食べ終わったようだ。

「ごちそうさま」
「気分はどうだ?」
「大分いいみたい。」
「そうか? じゃ、これから少し動けるか? 病院行こうぜ。」
「え? 大丈夫だよ。 大げさだなぁ」
「バーロー!! 何言ってんだ!! すっげ死にそうな顔してたくせに!! 俺まじでびっくりしたんだからな!!!」
「!!! ごめん・・・・」
「謝んなよ・・・わりぃ、言い過ぎた。じゃあ、俺リビングに行くから着替えたら来いよ。」
「うん。分かった。」

バタン

(一人で着替えられない、なんて言われたらどうしようかと思ったけど大丈夫みたいだな。・・・・残念・・・・って、違うだろ!!!/////)

「新一?」
「わあっ!!! 驚かすなよ!!!」
「なっ、なによぉ、驚いたのは私の方だよ・・・」
「あっ、わりぃ、ちょっと考え事してたから・・・ じゃ、じゃあ行こっか。保険証持ったか?」
「うん・・・」

(今朝来た時よりは良さそうだけど、いつまた熱上がるか分かんねーし・・・11時15分、今行けば午前中の診察に間に合うな)

俺は自転車に蘭を乗せ、病院へ急いだ。



  ☆☆☆



俺は、待合室のいすに蘭を座らせると保険証と診察券を持って受付に行った。

(結構込んでるな。)

「すみません、お願いします。熱があるんです。」
「はい、ではこちらをお持ちください。」

そう言って渡されたのは37番と番号が書かれた紙だった。

受付の脇にある電光掲示板には[ただいまの診察、29番]と書いてある。

(げっ、結構かかるかも)

「蘭、大丈夫か?」
「うん・・・」

そうはいうものの、辛そうだ。 また少し熱が出てきたのかもしれない。

「毛利蘭さんですか?」

(看護婦?)

「あっ、はい。毛利蘭はこいつです。」
「横になった方がいいですか?」
「はい。出来ればその方が」
「では、空きがあるか確認しますね。」

明らかに具合が悪そうなのを見て、声を掛けてくれたようだ。
幸い空きがあり、蘭はそこで横になることが出来た。
いくつかベッドがあり、1つ1つカーテンで仕切られていた。
診察までは結構かかったが、ベッドで寝ていられたおかげで、そんなに苦痛に感じることもなかったようだ。
時々看護婦が来て、体温を計ったり、容態を聞いていった。

診察によると、扁桃腺から来る熱だったようだ。 

「点滴しますね。1時間半くらいかかるので、終わるのは1時40分ぐらいです
ね。お手洗いに行ってからの方がいいですよね。」
「はい。」
「それで申し訳ないのですが、お昼の時間会計のレジを閉めてしまうので先に会
計を済ませていただいてよろしいですか?」
「はい、構いません。」
「では、お手洗いに寄った後、窓口で会計お願いします。処方箋も出ますので、それも貰ってきて下さい。」

そう言って看護婦は出て行った。

「蘭、俺会計済ませてくるから、トイレ済んだらここに戻ってろ。」
「え?いいよ、自分で払うよ。」
「ばーろ。オメー財布持ってきてねーだろ?」
「え?そっか・・・・ ごめんね、家帰ったら払うね?」
「いいって気にすんな。」

俺は蘭をトイレまで連れて行くと、待合室に向かった。

「すみません。会計お願いします。」
「はい。」
「毛利蘭さんですね。お会計は・・・・・円です。こちらが処方箋になります。薬局はどちらに?」
「あ、別に決まってないです。」
「では、近くのところでいいですね?ファックスしておきますので、点滴の間に薬お作りしておきますね。」
「お願いします。」

(ラッキ。薬局で待たなくて済むな。結構混むからな。早く帰れるほうがいいもんな。)


ベッドに戻ると点滴の針をつけ終えたところだった。

「では、後でまた伺いますね。」
「あ、はい。」
「新一、ごめんね?」
「いいって言ったろ?それより、1時間半くらいかかるって言ってたから、眠かったら眠っていいぞ。」
「うん。新一は?」
「ここにいる。」

そういうとおもむろに床に座り込み蘭の顔を覗き込んだ。

「俺はここにいる。」
「おしりいたくない?」
「へーき。この方が蘭の顔よく見えるだろ?」
「・・・・・ばか・・・・・」
「まだまだかかるから、ちょっと眠れよ?な?」
「うん・・・」

ほどなく蘭は眠り始めた。
しばらく蘭の寝顔を堪能していたが、何時の間にか俺もうとうとしてしまった。





パシャッ

(ん?何の音だ・・・・・?)

「あ、点滴終わったようですね。じゃあはずしますね。」
「あ、はい、お願いします。」

蘭も起きたようだ。

(蘭のやつ随分端で寝てたんだな。ずり落ちそうだったんじゃねーか?)

「今日はこれで終わりになります。お気をつけてお帰りください。ではお大事に。」
「ありがとうございます。」
「蘭、歩けるか?」
「うん、なんかすごく楽になったような気がする。」
「じゃ、帰るか。」


昼休みのせいか、待合室はひっそりとしていた。

「きゃーーーーvvvvvvvv」
「な、なんだ?」

休み時間中の看護婦達だろうか?

(すげー声。何盛り上がってんだか。ま、俺には関係ないけど。)

「帰るって声掛けた方がいいよね?」
「そっか?んじゃ、すみません、お世話になりました。」

と、受付の奥のほうに向かって叫んだ。
ひょいと顔を出したのはさっきの看護婦。
手に持っていた何かを後ろに隠した。
なぜか顔がにやけている。 

「あ、はい、お大事にvvvv (こっそり)彼氏さんがついていれば安心ですねvvv」
「なっ/////////」
「新一?どうしたの?」
「な、なんでもねーよ!!!」

(い、いきなり何いーだすんだ!!ほんとにそーなりてーけど。ん?)

視線を感じて顔を上げると、数人の看護婦たちが影から俺たちを見てにやけながらひそひそと話しているのが見えた。

(パシャっという音。後ろに隠した何か。看護婦たちの悲鳴。にやけた顔。まさかっ!!!)

「蘭、帰る前にトイレ寄ってったほうがいいぞ。薬局寄んなきゃならないし。」
「あー、うん。じゃあそうする。ちょっと待っててね。」

蘭の姿が見えなくなるとおもむろに手を差し出し、目の前の看護婦に

「ん、それ渡してください。後ろに隠した携帯ですよ。」
「え?」
「盗み撮りって犯罪ですよね。」
「え?そんなつもりじゃっ!!あんまり可愛かったんでつい・・・・」

と言いながら渡された携帯の画像は、眠っている蘭と、寄り添うように頭をつけて眠っていた俺の2ショット写真。

(なんつー看護婦だ!!)

「消去させてもらいますね!」
「えぇ!!かわいく撮れてるのに!!」
「消去!!!!」

画像を消そうとした俺の手が止まった。

(・・・・・・・・・・・)

くるりと後ろを向くと、すばやく指を動かした。

PiPiPi・・・・・

Pruuu

PiPoPaPo・・・・

「はい、お返しします。消させてもらいましたけどいいですよね?」
「・・・・自分の携帯に転送してたでしょ?」
「・・・・・・・・・」
「新一、おまたせ。?どうかしたの?顔真っ赤だよ?」
「なんでもねーよ。帰るぞ。」
「え?あ、お世話になりました。」
「お大事にーーvv」

(くっそーー、はずかしくてここの病院2度と来れねーー!!///)

(薬貰って早く帰ろう!!!ファックス送ってもらった薬局って・・・・・・ゲッ!!今朝の薬局!!! やべーよ、さっきの店員いたらどうするよ?別なとこってわけには・・・・いかねーよな。薬はもう出来てんだ。貰うだけじゃねーか。そ、それに、俺の事なんか覚えてないかもしれないし・・・・とにかく早く済ませて蘭を家に連れて帰らないと!!)

俺は覚悟を決めて店に入った。

「いらっしゃいませ。あっ」

(・・・覚えてる・・・・・(汗)ポ、ポーカーフェイスだ////////)

「病院から処方箋届いてるはずなんですが。毛利蘭です。」
「はい、出来上がっております。ではこちらにおかけください。」
「あ、はい、お願いします。」

店の奥から「おおっ」と言う声が聞こえた気がした。
視線も感じる。
蘭が薬の説明を聞いてる時間もやたら長く感じる。

「・・・・・・・・と、なります。よろしいですか?」
「はい。」
「では、・・・・・・円になります。今朝彼氏さんが買っていったお薬効きましたか?」
「え?//////」
「はいっ!!会計お願いします!!!」

会計を済ませると速攻店を後にした。
やっぱり二度とこの店行けねーかも!!!


「新一、さっきの人・・・・////」
「蘭、二度とあの病院と薬局行くんじゃねーぞ!」
「?なんで?」
「いいからっ!分ったな? そ、そうだ腹へらねぇ? コンビニ寄ってこうぜ。昼飯食ってねーし、なんか食べれそうなやつ買ってこうぜ。」
「え?うん・・・?」



その後蘭の家へ戻り、随分と遅くなった昼飯を食べた。
薬を飲ませ、ベッドに寝かせたところにおっちゃんが帰って来た。
もうちょっと蘭の傍にいたかったけど、おっちゃんがいるんじゃ仕方な
い。
帰り際に

「ありがとな。」

と、おっちゃんが呟いたのが聞こえた。

(顔はあさっての方向を向いていたが)



(なんかすごくめまぐるしい1日だったような気がする。でも、普段見られない蘭もいっぱい見れたし・・・・)

携帯の画面を見つめ、

(すげーいい写真手に入ったしな。帰りに見た感じだと、蘭も大分良くなった見たいだし。明日また蘭の様子を見に行こう。)



新一は知らない。
病院の看護婦と薬局の店員が仲が良かったことを。
新一が消去するよりも前に、すでにメールで送られていたことを。
それを薬局の店員がすぐに見ていたことを。
新一が探偵の工藤新一だと気づかれたことを。
その後マスコミに登場する新一を見ては、「彼女のために生理痛止めを買いに来た彼氏」と呼ばれ続けることを・・・・携帯の待ち受け画面は愛しの彼女との2ショット写真だと噂され
ていることを・・・知らないとはある意味幸せである。




Fin…….




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