誕生日の舞台裏



5月4日の昼下がり……。



「さあ、これで料理の準備はできたな。」
「ふーっ、やれやれ。」

と、ホッと一息つく新一と蘭。

「けど新一って、何時見ても料理が得意よねー。今日もかなり気合が入ってたし。」
「当然だろ?オメーや快斗達が俺の誕生日を祝ってくれるってゆーんだから、俺もそれにバッチシと応えねーと、オメーらに対してとても申し訳がたたねーじゃん。」
「あらあら。その快斗君に言われるまで、自分の誕生日の事をスポーンと忘れてたのはどこのどなただったかしらー?」
「ギクッ!!!い、いーじゃねーか、んな細かい事なんて……。」

と蘭にツッコまれて、モロにうろたえる新一。

「だからさあ、その為に目暮警部や中森警部に全休を申し入れたのんだぜ。みんなが準備してくれている時に自分だけ推理に勤しむなんて、失礼もいいトコだしな。」
「あらまあ、新一の口からそんな話が出るなんて、随分意外よねー。」
「悪いか?」
「だってホントの事だもん。もしかしたら、これから雨がふるんじゃないかしら♪」
「おいおい……。」

と、してやったりの蘭。
そんな彼女をジト目で見る新一。
が、すぐに蘭の作った料理の数々に目を移し、

「しかし、蘭の作った料理も、ホントにいいもんだなあ。見た目も味も申し分ねーし。」
「あらやだ、新一ったら★」
「いやいや、ホントだよ。」

と言いながら新一は、料理に手を伸ばした。
すると、

「だめよ、新一。これ等はみんな後のパーティーで食べるものなんだから。」
「いいじゃん、一つまみぐらい。」
「だーめ。」
「ちぇーっ。」

と、ちょっぴり拗ねる新一。

「そう言えば、快斗と服部達はどうだろう。あいつ等、会場の飾りつけもう済んだのかな?」
「どうだろね。終わったら呼びに来るって言ってたけど。」
「そっか。」

と、新一は蘭のほうへと向き直る。

「……なあ、蘭。」
「え?」
「俺、自分で言うのもなんだけど、今こうしてめでたく自分の誕生日を迎える事が出来たなんて、俺がコナンだった頃にはとんと想像がつかなかったな……。」
「新一……。」
「あの頃はいつも組織の事とか、事件の事とか、そして……。」
「そして、何……?」
「オメーをどうやって守るかと言う事とか……。」
「あ……。」

蘭はその言葉を聞いたとたん、涙を流しだした。

「ら、蘭!?」
「私、嬉しい……。」
「え?」
「私ね、前にあなたが戻ってきて、真っ先に私に全ての事を話してくれた時、とても嬉しく思ってたけど、新一が今でもそう思ってくれてると思うと、嬉しさで涙が出てきて……。」
「蘭……。」
「新一……。」

と、じっと見つめあった二人は互いに顔を近づけ……、

CHU…….

と、熱い口付けを交わした二人は、そのまま互いを強く抱きしめあった。





「おーおー、新一と蘭ちゃん、随分ラブラブだなあ。」
「青子ドキドキしちゃう★」
「工藤のヤツ、ウブなくせして、やる時はきっちりとやるもんやなあ。」
「羨ましいなあ、ホンマに……。」

と、キッチンの入り口の影から二人を見つめる快斗・青子・平次・和葉の四人。
彼らは会場の飾り付けが済んだので、新一と蘭を呼びに来たのだが、二人のラブラブぶりを目の当たりにして、その場から進めずにいた。

と、そこへ、

「何してんの、あなた達?」
「うわあっ!?」
「きゃあっ!?」
「おわあっ!?」
「ひゃあっ!?」

と、不意に後ろから何者かに呼びかけられて、仰天した四人はそのままキッチンに飛び込んでしまった。

「「!!!?」」

と、新一と蘭もその様子に驚き、すぐさま身体を離す。
そして……、

「な……、か、快斗に服部……?」
「あ、青子ちゃんに和葉ちゃん……?」

と、新一と蘭は、顔を真っ赤にしながら4人のほうを向いた。

「や、やあ、新一……。」
「何やってんだ、オメー等……?」

と新一は、ジト目で4人を見た。

「さては俺達が抱き合っているトコを見てたな?」
「(ギクッ!!!)え゛っ、い、いや、そんな事は……。」
「そっ、そーよ新一君。」
「か、会場の飾りつけ終わったから、二人を呼びに来たんや、ハ、ハハハ……。」
「そ、そうなんよ……。」

とうろたえながらも必死こいて弁明する4人。
と、そこへ、

「何言ってんの、みんな?ちゃんと正直に答えなきゃだめでしょ?」
「あっ、宮野。」
「志保さん。」

と、4人の後ろには、腕を組みながら呆れたような表情で志保が立っていた。

「何や、さっきオレ等に声かけたんは宮野のねーちゃんやったんか。」
「そーよ。四人とも工藤君や蘭さんを呼びに言ったきり戻って来ないから、私がキッチンに行って見たらこの始末だもの。」
「やっぱりテメーら見てたのか……。」
「え゛っ、いや、その、あの……。」
「はいはい、もうそこまでにしましょ。早い所お料理を会場に運ばなきゃ。」
「あっ、そうだな。」
「ねーちゃんの言う通りや。」
「早く運びましょ。」
「うんうん。」

と言いながら快斗達は料理を次々と会場へと運び去っていった。

「……逃げたな、あいつ等……。」
「まあ、いいじゃないの、別に。」
「よかねーって……。」
「さささ、工藤君も早くいらっしゃいな。主役がいないと何にもならないでしょ?」
「ああ、わかったぜ。」
「じゃあ、待ってるわね。」

と言いながら志保も料理を持ってその場を後にした。

「……ねえ、新一……。」
「……あ、蘭……済まねーな。俺が迂闊なばかりに……。」
「ううん、もういいの。それよりもさっき新一が言ったとおり、あなたが私の事をいつも大切に思ってくれた事の方が私にはとっても嬉しくて……。」
「蘭……。」

と、はにかみながら再び互いを見つめ合う二人。
そして、

「……さあ、行こうか、蘭。これ以上あいつ等を待たせちゃわりーからな。」
「うん、そうだね。」

と、新一と蘭もキッチンを後にして会場へと向かっていった。


  ☆☆☆


そしてパーティーも無事に終了して……。


「くっそー。何で俺達が後片付けしなきゃなんねーんだよ……。」
「うっせー。俺達のキスシーンを覗いてた罰だ。」
「ううっ、何でオレまでこないな事を……。」

と嘆きながら快斗と平次は新一の監督の下、食器洗いをしていた。

「大体こんな事、客にやらすか、フツー?」
「ホンマやで、全く。こないな主催者、聞いた事があらへんわい。」
「じゃかましいわ、平次!」

と、そこに和葉の一喝が。

「アンタ男なんやから、ちゃんと責任くらい取りいや。」

と言いながら食器を拭く和葉。

「そーだよ、快斗。青子だってちゃんと責任取ってんだから。」

そういいながら青子も和葉が拭いた食器を、新一の指示の下、棚に戻し置いていた。

「そーそー。オメー等も少しは青子ちゃんや和葉ちゃんを見習え。そうすれば幾分まともになれるだろーし。」
「じゃかましいわい!!」
「ほっといてくれ!!」
「はいはい。そんな事言ってる暇があるんだったら、これじゃんじゃん洗ってね。」

と言いながら志保は、流しの中に洗い物の食器を追加した。

「あうう〜〜〜っ。こんな目に遭うんだったら、新一に誕生日の事なんか思い出させるんじゃなかった〜〜っっ。」
「全くやで……。」

と更に嘆く快斗と平次。
そのとき蘭が、

「まあまあ、あと少しだから頑張ってね。お片づけが終わったら、お茶を出してあげるから。」
「いやあ、済まないねえ、蘭ちゃん。」
「ホンマにねーちゃんは優しいなあ。」

と、たちまち機嫌を直す二人。

「調子のいい奴等だ事……。」
「いいじゃないの、新一。快斗君達も一所懸命頑張ってんだから。」
「まあ、オメーがそう言うのなら……。」

とはにかむ新一。

「おーおー、何赤くなってんだよ、新一。」
「まるでトマトみたいやで。」
「な゛っ……!そっ、そんな事はどーでもいーから、早く洗え!!!」
「ウフフフ……。」
「「クスクスクス……。」」
「「アハハハハハ……。」」
「ウフッ……。」

と、工藤邸のキッチンに陽気な笑い声が響き渡った。

彼らの夜は更に盛り上がっていく……。



FIN…….



戻る時はブラウザの「戻る」で。